第291話~エルフとダークエルフの未来のために~

 エルフの森の遺跡での地脈の再封印を終えた俺たちは、来た道を元に戻り、ダークエルフの王都ダークパレスへと戻って来た。


「お帰りなさいませ」


 王都に入ってそのまま王宮へ行くと、ダークエルフの大臣がわざわざ出迎えに来てくれていた。

 一応、ダークエルフの騎士を一人先行させて報告に向かわせていたので、こうやって出迎えてくれたのだと思う。


「こちらへどうぞ」


 そのまま大臣に案内されて謁見の間へ向かう。

 謁見の間にはすでに王様がいて、俺たちのことを待っていた。

 俺たちは王様の前へひざまずくと、事の顛末を報告する。


「ホルストよ。どうであった」

「王様、無事に遺跡の再封印を果たしてまいりました」

「そうか、よくやったな」

「はい、これも王様のおかげでございます」

「いや、そなたらがいなかったらこうはうまく行かなかっただろう。大儀であった」

「は、ありがとうございます」


 これで一通りの報告は終わったので、王様は立ち上がりこう宣言する。


「さあ、堅苦しい挨拶はこれまでじゃ。今から祝いの宴をするぞ。ホルストよ、そなたたちも楽しんでくれ」


 こうして使命を終えて帰ってきた俺たちのために宴が開催されたのであった。


★★★


 宴は豪華だった。

 たくさんの料理が並び、集まった人たちが『太陽の踊り』を踊り、世の中が平和なことに感謝していた。


「お母様、おばあ様。たくさんのごちそうですね。ここは気合を入れてたくさん食べましょう」

「そうね。お母さんたちも今回色々協力したしね。食べる権利はあると思うわ。お腹いっぱい食べましょう」

「おばあちゃんも旅の間あまり良いものを食べられなかったから、おいしい物を食べたいわ」


 ヴィクトリア一家などそう言いながら、あちこち巡ってごちそうを食いまくっていた。


「さあさあ、どうぞ」


 ダークエルフの人たちも気がいい人が多いので、求められるままにヴィクトリアたちに食べ物を与えていた。

 身内としては申し訳ない気もするが、今回この3人は活躍してくれたのでまあ良しとしよう。


「旦那様、このお酒とてもおいしいです」

「うーん、この辺りの森で取れたっていうこの果物たち。とてもジューシーでおいしいね」


 エリカとリネットも宴を楽しんでいるようだし、とても良い宴を開いてもらって良かったと思う。


 俺たちがそうやって宴を楽しんでいる一方、自分の将来について真剣になっている者もいた。


「父上、お話があるのですが」


 宴の最中、エルフの王女様を連れたダークエルフの王子様が王様に直訴した。


「おお、アダムよ。そなたもこの度は頑張ってくれたな。して、何の話だ」

「はい。実は私、今回の旅の最中にそのマルティナ王女と愛し合うようになりまして。それで、二人で結婚しようかと相談しているのです」

「何と!それはどういうことだ」

「はい。この旅の途中二人で踊りの練習をしたり、魔物たちと戦ったりしたのですが、その中でお互いのことを話しているうちに、愛し合うようになりまして。

それで、結婚しようかという話になっているのです」

「ふむ」


 王様は王子様の言葉を聞いて黙り込む。

 当然だ。

 まだ幼い息子が結婚だのなんだの言いだしたのだから、親としてどう対応すればいいのかわからないのだと思う。


 それを見てエルフの王女様も参戦する。


「王様、私からも私たちの中を認めてくださるようお願いします。私たち一緒に踊りの練習をしたり、戦ったりしているうちにお互いにひかれあうようになったのです。一生添い遂げたいと思っているのです。だから、お願いします!」

「しかし、マルティナ王女よ。そなたも一国の姫。王子と王女の婚姻となると一国の大事。簡単には決められまい。そなたの父上も簡単にはうんと言うまい」

「父は私が何とか説得してみます!それにこの婚姻はエルフとダークエルフ、お互いの利益になる婚姻だと思います」

「お互いの利益になると。ほう、どういう利益があるというのだ」

「はい。エルフとダークエルフは今までお互いに交わらないで暮らしてきました。お互いに暮らし方が違ったのだから、そうしてきたのです。しかし、今回の旅でそれはもったいないと感じました」

