第302話~裏オークション 後編 小さな箱の正体は……神器?~

「皆様、お待たせしました。それではオークションを開始します」


 俺たちが会場に入ると同時に裏オークションが始まった。


 すでに言っていると思うが、このオークションに参加できるのはやんどころなき身分の人かその紹介を受けた人だけだ。

 だから参加者は全員が全員高級そうな服を着ていた。

 オークションの司会者までもこれまでのオークションのやつより高級そうな服に身を包んでいた。


 この部分だけ見てもこのオークションが特別だというのが分かるというものだ。


 まあ、それはともかく全員で席に着く。

 そして壇上に目をやると、高級品が次々とオークションにかけられていた。


「それでは、続きましてはこちらの著名な画家ガルフ作『ピアノのある風景』のオークションとなります。お値段は金貨20枚からとなります」

「金貨30枚」

「金貨40枚」

「金貨60枚」


 今も、なんかよく知らんが高そうな絵がオークションにかけられて値段が跳ね上がって行っているところだ。


 俺からしたら空き部屋に置いてあるピアノを描いたものにしか見えないが、そんなに良い物なのだろうか?

 本当に芸術とかいうものはよくわからん。


「それではこちらの作品は金貨90枚で落札となりました」


 とか思っていたら、いつの間にか絵が売れていた。


 金貨90枚か。良い値段だ。

 一般庶民なら一生汗水たらして働いても出せないような金額だからな。

 それをあっさり出せるとは……さすがはやんどころなき身分の方々と言ったところか。


 別にあんな絵に興味はないのでいくらで売れようが構わないけどね。

 あれが何かの武器だったら興味を持って見ていたかもしれないけどね。


 それよりも俺の狙いは別の物だ。

 それが出品されるまでは高みの見物としゃれこもうと思う。


★★★


「それでは、次に出品されますのはこちらの箱になります」


 裏オークションで目当ての物が出品されるのを待つこと30分。

 ようやくお目当ての品物が出てきた。


 本当長かった。

 ここまでは特に興味のない絵や骨とう品の壺や皿などが出品されるだけだったのでとても退屈だった。


 それでも嫁たちやヴィクトリアのお母さん、おばあさんは。


「あら、あのお皿良いですね」

「きれいな絵ですね」

「あの壺、実家の玄関にでも飾っておけば、殺風景な実家が華やぐかな」

「お母さん、あのお皿にお菓子を盛ってのんびり食べたいわ」

「おばあちゃんはあの森を描いた絵を部屋に飾っておきたいわ」


 オークションを見てそれなりに楽しんでいたようだが。


 それはそれとしてオークションだ。

 俺は司会者の説明を聞く。


「こちらの箱はただのきれいな箱ではありません。こう見えても魔道具なのです。先年遺跡から発見された品物なのです。ただし、効果や使用方法などは一切わかっておりません。もしかしたら購入されても使用できない可能性があります。ご購入の際はその点をご考量ください」


