第298話~中古品オークション エリカ編~

 ワイトさんの屋敷へ行ってから数日後。


「さあ、出かけるぞ」

「はい」


 俺は家族を引き連れてエリカの実家の王都屋敷を出た。

 もちろんオークションへ出かけるためだ。


「パトリック、頼むぞ」

「ブヒヒヒヒン」


 パトリックに馬車を引かせてのんびりとした足取りで行く。

 目的地は王都にある国一番の規模を誇る多目的ホールだ。


 ここには一つの建物の中に複数のホールが設置されており、複数の劇やコンサートが同時に開催できるようになっている。

 今回はそれを活かして複数の異なる種類の物品のオークションが開催されるというわけだ。


 多目的ホールに着いた俺たちは馬車を馬車置き場に預けると、ホールの中へ入って行く。


「大人が6名様と子供が2名様ですね。大人が一人につき銅貨60枚、子供が一人銅貨20枚となっておりますので、全部で銀貨4枚になります」

「はい。それじゃあ銀貨4枚ね」

「ありがとうございます。こちらが案内のパンフレットになっていますので、どうぞ楽しんで行ってください」


 俺が入り口で入場料を払うと全員で中へ入って行く。


 ちなみに、このオークション会場、金を払えば入れるというわけではない。

 誰かちゃんとした人の紹介が無いと中へさえ入れないのだ。


 まあ、オークションにかけられる品物の中には非常に価値があるものもあるからな。

 万が一泥棒に入られないためにも、その辺のセキュリティーはしっかりしていた。


 なお俺たちの身分は冒険者ギルドに保証してもらっている。

 別にエリカの実家辺りに頼んでもよかったのだが、先にダンパさんに話したのでギルドが保証してくれたのだった。


 さて、おしゃべりはここまでだ。

 折角のオークションだ。楽しむとしよう。


★★★


 エリカです。


 私は現在食器類のオークション会場へ来ています。

 何せ良い食器を集めるのは私の趣味ですので、是が非にでもいいものを見つけねば。

 そう思って来ています。


 後、ホルスターと銀ちゃんは私について来ています。

 まあ、子供に食器類のオークションなど退屈なだけでしょうから、入り口の売店でお菓子とジュースとおもちゃを大量に買って二人に持たせています。


「ホルスターに銀ちゃん。それを食べながらゆっくり待っていてね」

「うん。ママ、わかったよ」

「エリカ様、お任せください。ホルスターちゃんの面倒はこの銀がちゃんと見ていますので」


 ホルスターのことは銀ちゃんが力強く請け負ってくれたので、安心してオークションに集中することにします。


 まずオークションに参加する前に品物の確認をします。

 ここの商品は、ガラスケースの中に入れられて厳重に管理されています。

 ただオークションの職員さんに言えばケースから出してもらって触ることもできます。


 会場をぐるっと一周して、ワイングラスのセットと陶器のお皿2、3点ほどが気になったので職員さんに行ってそれを見せてもらいます。


「こちらになります」


 職員さんに出してもらった品を見て私はうっとりとします。

 陶器はとても肌触りがよく、何となくぬくもりが伝わってくるような出来でとても良いです。

 ワイングラスのセットの方も色とりどりのガラスで作られているもので、とても気に入りました。


 是非買おう。

 そう思った私は時間になるとオークション会場に入場しました。


★★★


 オークション会場に入ると結構な数の人がいました。

 大半はどこかの商人のようです。

 多分、皆さん掘り出し物を安く仕入れて高く売ろうと狙って来ているのだと思います。


 まあ、商人さんなのでそれはご自由にという所ですが、私も狙った獲物を見逃す気はないですので、覚悟なさってくださいね。


「それではこれからオークションを開始します」


 司会の人の挨拶でオークションが開始されます。


「まず一点目は王都のナターシャ工房で作られた花瓶です。最初は銀貨10枚からスタートです」

「銀貨13枚」

「銀貨15枚」


 そんな感じで次々に品物が競りにかけられていきます。


 しかし、私の狙いはグラスのセットと一枚の陶器製のお皿のみ。

