第296話~神聖同盟の動向と超聖石の作成 ヴィクトリア、イタズラが過ぎるとほっぺたつねっちゃうぞ!~

 某国某建物。神聖同盟の盟主の部屋。


「エルフの国へ向かわせた部隊が消息不明だと!」

「はい、連絡が途絶えどうなっているかわかりません。多分、全滅したものだと思われます」


 今現在、盟主が部下の報告を聞いて激怒していた。


 まあ、盟主の反応は当然である。

 エルフの国へ向かわせたのは神聖同盟の中でも精鋭の部隊だった。

 しかもアダマンタイト製やドラゴン製の高価な装備を持たせていたのだ。

 神聖同盟の資金の何割かがかかっている。

 それが消し飛んだとなれば、盟主が激怒するのも仕方がなかった。


「最強の部隊を用意していたと聞いていたが……それが全滅だと?一体全体どうなっているのだ!」

「いや、派遣部隊からは順調に儀式は進んでいると連絡が来ていたので、上手くやれているのだと我々も安心していたのですが」

「全然上手くやれていないではないか!適当なことを言うでない!」


 そう言いながら盟主は机の上に置いてあったブロンズ製の獅子の置物を部下に投げつける。

 獅子の置物は見事部下の頭にヒットし、部下は頭から血を流してその場に倒れ込む。

 ただ、盟主の怒りはそれで収まらずさらに部下に何発も蹴りを入れていく。


 完全なパワハラだが、部下は一切抵抗しなかった。

 なぜなら神聖同盟内では完全にヒエラルキーが決められていて、序列が上の者に逆らうことは自分たちの崇める神に逆らうのと一緒の事だとされていたからだ。


 ということで、部下は全身が傷だらけになるまで痛めつけられたわけであるのだが、本人実は気にしていない。

 盟主に蹴られるということは自分たちの神に蹴られるということと同義だと思っているので、むしろ喜んでいる節さえあった。


 それに傷など後で回復術師に治してもらえばいい。

 部下にとってケガなどその程度のことである。


 思考が完全に狂信者のそれであった。


 それはさておき、部下へのパワハラですっきりした盟主は落ち着きを取り戻し、椅子に座ると部下にこう聞く。


「それで、エルフの国へ行った連中は最低限の仕事をしてきたのであろうな」

「はい、それは間違いございません。定時連絡で報告を受けておりますので」

「そうか。ならばよしとするか」


 部下の報告を聞いた盟主は満足したのか、大きく頷きながら次の指示を出す。


「よし!それなら今進行中の西の獣人の国への計画を早急に進めよ」

「はっ!直ちに進めます」


 盟主の指示を受け、部下は深々と頭を下げると盟主の部屋から出ていく。


「もうすぐだ。もうすぐだ。もうすぐだ。……」


 部下が去っていくと、盟主はそんな独り言をつぶやきながらどこか遠くを見つめるようにぼんやりとし、虚脱状態になった。


 その瞳に宿る光は本来の彼のものとは違ったものだった。


★★★


「お前、何しているんだ?」


 俺が風呂を出た後ヴィクトリアの部屋に寝に行くと、ヴィクトリアが何やら訳の分からないことをしていた。

 まるで鳥が卵を温めるかのように、何やら小さな箱を大事そうに抱えベッドの上に座っていた。


 ヴィクトリアは俺の姿を見ると、ジト目で見ながら話しかけてくる。


「これですか?何をしているように見えますか?」

「何をって……箱を抱きかかえているように見えるが」

「まあ、ぶっちゃければそうなんですけど、箱の中には何が入っていると思いますか」

「わからんが……見方によっては鳥が卵を温めているようにも見えるな」


 俺は冗談で言ったつもりだったが、ヴィクトリアの返事に度肝を抜かされた。


「そうです。卵です。箱の中には卵が入っています。何の卵だと思いますか?」

「見当もつかないな。何の卵だ?」

「ドラゴンの卵です。これでドラゴンの卵をふ化させて、一緒に戦わせましょう」

「マジ?」


 ドラゴンの卵をふ化させると聞いて俺は喜んだ。

 ドラゴンを飼いならせば戦力をアップできる気がしたからだ。


「うおおおお」


 俺はうれしさのあまりつい叫んでしまったが、ここで一つの疑問に思いいたる。


 こいつ、いつドラゴンの卵なんか手に入れたの?

 最近、ドラゴンと何か戦っていないし。

 それによく考えたらドラゴンの卵って、そんな小さな箱に入るほど小さいの?


