第295話~リネットとヴィクトリアのSランク冒険者昇進式~

 リネットとヴィクトリアのSランク冒険者への昇進が決まった。

 二人ともSランクにふさわしいだけの実力は持っているから、めでたいことだと思う。


 それで、二人の就任式はギルドに商品売却へ行ってから一週間後の今日、行われる。

 ということで、エリカが朝から二人を一生懸命ドレスアップしている。


「ヴィクトリアさん、こっちの首飾りの方がいいと思いますよ」

「リネットさん、ブローチはこのルビーの方が髪の色と会っているのでいいですよ」

「銀ちゃん、そのテーブルの上のお化粧、取ってね」

「はい、エリカ様」


 と、銀に手伝ってもらいながら一生懸命着飾らせている。


 いつもながら、いや、いつも以上に気合の入り方がすごい。

 何せ今日は朝から美容師を読んで二人の髪形を整えさせているくらいだからな。


 まあ、うちの嫁たちお祝い事だと本当に着飾っていくからな。

 俺も着飾った嫁たちを見るのはうれしいので、好きなようにさせている。


 しかし、着飾るのは結構だし、それを見るのも好きなのだが時間がかかるのだけはいただけない。

 現に、すでに身支度を始めてから3時間ほどかかっているし。

 俺はまだいいとしても、ホルスターなど退屈でたまらないらしい。


「ねえ、パパ。まだ待つの~?」


 と、俺にしきりに聞いてくる始末だ。

 ホルスターもまだまだ子供だからな。こういう風に長時間待つのは苦手らしかった。

 しょうがないので、相手をしてやることにする。


「なあ、ママたちの準備ができるまでパトリックに乗せてやるから、庭の散歩をするか?」

「うん!」


 ということで、ホルスターをパトリックに乗せ庭をグルグル散歩させることにする。


「どうだ、ホルスター。楽しいか?」

「うん、楽しい!」


 パトリックに乗せてもらったホルスターはとても楽しいらしく手をたたいてはしゃいでいる。


「ブヒヒヒイイイン」


 一方のパトリックも運動ができてうれしそうだ。

 今日はまだパトリックの運動をしていなかったからな。

 パトリックは普段馬房の中にいるので、こうやって毎日運動させているのだ。

 それでホルスターがちょうどいい負荷になっているらしく、普段よりも体が動かせた感じがしていいのだと思う。


「旦那様、こちらの準備は終わりましたので出かけましょうか」


 そうこうしているうちに嫁たちの準備も終わったようだ。

 嫁たちの方を見ると、特に今日の主役であるリネットとヴィクトリアは派手に着飾っている。


「うん、きれいだよ。二人とも」


 俺がそう褒めてやると。


「ありがとうございます」

「ありがとう」


 と、普段しないような恰好をどこか気恥ずかしそうに感じるのか、顔を赤らめながら返事をするのであった。

 俺はそんな二人を見て満足するのだった。


★★★


 昇進式はノースフォートレスの町の闘技場を借りて行われた。


 昇進式を行うにしては広すぎる場所だが、ここにしてもらったのには別の目的もあるからだ。

 まあ、そっちについては後で話すとして、肝心の昇進式について話そう。


 とは言っても、昇進式自体に大して時間はかからなかった。

 昇進式は闘技場の中心部に少し高めの演壇を設けて、そこで行われた。

 冒険者ギルドの本部から来た偉い人が、リネットとヴィクトリアにこう告げる。


「ヴィクトリアとリネットの両名をSランク冒険者に任命する」


 それにヴィクトリアとリネットが応える。


「はい、謹んでお受けします」

「はい、謹んでお受けします」


 それを見て偉い人が二人に任命証書を渡す。

 これでメインイベントは終わりだ。


「おめでとうございます!」

「頑張ってください!」


 後は会場中がそう言った祝福の言葉とパチパチという拍手の音に包まれる。


 ちなみに、会場にいるのは大半がギルド関係の人だ。

 ギルドの職員さんやたくさんの冒険者たちがお祝いに駆けつけて来てくれている。


 後は身内も来ている。

 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんに、リネットの両親はもちろんのこと、リネットのおじいさんたちドワーフ国宰相一家もお忍びで来てくれている。

 後、エリカの両親とお兄さんたちも来ている。

 もちろん俺とエリカとホルスターと銀も一生懸命声援を送っている。


 そんな観衆の声にこたえて二人が手を振ると、さらに「ワーワー」と会場は盛り上がるのだった。

 それを見ていると俺もうれしい。


 嫁が祝福されてうれしくない旦那さんなんかいないだろ?

