第285話~やはり神聖同盟の奴ら、ここにもいたか! 神聖同盟を偵察する~

「全体、止まれ!」


 前方に敵がいるらしいと報告を受けて俺は隊列を止める。

 すると、すぐに後方からエルフとダークエルフの警備隊長たちが駆けつけてくる。


「いかがなされたのか」

「どうも遺跡のあたりに怪しい連中がいるらしい」

「怪しい連中ですか?」

「うん、そうなんだ。ちょっと俺一人で偵察に行ってくるからここで留守を頼む」

「わかりました」

「エリカ、頼む」

「はい、旦那様。『姿隠し』、『遮音』」


 エリカに魔法をかけてもらい隠密モードに入った俺は、ゆっくりと近づいて行く。


「うん?何か儀式みたいなことをしているな。……怪しい。というか、こんな場所であんな怪しい儀式をするなんて神聖同盟の連中以外ににいないしな」


 俺はもうちょっと詳しく様子を探るために聞き耳を立ててみる。

 すると。


「我らが神プルトゥーンよ。我らの復活の儀式を受けたまえ」


 何かそんな風に邪神復活の儀式をする声までが聞こえてきた。


 間違いない!

 そう確信した俺は馬車の所へ戻るのだった。


★★★


「旦那様、どうでしたか?」

「今から説明するから、全員を集合させてくれ」


 馬車に戻った俺は、嫁たちの他に王子様や王女様、騎士団の隊長たちなど主だったメンバーを集めると説明を始める。


「間違いない。連中は神聖同盟の奴らだった。何か邪神復活の儀式っぽいのをしていた」

「神聖同盟ですか?ホルスト様、そいつらは一体何者なのですか」

「王女様、いい質問ですね」


 ちょうどいい具合に王女様が質問してくれたので、俺は神聖同盟について説明する。


「神聖同盟とは邪悪な存在の復活を企む連中ですね。結構大掛かりな組織みたいで、ここ以外でも邪悪な存在の復活を企んで実際に活動をしていて、俺たちとも何度も戦ってきました」

「まあ、そんな存在がいるのですか。しかし、その連中は一体どうやってここへ来たのでしょうか。ここには神獣様が結界を張っていらっしゃるというのに」


 俺がそうやって神聖同盟について説明すると王女様からもっともな質問が返って来た。

 確かに言われてみればそうだ。

 この濃い霧の中、奴らはどうやって入って来たのだろうか。


「邪悪な存在の下僕たちには邪悪な存在の加護があるものなのよ」


 その疑問に答えてくれたのはヴィクトリアのお母さんだった。


「邪悪な存在の加護ですか?」

「そうよ。邪悪の存在もね。自分に仕えてくれる者には加護を与えるものなのよ。だから奴らが鹿ちゃんに気付かれずに、この霧を突破したのも邪悪な存在の力を利用できたからなの。ということで、鹿ちゃんも落ち込んじゃあダメよ」


 そう言いながら、お母さんは視線をケリュネイアの鹿の方へ向ける。

 すると、そこには落胆した様子のケリュネイアの鹿の姿があった。

 どうやら、いつの間にか自分の結界をやすやすと突破されていたことに気づくことすらできずに落ち込んでいたようだ。


 ただ、ヴィクトリアのお母さんにそう言ってもらえて、多少気を取り直したようで、こっちを見て発言する。


「皆様、面目しようもございません。あんな連中がいつの間にか遺跡まで侵入していたとは。本当に申し訳ありませんでした」


 そう言いながらひたすら頭を下げていた。

 そこまで謝らなくても、と俺は思うが、ケリュネイアの鹿は妙に律儀なやつらしい。


「私が直接乗り込んで行って、奴らを蹴散らしてきます」


 などと言い始める始末だ。

 もちろん、俺はそれを止めた。


「それは止めておいた方がいい。奴らは魔石を使って神獣を狂わせる方法を知っている。おかげで、俺たちは強力な神獣たちと戦う羽目になったんだ。お前が今から一人で向かって行ってそうなったらどうするつもりだ。ここは自重してくれ」


 俺の話を聞いたケリュネイアの鹿は、ハッとした顔になり大きく頷く。


「なるほど、奴らにはそんな力もあるのですね。わかりました。ここは単身突っ込むのは止めておきましょう」


 どうやら無謀に攻撃するのはあきらめてくれたようだった。

 ということで、ケリュネイアの鹿も説得できたし神聖同盟の奴らの存在も確認できたことだし、これからの作戦を考えることにする。


★★★


「エリカ、行くぞ」

「はい、旦那様」


 作戦を考えるにあたってもう少し敵情を探るために偵察に行くことにする。


「『姿隠し』、『遮音』」


 もう一度エリカに魔法をかけてもらって、姿を隠しながら偵察へ向かう。


「旦那様、見えてきましたよ」


 10分も走ると遺跡にたどり着く。

 目的地に着いた俺たちは森の木の陰に隠れて敵情を観察する。


「あの中心部の祭壇でひたすらお祈りしているのが一番偉い奴かな」

「多分そうだと思います」


 まず目をつけたのは敵の総大将っぽい人物だ。

 その人物は立派な神官服を着て、祭壇の上で地面の上に平伏してひたすらお祈りしていた。

 今までの神聖同盟との戦いでは、立派な神官服を着ていた人物が一番偉い人物だったから、今回もそれで間違いないと思う。


「大将はそれでいいとして、奴らの戦力はどうだ」

「私の探索魔法によると、戦士や騎士などの前衛部隊が200名。魔法使い部隊が50名といったところでしょうか」

「全部で250名くらいか。結構多いな」


 250名という数は結構多かった。

 軍隊にすれば一個中隊といった規模である。


 今まで神聖同盟たちと戦った時にはそこまでの人数はいなかった。

 まあ、これまで少人数でこそこそとやって来てそれで失敗続きだからな。

 その点を反省してかなりの人数を用意してきたのだと思う。


「しかし、これだけの人数を送り込んできてもケリュネイアの鹿に気づかれないとか……。邪神プラトゥーンの加護というものはすごいんだな」

「何せ『神々の王主神クリント』様のお父様ですしね。クリント様の血を引く神々もマールス様、セイレーン様、ジャスティス様と強い力をお持ちですしね。神獣の目をごまかすことができても不思議ではありません」


 まあ、その通りだな。それだけ強力な神が実のご先祖様というのなら、封印されているといっても、信者たちにこの位の力を与えることは容易なのかもしれなかった。


「……って、お前今絶対一人名前を抜かしただろう」


 その一人とはもちろんヴィクトリアのことである。

 その点を指摘されたエリカは苦笑いする。


「まあ、ヴィクトリアさんは今言ったお三方と比べると、どうしても見劣りしますからね。でも、何というかそこが彼女のアピールポイントですしね。彼女を見ているといつも危なっかしくて世話を焼かずにはいられないんですよね。本当できの悪い妹みたいな感じで放っておけないんですよ。旦那様も彼女のそういう所をかわいいと思っていらっしゃるのでしょう」

「まあ、なあ。確かに仕事のできるヴィクトリアとかヴィクトリアじゃないしな。いまいちうまく仕事ができないのに一生懸命頑張る姿とかはかわいいしな」

「ふふふ、そうですね」

「ははは、そうだな」


  俺たちはそうやって笑いあって、改めてヴィクトリアが俺たちに欠かせない存在になっている事に気が付くのであった。


 さて、偵察も終わったことだし馬車に帰って作戦を練るとしよう。

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