第301話~裏オークション 前編 さすがは裏オークション!良い品が揃っているな!~

 中古品オークションへ行ってから数日経った。

 その間も例の多目的ホールではオークションは続いていたが、俺も嫁たちもオークションに参加できたことでとりあえず満足したので行かなかった。


 その間はずっと家でのんびりしていた。

 エリカの実家の屋敷の庭では嫁たちとヴィクトリアのお母さんとおばあさんたちがよくお茶会をしていた。


「今日の紅茶は香りがよくておいしいですね。ちょっとハチミツをいれたらとてもおいしくなりますし。ワタクシはとても大満足ですよ」

「うん、そうだね。アタシもこれはおいしいと思うね」

「執事に聞いた話では、今日の紅茶は王室御用達の茶葉屋さんで買ってきたものらしいですうね。だから味が良いのでしょう」

「お茶もいいけど、お母さんはこのお茶請けのクッキーがおいしいわね」

「おばあちゃんもクッキーが気に入ったわ」


 と、5人で楽しそうにやっていた。

 その一方で俺はというと。


「ほら、ホルスターに銀。疲れていないか?馬に乗ると足の筋肉使うからな。辛くなったら言うんだぞ」

「うん、大丈夫だよ、パパ」

「銀も大丈夫です」


 パトリックにホルスターと銀を乗せて屋敷の庭をグルグルと周回させていた。


 今回はちゃんとパトリックに鞍を乗せて、俺が口ひもを引っ張って歩かせている。

 慣れない人が馬に乗ると足の筋肉が痛くなるのだが、この二人は大丈夫なようだった。

 たとえ後で痛くなっても、子供の場合すぐに治るし。

 本当子供って元気だなと思う。


 そんな風にオークションに行ってから数日はおとなしくしていたのだった。


★★★


「お前ら、そろそろ行くぞ」

「はい」


 とうとうその日が来たので、俺は嫁たちとヴィクトリアのお母さんとおばあさんを連れて出かけた。


 え?どこへ出かけるのかって。

 もちろん裏オークションだ。


 ワイトさんに聞いてきた話によると、裏オークションとは超高額の美術品や魔道具などを取引する参加者限定の特別なオークションらしい。

 これにはやんどころなき身分の人、もしくはそういう人の紹介が無いと参加できないということだった。

 それで、ワイトさんに頼んだら紹介してくれたので参加してみることにしたのだった。


 だから、嫁たちの張り切り方がすごい。


「さあ、あなたたち!気合い入れていきますよ!」

「「はい」」


 エリカは他の二人を指導してよそ行きの良い服を出してきて、化粧も髪型もばっちり決めてきている。


「何か舞踏会に行くみたいですね」

「そうねえ」


 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんも嫁たちほどでないが目立つ格好をしている。


「旦那様もタキシードお似合いですよ」

「そうか?」


 かくいう俺もタキシードを着せられて準備万端だ。


 ちなみに銀とホルスターはお留守番だ。

 何せ裏オークションが開かれるのは夜だからな。

 帰りも遅くなるだろうから子供を連れて行くわけにはいかなかった。


「二人とも夜更かしせずに早く寝るのよ」

「うん、ママ」

「はい。ホルスターちゃんはちゃんと銀が寝かせますので、皆様はオークション頑張ってください」


 エリカがそう言い聞かせて、そう家でおとなしく寝かせておくのだった。


 さて、出かける準備もばっちりだし、裏オークションに行くとするか。


★★★


 裏オークションの会場に着いた。

 会場は昼間オークションが行われた多目的ホールだった。

 ただ、昼間やっていた時と異なるのは……。


「うーん。警備が厳重ですね」


 ヴィクトリアが会場の様子を見てそんな感想を漏らす。


「あれは、王国の騎士団かな」


 何と王国の騎士団らしい人たちまで警備にあたっていた。

 まあ、やんどころなき身分の人が大勢集まって来ているからな。

 そういう人たちは王国の上層部ともコネがあるわけで、騎士団を動員するくらい訳はないということなのだろう。


 そう言う俺もこの前ワイトさんに頼んで、王都の警備隊を借りて俺の大事な家族に手を出した悪徳商人の所へ乗り込んで行ったけどな。