 俺は次々に浮かんでくる疑問に頭が混乱し、しかめっ面になる。

 多分、自分でも訳が分からなくてひどい顔だったと思う。


 それを見て、ヴィクトリアがクスクスと笑いながら言う。


「もちろん冗談ですよ。ドラゴンの卵がそんなに簡単に手に入るわけがないじゃないですか。第一ドラゴンの卵がこんな小さな箱に入るわけないじゃないですか。ホルストさんって、意外と騙されやすいんですね。ははははははは……って、イタィですぅ~~」


 俺は気が付いたらヴィクトリアの質の悪いことを言う口の横に付いているほっぺたをつまんでグリグリしていた。


 本人に大して悪気はないとはいえ、人のことをからかいやがって。

 そんな悪い口にはお仕置きだ!


 とは言っても相手は大事な嫁なので、10秒ぐらいつまんだら止めてやることにした。


「ほんの冗談だったのに……」


 そうヴィクトリアは涙目で言っていたが、世の中言っていい冗談と悪い冗談がある。


「お前なあ……」


 ということで、しばらく俺はヴィクトリアを説教するのであった。


★★★


「それで、何をしていたんだ」


 俺の説教を受けてヴィクトリアも反省したみたいなので、本題に戻って、何をしていたのか聞いた。


「えーと。『超聖石』を作るために、魔石を浄化していました」

「『超聖石』?何だそれは?」


 ヴィクトリアが突然よくわからない単語を使ったので、詳しく話を聞いてみることにした。


「『超聖石』とは文字通りスーパーな聖石のことですよ。簡単でしょ?」

「スーパーな聖石って……全く説明が足りていないんだが。もうちょっと普通の聖石との違いを教えてくれ」


 俺がそう追加の説明を求めると、ヴィクトリアはやれやれという顔をしながら、仕方なさそうに説明を始める。


 その顔を見るとちょっとイラっとしたが、ここで変に何か言って機嫌を損ねると今晩のサービスにも影響するので黙って聞くことにする。


「『超聖石』とは魔力の他に神気を蓄えておくための物です。神気を蓄えておいて、いざという時に神器に足すことによって一時的に神器の力を増すことができる代物です」

「神気を蓄えておくことができるのか!それはすごいな」

「ええ、すごいんですよ。魔力も普通の聖石よりもずっと多く蓄えておけますし」


 うん、そういうすごい物を作っているというのなら確かにヴィクトリアが自慢げに言うのも納得できる。


 と、ここで俺の頭にある疑問が浮かぶ。


「神気を蓄えられるのはいいんだが、その蓄えるための神気はどこで調達してくるんだ?下界には神気が少ないって、お前、前に言っていたよな」

「それは簡単ですよ。神器からこぼれ出ている神気を蓄えておけばいいんですよ」

「なるほど、つまりは余剰の神気の有効利用ということか。それはいいな。それで、『超聖石』って、そうやって抱いているとできるのか」


 俺の問いかけにヴィクトリアはコクリと頷く。


「お母様にもらったこの特殊な箱に、聖石もしくは高純度の魔石と神器を入れておいて毎日1時間くらい抱きしめているとそのうちできるそうですよ。これは女神にしかできないらしいので、お母様が練習だからワタクシにやれって言うのでこうしてやっているというわけです」

「お前が一生懸命頑張っているのはよくわかった。ところで一つ思ったんだが……」

「何ですか?」


 大体説明を終えたはずなのになんでしょうか。

 そう思ったに違いないヴィクトリアがきょとんとした顔で俺のことを見てくる。


「お前、今高純度の魔石が必要って言ったよな。で、お前は今魔石から超聖石を作っていると言っていたな。ということは、お前はどこかから魔石を手に入れたはずだが、それはどこで手に入れたんだ」

「ああ、それですか」


 ヴィクトリアはポンと手をたたき、納得したような顔になる。


「実はこの前のヨルムンガンドとの戦いのとき、お母様が回収していたんですよ。神聖同盟の人たちが持っていた分を。それをワタクシがこうして浄化しつつ超聖石を作っているというわけです」


 それを聞いて、お母さんいつの間に、と俺は思った。

 まあ、ヴィクトリアのお母さんってのほほんとしているように見えて意外に抜け目がない所があるからな。

 娘の方にはそんなところ一切無いけどな。


 あ、食べ物関係だけは嗅覚が鋭いか。


「ホルストさん。またワタクシに対して失礼なことを考えていませんか?」


 俺がそんなことを考えているとヴィクトリアに怪しまれてしまった。

 もちろん俺はごまかす。


「そんなことはないよ。それよりも、今日の分の超聖石作りはもういいんじゃないか?だったら、そろそろ夫婦生活を楽しまないか?」

「なんかうまいことごまかされたような気がしますが、まあいいでしょう。ホルストさん、こっちへ来てください」


 そう言いながらヴィクトリアがベッドの上に横になったので、俺も横になり夫婦生活を楽しむのであった。

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