第305話~ホルスト、エリカ 魔術師の称号を得る~

 エリカが魔法大学で研究成果の発表会をしてから数日語。

 エリカの実家にて。


「それでは、これからホルスト・エレクトロン、エリカ・エレクトロンの両名の魔術師称号の授与式を始める」


 俺とエリカに対する魔術師の称号の授与式が始まった。


 以前にも説明したことがあると思うが、魔術師とは魔法使いの中で一流の実力を持つと認められた者だけがヒッグス家の許しを得て名乗れる称号のことだ。

 それを俺とエリカが今度もらうことになったというわけだ。


 授与式といってもこの前のヴィクトリアとリネットのような派手なことはやらない。

 エリカの実家のホールで一族の主だった人たちを集めて簡素に行うことになる。


 俺とエリカの服装も正装であるが地味だ。

 二人ともいつも儀式のときに着るドラゴン製のローブと杖を身に着けている。

 高級品ではあるが、フォーマルな服装であるので目立つものでもない。


「ホルスト・エレクトロン、エリカ・エレクトロンの両名は前へ」

「「はい」」


 俺とエリカはエリカのお父さんに促されて前へ出る。


「ホルスト・エレクトロン並びにエリカ・エレクトロンよ。汝らに魔術師の称号を授ける」

「「はい、謹んでお受けします」」

「うむ。これからは魔術師として、さらに精進して魔法の道を究めて行くように」

「「はい、精進します」」

「それではこれが任命証書と魔術師の身分を示す徽章だ。受け取りなさい」

「ありがとうございます」


 まず俺がそれらの物を受け取る。


「ありがとうございます」


 次にエリカも同じものを受け取る。

 これで授与式は終わりだ。


 その後はパチパチという出席者の祝福の拍手が鳴り響く中、俺たちは会場を後にするのだった。


★★★


 称号の授与式が終わった後は会場を移して食事会が行われた。

 今回の食事会は立食形式ではなく、個々人が席に座ってそこに次々と順番に食事が提供されて行くという形式だ。


「あー、食べ放題じゃないんですね。……残念です」


 食べ放題でないと聞いたヴィクトリアは最初こそ嘆いていたが。


「うーん。食べ放題ではないですけど、その分出てくる料理は凝っている料理が多くておいしいですね」


 と、実際に食べ始めるとニコニコ顔で料理をほおばっている。

 ヴィクトリア以外の出席者たちも。


「うん、いい肉を使っているな」

「食事だけじゃない。出てくる酒も良いのを揃えているな」


 概ね好評なようだった。

 そんな感じで食事会はつつがなく進んで行き、食事会の終了とともに本日の行事も終了するのであった。


★★★


 授与式の後はエリカの実家に泊まった。

 寝るまでの間は皆でリビングでのんびり過ごした。

 ヴィクトリアたちは、ゲームをして遊んでいる。


「あちゃー、やっちゃいました」

「ヴィクトリア様、残念ですね。ババ引いちゃいましたね」

「次は僕の番だね。……やった!これでカードがなくなった!僕が一抜けでだね」

「ホルスター君やるね」

「本当、お母さんも負けていられないわ」

「おばあちゃんも頑張らなきゃね」


 今日は皆でババ抜きをしているようだ。

 楽しそうで何よりである。


 その一方で、俺とエリカはエリカのお父さん夫婦とお兄さん夫婦の相手をしていた。


「「「「エリカとホルスト君。魔術師の称号授与、おめでとう」」」」

「「ありがとうございます」」


 4人の相手はそんな挨拶から始まり、色々と雑談をしていく。


「これで、ホルスト君もエリカもやっと魔術師を名乗れるようになったんだな。魔術師の称号を持っていると、色々便利なことがあるんだよ」

「そうなんですか?お義兄さん」

「そうだよ。称号を持っていると各地の役所で優遇してもらえるんだよ。通関手続きとかもずっと簡単になるんだよ」

「通関手続きが簡単になるのですか。それはいいですね」


 うん、それは実にいい。

 俺も前にどっかで通関手続きをやったことがあるが、あれは実に面倒くさかった。

 あれが簡単になるとか……旅のついでに荷物運びの仕事をするときなんか実に便利になりそうだ。


