第306話~冒険者ギルドに呼び出されたので行ってみると……~

「ちょっと出かけてくる」

「行ってらっしゃいませ」


 その日、俺は朝からみんなに見送られて家を出た。


 行き先は……まあ、いつもの冒険者ギルドだ。

 ギルドマスターのダンパさんに呼ばれたのだ。


 一応昼からの約束ということでまだ時間があるのでそれまでのんびりすることにする。

 とりあえずギルドの一階にある酒場「ラブ&ピース」で時間まで過ごそうと思う。


「やあ、マスターお久しぶり」

「お、ホルスト君じゃないか。久しぶりだね」


 まずは酒場のマスターに一言挨拶してから席に着く。

 席に座った後は何を食べようかなと考えながらメニューを見る。

 すると。


「よお」


 友達の冒険者のフォックスが声をかけてきた。


★★★


「「かんぱ~い」」


 フォックスのに声をかけられた俺は一緒に飲むことにした。

 飲むといっても俺はこの後の予定があるのでジュースを、フォックスのやつは酒を飲んだ。

 どうもフォックスのやつ、仕事を達成したばかりでしばらくはのんびりとするつもりらしかった。

 だから昼間からこうやって酒を飲んでゆっくりとしているわけだった。


「ところで、ドラゴンの見たか?」

「何をですか?」

「今度大規模訓練場の訓練に参加する子、だよ。俺もちょっとだけ訓練の様子を見に行ったんだが、今回結構かわいい女の子が参加してたぜ」

「訓練の様子を見に行ったんですか……って。それって女の子しか見てないことないですか」


 俺の指摘を受けて、フォックスがガハハと大笑いする。


「まあ、いいじゃねえか。まだ訓練は始まったばかりで、皆五十歩百歩な感じだったし、それに女の子を見たといっても、男だったら普通の行動じゃねえか。お前さんだって嫁さんたち以外の女に目が行くこともあるんじゃないか?」

「まあ、それはそうですけど……って、何言わせるんですか!嫁さんにバレたら俺が殺されるじゃないですか」

「そんなことにはならないと思うぜ。だってとっくにバレているだろうしな」

「え?そうですかね」

「絶対バレているって!女って旦那のそういうのには敏感だからな。ドラゴンのがよその女に目をやっているのも絶対バレているって」

「でも、バレているにしては俺何もされていないんですが」

「それは嫁さんたちに泳がされているのさ。泳がしておいて、何かあった時に一気に責め立てる算段なのさ」


 マジか!


 俺はフォックスの話を聞いて心底震えた。


「ドラゴンのがそんなに怖がるのを見るのは初めてだな。でも、心配するな。お前の嫁さんたちってお前にべた惚れだからな。他の女によそ見をしたくらいではそんなにひどいことにはならんよ」

「そうですよね」


 フォックスのその意見を聞いて、今度は心底ほっとする思いだった。


「ただし、浮気はしない方がいいぞ。愛情が深い分、怒りもすさまじいと思うぞ」

「肝に銘じておきます」


 フォックスのアドバイスを受けて、俺は嫁さんたちを大事にしようと心から思うのであった。


「それはともかく、聞いてくれよ。この前依頼で行った村での話なんだけどよ」


 その後も時間まで俺はフォックスと楽しく話して過ごすのだった。


★★★


「それでは、また」

「おう」


 時間が来たのでフォックスと別れてダンパさんに会いに行くことにした。

 まず二階の受付へ行き、受付の職員さんに来訪を伝える。


「今日、ダンパさんに呼ばれてきたんだが」


 すると、顔見知りの職員さんが深々と頭を下げて出迎えてくれる。


「これはホルスト様、ようこそ。ギルドマスターから話は伺っています。すぐに連絡しますので、少々お待ちください」

「ああ、お願いするよ」


 そう言うと、職員さんは席を立ちダンパさんの所へ行ってくれるのだった。


 5分後。


「やあ、ホルスト殿よく来てくれたね」


 俺はギルドマスターの執務室でダンパさんの出迎えを受けていた。


「すぐにお茶とお菓子を出させるから少し待ってね」


 どうやらお茶とお菓子の用意もしていたらしく、すぐに職員さんを呼ぶと俺の目の前のテーブルに置いてくれるのだった。


「「いただきます」」


 それを食べながら話をする。


「それで、ダンパさん。今日はどういったご用件で呼んだのですか」

「実はね。完成したんだよ。新設備が」

「新設備?何の設備ですか?」

「あれ?ホルスト殿にはまだ話していなかったかな?」

「ええ、初耳ですね」

「それじゃあ、そこから話そうか」


 そう言うと、ダンパさんは姿勢を直して改まった感じで語り始めた。


「実は今度ね。大規模訓練場に新設備を造ったんだよ」

「ほほう。また大規模訓練場に手を加えたのですか?」

「そうなんだ。最近希望者が多くなってね。訓練設備が手狭になったので少し拡張したんだよ」


 ふーん。あのかなり広い大規模訓練場を拡張するくらいに参加希望者が多いのか。

 それは何よりのことだ。


 俺たちもあそこの創成期には色々と手伝ったからな。

 それが大人気と聞けばうれしくなって思わず顔がにやけてしまうのだった。


「そんなに大人気なのですか」

「そうなんだよ。収容しきれなくて、大きな町のギルドではうちの大規模訓練場へ入るために抽選まで行っているというくらいなんだ」

「抽選ですか?それは本当に大盛況ですね」

「うん、それもこれもホルスト殿たちのおかげだよ」

「俺たちの?」

「そうだよ」


 俺の問いかけにダンパさんは大きく頷く。


「ホルスト殿たちが頑張って教育方法を確立してくれたおかげで、教育の質が上がって大規模訓練場の名が挙がったし、今回の改修費用だってこの前のベヒモスのオークションの収益から出ているんだよ。本当、ホルスト殿、様様だよ」


 へえ、あのオークションそんなに儲かったんだ。

 まあ俺が見ているだけでも金貨数十万枚以上の取引高はあったから、ギルドに入る収益も相当のものだったと思う。

 俺もがっぽり稼がせてもらったしね。


「それで、大規模訓練場のどこを改修したんですか」

「寮を大きくして収容人数を増やしたのと、魔法使い用に実践訓練施設を新設したんだ。ほら、前は前衛職と一緒だったから近すぎて少々危険だったでしょ?それを分けたんだ」


 そういえば、前は前衛職が訓練している横で魔法使いが魔法の訓練をしていた。


 確かにあれは少々危険だった。

 もし未熟な魔法使いの魔法が暴走したりすれば事故になるからな。

 そうならないように改善したということか。

 うんいいことだな。


 そう思ったので、とりあえず褒めておくことにした。


「へえ、それは思い切りましたね。すごいです」

「でしょ?それでね。今日はその回収した設備をぜひホルスト殿にも見てもらいたと思うんだ。今から一緒に行かないかい?」

「いいですよ」


 ダンパさんの誘いを俺は二つ返事で受けることにした。

 どうせ暇だし、設備が新しくなったのなら俺も見てみたいと考えたからだ。


「それじゃあ、行こうか」


 ということで、二人で大規模訓練場へと赴くのであった。

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