第287話~耐久最強!ヨルムンガンド復活~

 ほう中々やるじゃないか。俺はそう思った。


 何がかって?

 目の前で俺と戦っている敵の司祭長のことだ。


 こいつ見た目ヒョロそうなのに、いい剣の腕をしている。

 前に戦った剣聖の弟子、確かゾンネだったかな。あいつくらいの実力はありそうな気がする。

 その上魔法まで使えるから、多分あいつよりも強いと思う。

 それを考えると、神聖同盟の奴ら今回かなり本気を出してきたんだなと感じる。


 それはともかく、いくら強くてもこんな奴俺の敵ではない。


「どうした!その程度か!」

「おのれ!」


 そうやって司祭長のやつは段々と追い詰められていく。

 徐々に体は傷ついて行き、全身にけがが増えていく。


「『火球』」


 一発逆転を狙って魔法を唱えてきたりもしたが、先ほど奇襲された時と異なり、今は『神強化』の魔法を使用しているので、


「無駄だ!」


俺に命中しても効果は無かった。

 逆に、魔法を使用したことで大きく隙を見せてしまった。


「トドメだ!」


 俺は奴の心臓にクリーガを突き刺す。


「ギャー」


 心臓に剣を刺された司祭長は絶叫を上げて倒れる。

 勝った!その時の俺はそう思った。


★★★


 勝った!


 そう思った俺は司祭長から剣を引き抜くと、倒れ伏す司祭長を見つめる。


 司祭長は苦しそうな顔で壊れた神像を抑えながら身もだえしているが、それもわずかな間のことだろう。

 なぜならもう少ししたら彼に死が訪れるのだから。

 だからもう終わったと俺は思った。


 しかし、それは俺の勘違いだったようだ。苦しみながらも司祭長は勝ち誇ったようにこう言う。


「かかったな。これで私の『献身の儀』は完成した」

「何だと?」

「これでもうすぐ4魔獣が1匹ヨルムンガンドが復活する。お前たちみんな、ヨルムンガンドに殺されるがよい。……グフ」


 最後に捨て台詞を残して神官長が息絶えると、『キングエイプ』や『グランドタートル』の時のような黒い空間が遺跡の上に発生する。

 黒い空間は発生すると同時にピシピシと大きな音を立てて破れ始める。

 そして破れた空間から黒い巨大な蛇が出現する。


「あれがヨルムンガンド?まずいな」


 本当にまずかった。

 まだ穴からは頭しか出てきていないのに、それだけでも小さな山くらいの大きさがあった。

 おまけに。


「『天火』」


 魔法を一発撃ってみる。

 すると魔法母ドンと派手な音を立ててヨルムンガンドの頭の一部を燃やしたが。


「なんて回復力なんだ」


 その傷は驚異的な回復力により、たちまち癒えてしまった。

 こうなると正直どうしていいかすぐに考えつかなかった。

 俺は嫁たちの所に戻る。


「一時撤退だ!」

「「「はい」」」


 そして体勢を立て直すべく一旦馬車まで引き返したのだった。


★★★


「『世界を呑み込む魔獣ヨルムンガンド』が復活しちゃったか」


 馬車に戻った俺が報告すると、ヴィクトリアのおばあさんが残念そうな顔をする。

 ただ残念そうな顔の割にはそこまで深刻ではない感じがするので、何か秘策があるのではないかと俺は感じた。


 ということで、まずは情報収集からすることにする。


「世界を呑み込む魔獣、ですか?」

「そうよ。ヨルムンガンドはとても大きい魔獣なの。一つの世界を一匹で囲んでしまえるくらいにね」


 俺の誘導に乗ったおばあさんが説明してくれる。


「まあ、今は封印から解かれたばかりでそこまでは大きくないけど、それでもエルフとダークエルフの国を覆ってしまえるくらいには大きいわね」

「グレータ様。伝説の魔獣とはそんなに桁外れな生き物なのですか?」


 俺たちの横で一緒に聞いていたネイアさんが驚愕な表情で聞く。

 まあ普通の反応だと思う。


 俺たちだってキングエイプやグランドタートルと戦っていなければ、そんな生き物がいるだなんて素直に認められなかっただろうからな。


「そうなの。だから神々も始末に困って、邪悪な存在を利用するための要石にして邪悪な存在とともに封じ込めたのよ」

「それで、おばあ様。ヨルムンガンドをどうにかする方法ってないんですかね」

「無い事はないけど、難しいわね。ヨルムンガンドはでかいだけでなく回復能力も高いのよ。だから4魔獣中、『耐久最強』と呼ばれているわね。並の攻撃で撃退するのは難しいわね」


