第286話~神聖同盟との死闘~

「それでは、これから作戦の概要を伝える」


 偵察を終えて馬車へと帰ってきた俺たちは全部隊を集め、作戦の概要と役割分担を伝える。


「神聖同盟の連中と戦うのはうちのパーティーのメンバーで行うことにする。エルフの騎士団とダークエルフの騎士団の人たちは馬車をきっちりと守ってくれ。それと……」


 俺はヴィクトリアのお母さんとおばあさんの顔をじっと見る。


「お母さんとおばあさんは馬車の守りを頼みます」

「わかったわ」

「任せておきなさい」


 俺の頼みをお母さんたちは快く聞き入れてくれた。

 お母さんたち2人が守ってくれるのなら馬車の安心は保証される。

 後顧の憂いはなくなったというわけだ。

 これで心置きなく神聖同盟の奴らと戦えるというものだ。


 お母さんたちの後、俺はケリュネイアの鹿を見る。


「お前もここを守って……」

「いいえ、私も一緒に戦わせてください!」


 ケリュネイアの鹿にも馬車の守りを頼もうとしたら、何と自分も戦いたいとケリュネイアの鹿が言い出したのだ。


 まあ、気持ちはわかる。

 こいつはすでに外敵の侵入に気が付かなかったという失態を犯している。

 だから、その失態の罪を消したいと必死なのだと思う。

 俺はその気持ちを汲んでやることにする。


「わかった。それじゃあついて来い」

「ありがとうございます」


 ということで部隊の配置が決まったので、早速行動を開始することにする。


★★★


 俺たちのパーティーは馬車を離れると、遺跡近くまで行き森の木陰に身を隠す。


 木陰から様子をうかがうと、祭壇の周りを魔法使いと弓隊が取り囲み、その前を前衛の部隊が取り囲むという感じだった。

 テンプレートな部隊配置だが、テンプレートな分鉄板ともいえる防御力を誇る陣形だ。

 装備も今までの部隊と比べると豪華だった。


「前衛の部隊、装備しているのはアダマンタイトの鎧と剣だね」


 前衛部隊の装備を見てリネットがそう判断した。


「弓隊の皮鎧、あれドラゴンのじゃないですかね。邪神の下僕のくせにいい装備を身に着けているとか、生意気ですね」


 リネットに続いて発言したのはヴィクトリアだ。


 俺の見立てでも確かに奴らはドラゴンの皮の鎧を着ていた。

 それが20名位いるからとても金がかかっていると思う。

 本当生意気だと思う。


「旦那様、見てください。あの魔法使いの部隊、ドラゴンの杖とローブを身に着けていますよ。腕はそこまでもなさそうな感じなので、完全に身の丈に合わない装備ですね。魔法使いは装備で魔法にブーストをかけることもできますが、基本はおのれの鍛錬こそが大事だというのに。あれではカエルに服を着せるようなもので、とてももったいないですね」


 エリカも魔法使いの装備を見て憤っている。

 明らかに実力に不釣り合いな装備だったからだ。


 奴らから感じ取れる魔力の質と量はそれほどでもない。

 ドラゴンの杖とローブを身に着けて魔法をブーストしたとしても、あの程度の力量なら底上げされる威力は高が知れていると思う。


 こうして嫁たちは相手が不相応に高価な装備を身に着けているのに怒っているわけだが、その意見に俺も賛成だ。

 あの程度の実力の奴らに良い装備を身に着けさせるのは間違っていると思う。

 どうせ俺たちにコテンパンにやられるだけなのだから、それだったら安い装備の方が金がかからい分気が利いているとさえ思う。


 ……って、そこまで言うと舐め過ぎかな。

 どんな相手でも油断してよいわけがない。

 窮鼠猫を噛むという諺は真実なのだ。


 だから、俺は嫁たちに注意する。


「みんな、油断しちゃダメだぞ」

「「「はい」」」


 嫁たちも俺の言葉を聞いて自分たちがいい気になり過ぎていたのに気が付いたのか素直に返事が返って来た。

 自分がダメなことをしたと悟ればすぐに反省する。中々できないことだ。

 さすがは俺の嫁たちだと思う。


 さて、敵の配置も確認したことだし早速攻撃することにする。


★★★


「まず、俺とエリカで敵のボスと周囲の魔法使いと弓隊をたたく!ヴィクトリアは精霊を呼び出して残った魔法使いたちを攻撃しろ!呼び出すのは『風の精霊』にしとけよ、ドラゴン製の装備は炎と冷気に強いから、風の精霊で防御の薄い部分を叩け!」

