第310話~義妹との再会 さあ訓練のお時間ですよ!厳しくやりますから気合入れなさい!~

 レイラ・エレクトロンです。


 今、私は冒険者ギルドの大規模訓練場で訓練を受けている。

 私は『乙女浪漫隊』というチームを組んでいるのだが、メンバーのうちのマーガレットとベラは前衛職の方の訓練場へ行った。


「マーガレットとベラ。頑張ってね」

「「うん」」


 訓練場の廊下で二人と別れた後、私はフレデリカと魔法使い用の訓練施設へ行く。

 ここの訓練は結構厳しい。


「レイラさん、もっと集中力を高めないと魔法の命中率は上がりませんよ」


 ちょっとへまをしたらそうやって教官に怒られることはしょっちゅうだし、訓練メニューも厳しいものだった。


 正直、昔の私だったら逃げ出したくなるようなメニューだ。

 だが、そこは苦しい冒険者生活を経験した私だ。

 その日の食べ物にも悩むくらい厳しい毎日を経験した私からすれば、耐えられない内容ではない。


 あの苦しい日々に比べればここでの訓練の方がはるかにましだった。

 もっとも今だって休日に簡単な仕事にありつこうとしても競争が激しくて稼ぎが少なくてかつかつでいつもお腹を空かせているのには違いないけど、ここにはまだ希望という名の光がある!

 だから頑張れる!


「さあ、今日も頑張るぞ!」


 ということで、今日も張り切って私は訓練に赴くのであった。


 ただこの時の私はまだ知らなかった。

 この先私が今までの訓練など比較にならないくらい苦しい特訓の日々が待っていることを。


★★★


「あれ?何だろう」


 いつものように訓練施設に入ると何やら人だかりができていた。


「すご~い」

「やる~」


 人だかりの方からはそんな歓声のようなものが聞こえてくる。

 特に女魔法使いの。


 何だろうと興味の沸いた私も人だかりの方に近寄って行く。

 すると。


「子供?」


 子供がみんなの前で魔法を披露していた。


「『火矢』、『火球』、『氷弾』、『石槍』、『光の矢』」


 しかも物凄い勢いで魔法を立て続けに放っている。


「もしかして、この子、私より魔法が上手いんじゃ……」


 その上子供の放つ魔法は威力精度とも大人の魔法使い顔負けで、あげく私の知らない魔法まで使っている。

 正直これだけで私、いや、ここにいる初心者魔法使いの誰よりも実力は上だと思う。


 その子供にさらに興味が沸いた私はさらに近寄って顔を覗き込んで見る。


「あれ?この子って……」


 するとどこかで見覚えのある顔の子供がそこにいた。

 誰だったかなと首を捻っていると、フレデリカが声をかけてきた。


「あれ?この子ってレイラの甥っ子君じゃない?前に一回王都で会ったのを覚えているよ。あの時よりも大分大きくなっていたから、一瞬誰だかわからなかったけど」

「あ、そうだ。兄貴の息子のホルスターだ」


 そうだった。この子は兄貴の息子、つまり私の甥っ子のホルスターだった。

 今までに何回か会ったことがあるはずなのだが、すぐに本人だと気が付かなかったのは多分随分と大きくなって印象が違っていたからだと思う。


 それはよくある話なのでまあ構わない。


 でもこの魔法は何?

 この子ってまだ2歳だか3歳だったはずだ。

 うちの一族では魔法の訓練ってもうちょっと年齢が上がってから始めるはず。

 それなのにすでに大人顔負けの魔法使いって……この子は天才なのか。


 いや、それも別にどうでもいい。

 それよりもこの子がここにいるということは……。

 あることに気が付いた私はその場からすぐに退避しようとしたが時すでに遅かった。


「レイラさん。お久しぶりですね」


 不意に私は肩をポンと叩かれる。

 そして後ろを振り向くと。


「ああ、お義姉ねえさん。久しぶりです」


 見た目はニコニコと笑っている兄貴の嫁のエリカがそこにいた。


★★★


「みなさん。今日は特別講師に指導に来てもらっています。世界最強と名高い冒険者チーム『竜を超える者』所属のSランク冒険者エリカ殿とヴィクトリア殿です」


 今日の訓練は教官のそんな挨拶から始まった。


「エリカと申します。本日はよろしくお願いします」

「ヴィクトリアです。よろしくお願いします」


 兄嫁たちも教官の紹介に応えてニコニコ顔で挨拶する。


 兄嫁の中でもエリカは特に私は苦手だった。

 だって彼女は本家の娘で、私は小さい頃から彼女にだけは頭が上がらなかったからだ。

 ちょっとでも不平を言おうものなら。


「レイラ、本家のお嬢様に失礼なことを言うんじゃない」


 と、両親に怒られる始末だったからだ。

 その苦手意識は今でも続いていて、目の前に兄嫁がいるだけでも内心あまりいい気分はしないのだった。


 さて、兄嫁たちの挨拶が終わった後は訓練開始だ。

 まずは訓練生全員が魔法を使って実力を示してみることにする。


 ここで私は致命的なミスを犯してしまった。

 私の番が来て魔法を放とうとすると。


「『火矢』……あれ?」


 魔法の発動に失敗してしまった。

 いつもなら失敗するはずがないのだが、今日は兄嫁がいるのでいつもより緊張して集中力が欠けていて魔法の発動に失敗したのだった。


 私はチラッと横目で兄嫁の顔を見る。

 すると兄嫁の端正な顔が苦虫をかみつぶしたかのように歪んでいた。


 これはまずい。


 その顔を見た私は直感でそう感じ、震えが止まらないのだった。


★★★


 午前中の訓練中の休憩時間。


 私は兄嫁に呼び出された。

 そして思い切り注意された。


「あなた。仮にもヒッグス一族の出身だというのにあんな簡単な魔法の発動に失敗するとか何事ですか!うちの息子でもそんなことはやりませんよ!まだ2歳の子供に負けるとか。恥を知りなさい!」

「いや、あれはちょっとぼーっとしていまして……つい」

「ええ、そうでしょうね。あなた、私のことが気になるのか時々チラチラと私のことを見ていましたからね。だから集中力に欠けていたのでしょう。でも、だからといってあの程度の魔法の発動に失敗するとか……あなたのお父様が聞いたら激怒なさるでしょうね」

「うう……」


 兄嫁の言うことは正論過ぎて、私は何も言い返せなかった。


 その後も兄嫁の説教は続き、その間私はずっと耐えることになった。

 そして、最後はこう言い渡された。


「今日は午後に個別指導の時間がありますからね。その時に徹底的に指導してあげます。覚悟なさい!」

「はい」

「気合い入れときなさい!」

「はい」


 そうやって言いたいことを言うと兄嫁の説教はようやく終わった。


「さあ、帰って休憩しなさい」


 そう言ってもらえてやっと解放される。

 そのまま私は休憩しているフレデリカと合流することになるのだが、その最中こう思うのだった。


 ああ、今日は大変な一日になりそうだな、と。

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