第290話~エルフの森の地脈の封印~

 ヨルムンガンドは黒き穴の中へ帰って行った。

 神聖同盟の連中も片付けたことだし、これでもう外敵はいない。


「ホルスト君。これで安全が確保されたね」

「ああ、そうだな」


 俺の近くにいたリネットが近寄ってきて、そう声をかけてきたので、俺は軽く頷いた。

 ということで、早速遺跡へ入って行くことにする。


「と、その前に『融和の門』とやらを開けないとな」


 そう言いながら、俺は遺跡を見る。


 遺跡の入り口には太陽と月らしき意匠が描かれた門があった。

 さらに言うと、その門の前の地面にも同じ紋章が描かれている。

 多分、ここで踊れという意味なのだと思う。


 ここが『融和の門』で間違いなかった。


「それじゃあ、馬車に戻って王子様と王女様に準備を頼むとするか」

「「「「はい」」」」


 俺は嫁たちとケリュネイアの鹿を連れて一旦馬車へと帰るのだった。


★★★


 融和の門を開ける儀式は翌朝日の出の時に行うことになった。

 というのも、古代図書館で手に入れた本の記述によると、この儀式は太陽と月がまじりあう時刻、つまり日の入りか日の出の時に行う必要があるからだ。


 それで明日の日の出の時刻にしたのは、ヨルムンガンドとの激戦で体力を消耗して疲れていたのと、日の入りの時刻では単純に王子様たちの準備が間に合わないからだ。


 ということで、急遽野営することにして食事などを済ませる。

 そしてその後は時間までのんびりすることにする。


「お母さんとおばあちゃんは、王子様たちの踊りの出来の最終確認をしてくるわ。だから、今晩は向こうの馬車で厄介になるから、4人でゆっくり休んでいなさい」


 ヴィクトリアのお母さんたちはそう言いながら王子様たちの馬車へ行ったのでうちの馬車には俺と嫁たち4人だけだ。

 そんなわけで、久しぶりに4人で一緒に寝ることにする。


「私は右ですね」

「アタシは左だな」

「ワタクシは胸ですね」


 寝る時に、エリカは俺の右腕に、リネットは左腕に、ヴィクトリアは胸に、それぞれ思い切り抱き着いて寝た。


 夏のさなかに暑いんじゃないかって?