「後は、ヒッグス商会の商品を買う時に割引を受けられたり、魔法大学の図書館の利用が自由になったり、各地の魔法練習場を自由に使えたりするね」

「そうなんですね。色々特典があるんですね」


 とは言ったもののそっちは俺にはあんまり関係ないなとは思った。


「そうそう、それとね。私たちにも今度嬉しいことがあったの」


 と、ここでお義姉さんさんがそんなことを言って来た。


「まあ、お義姉さん。何かあったのですか?」


 何のことかと思ったエリカがお義姉さんに聞くと、お義姉さんは嬉しそうに笑いながらこう言うのだった。


「実はね。私、妊娠しちゃったの」


★★★


 エリカのお兄さんの奥さんが妊娠した。

 その報告を聞いてその場にいた全員が驚いた。


 唯一驚いていないのは一人だけその事実を知っていたであろうエリカのお兄さんだけだ。


「ヘレンさん、それは本当ですか?」


 エリカのお母さんも全く知らなかったのだろう。お義姉さんに恐る恐る聞く。


「ええ、お義母様。本当です。数日前体調がすぐれなかったのでお医者様に診察してもらったら妊娠3か月だと言われました」

「なぜ僕たちにも言わなかったんだい?」

「ユリウス様には報告したのですが、そうしたら今はホルスト君たちの授与式で立て込んでいるから落ち着いてから話そうってことになったんです」

「だから、今日こうして授与式も終わったことだし話したというわけなんだ」


 エリカのお兄さんと奥さんがそうやって大体の事情を話し終わると、場が歓喜の渦に包まれた。


「お兄様、お義姉様。おめでとうございます」


 まずエリカが立ち上がりながら二人の手を取り、そうやっておめでとうと言う。


「「ユリウスにヘレンさん、おめでとう」」


 次にエリカの両親がそうやって祝福の言葉を述べる。


「お義兄さん、お義姉さん、おめでとうございます」


 もちろん俺も祝福の言葉を述べる。

 すると。


「「「「「「おめでとうございます」」」」」」


 話を聞きつけたヴィクトリアたちも祝福の言葉を述べていく。


「みなさん、ありがとうございます」


 皆に祝福されたお義姉さんはとてもうれしそうに笑うのだった。

 こうしてこの日の夜は笑顔に包まれたまま過ぎていくのであった。


★★★


 その夜、俺はエリカと相談した。


「お義姉さん、妊娠して良かったな」

「ええ、そうですね」


 俺もエリカもお兄さん夫婦に子供ができると聞いてとてもうれしかった。

 二人とも中々子供ができないことに悩んでいたからな。

 その悩みが解消できるとなれば身内としてはとても喜ばしい事だった。


「それはそれとして、懐妊したとなれば何かお祝いをあげなければな。何がいいかな。ワイトさんのところには短剣とかドライヤーとかあげたけど、お義兄さんの所はどうしようか」

「そうですねえ。兄は短剣とかは喜ばないですし。お義姉さんも私たちから聞いてすでにドライヤーを愛用していますしね」

「「うーん」」


 俺たちはしばしの間考え込む。

 そして出した結論は。


「そうだな。お兄さんも魔法の研究が好きだから、今まで手に入れた魔術書の中から何かあげるようにしようか」

「お義姉さんには、前にダンジョンで手に入れたマジックアイテムの宝飾品でもあげましょう」


 と、割と無難な物をあげることにしたのだった。


 さて、贈り物の相談が終わったところで、急にエリカがぐっと俺に近づいてくる。


「旦那様、お義姉さんの嬉しそうな顔を見ていたら私も早く二人目の子供が欲しくなりました」


 そう言いながら甘えてくるのだった。


「うん、俺も欲しいよ。ヴィクトリアとリネットもずっとおねだりしてくるしな。でも今は、な」

「そうですね。今は神命を達成することの方が優先ですものね。でも、神命を達成して平和な世の中になったら、その時は……」

「ああ、そうだな。じゃあその時の為にも、今日は予行演習でもしようか」

「はい」


 甘えてくるエリカを俺は優しく抱きしめると、その後は夫婦生活を楽しむのだった。


 こうして俺たちの魔術師授与式の日は終わるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る