 だから、自分の事のようにうれしかったのだ。


 と、こんな感じで昇進式は進んで行き、終了して行くのだった。


★★★


 さて、昇進式の喧騒が落ち着き、いい頃合いになってきたら次のイベントの番だ。

 演壇の上でリネットとヴィクトリアの二人がこう宣言する。


「「それでは、こうして私たちの昇進のお祝いに集まってくれた人への感謝を込めて、これからパーティーを開催します」」


 そう今から二人の昇進祝いのパーティーが始まるのだった。

 これこそがわざわざ闘技場を借りた本当の理由だった。


 俺は、というかリネットとヴィクトリアも、お祝いに来てくれた人たちを盛大にもてなしたいと考えていた。

 それには普通の会場では狭い。

 ということで闘技場を借りたわけだ。


 ただ、ギルドの予算では闘技場を借りてパーティーをするなどとてもできなかったので、足りない分は俺が全額負担したけどね。

 少なくない金だったが嫁の為なら全然惜しくはなかったけどね。


 それはともかく、二人の宣言とともに控室から次々と料理が運ばれてくる。

 それらが並べ終えられると、いよいよパーティーの開始だ。


「ただ飯だ~」


 腹を空かせた冒険者が一斉に入ってきて料理を食べ始める。

 今回はノースフォートレス中の冒険者を呼んでおいたからな。

 この町にも生活がかつかつの冒険者が多いので、すごい勢いで食料が消費されて行く。

 中には今日のために昨日から何も食わず、今日にすべてをかけた者もいるらしかった。


 俺はお前らのそういう貪欲な所嫌いじゃないからな。

 料理はたくさん用意してあるから満足するまで食ってくれよ。


 俺は心底そう思うのだった。


★★★


 パーティーが始まって1時間ほど経った。

 さすがに1時間も経つと、みんなお腹がいっぱいになって来たのか、最初と同じ勢いで食っているものはほとんどいなくなった。


「ああ、何てことでしょうか。お腹がいっぱいになってしまいました。ワタクシに胃がもう2、3個あればもっと食べれたのに!」


 さすがのヴィクトリアも1時間もひたすら食い続けたせいでお腹がいっぱいになったのか椅子に座りながらそんなことを言っている。


 というか十分食ったはずなのにまだ食いたいとか欲張り過ぎだろ。

 それにもっと胃が欲しいだと?

 お前、違う生物になる気かよ。大概にしとけよ。


 俺はそうツッコミをいれたくなったがやめておいた。


「お母さん、もうダメ。お腹裂けちゃう」

「おばあちゃんも、もう無理。これ以上食べたら吐きそう」


 ヴィクトリア以外にもダメな見本ががいるので、ヴィクトリア一人にどうこう言うのはかわいそうだと思ったからだ。


 それはともかく、皆の腹も膨らんできたことだし、お楽しみイベントをやることにする。


「さあ、みなさん一列に並んでくださいね」


 そうギルドの職員さんが言うと、待ってましたばかりに冒険者が一列に並び出す。


「くじは一人一回までですよ。列は五つ用意しましたので、どこでも好きな所に並んでもらって大丈夫です」


 そして、冒険者たちは職員さんの指示に従って順番にくじを引いて行く。

 そう『大くじ引き大会』の始まりだった。


 今回は俺の大事な嫁二人分のお祝いということで景品も豪華にしてある。


 一等は『黄金の短剣』。どこかのダンジョンで手に入れた物で、金貨3枚くらいの価値があるらしい。

 その他にも鋼の剣や鋼の鎧などの武器や防具。ポーションなどの道具類。ギルドの武器屋で使える商品券などを用意している。

 それらを目当てに皆がくじを引いて行く。


「やった。鉄の槍だ!いいサブウェポンが手に入ったぜ!」

「私は大容量のマジックバッグね。デザインもかわいいし、ラッキーだわ」


 皆割といいものを当てているようで何よりだ。


「ああ、ハズレのお菓子だった」

「私も。仕方ないから家で食べようか」


 もちろん当たりを引く一方でハズレのお菓子を引く者もいた。

 まあ、こればかりは運なので、俺としては残念でしたねとしか言えない。


 ただ、それを見て羨ましそうにしているのがいる。


「おいしそうなお菓子ですね。食べたいですね」

「本当。あのドーナツおいしそうね」

「おばあちゃんも見ていると食べたくなったわ」


 誰あろうヴィクトリア一家だ。

 食いしん坊な3人には他人がお菓子を食べるのが羨ましいらしい。

 ヴィクトリアなど。


「ホルストさん……」


 最後には泣きそうな声でジッと俺のことを見てくるのだった。

 本当に仕方のないやつだ。

 しょうがないので許可を出してやることにする。


「いいよ。行ってきな。ただし、間違っても一等とか当てるんじゃないぞ。場が白けるからな」

「はい!では、お母様におばあ様。ホルスター君に銀ちゃん行きましょう」

「「「「うん」」」」


 ということで、ヴィクトリアは4人を引き連れてくじに行くのだった。


★★★


 パーティーが終わって帰りの馬車の中。


「このドーナツ、おいしいです」


 ヴィクトリアはさっき手に入れたハズレのお菓子をうれしそうに食べていた。

 とてもいい笑顔だったので、本当においしかったのだと思う。


 ヴィクトリアだけではない。


「ホルスターちゃん、ドーナツおいしいね」

「うん」

「お母さん、このドーナツ気に入ったわ」

「そうね。後で買いに行きましょう」


 残りの4人とも見事にハズレを引いて仲良くドーナツを食べていた。

 まあ、ハズレと言っても4人にはハズレくじこそが当たりなのだから、これでよいのだろう。

 この4人に鋼の剣が当たって喜ぶ者なんかいないからな。


 一方のエリカとリネットはお茶を飲みながらのんびりとしている。


「こんなにたくさんの人がお祝いに来てくれると思っていなかったのでうれしいよ」

「それは良かったですね。リネットさん」


 リネットは大勢の人がお祝いしてくれたのがうれしかったようで、とてもいい笑顔だった。

 そんな風にみんなが喜んでいるのを見て俺は思う。


 このみんなの笑顔をもっと見るためにも、もっと頑張らなくてはな、と。


 帰り道の空はそんな俺たちを祝福するかのように青く透き通っていた。

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