 その点はちゃんと馬車の冷房をオンにしておいたので問題はない。


 そうやって嫁たちがくっついてきてしばらくすると、スヤスヤという嫁たちの寝息がする。

 何もする暇もなく、あっさりと寝てしまった。

 昼間の戦いで余程疲れていたのだろうと思う。


 それに、寝る前に、収納リングからバスタブを引っ張り出して全員お風呂に入っていたからか、嫁たちからいい香りが漂ってくる。

 それを嗅いでいるだけでも幸せな気分にれるのだが、それに加えて嫁たちの温もりも感じられるとあって、気分は最高だった。


 思わず嫁たちの胸や尻に触りそうになるが、ここはぐっと我慢する。

 この馬車の外ではエルフやダークエルフの騎士たちが護衛として頑張ってっくれている。

 そんな人たちに俺と嫁たちのいちゃいちゃぶりを聞かせるわけにはいかない。


 楽しみは帰ってからに取っておくか。


 俺はそう自分に言い聞かせながらその日はおとなしく寝るのだった。


★★★


 翌朝、日の出の時刻の少し前に起きる。


 今は夏なので日の出の時刻も早く、思っていたよりも早い時間に起きた。

 まだ少し眠いが、エルフやダークエルフの騎士たちは睡眠もそこそこに交代で警備をしてくれていたのだ。

 だからぐっすり寝ていた俺たちが文句を言うわけにもいかず、起きるとすぐに馬車の外に出る。


「おはようございます。朝食の準備はできていますので、どうぞ」


 馬車の外に出るとすでに朝食の準備ができていたので、それを食べながら時間まで待つ。


「お、時間のようだな」


 朝食を食べ終えた頃、ちょうど空が白くなり始めたので俺たちは時間が来たことを悟り、主役たちの登場を待つ。


「王子様と王女様のお出ましです」


 すると、王子様と王女様が馬車から出てきた。

 二人ともそれぞれダークエルフとエルフが踊りを舞うときに着る伝統装束を身に着けており、とても艶やかだった。

 馬車から出てきた二人は手を繋いで融和の門の前に行き、その前の地面に描かれている紋章の前に立つ。


 そして、儀式が始まる。


★★★


「さあ、始めますよ」


 王子様と王女様が大地に描かれた紋章の上に立つとネイアさんがそんなことを言い、楽器を奏で始める。


 ちなみに今回踊り用の音楽を奏でるのはネイアさんとダークエルフの踊りの指南役の二人だ。

 二人とも人に踊りを教えるだけにとどまらず、楽器の演奏も上手だった。


 そんな二人の演奏で王子様と王女様が踊り始める。


 王子様が躍る『太陽の踊り』は動きの激しい踊りで、手や足が激しく動き次々に変化していく様は、まるで激しく輝く太陽を思わせるものだった・

 一方の王女様が躍る『月の踊り』はスローテンポだが、動きが大きく華やかな感じの踊りで、こっちは夜の月の艶やかな光を思わせる踊りだ。


 その二つのまったく異なる踊りが組み合わさって演じられる様子はとても幻想的だった。


「とても素敵です」

「うん、いいねえ」

「ワタクシ、とても感動しました」


 うちの嫁たちがそうやって思わず見ほれてしまうくらいには素晴らしいものだった。


 実は俺も結構楽しみながら見ている。

 『太陽の踊り』と『月の踊り』。どちらもそれ単体で見た時もそれはそれでよかったと思うが、こうやって組み合わせて見てみると、さらに魅力が上がったと思う。


 と、そうやって満足しながら二人の踊りを見ていると。


「何だ?『融和の門』が……」


 突然、『融和の門』が光り出す。

 それに構わず、さらに二人が踊り続けるとその光はますます強くなっていく。

 そして。


「お?」


 パンという音とともにその光が一斉に消える。

 するとそれまで固く閉まっていた『融和の門』が自動的に開いて行く。


「どうやら成功のようだな」


 それを見て俺はほくそ笑む。


「それじゃあ、皆行こうか」


 そして遺跡の中へ入って行き、再封印の作業を開始することにする。


★★★


「ふーん、遺跡の中は前に入ったドワーフの遺跡何かと同じ感じなんだな」


 遺跡の中の壁面には、依然入ったドワーフや月の遺跡と同じような大量の魔法陣が描かれていた。

 相変わらず難の魔法陣か俺にはわからなかったが。


「ほほう、これはすごいですね」


 と、勉強熱心なエリカはやはり何かをメモしているのだった。

 本当勉強熱心でいいことだと思う。

 そのうち何か結果が出ればいいなあ、と旦那としては祈るのみである。


 それはともかく、遺跡の中を進んで行くと。


「みんな、階段みたいだよ」


 リネットが下り階段を発見する。

 ここについて書かれた本によると、主要部分は地下みたいなのでここを降りればいいと思う。


 ということで、俺たちは階段を下りていく。


★★★


「ようやく着いたようだな」


 長い階段を降り終えると目の前に扉があった。

 どうやらここがゴールのようだ。

 俺は扉を開けて中へと入る。


「お、あった、あった」


 見ると、扉の向こうにはドワーフの遺跡で見たのと同じような装置があった。

 俺は装置に近づき手を触れると、魔法を起動する。


「『地脈操作』」


 すると装置が起動し、俺の中に地脈の情報が入ってくる。

 これを操作し、地脈の流れを整えていく。

 以前に一回やったことがあるのであの時よりはスムーズにできたと思う。


 大体30分ほどで作業は終了し、装置も止まる。


「これで、終わりだな。それじゃあ、出るか」

「「「はい」」」


 作業が終わったので嫁たちと外へ出る。


★★★


「終わりましたか」


 遺跡の外へ出ると、ネイアさんがそう声をかけてくれた。

 遺跡の中へ入ったのは俺たちのパーティーだけで、他の人たちには外で待っていてもらったのだ。


「ええ、ばっちりですよ」

「そうですか。それは良かったです」

「ええ、これもネイアさんや王子様、王女様、他の皆さんのおかげです。ありがとうございます」

「「「本当にありがとうございます」」」


 最後は俺と嫁たち全員でみんなに感謝の言葉を述べるのだった。


「さて、それでは帰るとしますか」


 こうしてエルフの森の地脈の封印を終えた俺たちは帰ることにするのだった。

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