第294話~久しぶりに冒険者ギルドへ行く そして、リネットとヴィクトリア,Sランク冒険者に昇進する~

 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんのベッドを買った日から三日後。

 俺はパーティーのメンバーを引き連れて冒険者ギルドへ行った。


 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんは留守番、というか俺があげた小遣いを持ってどこかへ出かけてしまった。


「銀ちゃんとホルスター君の面倒はちゃんと見といてあげるからね」


 そう言いながら二人を連れて行ったので、どこかへ遊びに連れて行ってくれたのだと思う。

 まあ、俺たちはこれから冒険者ギルドで一仕事してくるからな。

 子供を預かってくれるのは正直ありがたかったので任せることにした。


「いい子にするのよ」

「うん」


 エリカがそう言いながら送り出した後、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。

 冒険者ギルドへ行くと、ちょうどの朝の依頼書張り出しの時間だったので、受付周辺は人でごった返していた。


「よう、ドラゴンのじゃねえか」


 その中には、友達のBランク冒険者グループ『漆黒の戦士』の連中もいた。

 そのリーダーのフォックスに俺は挨拶をする。


「あ、これはフォックスさん。お久しぶりですね」

「ああ、久しぶりだな。しばらく見なかったが、どこへ行っていたんだ」

「エルフの国ですね。そこで珍しい魔物や素材を手に入れたので売りに来たんですよ」

「エルフの国か。随分と遠くに行っていたんだな」

「ええ、そうですね。フォックスさんはどうしてたんですか?」

「最近はずっとダンジョンに潜っていたかな。それで結構儲けたんで、久しぶりに通常の依頼でも受けてみようかと思って来たんだ」

「そうですか。いい依頼が見つかるといいですね」

「ああ、そうだな」

「あ、そうそう。エルフの国のお土産があるんです。ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 俺はヴィクトリアにお土産を出させると、それをフォックスに手渡す。


「エルフの国に有名なドライフルーツのお店があるんですが、そこのドライフルーツです。皆で食べてください」

「おう、いつもありがとうな。皆で食べさせてもらうよ」


 俺のお土産をフォックスは嬉しそうに受け取った。

 今までにあげたお土産もおいしかったと言ってもらえているので、今回も期待してくれているのだと思う。


 フォックスにお土産を渡すと、、今度は掲示板の目にいる冒険者たちの方を向く。


「お前たちにも、お土産があるからな。ヴィクトリア」

「はい」


 再びヴィクトリアにお土産を出させて、それを掲示板の前に置く。


「一人一個ずつだぞ」


 そう言うと。


「ホルストさん、ありがとうございます」

「ゴチになります」


 皆がお土産のお菓子に群がるのだった。

 俺がお土産をやったときによく見る光景だ。

 本当に遠慮が無くて冒険者らしくていいと思う。


 それを見て、俺は本当にノースフォートレスへ帰って来たと実感するのだった。


★★★


「お久しぶりだね。ホルスト殿」

「本当に久しぶりだね。元気だったかい?」

「ええ、そうですね。ダンパさんにマットさん」


 依頼書の張り出しが終わり、集まっていた冒険者たちが依頼を受け出かけるのを見守った後、俺たちはギルドマスターのダンパさんに面会を申し込んだ。

 すると、受付の人がすぐに手配してくれて、こうしてギルドマスターのダンパさんと商業ギルドの支配人のマットさんと面会できているというわけだ。


 マットさんまで一緒にいるのは受付の職員さんに「商談の件について話がある」と伝えたからだと思う。


 ちなみに、エルフの国のお土産はギルドの職員さんたちにもあげておいたぞ。

 俺はその辺の配慮もぬかりなくやる。

 何せ職員さんにはよくお世話になるから、ちゃんとお礼はしておかなければならないからな。


「ありがとうございます。大切に食べさせてもらいます」


 職員さんたちも喜んでいたので、とても良かったと思う。


 それはともかく、商談の件だ。


「それでは、挨拶はこれくらいにして商売の話でもしましょうか。まずはこれをご覧ください。ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 そう言うと、ヴィクトリアが収納リングから商品を出す。

