第300話~赤い飾り石の秘密と真夜中の秘密の女子会~

 武器のオークション会場には割と人がいた。


「あまりいい商品がなかった割には、結構人がいるね」

「まあ、安い武器にも需要はあるからな。溶かして新たな武器の作成に使ったり、金の無い冒険者が安い武器を買ってとりあえず装備を整えるとか、な」

「そうだ、ね。ここのオークションの品は中古品か質流れ品。どうしても、そういう用途が多いんだろうね」

「そういうことだ。……そうだ!オークションが終わったら二人で王都の武器屋巡りに行かないか?ここよりは良い武器があるだろうから、そっちの方がよくないか?」

「それって、デートの誘い?何かあまり色気のないデートだね」

「嫌なのか?」

「ううん。大好きな旦那様と出かけられるのなら行く」


 そう言うと、人目をはばからず、リネットは俺の腕にしがみついてくるのだった。


 当然周りの野郎どもの視線が俺に刺さってくるが、俺は気にしないね。

 俺は、リネットのことが好きだからな。

 周りの野郎どもの気持ちなど知ったことではないね。


 それはともかく。


「それではただいまよりオークションを開始します」


 どうやらオークションが始まったようなので、俺たちは席に着いた。


★★★


「それでは、こちらの鋼の剣は銀貨2枚でそちらの方が落札されました」


 オークションでは大量の武器が出品されているので次々に商品が取引されて行っている。

 それを俺たち二人はしたり顔で見ていた。


「ねえねえ。今の鉄の剣錆びだらけだったね。あれじゃあ魔物を倒すのはとても無理だね」

「ああ、多分溶かして新しい武器にでもするんじゃないかな」


 そんな風に売られて行く武器についてあれこれ言いながら楽しく会話して過ごしている。

 まあ、俺たちの狙いの品は最後の方らしいからな。

 こうやってリネットと楽しくやらなければ、俺としてはやっていけなかった。


「それでは、これからこちらの鉄の剣のオークションを始めます。最初は銅貨10枚から」

「お?ようやく俺たちの狙いの剣が出てきたようだな」


 そうこうしているうちに俺たちの狙いの剣が出品されてきた。

 銅貨10枚からの出品なのでとても安い。

 多分出品者側も鉄くずとしての価値しかないのだと思っていると思う。


「銅貨11枚」

「銅貨12枚」


 それは買う方も同様なようで大した値段をつけようとしない。

 だから俺はリネットにこう言ってやる。


「リネット、少し高めの値段をつけて落札してしまえ。それでリネットはオークションを楽しめるだろ?そうしろよ」

「え?アタシが言っちゃっていいの?」

「いいよ。俺はリネットが喜んでくれた方がうれしいから」

「うん。ホルスト君にそう言ってもらえると嬉しいな。……それじゃあ行くね」


 リネットはそう言うと、手を上げ、こう宣告する。


「銅貨30枚!」


 なまくらな剣にいい値段をつけたなと思ったが、これはホルスターの練習に使うのだ。

 あまり安過ぎるのもどうかと思って、リネットも気を使ってくれたのだと思う。


 もちろん誰もこの値段に追従せず。


「それではこちらの鉄の剣は銅貨30枚でこちらの女性の方が落札されました」


 見事リネットが落札したのだった。


 これで俺たちのオークションは終わりだ。後は皆と合流して家に帰るだけだった。


★★★


 事件が起こったのは家に帰ってからだった。


「あら、ホルストちゃん。ホルストちゃんたちも良い剣を買って来たわね」


 俺が買ってきた剣を見てヴィクトリアのお母さんがそんなことを言い始めた。


 ちなみに、お母さんが『ホルストちゃんたちも』と言ったのは、お母さんとおばあさんは部屋に飾る小物類のオークションに参加して良い品を手に入れてきたからである。

 結構気に入ったらしく二人ともホクホク顔だった。


 そんなお母さんに対して俺はこう返事をする。


「良い剣ですか?どちらかというと、良く切れないなまくらですよ」

「まあ、剣自体はそうね。でも大事なのはそこじゃないの。その剣の柄に付いているその赤い石。それに価値があるのよ」


 そう言われて俺は赤い石を見る。

 俺が見る限り何の変哲もない飾り石だった。

 俺はお母さんに聞いてみる。


「この石に何かあるんですか?」

「この石はね。見た目はただの飾り石なんだけど、魔石を加工した物で、何か魔法を込めておけるの。金貨にして5枚くらいの価値がある物だけど、ホルストちゃんたちはいくらで買ってきたの」