「もったいない?」

「はい。お互いに違う文化を受け継いできた者同士が融合して行けばもっと繁栄して行けるのに。実際、今回二人が協力して踊ることで遺跡への扉を開けることができました。だから、二つの種族を融合させてもっと二つの種族を繁栄させたい。そう思いました」

「父上、王女の言う通りです。エルフとダークエルフはもっと協力していかなければならない。私たちの婚姻がそのきっかけになればいい。そう思いました」

「ううむ」


 ダークエルフの王様は二人の意見を聞き、また黙り込む。

 しかし、その表情は先ほどよりも穏やかな感じがした。


 そしてしばらく考えて結論を出す。


「そなたたちの決意が固いのはわかった。それにそなたたちの婚姻がエルフとダークエルフお互いの利益になりそうなことも。ということで、余の方からエルフの王へこの件を申し込んでみるとしよう」

「「ありがとうございます」」


 どうやら王子様と王女様の婚姻が決まりそうな雰囲気になった。


 俺はこのやり取りの一部始終を見ていたが、二人の結婚により二つの種族が繁栄して行けばな、と思った。


★★★


 それから一週間後。エルフの王都ファウンテンオブエルフにて。


「この度、我が娘マルティナがダークエルフの王子アダム殿と婚姻することが決まった。非常にめでたいことである」


 エルフの王様のそんな発言とともにダークエルフの王子とエルフの王女の婚約式が始まった。

 ダークパレスでのやり取りの後、すぐさまファウンテンオブエルフに帰還して事件の報告と婚姻の話を王様にした結果。


「うむ、確かにダークエルフとエルフが一緒にやっていくのは両者の繁栄につながることである」


 と、王子様と王女様の婚姻を認め、エルフとダークエルフの交流を開始し、そのための契機としてこうして婚約式を行うことになったのだ。


 式にはエルフ王他エルフの国の偉い人たちが参加している。

 もちろん、ダークエルフの方もダークエルフ王を始め。皇族他偉い人たちが集結している。


 ちなみにダークエルフの人たちをこっちに連れてきたのは俺だ。

 ダークパレスとファウンテンオブエルフの間に転移魔法陣を設置し、それを通ってファウンテンオブエルフまで来てもらったという寸法だ。


 それはさておき、婚約式は王子様と王女様の誓いの儀式から始まった。

 王宮の広場に祭壇を築き、そこで婚約の誓いを立てるのだ。


 式を執り行うのは太陽の神殿の新神官長と二つの女神の神殿の新神官長だ。

 二人とも就任早々大切な任務を振られて緊張している様子がうかがえる。


「「ダークエルフ王子アダム、並びにエルフの王女マルティナよ。太陽神リンドブル様、月の女神ルーナ様、魔法を司る女神ソルセルリ様。この三柱みはしら神々に誓って、二人は健やかなるときも病める時も夫婦として共に過ごすことを誓いますか」」

「はい、誓います」

「はい、誓います」


 二人の神官長の問いかけに二人が誓いを立てる。

 すると。


「あれはなんだ?」


 会場がざわつく。

 というのも突如会場の上空に3つの光が現れたからだ。


 会場の人々はその光を見ると即座に地面に平伏する。

 なぜなら、その3つの光からは圧倒的な威厳と威光が出ていて、下界の生物ならそうしないではいられないからだ。


 3つの光はそのまま祭壇の上まで来ると、こう宣する。


「我が名は太陽神リンドブル」

「私は月の女神ルーナ」

「私は魔法を司る女神ソルセルリ」

「「「ダークエルフの王子アダムとエルフの王女マルティナよ。そなたたちの誓い、聞き届けた。そなたたち二人、これからはともに協力してエルフとダークエルフを繁栄に導きなさい」」」

