第14章~ホルストたちの遅い夏休み 順調に昇進しオークションを楽しみ、訓練で新人たちを鍛える~

第293話~ヴィクトリアのお母さんたちのベッドを買う~

 ノースフォートレスの町に帰ってからしばらくは、のんびりと過ごすことにした。

 ここ最近、図書館にこもったり、エルフの遺跡へ封印しに行ったりしたあげく4魔獣と戦ったりと、とても忙しかったからな。

 俺もしばらくのんびりしたい。


 ただその前に。


「さあ、ベッドを買いに行くわよ!」

「おばあちゃんも、柔らかいベッドが欲しいわ」


 約束通りヴィクトリアのお母さんとおばあさんのベッドを買いに行くことにする。

 二人ともとても張り切っている。


 まあ、昨晩(帰宅当日)、二人には床に布団を敷いて寝てもらったからな。

 布団があるとはいえ、床は固い。

 今朝起きてきた時、二人とも首を揺らして骨をゴリゴリと鳴らしていた。

 相当寝心地が悪くて肩がこったのだと思う。


 だから、ベッドを買ってもらえるとあって喜んでいるというわけだ。


「では、行きますよ」


 ということで、朝食後、家具店へと出かけるのであった。


★★★


「あら、素敵なベッドがたくさんあるじゃない」


 家具屋へ着くなり、ヴィクトリアのお母さんとおばあさんはベッドを物色し始めた。

 子供のように目を輝かせて店中のベッドを見て回っている。


「ベッドをお探しですか?よければご案内しますよ」


 そんな二人にいい客だと目星をつけたらしい店の店員が早速声をかけている。


 商売になりそうな客を見定めるのは一番大事な店員の仕事だからな。

 うん、目端の利くいい店員だと思う。

 俺はそういうの嫌いじゃないぞ。


「どういったベッドがご希望ですか」

「私は寝心地がいいベッドがいいわね」

「おばあちゃんは柔らかくて大きめのベッドがいいわね」

「なるほど。そちらの方は寝心地がいいベッド。こちらの方は柔らかくてサイズが大きめのベッドがご希望ということですね。ご予算は?」

「うちの娘婿が出すから、値段にかかわらず希望に沿ったベッドをちょうだい」

「畏まりました」


 返事をする店員の顔が嬉しそうにほほ笑んでいた。

 まあ、そうだろう。値段は気にしないなんて客滅多にいないのだから。

 これは張り切って契約を成就させねば、と思っているはずだ。


 というか、お母さん。全然遠慮する気無いですね。

 色々お世話になっているわけですし、ベッド代くらいでどうこう言う気はないですが、その言い方はどうかと思いますよ。


「ホルストさん、ごめんなさい。うちのお母様とおばあ様がわがまま言って」


 実際、そうやってヴィクトリアが俺に謝ってきているし。

 お母さんたちが欲しいというのなら買いますし、文句を言う気もないのですが娘のヴィクトリアにこんなことを言わさないでください。


 ということで、ヴィクトリアをフォローしてやることにする。


「まあ、いいじゃないか、ヴィクトリア」

「そうですか?」

「これも立派な親孝行だ。ベッドくらい好きなのを買ってあげたらいいと思うよ」

「そう言われれば、これも親孝行になるのですかね。ワタクシ、親孝行とか今まで考えたことがなかったですので、ホルストさんにそう言ってもらえると、多少は親孝行ができた気がしてうれしいです」


