第304話~エリカ、魔法大学にて研究成果を発表する~

 エリカの研究成果の発表が始まった。


「エリカ・エレクトロンと申します。本日はよろしくお願いします」


 エリカの発表はまずそんな挨拶からスタートする。


「それでは、私の研究を発表しています。テーマは『時空魔法の実現可能性とその利用』です」


 どうやらテーマは時空魔法についてらしい。

 特にヴィクトリアの収納リングの附属機能である時間進行の停止による物質の保存という点に関する研究だ。


 ……と、本人が言っていた。


 一応昨日のうちにエリカに説明を受けたはずなのだが、正直に言おう。

 俺には何を言っているのかさっぱりわからなかった。


「このように時空を制御する魔法陣は存在します。ですから……」


 実は今エリカが話していることの半分もわからない。

 多分、4魔獣が封じられていた遺跡にあった魔法陣を研究した成果を発表している。

 その程度の事しかわからない。


 うちの家族もそれは同じようで。


「エリカさん、本当にすごいです。ワタクシには何を言っているのかわかりません」

「エリカちゃん。よくわからないけど頑張ってね」


 と、こんな感じでエリカの演説を見守るのみだ。

 ただしヴィクトリアのお母さんとおばあさんだけは内容を理解しているようだ。


「あら、エリカちゃん凄いわね。私時空魔法とか全然教えていないのに、独学でここまで時空魔法の理論にたどり着くなんて……さすがね」

「本当。この分ならエリカちゃんの目標の一つである内部の時間が経過しないマジックバッグの制作につながりそうね」


 エリカの話を聞いて、その内容を理解してしきりに感心していた。


 さすがは名高き神様!頭もいいんだな。

 俺の嫁のポンコツ女神とは出来が違うな。


「ホルストさん、またワタクシの悪口を考えていませんか?」


 しかし、俺のポンコツ女神は妙に勘が鋭いので、そう指摘してきやがった。

 これはまずいと思った俺はごまかすことにする。


「何の話だ?……それよりもここ結構暑いからのど渇いてないか?さっき買ったジュース、俺はまだ飲んでいないから飲むか?」

「本当ですか?飲みます!」


 そう言うと、ヴィクトリアは俺からジュースを受け取り、ごくごくとおいしそうに飲むのであった。


 こうやって俺は何とか誤魔化したのであった。

 本当ヴィクトリアが単純で助かったと思う。

 一方、銀とホルスターはというと。


「ホルスターちゃんのお母様、よくわからないけどすごいですね。ここは応援しなきゃですね。でも、お母様ははしゃいではダメよっておっしゃっていましたから、心の中で声援を送りましょうね」

