閑話休題41~その頃の妹 ノースフォ-トレスへの旅 生焼けの肉を食す~

 レイラです。


 旅の初っ端からカラスに糞を落とされて糞まみれになるというトラブルに見舞われたものの、その後私たちの旅は順調だった。


「ねえねえ、フレデリカ。あのオークの串焼きおいしそううだね。昼ご飯食べてから大分経ってお腹が空いたことだし、買って行かない?」

「ダメだよお。どうせいでも、旅の予算をオーバーしそうなのに無駄遣いはダメだよ。もう少しで宿屋に着くから我慢して」


 ただ順調ではあったが、お金を管理しているフレデリカが意外としまり屋なので、旅の途中に買い食いをするとかそういうことはあまりなかった。


 え?お金の管理はフレデリカがしているのかって?

 そうだよ。第一私は計算には弱いからね。弱い人間が会計なんかしてたら財布の中が本当に火の車になっちゃうでしょ?

 だから基本的にフレデリカに任せている。


 ちなみに、何でフレデリカが計算に強いかというと、フレデリカは最下級の貴族である騎士爵家の娘なのだが、お母さんは側室で商人の娘なのだそうだ。

 いくら貴族の娘でも最下級の貴族でしかも側室の子となると、他の貴族へ嫁ぐのは難しい。

 そこで将来はどこかの商人にでも嫁にやろうと両親が画策し、そのために会計を教えたというわけなのだ。


 もっとも、フレデリカは両親の思い通りには育たず、放蕩?というほどでもないか、とにかく遊びまわって両親に迷惑をかけまくったせいで勘当され、今はこうやって私と旅をしているというわけだ。


 そんなわけで、今日はフレデリカに反対されて買い食いできなかったので、大人しく宿屋に泊まったのだった。


★★★


「ご飯おいしかったね」

「うん、お肉食べたの久しぶりだね」


 宿屋でご飯を食べた後は、部屋に入った。


 今日のご飯はごちそうだった。

 何とスープに肉が入っていたのだ。

 ここまでの旅では肉料理はおろか、野菜だけのスープとパンだけで主に過ごしてきたのでとてもうれしかった。


 とは言っても入っていたのは細切れのような小さな肉片でだったが、それでも久しぶりの肉だったので非常に感激した。


 お前らどういう食生活しているんだよと思われるかもしれないが、オーク肉の串焼き一つ満足に買えないほどの貧乏旅なのだ。

 私の口からは察してくれ、としか言えなかった。


 それはともかく、ご飯も食べたことだし休むことにする。


 私たちの部屋はベッドが二つあるだけの狭い部屋だ。

 当然お風呂とかもついていなかったので、宿屋の受付でお湯をもらってきてそれで旅の埃をふき取る。


 ふき取った後のタオルは、水洗いした後部屋干ししておく。

 たいていの場合はこれで朝までに乾くはずなので、朝になったら回収して出発だ。


 その後は厳重に戸締りしてからお休みの時間だ。


 何せ私たちはかわいらしい女の子の二人旅だ。

 油断して扉を開けておいたりすると、どこかのむくつけき男どもが入ってきて夜這いされることがある。だから気をつけろ。

 と、出発前にギルドのお姉さんに教わったからそうしている。


 そんなわけできっちり部屋を閉め切って私たちは寝ているわけだが、夏ということもあって、これが暑くてたまらない。


「暑いねえ。窓開けたいよお」

「ここは我慢よ、フレデリカ。私たちはかわいらしい女の子。自分の貞操は自分で守らないといけないのよ。ノースフォートレスに着いたら寮を借りられるそうだから、それまでの我慢よ」