 あの商人、泣いて土下座して俺に詫びを入れてきたけど、俺は許さなかったね。

 何せ俺の大事な家族に手を出してきたわけだし。

 2、3発蹴りを入れた後で警備隊に引き渡してやったね。


 今頃牢屋の中で泣いて後悔していると思うがもう遅い。

 あいつのバックには王都の役人もついていたようだが、俺のバックにエリカの実家やワイトさんがいると知ったらそいつらも商人のことをあっさりと見捨てたしね。

 二度とあいつが浮かび上がることはないと思う。


 ちなみに今の王都の警備隊というか防衛隊の隊長はワイトさんのイトコさんだ。

 伯爵家の跡取り息子だという話だったので、事件解決のお礼と今後のことを考えてちゃんと挨拶に行っておいたぞ。


 その時に贈り物としてアダマンタイト製の魔法剣を贈っておいた。『火球』の魔法が付与されたやつだ。

 伯爵家ともなると、アダマンタイト製の剣くらい持っていると思うが、アダマンタイト製の上に魔法が付与されているとなるとかなり珍しく、大貴族でもほとんど持っていないと思う。


「これは貴重な物をありがとうございます」


 ワイトさんのイトコさんはそう言いながら非常に感謝してくれたので、今後もいい付き合いができそうだと思う。


 それはともかく。


「すみません。中へ入りたいのですが」

「失礼ですが紹介状の確認をさせていただいても大丈夫ですか?」

「こちらです」


 俺は受付のお姉さんにワイトさんからもらった紹介状を渡す。

 紹介状を見たお姉さんの顔がたちまち笑顔になる。


「リットンハイム公爵家様のご紹介ですね。ということは、あなた様が『救国の英雄』と名高いSランク冒険者チーム『竜を超える者』のリーダーのホルスト・エレクトロン様ですね。御高名はかねがねお伺いしております。では、ご案内しますので中へどうぞ」


 ということで、お姉さんに案内されて俺たちは会場の中へ入って行くのだった。


★★★


 一つ言い忘れていたが、会場に入るに際して俺たちは全員顔が分からないようにマスクをつけている。

 エリカは蝶、ヴィクトリアはウサギ、リネットは猫、ヴィクトリアのお母さんは狐、ヴィクトリアのおばあさんは犬、俺は虎のマスクをつけている。


 マスクと言っても、仮面舞踏会でつけるような顔の前面だけを隠すような簡易なやつだ。

 これはどこの誰が何を買ったかわからないようにするための配慮だ。


 何せここで扱っている商品は高額だ。

 どこの誰が何を買ったかわかると、その人の家に泥棒、いや悪くすると強盗がやってくるかもしれない。

 そのための配慮なのだ。


 さて、会場に入る準備も整ったことだし中を見て回ることにしよう。


★★★


「うわ、高そうなものがいっぱいですね」


 オークションが始まる前に俺たちは今日オークションにかけられる商品の展示場に来ていた。

 本当に高価そうな品がたくさん並べられていて、見ていて爽快だった。

 それらをみんなで一緒に見て回る。


「見ているだけで目の肥やしになります」


 特に美術品の造詣が深いエリカが大喜びで見ている。


「あれ何か居間に飾っておくといいですね」

「こっちは、寝室に飾っておきたいですね」


 と、その品物を飾った様子を想像して楽しんでいるようだ。


 もっとも今回俺はここであまり買い物をする気はない。

 基本的に出品される品物を見て楽しもうと思って来ただけだ。


 何せここに出品されている品物は高額な品物ばかりだ。

 そんなものが家に置いてあると知られるだけでも、泥棒が来そうで安心できない。

 だから今回は見るだけで買わないでおこうと思っている。


 そんな中。


「ホルストちゃん、ちょっといい」


 ヴィクトリアのお母さんが話しかけてきた。


「どうかしたのですか。お母さん」

「一つ気になるものを見つけたの」


 そう言いながらお母さんが俺の袖を引っ張って該当の品物の前へ連れて行く。


「この小さな箱が何か?」

「実は、ね」


 お母さんが品物について説明してくれる。

 それを聞いた俺は方針を一転し、その品を買おうと決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る