「そうだね」


 エリカが何を言っているかわからないまでも、子供心に凄いことだけはわかっているらしく、そうやって応援するのだった。


 と、こんな感じでエリカの報告会は順調に進んで行くのであった。


★★★


「私の発表は以上になります」


 パチパチパチ。

 エリカの発表が終わると同時に会場が拍手に包まれる。

 皆、エリカの発表を絶賛しているようですごい拍手の音だった。


 さすがに学術の場での発表だけあって、大声でほめたたえるようなやつはいないが、それでも小声でこんなことを話すやつはいる。


「あの女の人、学内で見たことないけど、こんなすごい発表するなんて何者?」

「何でもヒッグス家のお嬢様らしいよ。この発表は各地の遺跡で発見した魔法陣を見てわかったことをまとめたものらしいよ」

「ヒッグス家のお嬢様!すげえなあ!超美人だし、俺もお近づきになりたいなあ」

「無理だな。もう結婚して子供までいるらしいからな」

「そうか。それは残念だ」


 それを聞いて俺は旦那として誇らしくなったね。

 嫁がこんなに褒められてうれしかったね。

 というか、その旦那とは俺のことだぞ。羨ましいだろ。

 そう言ってやりたくなったね。


 まあ、俺は大人だからそんなことはしないけどね。


「それじゃあ、そろそろ出るか」


 さて、エリカが褒められて気持ち良くなったところで会場を出ることにする。

 この後の予定もあるので、エリカと合流しないとな。


★★★


 俺たちは会場を出ると出演者の控室に向かった。

 控室は会場から歩いて2、3分くらいの所にあった。

 コン、コンと扉をノックし、


「エリカ、入るぞ」


と、部屋の中へ入ろうとすると中から話し声が聞こえてきた。


「ですから、その話は今は無理です」

「そこを何とか!」


 エリカと男の声だった。

 その会話を聞いてエリカが何かトラブルに巻き込まれているのでは?と感じた俺は慌てて中に入って行く。


「エリカ!何かあったのか!」

「旦那様!」


 部屋に入った俺をエリカがとても困ったような顔で見てきたので、俺は相手の男に詰めよっていく。


「てめえ!俺の女房に何してやがる!」

「何ですか?あなたは?」

「俺はエリカの旦那だ!お前こそ人の女房に何手を出そうとしてやがるんだ!」

「え?旦那さん?」

「そうだ!お前人の嫁さんに手を出してどうなるかわかっているよな?」


 そう言いながら俺が男にさらに詰めよろうとしたところで、エリカが俺を止めてきた。


「旦那様!違うのです」

「何が違うんだ?こいつ、お前に手を出そうとしつこかっただろう?」

「そうではないのです。別にその人は私に手を出そうとはしていません」

「でも、お前困った顔をして、俺に助けを求めていたじゃないか」

「そうですけど、それはこの方の勧誘がしつこかったからです」

「勧誘?何の勧誘だ?」

「この魔法大学で研究しないかという勧誘です」


 研究の勧誘?どういうことだ?

 訳が分からなくなってきた俺はエリカに聞いてみた。


「この男は誰なんだ?」

「この方はここの副学長です」


 この眼鏡をかけた中年の優男がここの副学長だと?

 俺は男の顔をまじまじと見ながら驚きを隠せないのであった。


★★★


 その後、場所を移して話し合いが行われた。

 話し合いには俺たちと副学長の他にエリカのお父さんも同席してくれている。

 そんな中、俺は副学長をじろっと睨みながら聞く。


「それで、エリカをここの大学で研究しないかと誘ったそうだが、どういうつもりなんだ?」

「いえね。旦那さん。私としましてはエリカさんの素晴らしい研究成果を聞いて、これは是非大学で研究員として研究してもらいたいなと誘ったわけです」


 ふーん。確かにエリカの研究は素晴らしいものみたいだったので、副学長の言いたいことはわかる。

 しかし、俺たちにも事情はある。


「そうは言うけど、エリカは俺たちのパーティーに欠かせないメンバーだ。いなくなると俺のパーティーが回らなくなる」

「しかし、エリカさんの研究は素晴らしい。私としては是非研究の道に入っていただいて魔法の発展に貢献してもらいたいと思うのです」

「副学長の言いたいことはわかった。それでエリカはどう思っているんだ」

「私としては副学長さんのお話は魅力的だと思いますが、今は旦那様のお手伝いをして使命を成し遂げたい。そう思っています」


 エリカは自分の意思ではっきりとそう誘いを断るのだった。

 しかし、エリカに断わられても、なお副学長は食い下がってくる。


「けれども、エリカさんが研究の道に入ってくれれば時空魔法の研究が大幅に進むと思うのです。ですから、是非……」


 本当しつこいなあ。

 なおもしつこく副学長が言ってくるので俺が対応しようとすると。


「まあ、そういうことならこうしてはどうかね」


 このままだと埒が明かないと思ったのだろう。ここでエリカのお父さんが割って入って来た。


「まずエリカに研究室を与えるとしよう」

「まあ、お父様。私にはいろいろと……」

「エリカ。そんなに先走って言うもんじゃない。とりあえず聞きなさい」

「……はい」


 抗議をしようとしたエリカがお父さんに制されて大人しくなる。

 それを見てお父さんが続ける。


「エリカには研究室を与えるが非常勤でよい。気が向いた時に使うようにしなさい。もちろんホルスト君たちの仕事優先で全然研究室を使わなくても構わない。どうだい?それなら、仕事に触りがないだろうし、いいんじゃないか?」

「うーん、確かにそれならば、いいかもしれないですね。旦那様はどう思われますか?」

「俺はエリカがそれでいいというのならいいよ。エリカは研究もしたいんだろ?仕事に支障がない範囲でやるのなら別に構わないよ」

「旦那様のお許しも出たことだし、お父様それでお願いします」

「うむ」


 エリカのお父さんはエリカの返事を聞き、得心がいったのか、大きく頷いた。


「それと、ホルスト君とエリカにこの際魔術師の称号を与えようと思う。二人とも素晴らしい魔法使いであるし、何より魔術師の称号があれば図書館の資料を自由に閲覧できるからな。エリカの研究もはかどるだろう」


 え?魔術師の称号?

 俺は突然話が飛んでしまったことに驚きを隠せないのであった。

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