 ふむ。ヴィクトリアのお母さんの言っていた通りだな。

 あれは人間の手に余る物で悪用されたら困るから回収したい。


 そう言われたので購入することに決めたのだが、司会者の説明を聞く限り確かに用途不明の魔道具とか世の中に出してはダメだと思う。

 だからぜひとも競り落としていこうと思う。


「それでは、こちらの品物は金貨15枚からのスタートです」


 そうこうしているうちにオークションが始まる。

 最初は金貨15枚からのスタートだ。

 訳の分からない魔道具がそんな高額からのスタートなのかと思ったが、世の中には好事家という人種がいるのだ。


「金貨20枚!」

「金貨30枚!」

「金貨50枚!」


 先ほどまでの絵や壺と遜色ないペースで値段が上がって行く。

 意外な感じがしないでもないが想定内だ。

 こっちもすでにエリカに手形を作成させて、後は金額を書き込めば終わりという所まで準備を進めている。


 ということで俺も参戦する。


「金貨80枚!」


 一気に金貨30枚も値段を釣り上げてやる。


「おおー」


 それに対して会場からはそういう驚きと呆れの入り混じった声が聞こえてくる。

 中には「あいつ、あんなものに大金出してバカじゃないの」という声も聞こえてくる。


 それが普通の反応なのかもしれない。

 だってよく考えてみろ。

 いくら珍しいとはいえ、使えるかどうかもわからない品物に、金を持っているとはいっても、ポンと大金を出せる人間がどのくらいいるだろうか。


 正気を疑われても仕方がない。


「金貨90枚!」


 ただ好事家というのは恐ろしいもので、まだ俺と競ってくる奴がいた。

 もちろん、俺も引く気がないのでさらに値を釣り上げていく。


「金貨180枚!」


 一気に倍の値段をつけてやった。

 これは相手に引く意思はないぞという俺の決意を示すための値付けでもある。


 俺は俺に競って来ていた相手の顔を見る。

 するとその顔は若干青ざめていた。

 いくら好事家とはいえ予算がオーバーしているらしかった。


 それでも相手も最後の抵抗を試みてきた。


「金貨185枚」


 俺の価格に若干だが上乗せしてきやがった。

 もちろん、俺は負けない。


「金貨220枚!」


 さらに値を釣り上げてやる。


「ぐっ」


 競っていた相手から唸るような声が聞こえてくるが、金額をコールしてくることはなかった。


「それでは、こちらの品は金貨220枚で落札されました」


 こうして俺はお目当ての品物をゲットしたのであった。


★★★


 さて、お金を支払って問題の品物を受け取った後は休憩スペースへ行ってのんびりすることにする。


 この裏オークションの会場ではタダで飲み食いができるようになっている。

 ここの商品は高額な物ばかりで売り上げもすごいし、お客さんもお金持ちばかりなので食事くらいはサービスしてまた来てもらおうという算段なのだと思う。


「それじゃあ、この『お勧め海産料理のコース』を6人分で」

「ありがとうございます」


 舌の肥えている上客を相手にしているだけあって料理も悪くなく、王都では珍しい海の幸を使った料理のコースがあったのでそれを食べることにした。


「これはおいしいですね」


 それを食べてヴィクトリアが顔に満面の笑みを浮かべて喜んでいる。

 たしかにこの料理はおいしくそれくらいの笑顔になるものだった。


 そうやってみんなで楽しく食事をしていると、エリカがこんなことを言い出した。


「ところで、ソルセルリ様。今日買った魔道具って、実際何に使う物なのですか?一応旦那様から人の手に余る魔道具だから買うことに決めたとはうかがっているのですが」

「ふふふ」


 そのエリカの質問を聞いてヴィクトリアのお母さんが不敵に笑う。

 お母さんのこういう笑い方、本当ヴィクトリアそっくりだ。

 こういう所を見ると、この二人が親子なんだなということがよくわかる。


「よくぞ聞いてくれました。この箱はね。通称『世界創造補助ボックス』。神々が世界を創造する時に使う神器ね」

「神器?!」


 この見た目きれいな箱が神器?

 俺たちはそれを聞いて非常に驚くのだった。


「お母様、それって神器だったのですか?」

「そうよ。……というか、あんたも一応女神なんだから見たことないの?」

「ないですよ。ワタクシ、世界創造なんてやったことがないので」

「はあぁぁ」


 ヴィクトリアの発言を聞いてお母さんがため息をつく。


「本当、あんたって子は……まあいいわ。それでこの箱なんだけどね。何でも作り出すことができるの」

「何でもですか?例えば塩とか」


 何でも作ることができると聞いて、エリカがそんな質問をする。

 お母さんはその質問に大きく頷く。


「もちろん作ることができるわよ。それこそ際限なくね」

「際限なくですか?それはすごいですね」

「ええ、すごいのよ。でも、だからこそ危険なのよ。もし使い方を誤ったら、世界中がこの箱から出てきたものであふれてしまうわ。だから見つけた以上放置しておけないわ。ということで、ホルスト君に買ってもらったというわけなの」


 確かにお母さんの言う通りだった。


 無限に物を吐き出し続けられる箱。

 確実に人間の手に余る物だろう。


 誰かがまかり間違ってこの箱を使って、例えばエリカが言ったように、塩を吐き出すようになってそれを止めることができなければ世界崩壊まっしぐらだと思う。


 そんなものがこんなオークションに出回っていて、俺たちがうまく回収できたのは本当に僥倖だったと思う。


「さて、世界の危機も未然に防げたし、オークションは楽しかったし、おいしいご飯も食べたし、そろそろ帰りましょうか」


 最後はお母さんのその言葉でみんなでオークション会場を出るのだった。


 しかし、裏オークションとはいえまさか神器を手に入れることができるとか……本当貴重な体験ができた有意義な一日だったと思う。


 ちなみにこの時の俺は知らなかった。

 この箱の真の危険性について。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る