「銅貨30枚ですね」

「ホルストちゃんとリネットちゃんやったわね。大儲けじゃない!」

「そうですね」

「アタシもヴィクトリアちゃんのお母さんに褒めてもらえると嬉しいな」


 お母さんに褒められた俺とリネットは、照れくさいのをそうやって笑ってごまかす。

 俺がそうやって笑っていると、お母さんはさらにこんなことを言って来た。


「この飾り石ね。前は何かの魔法が刻まれていたようだけど今はそれが消えているわね。何なら私が何か魔法を刻んであげてもいいけど、希望はある?」

「魔法ですか」


 お母さんが何か魔法を込めてくれるというので、俺はしばし考えて結論を出す。


「実はこの剣。ホルスターに練習用に持たせようと思っているので、何かあったときのために守りの魔法でもかけてください」

「オッケー。それじゃあ最強の防御魔法である『究極結界魔法陣』の魔法を込めてあげる」


 究極結界魔法陣?

 聞いたことがない魔法だが、お母さんが最強と言うのだからすごい魔法だと思う。


「それで、お願いします」


 お母さんにお願いすると、お母さんはササっと魔法陣を刻み、剣に魔法を宿してくれたのだった。


 しかし、たった銅貨30枚ですごい物が手に入ってしまった。

 このことに気分を良くした俺は、その後酒を飲むと気持ちよく眠れたのだった。


★★★


 リネットだ。


 オークションから帰った日の真夜中。


 アタシとエリカちゃんとヴィクトリアちゃんの3人で女子会をした。

 エリカちゃんがオークションで買ってきたというお皿におつまみをてんこ盛りにして、これまたエリカちゃんが買ったという色とりどりのグラスにお酒を注ぎ、それらをテーブルの上に並べた上で、3人がその周囲に座ると、女子会の開始だ。


 ちなみにホルスト君を始め、他の人々たちは寝ている。

 だから、起きているのはアタシたち3人だけということになる。


「それでは、まず今日の成果について話し合いましょうか」


 エリカちゃんがそう音頭を取って女子会が始まる。

 まずは今日のオークションの成果の報告からスタートのようだ。

 ここは今日一番の成果を上げたアタシとホルスト君の武器の件から発言しようと思う。


「まず、アタシからいい?アタシとホルスト君は今日は銅貨30枚で魔法剣をゲットするという大戦果をあげました」

「本当素晴らしいですね。さすがリネットさんと旦那様ですね。武器の目利きに関しては一流ですね」

「金貨数枚はするものを銅貨30枚でゲットするなんてすごすぎです」


 エリカちゃんとヴィクトリアちゃんに手放しで褒められてうれしいことはうれしいのだが、ここは正直に話そうと思う。


「褒めてもらってうれしいんだけど、正直な所この剣の飾り石にそんな価値があるだなんて知らなかったんだよね。ホルスト君もただのなまくらな剣だとしか思っていなかったし」


