閑話休題45~その頃の妹 義姉は鬼!それと馬の世話って結構しんどい~

 兄嫁、怖い!


 私レイラは最近ずっと兄嫁の特訓によりしごかれる日々を送っている。

 兄嫁の指導は厳しい。


 兄嫁は今回私以外にも新人の子たちに訓練を施すという名目で来ている。

 だから当然その子たちの面倒もしっかりと見ているわけだが、その上で私には更なる課題を与えてくる。


「あなたが今回の子たちの中で一番出来が悪いですからね」


 兄嫁はきっぱりとそう宣言し、私にだけ特別指導してくるのだ。


 というか、他の子たちの面倒もきっちり見た上で私にさらに特訓してくる余裕があるだなんて、兄嫁有能すぎ!

 こんなのが身内にいるなんて、本当最悪!


 身内だけに私がどこまで耐えられるかの限界をよくわかっておりギリギリまで搾り上げてくるからだ。

 例えば今日のメニューの話をすると。


「今日はあなたの集中力を鍛え直してあげましょう」


 と言いながら魔法の連続発射訓練をやらされた。


「とりあえず何でもいいから魔法を10発連続で発射できるようになりなさい」


 そうやって私に魔法を連続で放つように指示してくる。

 というのも魔法を連続で発射するのには結構な集中力が必要だからだ。

 私でも数発なら何とかなるのだが、10発は無理だ。


「『火矢』、『石槍』、『火矢』、『風刃』……ダメだ。もう無理」


 今も4発目で失敗してしまった。

 それを見て他の子の面倒を見ていた兄嫁が近寄って来てこう言ってくる。


「全然集中できていませんね。しばらく瞑想して集中力を高めてからもう一回やりなさい」

「はい」


 そして10分ほど瞑想したらまた魔法を放って、失敗して、また……ということを延々と繰り返させられるのだった。

 と、こんな感じで兄嫁は私に特訓を施してくるのだった。


 本当にきつい。

 一日に一体何発魔法を使わせる気なんだろうか。

 おかげで毎日魔力が枯渇寸前になってしまう。


 ああ、できることなら兄嫁から逃げたい。

 逃げたいけど逃げたら今度こそ誰も助けてくれる人がいなくなって破滅だ。


 そんなジレンマを抱えながら、兄嫁の鬼のような特訓に耐える日々が続くのだった。


★★★


「フレデリカ、馬房掃除用のモップどこかな」

「あっちの棚の上にあったよ」

「ベラ、飼い葉を餌箱に入れるからこっち一緒に持って」

「いいよ、マーガレット」


 特訓の後は兄貴の家に行って馬の世話のアルバイトの時間だ。

 私たちのパーティーは大規模訓練場の訓練の後、毎日ここへきてこれをやっている。

 最初こそは嫌々だったのだが、最近は結構慣れてきてそれほど嫌でもなくなってきている。


 ただ馬の世話って結構しんどい。

 特に目の前の兄貴の馬って要求が激しい。


 今も私は馬房の掃除をしたばかりなのだが。


「ブルルン」


 ちょっとでも馬房の掃除ができていないと、そうやって鳴いて中々馬房に入ろうとしないのだ。

 しかも、この馬私に対してだけ舐めた態度をとる。


「ベロベロ」

「ギャー」


 ついさっきもそうやって、私の頭をべろべろと舐めてきたのだった。

 本当やめて!髪の毛がよだれまみれになるから!


 この馬、絶対私のことを下に見ているに違いない。

 この馬畜生が!いい加減にしろ!


 腹が立った私はそう思ったが、ここは我慢だ。

 兄貴やその家族たちはこの馬をとても大事にしている。

 私がもしこの馬に手を出したりしたらどんな目に遭うか。

 想像するだけでも恐ろしい。


 それに馬の態度の悪さを理由に仕事の手を抜いたりしたら、仕事をサボったとみなされ、本当に兄貴に座敷牢に押し込められてしまう。

 それだけは嫌だった。


 だからここは我慢して掃除をやり直すことにする。


「ふう、これで3回掃除したんだからね。お願いだからそろそろ中へ入って」


 3回目の馬房清掃を終えた私は半ば懇願するよう言う。


「ブルルルル」


 すると、ようやくお気に召したのか中に入ってくれた。


「ふう、てこずったけど今日もこれで終わりだね」


 これで餌も水もあげたし、掃除もしたし運動もさせたしブラシもかけた。

 後は兄貴の所へ行って給料をもらって帰るだけだ。


「ご苦労様です。今日のお給料ですよ」


 家に行くと兄嫁の一人のヴィクトリアという女が預かっていた給料を渡してくれる。


「「「「ありがとうございます」」」」


 給料を受け取った後はお礼を言って帰ろうとする。

 すると。


「お待ちなさい。お菓子を持って帰りなさい」


 そのヴィクトリアのおばあさんがお菓子をお土産にくれた。


「いいんですか?」

「ええ、今日昼間ショッピング行ったときに買ってきたクッキーなの。今日はみんな頑張ってたみたいだから、ご褒美にあげるわ」


 うん、滅茶苦茶いい人だ。


「「「「ありがとうございます」」」」


 これで帰りに飲み物でも買って帰れば寝る前に部屋で女子会ができる!