「「はい」」


 三柱の神々の誓いに王子様たちが返事をすると、三柱の神々たちはニッコリと笑い、そのまま上空へと帰って行き、掻き消えるように姿が見えなくなった。


「まさか、リンドブル様たちがいらっしゃるとは」

「この婚姻。神が認めたぞ」


 神が降臨してきたとあって、会場中が大騒ぎになる。

 まあ、当然の反応だなと思う。


 ちなみのこの出来事はヴィクトリアのばあちゃんが演出したものだ。


「あんた、明日の昼間、ファウンテンオブエルフまで来なさい」


 例のペンダントでヴィクトリアのじいちゃんに連絡しているところを見たから間違いなかった。


「あら、王子ちゃんと王女ちゃん、本気なのね。それじゃあ、私たちも応援してあげなきゃね」

「そうね、お母様」


 ヴィクトリアのおばあちゃんとお母さんでそんなことを言い合っていたので、きっと二人とも王子様たちのことを応援したくなってやったのだと思う。


 おかげで会場中は大騒ぎになったが、神が認めた結婚ということになればこの結婚に反対する者がいたとしても、もう反対はできないだろうからこれでよいと思う。


 なお、現れた3つの光の内お母さんとおばあさんは実は分身体だったりする。

 本物の二人は席に座って一部始終をのんびりと眺めていた。


 もっとも、分身体と言っても本体の一部を切り離して作ったもので、本体と遜色ない力を持っているらしい。


 じゃあ何で本体でなく分身体を演出に使ったのかって?

 そんなの決まっている。

 この婚約式の後にパーティーが開かれることになっていて、お母さんとおばあさんはそっちに参加してごちそうを食べたかったかららしい。

 何せ国を挙げてのパーティーだからすごいごちそうが出るらしく、それを逃すのは嫌なのだそうだ。


 まったくヴィクトリアと言いこの二人と言い食い意地が張っていると思う。

 まあそのおかげでこの話もうまく行きそうだから良しとしておこう。


 それよりも、神様降臨となって今会場がざわついているのを、


「皆の者、騒ぐでない」

「騒いでは折角来てくださった神々に失礼だ」


と、エルフとダークエルフの王様が必死になだめているので、もう少しでこの騒動も収まりそうだ。

 そうすればパーティーになる。

 今はそれを楽しむことを考えよう。


★★★


「ふう、今日はごちそうをたくさん食べることができました」


 帰りの馬車の中、膨らんだ腹をさすりながらヴィクトリアが満足そうに言う。


 パーティーはとても賑やかだった。

 何せ神が祝福する婚約式なのだから盛り上がるのは当然だ。


 だから俺たちへの饗応の状況もよく、楽しむことができたのだった。


 そうやってヴィクトリアが腹をさすりつつ、パーティーの思い出を語っているうちに馬車は商館へ帰り着いた。


「ただいま」


 そう言いながら中へ入って行くと。


「お帰りなさいませ」


 支配人のハリスンさんが俺たちを待っていた。

 普段この時間ならハリスンさんは帰っている時刻なのに珍しいなと思っていると。


「ネイア君に異動の辞令が来ているよ」


 と、ハリスンさんは一枚の紙をネイアさんへ渡す。


「ようやく来ましたね」


 それを見てエリカがそんなことを呟く。


 その紙はネイアさんへのヒッグス商会本部の異動の辞令書だった。

 遺跡から帰った後、ハリスンさんとも相談しネイアさんに本部への転勤願を出してもらい、それを約束通りエリカがエリカのお父さんに推薦し、ネイアさんの願いが叶ったというわけだ。


「「「「「「おめでとうございます」」」」」」


 本人の希望通り栄転という形に収まったので、俺たちは祝辞を述べた。


「みなさん、ありがとうございます」


 希望が叶ってよほどうれしかったのか、ネイアさんは満面の笑顔でそうお礼を言うのであった。


「でも、大事なのはここからですよ。頑張りなさい」

「はい、エリカ様。頑張ります」


 最後はエリカがそう発破をかけ、その日は解散した。


 解散した後自分の部屋に戻る時、ネイアさんは居ても立っても居られないのか小走りで部屋へ向かって行った。

 その後ろ姿を見ると、頑張りなよ、と俺もつい応援したくなるのだった。

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