 アタシは正直にそうやって真相を話したのだが、二人の勢いは止まらない。


「何を言うのですか。運も実力の内ですよ。旦那様もリネットさんも普段から武器を大切にしていますから、きっと武器の神様がご褒美をくれたのですよ」

「そうですよ。銅貨30枚が数千倍の値段になるなんて普通じゃないです。リネットさんもホルストさんも何か持っているんですよ」


 どうしよう。二人とも興奮しきっちゃって収まらない。

 ここは話題を変えて話を逸らしてみるか。


「それよりもあの剣だけど、ホルスター君に持たせても大丈夫かな?結構高価な物だし、子供に持たせるのは危険じゃないかな?」

「それは大丈夫だと思いますよ。あの剣、見た目はただのぼろい剣ですし。それに今すぐ持たせるわけではありませんしね。旦那様が剣の稽古を施した後に持たせるようにしますからね。その頃には持たせても大丈夫になっているでしょう。何よりソルセルリ様が守護の魔法をかけてくださいましたからね。いざという時はあの子を守ってくれると思うので、持たせることにします」

「そうです。お母様が守りの魔法をかけてくれたのだから大丈夫ですよ」


 ふーん、そんなものなのかな。そう思いつつも、二人の気がそれたと感じたアタシは話を元に戻すことにする。


「それで、二人の成果はどうだったの?」

「私は狙い通りの品を手に入れられたので満足ですよ」

「ああ、このグラスとお皿だったね。良い物を手に入れたね」

「まあ、帰り際に暴漢にいちゃもんつけられたのは腹立たしかったですけどね」

「ああ、あれは面倒に巻き込まれちゃったね。でも、大丈夫。明日ホルスト君とアタシでその商人にけじめをつけさせてくるから」

「お願いしますね」

「それで、ヴィクトリアちゃんはどうだった?」

「ワタクシは……」


 と、ここでヴィクトリアちゃんが言いよどむ。

 多分、あまりよくなかったので話したくないのだと思う。


 それでもヴィクトリアちゃんはポツリポツリと話してくれた。


「ワタクシは予算の金貨2枚を銀貨150枚分もオーバーしてしまい、銀貨350枚も使って、ルビーのペンダントを買ってしまいました。ああ、ワタクシは本当にバカでした。あんな太った商人にあおられて大金を無駄遣いしてしまうなんて」


 言いづらそうな顔をしながらもそう報告してくる。

 それを見てエリカちゃんがやれやれという顔をする。


「本当に仕方がない子ですね。予算を銀貨150枚もオーバーするだなんて。聞けば、そのネックレスもせいぜい銀貨150枚くらいの価値しかないというではないですか」

「本当、弁解のしようもないです」

「まあ、いいでしょう。旦那様も大儲けして気分がいいようなので、大して怒っていないようですしね。旦那様が怒っていないのに私がどうこう言うのも違うような気がしますし。だから、一応許してあげます」

「本当ですか!」

「本当ですよ。ただし、莫大な無駄遣いをして何もなしというわけにはいかないので、3日間おやつ抜きですよ」

「おやつ抜きですか」


 許すといわれて一瞬歓喜の表情に包まれたヴィクトリアちゃんの顔が再び暗くなる。


 うん、何というかわかりやすいなあと思う。

 お菓子大好きなヴィクトリアちゃんにとっておやつ抜きは辛いだろうからなあ。

 まあ、銀貨150枚の代償としておやつ3日抜きというのはとても緩いと思うけどね。


 ただ落ち込むヴィクトリアちゃんを見ているとかわいそうになって来たのでフォローしてあげることにする。


「まあ誰にでもミスがあるんだから仕方ないよ。ヴィクトリアちゃんに競ってきた商人って肥えて太った人だったんでしょ?きっと愛人のためにでも買おうと思って高値を付けてきたんだよ。そんな人と競ってしまうことになったヴィクトリアちゃんがついていなかっただけだよ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。それにおやつ抜きだって、アタシが自分の分を半分分けてあげるから、それでいいでしょ?」

「ありがとうございます!」


 そう言うとよっぽどうれしかったのか、ヴィクトリアちゃんはアタシの手を握ってきて大喜びするのだった。


「本当、仲がいいですね」


 アタシたちの様子を見てエリカちゃんもほほえましそうに笑う。

 どうやらアタシがおやつを分けるという点に関しては何も言う気はないらしい。

 それを見て、アタシもエリカちゃんは優しいなと思うのだった。


 と、こんな感じでアタシたちは楽しく女子会をしていくのだった。

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