「了解です、旦那様」

「ラジャーです」

「リネットは支援部隊をたたいた後、俺とケリュネイアの鹿、三人で突撃するぞ!」

「任せてくれ!」

「お任せあれ」


 まずはこのように役割分担を決めてから攻撃を開始する。


「『極大化 天爆』」

「『極大化 大爆破』」


 予定通り俺とエリカが強力な爆発魔法を使用して、祭壇と魔法使い、弓隊をたたく。


「うぎゃああ」

「ひえええええ」


 俺たちの魔法を受け、魔法使いたちが悲鳴を上げながら次々に吹き飛んでいき、命を落としていく。


「『極大化 精霊召喚 風の精霊』」


 そうやって蹴散らした魔法使いたちにヴィクトリアがトドメの攻撃を加えていく。


「うが」

「ぐふ」


 ヴィクトリアが呼び出した『極大化』でブーストされた風の精霊が真空の刃でドラゴンのローブや鎧ごと魔法使いたちを切り裂いていく。

 強化された風の精霊の前ではドラゴン装備と言えどもひとたまりもなく斬られていく。見ていて思わず本当かと思うレベルの威力だった。


 こうやって支援部隊を潰した後は残った前衛部隊に攻撃をする。


「リネット、ケリュネイアの鹿、行くぞ!」

「おう!」

「ただちに」


 俺とリネット、ケリュネイアの鹿の三人で突っ込んで行く。


「たった三体だと?舐めるな!」


 当然前衛部隊の奴らもそう言いながら迎撃に出てくるわけだが、彼らと俺たちではレベルが違う。


「『十字斬』」

「『回転撃』」


 そうやって俺たちが必殺技を放つと。


「ば、バカな」

「そ、そんな」


 そうやって絶望の声を上げながら、次々に地面に倒れ伏していく。


「はああああ」


 ケリュネイアの鹿もそうやって突撃して、


「ぎゃあああ」

「ひいいい」


と、邪教と共をなぎ倒していく。


 それを見て多少哀れに思わないでもないが、これも邪神に味方した報いだ。

 彼らにはきっちり全滅してもらう。


 このようにして、俺たちと神聖同盟との戦いは順調に進んで行くのだった。


★★★


「終わったな」


 大体10分ほどで敵を片付けた。


「何とかなりましたね」


 そう言いながらヴィクトリアが俺に近づいてくる。

 ヴィクトリアはやっと戦いが終わったことに嬉しいのか、どさくさに紛れて俺に抱き着いてくる。


「ヴィクトリアさん、ズルいですよ」

「ヴィクトリアちゃん、抜け駆けはダメだよ」


 それを見て他の二人も俺に寄り添ってくる。

 俺としてはうれしいのだが、まだ仕事中だ。

 俺は3人の嫁の頭を撫でながらこう言う。


「お前ら、まだ仕事中だからな。続きは後だ」

「「「は~い」」」


 俺の言われて嫁たちが俺から離れる。

 本当に仕方ない嫁たちだなあ。

 俺はそう思いながら俺から離れる嫁たちを見ていた。


 その時だった。


「『火槍』」


 突然どこからともなく魔法が放たれる。


「危ない!」


 それに気が付いた俺はとっさに嫁たちを抱きかかえるようにして、一緒に地面に倒れ込む。


「「「きゃっ」」」


 嫁たちが短い悲鳴を上げるが、俺は構わずに嫁たちを庇うように嫁たちに覆いかぶさった態勢を維持する。


 ビュッ。

 俺たちが今までいた空間を『火槍』の魔法が通過する。俺たちにあたらなかった『火槍』の魔法をそのまま通り過ぎていき、少し離れたところで爆発する。

 ドゴン。その衝撃波で俺たちの体が少し揺れる。


 危なかったもうちょっとで直撃弾を食らう所だった。


「何者だ!」


 俺は腰の剣を向きながら魔法が飛んできた方向を見る。


「ほほう。今のを避けるとは……やるではないか!」


 すると、そこには神聖同盟の司祭長がいた。

 てっきり始末したものだとばかり思っていたのだが、どうやら仲間を盾にして生き残っていたらしかった。


 まあ、いい。

 生き残ったというのなら今度こそ倒せばいいだけだ。


「行くぞ!」


 俺は司祭長に向かって突撃していく。

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