 これらを買ってヴィクトリアさんとリネットさんの3人でお皿におつまみを盛り、グラスにワインを注いで女子会をしたいのです。

 ということで、他の品がどうこうというのは気にしません。


「さて、お次はエルフの王都ファウンテンオブエルフのチューリップ工房製のグラスのセットです」


 ようやく私のお目当ての品が出て来ました。

 ここは気合をいれねば!と思いました。


「銀貨20枚からのスタートです」

「銀貨25枚」

「銀貨28枚」


 と徐々に値が上がっていきます。

 そんな中私が出した値段は。


「銀貨50枚!」


 銀貨50枚です。


 この商品の市場価値を私は銀貨100枚くらいと踏んでいます。

 相手が商人でしたら、ここで仕入れて売らなければならないので、その金額で買っては儲けが出ません。

 しかも彼らの場合、ここでの仕入れの代金の他にも従業員の給料や倉庫の保管料といった経費もかかるのです。

 ですからここで使えるのは売値の半分から6割くらいだと思います。


 ということで、一気に彼らの限界に近い数字を出して戦意をくじく作戦です。


「銀貨55枚」


 おや、まだ競り合ってくる方がいらっしゃいますね。

 目つきの鋭い狡猾そうな商人の方ですね。とても利に聡さとそうな方です。

 まあ、誰が相手であれ、ここは容赦なく行くとしますか。私もあのグラスは欲しいので。


「銀貨60枚!」


 私はさらに彼らの限界近い数字を出していきます。


「銀貨61枚」


 あら、まだ粘るのですか。でももう限界みたいですね。

 銀貨1枚しか増やしていないですよ。


「銀貨70枚!」


 ということでさらに銀貨10枚を足してとどめを刺しに行きます。

 それを聞いて先程の方もあきらめたようで、もう競ってきません。


「銀貨70枚!他にいませんか?それではこちらのグラスのセットは、そちらの女性の方が落札されました」


 やりました!銀貨70枚でグラスゲットです!

 割と安値で掘り出し物を手に入れた私は満面の笑みでほほ笑むのでした。


★★★


「さあ、銀ちゃんにホルスター、行きますよ」

「「うん」」


 オークション会場を出た私たちは、他のメンバーたちと合流するため合流地点へと向かいます。


 あの後、グラスの時と同じ手法でお皿も手に入れました。

 またもやグラスの時と同じ人が競り合ってきましたが、相手は商人。

 利益にならないことはやらないのであっさりと撃退してやりました。


 目的の物を二つとも手に入れた私はうきうきとした気分で通路を歩いていました。

 すると。


「おい!よくも俺の商売の邪魔をしてくれたな!」


 突然一人の男が私たちの目の前に立ち塞がります。


「おや、あなたは先ほどの」


 見るとさっき私とオークションで競り合った商人でした。


「そうだ!お前に2個も売り物を搔っ攫われたワイルド商会のワイルドだ!」

「掻っ攫った何て人聞きが悪いですね。私の方が高い値段をつけたから私が競り落とした。ただそれだけの話ですよ。あ!もしかして、オークションの仕組みをご存じでないとか?」

「うるせえ!お前のせいで俺の儲け話が2つも消えたんだ!この落とし前、どうつけてくれるんだ?」

「どうって……どうしてほしいんですか?」

「お前の買った商品を俺に寄こしやがれ!」

「そんなの嫌に決まっているでしょう」

「何だと!寄こさないんだったらこうしてやる!」


 そう言うとワイルドと名乗る商人は私に襲い掛かってきました。

 何ということでしょう。この男、暴力に訴え出て私を脅すつもりのようです。

 女子供に手を出すとか、とても卑劣な男ですね。

 私はこの男を心から軽蔑することにしました。


 え?暴漢に襲われそうになっている割には落ち着いているって?

 まあ、この程度の男、私にとっては何ほどでもないですしね。


 ということで、返り討ちにしようと身構え迎撃しようとしたのですが。


「ママに何するんだ!えい!」


 私が迎撃する前に、私がワイルドに襲われたそうになったのを見たホルスターがさっと私の前に立ち塞がり、ワイルドの一撃を華麗なステップでかわすと、逆にブンとワイルドに一撃をかましてやります。