 と、こんな感じで私たちは旅の苦行を味わっていくのだった。


★★★


 次の日。

 私たちは再び街道を歩いていた。


「お腹空いたねえ」

「うん、空いた」


 しかもさっき昼ご飯を食べたばかりなのにお腹を空かせながら歩いていた。

 というのも、お昼ご飯が少なかったからだ。


「黒パン1個じゃあ、お腹空くよね」

「うん、空くよね」


 黒パンを一人1個ずつ。

 それが私たちのお昼ご飯のすべてだった。


 正直これだけでは堪らなかった。

 何せ私たちは若いのだ。いくら食べても食べたりないお年頃なのだ。

 とてもこんなものでは満足できなかった。


「何か食べたいね」

「お肉とかいいよね」


 二人でそんなことを言い合いながら歩いていると。


「レイラ、あれ見て。あれワイルドボアじゃない」

「本当だ。珍しいね」


 一匹のワイルドボアを発見した。

 ワイルドボアをこの辺で見るのは珍しい。

 もっと北の方へ行けばたくさんいるらしいがこの辺にはあまりいない。


 それで、ワイルドボアを見た私はいいことを考えつく。


「ねえ、フレデリカ。あれ、狩ろうよ」

「え?ワイルドボアを?危険じゃない?」

「でもあいつを狩れれば、売って旅費の足しになるし、少しだけ売らずにとっておけばお肉にありつけるよ」


 お肉と聞いたフレデリカの目が輝き始める。


「お肉……いいね」


 ということで、私たちはワイルドボアを狩ることにしたのだった。


★★★


「フレデリカは矢でワイルドボアを後ろから追い立てて。出てきたところを私が魔法で始末するから」

「了解。任せて!」


 フレデリカが木に登って弓で射かけてワイルドボアを追い立て、出てきたところを私が魔法で倒すという作戦で行くことにする。


 ピュッ。

 所定の位置に着いたフレデリカが矢を放つ。

 すると予定通りワイルドボアが私の前に出てきた。


「『風刃』」


 私はワイルドボア目掛けて魔法を放つ。しかし。


「げっ。外れた」


 私は魔法を外してしまった。


「グモオオオオ」


 魔法を放たれて怒ったワイルドボアが私に突っ込んで来る。


「『風刃』、『風刃』」


 恐怖を感じた私は立て続けに魔法を放つが、ワイルドボアは私の想像以上に素早く、魔法はことごとく外れてしまう。


 そうこうしているうちにもワイルドボアはどんどん私に近づいて来て、あと数メートルというところまで来てしまった。

 やばい!このままだと体当たりされて死ぬ。


「『火球』」


 私はとっさに強力な魔法を唱える。

 この一撃で確実に仕留めなければ死ぬ。そう思ったからだ。


 ドッゴオオオオン!

 私が必死の思いで放った一撃は見事ワイルドボアに命中する。


「ピギー」


 最後はそんな絶望に満ちた悲鳴を吐きながらワイルドボアは絶命する。


「ふう、何とか助かった」


 自分が助かったことを理解した私は、一気に力が抜けて地面に倒れ込んだ。

 地面に落ちていた石が足にあたって痛かったが、痛みを感じることができるということは生きている証明でもあるので、ようやく私は安心することができた。


 ただ、ワイルドボアを仕留めた代償は結構大きかった。


「レイラ、レイラ。頭に火がついているよ」

「え?」


 事件の後私に近づいてきたフレデリカが慌てた様子でそんなことを言う。

 それを聞いた私は慌てて自分の頭を触る。


「あちち」


 そして気が付く。

 自分の被っているウィッグに火がついていることを。

 どうやら資金で『火球』の魔法が炸裂したせいで、その余波がウィッグにも及んだようだった。


「どうしよう、どうしよう」


 考えてもいない事態になって私はパニックになってどうしたらいいかわからなくなってしまった。

 本当ならここで頭に大やけどを負っても不思議ではなかったが、ここはフレデリカが対応してくれた。


「えい」


 近づいてきたフレデリカは大急ぎでウィッグを私の頭から引きはがし、そのまま地面にたたきつける。

 そしてパニクッている私を抱きしめ、優しく声をかけてくれる。


「大丈夫?」

「うん、多分」

「今、確認してあげるね。……燃えたのはウイッグだけみたいだね。頭はどこもやけどしていないし、髪の毛も毛先がちょっと焦げたくらいだから、1センチも切れば整うし問題ないと思うよ」

「本当、よかったあ」


 ケガとかなくて、本当よかった。

 この程度で済んだのなら不幸中の幸いというべきだろう。


 私はもう一度、フレデリカに抱き着く。

 そんな私をフレデリカは優しく撫でてくれるのだった。


★★★


「大したお金にはならなかったね」


 狩り取ったワイルドボアをギルドに持って行ったが、安く買いたたかれてしまった。


 当然だ。

 獲物のワイルドボアは私の魔法のせいで半分黒焦げになってしまったのだから。


 当然売り物になる肉も少なくなってしまったので、その分安くなるのだった。


「ああ、こんなはずじゃなかったのに」


 私は髪の毛をくしゃくしゃにしながら悔しがってみせる。


 ちなみに焦げた髪の毛はさっきフレデリカに切ってもらった。

 少し伸びてきて大人っぽいショートボブになって来ていたのが、子供っぽいおかっぱ頭になってしまった。

 ちょっと恥ずかしかったが、焦げた髪を晒しておくよりはましなので、よしとする。


 後、私のウィッグは燃え尽きて完全にお陀仏となった。

 まあ、命があっただけましと思うことにする。


「それよりも、焦げた肉から食べられそうなところをもらったじゃない。あれ、食べようよ」


 そうだった。

 私たちにはまだあれがあった。


 焦げた肉の内、まだ食べられそうな部分をもらってきたのだった。

 ワイルドベアとの戦いでお腹が空いたから、これは非常にありがたかった。


「「いただきます」」


 早速食べる。


「「まず」」


 しかし、折角のワイルドベアの肉はおいしくなった。

 何でだろうと考えてみると、血抜きがされていない肉のさらに焦げた部分から食べれそうな所を選別して食べているのだから、当然の結果だった。


 しかし、それでも私たちはその肉を食べ続ける。


 まだ夕食まで時間がある。

 少しでも腹を満たしておかないと、夕食まで持たないからだ。


 今はこんなだけど、ノースフォートレスに着けば何とかなる。だから、今は何としても生きなければ。

 そう言い聞かせながら、我慢して食べるのだった。


 まだノースフォートレスまで数日はかかる。

 あと少しの辛抱だ。


 ……って、本当に私たちに救いの日は来るのだろうか。


ーーーーーーー


 これにて第13章終了です。


 ここまで読んでいただいて、気にっていただけた方、続きが気になる方は、フォロー、レビュー(★)、応援コメント(♥)など入れていただくと、作者のモチベーションが上がるので、よろしくお願いします。


それでは、これからも頑張って執筆してまいりますので、応援よろしくお願いします。

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