閑話休題43~たまにはデートもいいものだね~

 裏オークションが終わってから数日後。

 俺たちはノースフォートレスの家へ戻って来ていた。


 それで今は朝食の時間だ。

 テーブルの上にはパンやソーセージ、スクランブルエッグなどの料理がすでに並んでいて、皆でそれを食べている。


「ほら、ホルスターちゃん。お口にケチャップが付いているよ。銀お姉ちゃんが拭いてあげる」

「うん、お願い」


 ご飯を食べている間もずっと銀がホルスターの面倒を見ている。

 相変わらず仲が良くていいことだと思う。

 他のメンバーは何やら用事があるらしく。


「エリカさん、早く食べて本屋さんへ行きましょう。今日は好きな作家さんの新作の発売日なんです」

「焦る気持ちはわかりますが、もうちょっと落ち着いて食べなさい。はしたないですよ」

「お母様。今日は商業区のカフェへ行ってみましょうか。何でも日替わりランチがすごくおいしいらしいですよ」

「あら、いいわね。楽しみだわ」


 そんな感じで今日の予定について話しながら、楽しそうにしている。


 というか、俺もこの後予定があるんだった。

 急いで朝ご飯を食べなくちゃな。


★★★


 リネットだ。


 今日はホルスト君とデートの日なので朝からとても張り切っている。

 今日の朝食当番だったアタシは朝早くに起きて朝食を作ると、皆が集まるなりさっさと自分の分を食べて、準備のため自分の部屋にこもった。


 まあ、準備といっても着替えて軽くメイクをするだけだ。

 ただいつも思うんだけど、この作業って本当に難しいんだよね。

 一応昨日のうちにエリカちゃんとヴィクトリアちゃんに相談しておいたんだけど。


「私はこのかわいい系の衣装がいいと思います」

「ワタクシはこっちのセクシー系の衣装がいいと思います。今は暑いですからね。薄着をしてアピールするチャンスですよ」


 二人ともバラバラなことを言っていたので、目の前には2組の服が置いてある。

 どっちにしようかな?

 アタシはしばし考え結論を出す。


「今日はこっちの露出の多いセクシーな衣装にしよう。こっちの方がホルスト君喜びそうだし」


 決心がついたところでアタシは着替え、しばし待つ。


「リネット、準備できたか?」


 するとホルスト君がドア越しに声をかけてきた。

 アタシはうれしくなって大声で返事をする。


「今、行くよ!」


★★★


 今日のリネットはなんだか色っぽいなあ。

 リネットと手を繋ぎながら歩いていると、ふとそんなことを思った。


 今現在、俺たちは王都の大通りを歩いている。

 もちろん前に約束した武器屋巡りデートの約束を果たすためだ。


 それで本題に戻ると、今日のリネットはとても色っぽいと思う。

 普段リネットはあまり肌を露出するような格好をしないのだが、今日に限っては別だ。

 スカートは短いし、服の隙間からは中が見えてしまいそうだし、何よりピッタリと肌にフィットしボディーラインが丸見えな服を着ていた。


 まるで俺を誘惑しているような格好だ。

 ここが町中でなければ、思わずリネットを抱きしめてしまいそうな気持ちになりそうだった。


 だがここは我慢だ。


 こんな町中で女の子を急に抱きしめるとか、世間が許してくれない。

 公園かどこか落ち着けるところに行ったら、その時こそは……。

 そう自分を戒めて今は我慢をするのだった。


★★★


 ホルスト君との武器屋巡りは楽しかった。

 まず最初に言ったのは王都一の大きな武器屋だった。


「さすがにここは品ぞろえがすごいな」

「うん、ノースフォートレスの武器屋とは大違いだね」


 確かにこの店の品ぞろえは良かった。

 剣、槍、斧などの武器から鎧、盾、兜などの防具が初心者向けの物から高級品まで一通りそろっていた。

 揃ってはいたが……。


「これはと思う物がないな」

「良い物はそろっているんだけど、少なくともアタシたちのお眼鏡にかなうような特別感のある品物はないね」


 そうなのだ。ここは品ぞろえは良かったがアタシたちがすでに持っているような品ばかりで、ぜひとも欲しいと思う物がなかった。


「こういう店は、俺たち向きではないかな。俺たちに子供が生まれて剣が欲しいとか言い出したら連れて来て買ってやるのには適しているとは思うけどね。その時にまた来ようか」