「ギャン」


 それだけでワイルドは膝から地面に崩れ落ち、地面の上で苦しそうにもがき始めました。


 こう見えてもうちの息子はヴィクトリアさんのお兄さんに武術の基礎を教えてもらっていますからね。

 その上に、今とっさに自分に身体強化魔法をかけたのも見ましたし。

 これならこの程度の男など一撃でしょうね。


 しかし、ホルスター、我が子ながら旦那様に似て、とても勇敢で男前ですね。

 この調子なら女の子が放っておかない良い男になると思います。


 実際、銀ちゃんなどホルスターの行動を見て。


「ホルスターちゃん。カッコよかったよ!」


 そんなことを言いながらホルスターのことをキラキラした目で見ていますしね。

 これは、将来自分もホルスターにこうやって守ってほしいと思っている女の子としての目ですね。

 やはり銀ちゃんも女の子。いざという時に守ってくれる男の子に関心が行く様です。


 それはともかく、このような狼藉に及ぼうとしたとしたことは許せません。

 私はワイルドにとどめを刺しに行きます。


「ワイルドさんとおっしゃいましたね。あなた、私たちに手を出してタダで済むと思っているのですか?このことを私の父、すなわちこの子の祖父が聞いたら、あなた潰されますよ」

「げほ、げほ。……このガキの……祖父……だと?」

「ええ、この子の祖父はヒッグス商会の会長をしておりまして、私やこの子のことを非常にかわいがってくれているのですよ。だからあなたの悪行を知ったら、あなたの会社を容赦なく潰しに行くと思いますよ。その覚悟はおありですか?」

「ヒッグス商会?!」


 ヒッグス商会と聞いてワイルドの顔がたちまち蒼くなります。


 何せヒッグス商会は世界的な企業ですからね。

 ワイルド商会がどの程度のものか存じませんが、ヒッグス商会を敵に回せば簡単にひねりつぶされてしまうと思います。


 そうとわかったワイルドは、慌てて土下座すると。


「申し訳ありませんでした~」


 そう平謝りすると、慌ててその場から去っていきました。

 逃げる時に見えた男の背中はとても震えていて、とてもいい気味でした。


★★★


 ワイルドが逃げ去った後、私は息子を呼ぶとギュッと抱きしめました。

 そして、こう諭すのでした。


「ホルスター、ホルスターがママを助けてくれたのは非常にうれしいのだけど、あんまり無茶をしてはダメよ。あなたはまだ子供なのだから、無理をしてママを守ろうとしたりしなくてもいいのよ」

「でも、パパもママも悪者や魔物からみんなを守るお仕事をしているんでしょう?僕、それを聞いてたから、ママが危ないって思って助けたいって思ったんだ。それっていけないことなの?」


 その息子の問いに私は首を横に振ります。


「いいえ、とってもいいことだわ。パパやママも大事な人や困った人たちを助けるために普段から努力し頑張っているし、あなたにも将来そういう人間になってほしいと思うわ」

「だったら……」

「でも、あなたはまだ未熟。パパやママたちほど強くないわ。世の中にはさっきのような卑怯で弱いやつばかりがいるわけじゃないの。強くてホルスターじゃ勝てない人もいるの。だからホルスターに大事な人や困っている人を助けられる立派な人になってほしいと思っているけど、パパやママたちと修行して真の実力が身につくまでは無茶をしてほしくないの。ママはあなたが傷つくのを見たくないから」


 そう言いながら私はもう一度息子を抱きしめました。

 そうするとホルスターは私の言うことを理解したのか、こう言うのでした。


「わかった。無茶はしないよ。今の僕はまだ未熟だから、実力を考えてできる範囲で大事な人や困った人を助ける。そして実力が身につくようにパパやママたちとの修行を頑張る。それでいい?」

「ええ、いいわよ。頑張りなさい」


 本当にいい息子を持った。

 そう思った私はもう一度息子を抱きしめてやるのでした。


★★★


 ちなみにですが、この件にはついてはもちろん旦那様に報告しました。

 私、の口からは、父には報告しませんでした。余計な心配をかけたくなかったからです。


 それで私の報告を聞いた旦那様ですが、当然激怒しました。


「俺の大事な家族に手を出しやがって……許せん!」


 そう言い放つと、次の日。


「リネット、行くぞ!」

「おう!」


 リネットさんと二人、ワイト様に頼んで王都の警備隊を貸してもらった上でワイルド商会に乗り込んで行ったようです。

 オークション会場で堂々と犯行を犯したのですから目撃者も多く、速攻でワイルドは捕まったみたいです。

 まあ、ワイルドのやったことは強盗致傷未遂という立派な犯罪ですからね。

 当然の報いだと思います。


 しかし、見た目からして屈強そうな旦那様に睨まれたら、ワイルド、とても恐ろしかったと思いますよ。


 とはいえ、私としてはとても同情する気にはなりませんので、数年くらい牢屋の中で反省すればよいと思います。

 もっとも、刑事事件にまで発展したので、旦那様の方から私の父に報告がいったみたいなので二度と復活することはないでしょうけどね。

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