 そう考えた私たちは元気よくお礼を言ってお菓子を受け取り、帰宅するのだった。


 ただ一つ気になったことは……。


「ああ、この子、かわいそうに」


 と、おばあさんが去り際になんかそんなことを言っていたのを聞いたことだった。

 一体どういう意味なのだろうか。

 多少気になったが、今はそれよりも一刻も早く帰ってご飯食べて女子会をしたかったので放っておくことにした。


 そして、その晩を楽しく過ごした結果、翌日にはそんなことがあったことをすっかり忘れていたのであった。


★★★


 ヴィクトリアです。


 今日おばあ様がホルストさんの妹さんに対して「かわいそうに」とか、意味深なことを言うのを聞いてしまいました。

 どういうことかとおばあ様に聞いてみると。


「あの子、不幸になるよう呪いがかけられているわ」

「呪い?ですか?一体誰がそんなことを?」

「クリントお義兄さんね」

「おじい様がですか?一体なぜ?」

「聞いた話によると、あの子、前に物を盗んでその責任をヴィクトリアちゃんに押し付けようとしたそうじゃない」

「物を盗んだ?ああ、そんなこともありましたね」


 確かに前にホルストさんたちと学校へ通っていた時にそんなこともありました。

 正直言うと、ワタクシに実害とか一切なかったということで、ワタクシ的にはどうでもよい事だったので、今の今まですっかり忘れていましたが。


「それにお義兄さんが怒ったみたいで、彼女に呪いがかけられたみたいね」

「まあ、そうなのですか。……というか、おじい様なんてことを!今すぐにやめさせなければ!」


 神ともあろう者が何をしているのでしょうか。

 おじい様が呪いをかけたと知ったワタクシはすぐにでも止めさそうと考えましたが、ここでおばあ様が止めてきました。


「止めておきなさい。ここでお義兄さんが呪いを解除すると彼女死ぬかもしれないわよ」

「死ぬ?一体どうしてですか」

「お義兄さんのかけた呪いって、彼女の幸運値を下げる呪いなの。それによってあの子は様々な不幸に見舞われているわ」

「だったら、すぐに解除を」

「でも、お義兄さんの呪いって一種のリミッターになっていて呪いがかかっている限り死ぬことはないの。まあ、お義兄さん的には『俺の孫を不幸にしようとしやがって!お前が不幸になれ!』って具合でかけたみたいだから、数年幸運値が下がるだけで命に係わる呪いではないの。むしろ不幸を受け続けている間は、神の力が彼女に働き続けているから死にそうになってもギリギリで助かるようになっているの」

「そうなのですか」

「逆に呪いを解いてしまうと、幸運値は元に戻るけど元々の彼女の幸運値は低いからそのせいで今度こそ本当に命の危険にかかわるようなことに巻き込まれるわね。そして、それをはね返す実力のない彼女は死んでしまう。そういうことなの」


 呪いが本当の意味で呪いになっていない。

 おじい様にしては間抜けな気もしますが、おばあ様の言う通り今の状態の方がいいのかもしれません。


「それで、あの子の呪いはいつ解けるのでしょうか」

「2、3年てとこね。そのころまでに苦境を乗り切れる力を身につければその後は問題なく人生を全うできると思うわ」


 と、おばあ様の話は以上でした。

 なお、そのことをみんなに話すと。


「そうか。そんな呪いがかけられていたのか。なんかギリギリのところで踏ん張っているなと思っていたらそんなからくりだったのか。まあ、呪いを解いたら死んじゃうっていうんだったら放っておくか。仲が良くないとはいえ、実の妹が魔物に殺されてしまう姿は見たくないからな」

「そういうことなら、私ももっと気合いを入れて鍛えてあげましょう。来るべき日に備えて」

「後、本人には黙っておいた方がいいね。自業自得とはいえ、神様に呪いをかけられたと知ったら、彼女卒倒しちゃうしね」


 みなさん放置しておくつもりの様でした。

 というか、今でもエリカさんの特訓厳しいのに、それ以上になるなんて。


 妹ちゃん、頑張れ!


 ワタクシにできるのはそう願ってあげることだけでした。

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