 フォローしてやると、ヴィクトリアもそうやって笑ってくれたので良かったと思う。


 と、俺たちがそうしている間にもお母さんたちはベッドを選び続けている。


「うん、このベッドがいいわね。マットがとても柔らかくて寝心地がいいわ。これなら寝ていても首とか肩とか痛くならなくて済みそうだわ」

「おばあちゃんの選んだのも広くてゆっくりできそうだわ。これにするわ」

「ありがとうございます。こちらの二点をお買い上げですね」

「「はい」」


 どうやら買うベッドを決めたようだった。


 案の定、二人は店の中で一番の高級品が並ぶコーナーからベッドを選んでいた。

 ……まあ、別に構わないんだけどね。


「いくらだ?」


 俺が値段を聞くと。


「二つで金貨1枚と銀貨20枚になります」


 金貨がいるのか……俺たちのベッドの値段より確実に高かった。


「それじゃあ、これね」

「ありがとうございます。こちらの二点をお買い上げですね」


 もちろん俺は何も言わずに払ったけどね。


「それで、ベッドはいつ頃運んでくれるの」

「お急ぎとのことなので、今日の夕方ぐらいにはご自宅の方へ運ばせていただきます」

「ああ、それで頼むよ」


 これで、ベッドの購入は終わりだ。

 家に運んでくれるまで、まだ時間があるのでご飯を食べたり、買い物をしてから帰ることにする。


★★★


「ここの定食、久しぶりに食べたけどおいしかったですね」


 ご飯屋さんから出てきたヴィクトリアがお腹をさすりながら満足そうな顔をする。


 昼飯は冒険者ギルド近くのご飯屋さんで食べた。

 割とよく行く店だったが、数か月間エルフの国へ行ってたので来るのは久しぶりだった。


「本当、ここの肉は柔らかくていいよね」

「なんか久しぶりに食べたら、懐かしく思いました」


 他の二人の嫁たちも慣れ親しんだものを食べられてうれしそうにしている。

 ちなみに、今日食べたのは大人たちが『ステーキ定食』で、子供たちが『お子様ハンバーグ定食』だった。


「ホルスターちゃん、ハンバーグ切ってあげるからね。ちゃんとよく噛んで食べるのよ」

「うん、銀姉ちゃん」


 相変わら銀がホルスターの世話をやっている。

 本当に仲が良くていいと思う。


 しかし、この二人ハンバーグ好きだよな。

 家でもエリカによく作ってもらっているし。


「銀ちゃんとホルスターはメニューに困ったら、ハンバーグを作っておけば喜ぶから楽でいいわ」


 とか、エリカも言っちゃっているし。

 おかげで家でもハンバーグを食べることが多いけど、エリカのハンバーグはおいしいから俺は別に構わないけどね。


 なお、『お子様ハンバーグ定食』にはデザートに小さなプリンがついていた。


「そのプリン、とてもおいしそうですね」


 そのプリンをヴィクトリアが羨ましいそうに見ていた。

 多分『ステーキ定食』の方にはおやつがついていなかったからだと思う。


 いい大人が子供のおやつを羨ましがるんじゃない!

 そう思った俺がジッとヴィクトリアのことを睨むと、ヴィクトリアもさすがに恥ずかしくなったのか、大人しくなった。


 ただ、逆にうるさくなった人もいる。


「あら、ハンバーグの方にはプリンが付いているのね。見ていると、お母さんも食べたくなったわ」

「そうね。おばあちゃんも食べたくなったわ。帰りに買って帰りましょう」


 ヴィクトリアのお母さんとおばあさんだ。

 どうやらプリンを見て甘いものも食べたくなったらしく、デザートを欲しがり始めた。

 それを見てヴィクトリアも息を吹き返し、おねだりしてくる。


「ホルストさん、是非デザートを買って帰りましょう」


 そうやって必死に訴えかけてくるのだった。

 しょうがない人たちだと心の中で苦笑いしながらも、こうなったらこの3人はしつこいので、釘を刺しつつも連れて行ってやることにする。


「わかった。いいよ。ただし、一人1個までだぞ」

「「「やったあ」」」


 俺の発言を見て3人ともとてもうれしそうにするのだった。

 それを見て丸く収まって良かったとしみじみ思うのだった。


★★★


 数日分の食事の材料の買い出しとデザートを買って帰った後は家でのんびりした。


「ママ、ママ、スゴロクしようよ」


 ホルスターがエリカにそうやってせがんだので、嫁たち3人はホルスターや銀とスゴロクをしている。


「ふふふ、これでワタクシが先頭に立ちましたね。勝利は目の前です」

「あ、『誰か一人をフリダシに戻す』のマスに止まったよ。誰を戻そうかな。……じゃあ、一番先頭にいるヴィクトリアお姉ちゃん」

「ああ!ホルスター君。そんな殺生な!」


 とても楽しそうにやっているみたいで、見ている俺としても楽しかった。


 一方のヴィクトリアのお母さんとおばあさんは。


「ベッド、そろそろ届くころかしら」

「本当、待ち遠しいわ」


 お茶を飲みながら、ベッドが届くのを今か今かと待ちわびていた。

 そんなに焦らなくても、あそこの家具屋はいつも時間通りに運んでくれるので心配しなくても大丈夫ですよ。


 そう思いながら二人を見ていると。


「こんにちは。ベッドをお持ちしました」


 玄関から家具屋の声が聞こえてきた。


 ほら、来たでしょ。

 そう思いながら、俺は二人を連れて玄関へ行く。


「こちらへお願いします」


 そして、家具屋さんに頼んで部屋に運んでもらう。


「もうちょっと端の方きっちりと壁につけてね」

「後、5センチくらい右の方へ移動して」

「お任せください」


 家具屋さんはお母さんたちに言われるがままにベッドを設置していく。

 お母さんたちの要求は細かいものだったが、そこはプロ。

 きちんと仕事をこなしてくれて助かる。


「ありがとうございました」


 一通り仕事を終えた家具屋さんが帰って行く。すると、お母さんたちが動き出す。

 設置したベッドに布団を敷くと、横になり始めた。


「いいわあ、首が痛くならない」

「これならいくらでも寝られそう。天界に帰るまでのんびりできるわ」


 と、両者ともご満悦なようだ。

 特におばあさんはずっとのんびりしたいようだ。


 というか、今気が付いたんだがお母さんたちいつまでここにいるつもりなんだろうか。

 観光ついでに俺たちの世話をいろいろ焼いてくれていたが、一体いつまでいるつもりなのか。

 気になるけど、聞いたら「ヴィクトリアの子供の顔を見るまで」とか言い出しそうで、怖くて聞けなかった。


 まあ、いいや。

 気まぐれな所がある人たちだから、そのうち気が向いたら帰るだろう。


 ただ、この人たちがいると金がかかるんだよな。

 そうだ!エルフの国で手に入れた物をギルドへ売りに行くとしよう。

 そう予定を立てた俺は、日程に余裕ができたらすぐにでもギルドへ行こうと決めたのだった。

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