「そうだね。子供ができたらまた来ようね。今日は他の店へ行こうよ」


 ということで他の店へ行くことになった。

 だが、何件店を回っても特にめぼしい物を発見できなかった。

 もう諦めて飯でも食って帰ろうかと思っていると。


「ホルスト君。あんなところにお店があるよ」


 リネットが表通りから少し入った路地裏に小さなお店を発見した。

 店は小さかったが、軒先に並べられている武器を見ると。


「お!この鋼の剣、いい出来だな。これはちょっと期待できるかもしれないな」


 この店にはいい武器があるかもしれない。

 そんな予感がした俺は店の中へ入って行くのだった。


★★★


「ほう。ここの武器は他の店より出来がいいようだな。特にこの剣なんか波紋の美しさが他の店で見た物よりもいい」


 路地裏の店へ入って武器を見せてもらったホルスト君が非常に喜んでいる。

 というかアタシもうれしい。


 この店の武器は刀身の波紋もきれいだし、柄や鞘の装飾も凝っていた。

 それにアタシの見立てでは武器としての威力も優れていると見た。

 剣を2、3回ブンブン振ってみるととても振り心地がよく、刀身を指で弾いてみるとブーンと良い感じでしなってくれたからだ。

 これなら武器としても十分に使えると思う。


「店主さん!俺はこの剣が気に入った!これをくれないか」

「アタシはこっちの槍がいいな。これをください」

「毎度ありがとうございます」


 アタシたちが購入を決めると、店主さんはニコニコ顔で返答し、


「ありがとうございました。またのお越しを」


最後も笑顔でアタシたちが店を出るのを見送ってくれるのだった。


★★★


 武器を購入した後は屋台で軽食を買ってそれを公園で食べることにした。


「このハーフのベーコンピザを2つとアップルジュースを2つください」

「ありがとうございます」


 屋台でピザと飲み物を買った後、公園のベンチに座って食べ始める。


「熱々のピザっておいしいね」

「そうだな。俺はこのカリカリのベーコンが気にったな」

「アタシはとろとろのチーズがいいと思うな」


 そんな感じで二人でワイワイやりながら昼食をとる。

 結構歩いてお腹が空いていたので、すぐにピザを食いつくしてしまった。


「おいしかったね」

「満足だな」


 ピザを食べて満足した後は、ベンチに座ったままお互いに体を寄せ合ってのんびりと過ごした。

 そして体を寄せ合っているうちに、俺の中に先ほどのよこしまな気持ちが蘇ってくる。


 俺はリネットの肩をそっと触る。すぐにリネットが反応を示す。


「ホルスト君。公園とはいえ、人前では……ちょっと嫌かな」

「いいから。そこまでのことはしないから」


 そう言いつつ、俺はリネットの肩を掴んでそのままキスをする。

 最初リネットは驚いたようで一瞬だけ肩を震わせたが、すぐに覚悟が決まったのか、自分から俺の方へ体を寄せてくるようになり、キスがよりディープなものになっていくのに時間はかからなかった。

 こうして二人だけの濃密な時間を俺たちは持つことになり、正気に戻ったときには夕方になっていた。


★★★


 公園から出た後は前に行ったことのあるドラゴンステーキの店でアタシたちはご飯を食べた。


「ここは高いけどやはりおいしいな」

「そうだね。おいしいね。アタシもこのお店は好きだな」


 ここのステーキはとてもおいしいのでアタシもホルスト君も大変満足した。


「それじゃあ、そろそろ行くか」

「うん」


 ご飯を食べた後は二人でそのままホテルに宿泊した。

 なおエリカちゃんとヴィクトリアちゃんには今日は泊ってくることを伝えてある。


「それはいいですね。私もヴィクトリアさんも旦那様と二人で外泊というシチュエーションとしばらく遠ざかっていますから、次のデートでおねだりしてみましょうかしら」

「リネットさん、羨ましいです。次はワタクシも狙ってみます」


 そんな風に二人ともとても羨ましがっていた。


 その反応を見るだけでも二人ともとてもホルスト君のことを愛しているのだとわかる。

 もちろんアタシもとてもホルスト君を愛しているので、二人に負けないように頑張ろうと思う。


 ということで。


「リネット、いいか?」

「うん」


 この日はホルスト君に思い切り甘えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る