第303話~魔法大学に行く 魔法大学の研究報告会に招待されるとか、エリカって最強の嫁さんだよな~

 魔法大学。

 ヒッグスタウンにあるこの大学は王国、いや世界を見渡しても一つしかない大規模な魔法研究施設である。


 この大学の運営費はエリカの実家であるヒッグス家がすべて出している。

 ヒッグス家はヒッグス商会という魔道具制作・販売に関しては世界一の会社を経営しており、そこから上がる莫大な収益でこの大学を運営している。

 その他、ヒッグス家は各地で魔法学校を運営したり、貴族や軍に魔法使いを派遣したりと収入に事欠かず、それらも大学の運営費に充てられている。


 それもこれもヒッグス家の初代である偉大なる魔術師ヒッグスの遺言の為である。曰く。


「常に魔法の研究を怠らないように」


 その遺言を受けて、ヒッグスの子孫であるヒッグス本家とその一族が代々運営に腐心してきている。


 代々の学長はヒッグス家の当主が務めており、今の学長はトーマス・ヒッグス。

 エリカのお父さんである。

 学長といっても名誉職であり、実際の運営は副学長が担っていたりする。


 それで、この大学では夏の終わりから秋にかけて年一回の研究結果の発表会が行われている。

 今日はその日だった。


★★★


「エリカ、準備はできたか?」

「はい、旦那様バッチリです」


 俺がエリカに問いかけると、エリカからはそんな返事が返ってきた。


 今日はヒッグスタウンの魔法大学で年一回行われる研究成果の報告会だ。

 この報告会に今回エリカが参加することになったのだ。


 だから、今日エリカが張り切っているというわけだ。

 エリカは魔法大学に所属しているというわけではないが、自分の研究成果をお父さんに見せたところ。


「これはいいんじゃないか」


 と、お父さんが認めてくれ、お父さんがそれをさらに副学長に見せたところ。


「是非この成果を報告会で発表してほしい」


 そう向こうから頼んできたので、この度発表することになったのである。


 なお、エリカの研究内容は『時空魔法の研究』ということらしい。

 そういえば、エリカって色々な遺跡へ行くたびに魔法陣の事とか見てメモもしていたからな。

 それとこの前手に入れた魔術事典ヒエログリフ。

 それらに書いてあったことを解読して研究成果をまとめたらしかった。


 本当にすごいと思う。


 だってエリカって、子育てに家事に冒険者の仕事にと、とても忙しい毎日を送っているんだぜ。

 もちろん俺や他の二人の嫁たちも協力しながらやっているわけだが、それでも忙しいことに変わりない。

 その仕事の合間に研究を続けて研究成果をまとめ上げたというのだから、本当超人的だと思う。

 少なくとも俺にはできないね。


 そんなエリカの努力が実ってこの度研究会で発表できることになって、旦那としてはうれしいと思っている。

 ヴィクトリアとリネットも。


「エリカさん、すごいです」

「本当、アタシには真似できないね」


 と、称賛しっぱなしである。


 さて、話は長くなったがエリカの準備もできたようなので、今からその魔法大学の発表会に行くことにする。


★★★


「うわー、大きいですね」


 魔法大学の建物を見てヴィクトリアがはしゃいでいる。


「ふーん。これが魔法大学ねえ。噂には聞いていたけど立派で歴史を感じる建物だね」


 リネットも魔法大学の立派な建物を見て感心している。


 リネットの言うように魔法大学は千年以上の歴史がある。

 今の建物が造られたのは800年位前らしいので、千年には及ばないとしても十分に長い歴史を誇っているといえた。


 なおこの魔法大学の建物は町の中心部にある。

 町の中心部にあるにもかかわらず建物はとても広い。

 庭はきちんと整備されていて芝生がきれいだし、庭の中心にある噴水からは魔法によって常時水が噴き出るようになっている。

 建物は大学本体の他に、学生寮や教授やその家族の住む家族寮も敷地内に置かれている。


 それに何といっても……。


「あれが世界最大の図書館ですか」


 魔法大学の真の目玉。『魔法大学図書館』である。

 ここは地上5階地下10階にも及ぶ巨大図書館で、蔵書量で言うのなら前に行ったエルフの古代図書館の何倍にもなると思う。


「ここには本がたくさんあるんですね。ということは、本が読み放題ということですね」


 図書館と聞いて本好きのヴィクトリアが目を輝かしているが、絶対こいつ何か勘違いしていると思う。

 なので一応釘をさしておくことにする。


「先に言っておくけど、ここに置いてあるのは魔術書とか難しい本ばかりだからな。お前が期待するような小説とかは置いていないと思うぞ」

「えー、そんなー」


 俺のその言葉を聞いてヴィクトリアが残念そうな顔をする。

 まあ、こいつ本好きとはいっても難しい本は読まないからな。

 家でもよく本を読んでいるが、小説ばっかりだしな。


 その点がエリカとは違う点だ。

 しっかりしているエリカは、小説も読んだりしてヴィクトリアと内容について楽しそうに話していることもあるが、難しい本を読んで勉強もしている。

 その結果が今日の報告会につながっているのだ。


 本当凄いことだと思う。


 それはともかく、落ち込むヴィクトリアにエリカが声をかけてやる。


「大丈夫ですよ。良いことを教えてあげます。ここには各地に伝わる物語や伝承を集めたコーナーもありますから。そういうのだったら、小説を読むように楽しめますよ」

「本当ですか?」


 エリカにいいことを教えてもらったヴィクトリアの顔がパッと明るくなる。


「本当ですよ。私も初級学校のころ、そういうのを読みに来ていましたし。何だったら、報告会が終わったら行ってみますか?」

「はい!是非!」


 どうやら話はまとまったようだ。

 自分で話を振っておいてなんだが、ヴィクトリアががっかりしたままだと俺もつらいので、元気になって良かったと思う。


★★★


 ということで、研究成果の報告会に来た。

 報告会は魔法大学で一番広い部屋である大講堂で行われることになっているのでそこへ行く。


「かなり広い部屋だな」


 大講堂は噂通りとても広く二千人ほどが一度に集まることができるという話だった。


「えー、であるから、こうなりまして……」


 報告会はすでに始まっており、壇上では一人の初老の魔法使いが何やら自分の研究成果について発表していた。


 それを聞いて俺は思ったね。

 何を言っているのかさっぱりわからん、と。


 そんな場違いな場所に来た感を感じながらも俺たちは見学席に着く。


「思ったよりも人が多いな」


 研究者の卵たちだろうか。

 見学席には老若男女、研究者っぽい格好をした人たちが大勢来ていた。

 皆エリカみたいに勉強熱心な人が多いのだろう。

 食い入るような表情で研究者たちの研究成果を聞いていた。


 熱心でとてもいいことだと思うが……うん、俺にはとても真似できそうにないな。

 熱心に研究するくらいなら剣を一日中振っていた方がはるかに楽だしな。


 『ケーキはケーキ屋』という言葉があるように、研究は専門家に任せておけばいいと思う。


「ホルスト君、エリカちゃん入って来たよ」


 俺がそんなことを考えていると、リネットが俺にそう言って来た。


 お、やっと出番か。

 そう思った俺は目の前の壇上に立つエリカに視線を移すのだった。

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