 耐久最強か。確かに簡単には行かないような気がする。


「ということで、おばあちゃんがアドバイスしてあげるわ」


 と、ここでようやくアドバイスがきた。

 何だろうと思ってワクワクしながら待っていると。


「ホルストちゃん。まずはケリュネイアの鹿ちゃんと『神獣契約』しちゃいなさい」

「神獣契約ですか?」

「神獣契約すれば『神獣召喚』の魔法でいつでも神獣の特殊能力を使えるのようになるわよ。しかも普通に使うよりも威力を増大させてね」

「本当ですか?」


 おばあさんの言葉に俺は小躍りする。

 前にグランドタートルとの戦いのときに、神獣白ネズミのネズ吉の能力を使わせてもらったことがあったが、あれは確かに強力だった。


 ああいうのをいつでも使えるとなれば心強かった。


「ということで、ケリュネイアの鹿ちゃん。構わないわね」

「はい」


 おばあさんに言われてケリュネイアの鹿が俺に近づいて来る。

 そして、ここに手を置けと言わんばかりに頭を振りながら俺の方に頭を下げてくる。

 俺は指示通りにそこに頭を置く。


「さあ、勇気ある者よ。我が神獣ケリュネイアの鹿と契約を結ぶか。契約を結び、その力を正しいことにのみ使うと約束するか」

「はい、誓います」

「よろしい、これで契約は完了だ。汝に力を授けよう」


 契約はあっさりと完了した。

 すると俺の体が光り出し、契約内容が俺の頭の中に入って来て、さらにそれが体中に巡っていき契約を結んだことが感じられる。


 こうして俺はケリュネイアの鹿との神獣契約は完了したのだった。


★★★


「ところで、お前の能力ってどんなのだ」


 契約が完了した後、俺はケリュネイアの鹿にそう尋ねた。


「私の特殊能力は『黄金の角の導き』です。魔法の攻撃力が上がる代わりに魔法防御力が下がるという技ですね」

「ほう、それはすごいな。魔法を使える者にとっては色々と使えそうな能力だ」


 本当にそうだ。

 ただでさえ強力な『神属性魔法』の能力を上げられるのは素直にうれしかった。

 その分魔法防御力は下がってしまうようだったが、それよりも見返りが大きそうな能力だったのでとても喜ばしい事だった。


「契約は無事完了したようね」


 ケリュネイアの鹿との話し合いが終わったところでヴィクトリアのおばあさんが寄って来た。

 寄って来てさっきの話の続きをする。


「それで次のアドバイスはね。あなたたちにレストリクシオンを渡したでしょう?あれを使いなさい」

「ああ、あれですか」

「そうよ。何せあれに暴れられると迷惑極まりないからね。あれで拘束してから攻撃するといいわよ」


 なるほど、確かにその通りだ。

 あんなのに自由に動き回られると、この辺の森が滅茶苦茶になってしまう。

 動けなくしてから攻撃したほうが良さそうだ。


「それと最後のアドバイスよ。『蛇を殺すには頭を潰せ』よ。まあ、ヨルムンガンドを殺すのは無理だと思うけど、すぐに再生できないくらい頭を潰してしまえば、再封印は簡単にできるわよ」

「わかりました。やれるだけやってみます」


 おばあさんのアドバイスはこれで終わりなようだ。

 ということで早速ヨルムンガンド討伐に向かうことにする。


★★★


 と、その前に。


「ヴィクトリア、いつものやつを頼む」


 ヴィクトリアにいつものやつをかけてもらうために手招きする。


「ラジャーです」


 するとヴィクトリアはうれしそうな顔で、ホイホイと近づいてきた。


「行きますね」


 そして、すぐさま俺の唇にキスをする。


「キャッ」


 それを見てうちの嫁たちとヴィクトリア一家以外のエルフとダークエルフの人たちが赤面する。

 当然だ。目の前でいきなり男女がキスをするさまを見せられたのだから。


 でも、ここは我慢してほしかった。

 何せ世界を救うため、これは必要な儀式なのだから。


 儀式の効果はすぐに出た。


「おっ。来たな」

「シンイショウカンプログラムヲキドウシマス」


 いつもの声が聞こえると、すぐさま俺の体が光り出し、全身に力が湧いてくる。

 それを見てエルフの人たちの顔が元に戻る。

 どうやら何か大切な儀式が行われたのを察してくれたようだった。


「さあ、行くぞ!」

「「「はい」」」


 そして俺は嫁たちを引き連れてヨルムンガンドへと向かって行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る