 それを見て、ダンパさんとマットさんがほほうという顔になる。


「ホルスト殿。この魔物は何だい?初めて見るのだが」

「これは『ムーンベア』という魔物ですね」

「「『ムーンベア』?」」

「月の森にいるとされる熊ですね」

「「月?月って言うとあの夜空に輝く?」」

「そうですよ。その月です。この『ムーンベア』はその月の魔物です。ほら、この魔物図鑑にも載っているでしょう?『月にいる幻の熊』って」


 そう言いながら俺は二人に魔物図鑑を見せる。

 この魔物図鑑は市販されているもので、かなりの数の魔物の情報が載っている。『ムーンベア』はその中でも珍獣のコーナーに載っている。

 曰く、『肉はおいしく、内臓は貴重な薬の材料になる』と書かれてあった。


 それを見た二人が恐る恐る聞いてくる。


「「確かにこの魔物は『ムーンベア』で間違いなさそうだが、これを持っているということはホルスト殿たちは月へ行ったのかい?」」

「はい、行きましたよ」

「どうやって?」

「実はエルフの国には月へ行くためのダンジョンがあるのですよ。そこから行ったのです」


 これは本当の成分を含んだ嘘だ。

 本当はヴィクトリアのお母さんに月へ連れて行ってもらった俺たちだが、本当の事は言えないので、ダンジョンから行ったことにしておいた。


 そして、このダンジョンは実在する。これが本当の成分という意味だ。

 行ったことはないけど、場所がどこかも聞いている。


「あなたたちなら、好きに行ってもいいわよ」


 と、ヴィクトリアのばあちゃんに許可を取ってあるので、行こうと思えばいつでも行けた。

 ただ、そんなものがあるのを初めて知った目の前の二人は驚愕の表情になる。


「「月へ行くためのダンジョン?そんなものがあるのかい?どこに?」」

「それは言えないですね。ダンジョンには管理人がいて、管理人の許可がないと月へは行けないですし、管理人には『ダンジョンの場所を人に教えないで欲しい』と頼まれているので言えないです。行きたいのなら、自分でダンジョンを探すしかないですね」


 そうもっともらしい嘘をつくと、二人は納得したのか大きく頷く。


「なるほど、事情は分かった。そういうことなら、細かいことは聞かないでおこう。それで、月で得た魔物はこれだけかい?」

「もちろんもっとたくさんありますよ。ただ、ここだと狭いので続きは倉庫で話しましょうか」


 ということで、倉庫に移動して商談を続けることにする。


★★★


「ほう、これはすごいね」


 倉庫に並べられた獲物たちを見て思わずマットさんがうなる。


 あの後、倉庫に移動した俺はヴィクトリアに収納リングから獲物を出させると、倉庫の床に並べた。

 先ほどダンパさんたちに見せた『ムーンベア』の他にも『ムーンラビット』や『ムーンスネイク』などの月の魔物。

 それ以外にも禁足地に生息する『ビッグヘルキャット』や『ジャイアントワイルドボア』、『ビッグギャングベア』など、エルフの遺跡に行く時に手に入れた獲物を並べた。

 これも月で手に入れた物ほどではないが希少なものだ。


 実際、並べられた商品を見るマットさんの目がキラキラと輝いているしね。


「後、こんなのもあるのですが」


 そう言いながら俺がヴィクトリアに出させたのは……。


「ほう、これはアダマンタイト製の剣かい?」


 出された商品を見て、ダンパさんが何製の武器かすぐに当ててしまう。

 さすがは元冒険者!

 この辺の目利きはさすがだと言える。


 なお、このアダマンタイト製の剣は神聖同盟の連中が使っていたものだ。

 この前エルフの遺跡で神聖同盟の連中と戦った時、連中は分不相応な装備を身に着けていた。アダマンタイト製の武具やドラゴン製の武具などだ。


 それらの大半は奴らの遺体とともにヨルムンガンドに食されてしまったが、いくつか残っていたのでそれをもらってきて売り払おうとしているのだ。


「ホルスト殿、これはどこで手に入れたんだい?」

「エルフとダークエルフの王族を襲おうとした不逞の輩が身に着けていた物ですね。不逞の輩は俺たちが倒しました。そうしたら、王様が、『これはお前たちの好きにするがよい』と仰ってくれたので、こうして売ろうとしているわけです」


 多少脚色が入っているが、大体本当の事だ。

 実際、神聖同盟の奴ら俺たちを倒せたらダークエルフの王子様やエルフの王女様を襲っていただろうし。

 それに王様の許可をもらったのも本当だしな。


 それはともかく、俺の話を聞いたダンパさんとマットさんの目が丸くなる。

 どうやらかなり驚いたようである。


「ふーん、ホルスト殿たちはすごいんだね」

「もうここまで来ると、『冒険者の鏡』と言っても差し支えないね」


 と、しきりにそんなことを言い合っている。

 そして、こんなことを言い始めた。


「そういえば、まだだったね」

「何がですか?」

「リネット君とヴィクトリア殿のSランク冒険者昇進。……うん、決めた!本部に申請するから、今度昇進式をやろう」


 あー、そういえばリネットとヴィクトリアってまだAランク何だっけ。

 うん、すっかり忘れていた。


 でも、昇進させてくれるというのならさせてもらった方がいいかな。

 その方がうちのパーティーに箔が付くし。


 俺はリネットとヴィクトリアに聞く。


「お前たちもそれでいいか?」

「「はい」」


 二人の了承を取ったので、俺はダンパさんにお願いする。


「よろしくお願いします」

「ああ、任せておきなさい」


 ということで、リネットとヴィクトリアのSランク昇進式が行われることになった。

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