今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
第283話~暗黒の森の神獣 その名は……!~
第283話~暗黒の森の神獣 その名は……!~
魔物の群れに襲われるなど、多少のトラブルがあったものの遺跡への旅は順調だった。
「もうすぐ着きそうだな」
俺は地図と周りの景色を照らし合わせながらほくそ笑む。
本当ここまで辛かった。
夜は野営しているとはいえ、俺とヴィクトリアの二人でここまで道を切り開きながらやって来たのだから、その喜びたるや筆舌に尽くしがたいものがあった。
「本当に大変でしたね。ワタクシ、今まで生きてきた中で一番働いた気がします」
俺同様ヴィクトリアもうれしそうだ。
彼女も精霊を呼び出して一生懸命作業させていたからな。
結構疲れたのだと思う。
え?作業したのはヴィクトリアじゃなくて精霊じゃないのか、って?
確かにそうだが、精霊を呼び出し維持するには術者の魔力を使うのだ。
だから今回頑張ったのはヴィクトリアで間違いなかった。
と、こんな感じでここまでは順調に進んできたのだが、ここに来て最後の関門にぶつかるのだった。
★★★
「すごい霧だね。何か霧が太陽の光をさえぎって、昼間なのに滅茶苦茶暗いね」
遺跡の近くの森へ行くと突如霧が出てきた。その霧を見て、リネットがそんなことを呟く。
リネットの言う通りここの森はとても暗かった。
とても濃い霧のせいで太陽の光が森の中まで届かず、森の中は暗くてとても視界が悪かった。
昼間でこれなのだから、夜は押して知るべしという所だろう。
「暗黒の森。とうとうここまで来たわね」
俺が困っているのを見て、ヴィクトリアのおばあさんがそんなことを言う。
暗黒の森か。言いえて妙だな、と思った。
おばあさんはさらに続ける。
「ここにはね。遺跡に誰も近寄れないように結界を張っているの。この霧もその結界のせいね」
「そうなのですか?」
「ええ、300年位前からそうしているの。その頃に遺跡にイタズラしようとしたのがいてね。その頃に結界を張ったのよ。だから、図書館で手に入れた本には結界のことが書いていなかったでしょ?だから、そういうことよ」
結界ねえ。
なるほどそういうことか。確かにこれだけの霧が出ているのなら簡単に近づく事は難しいと思う。
うーん、こういう時はどうすればいいかな。
俺は今まで過去に行ってきたことを振り返る。
……そうだ!狐だ!
こういう場合、俺たちはいつも狐を呼び出して道案内を頼んできた。
銀を連れて来ていないのでその点が気になるが、狐ならば俺も呼び出せる。
だから、今回もそれで行けるのではないかと思い、狐を呼び出そうとする。
「聞け!このあたりに住む狐たちよ……」
「あら、ホルスト君、もしかして狐を呼び出そうとしてる?止めておきなさい。無駄だから」
だが、いざ呼び出そうとするとおばあさんに止められてしまった。
俺は訳が分からずに理由を聞く。
「どういうことなのですか?」
「この結界の中にはね。狐が住んでいないの。だから彼らを呼び出したとしても来ないわよ」
狐がいない。
それは想定外だった。
森の中とか食べ物が豊かだから大抵の場合いるのになあ。
残念だ。
しかし、そうなるとここを突破するにはどうしたらいいのだろうか。
困ってしまった俺はヴィクトリアのおばあさんに聞いてみることにした。
「それで、何かいい方法ってありますか?」
「うーん、これは君たちが乗り超えるべき試練だから、私の口からは何とも言えないわ。ただ、一つ言えることがあるとすれば……」
「あるとすれば?」
「時が来れば案内役が来るからそれまで待ちなさい」
「案内役?」
「そうよ。まあ、森の中を歩いて迷ったりするのもあれだから、それまでのんびりしましょうか」
ということで案内役とやらが来るまで少し待つことになった。
★★★
「さあ、どうぞ」
待っている間はお菓子を食べて過ごすことにした。
ヴィクトリアの収納リングの中には今までいろいろな所で買ったお菓子がたくさん詰まっている。
しかも収納リングの中では時間が経過しない。
だからいつでも新鮮なお菓子を食べることができるのだ。
それで今回提供したのは……。
「これは何というお菓子なのですか」
「王女様、これはフソウ皇国の『栗入りどら焼き』というお菓子ですよ」
「『栗入りどら焼き』ですか。クンクン。確かにおいしそうな匂いがしますね。いただきます」
ヴィクトリアにお菓子の名前を聞いた王女様が『栗入りどら焼き』を口に入れる。
たちまち王女様の顔が笑顔になる。
「これはおいしいですね。このお豆、甘くてすごくおいしいですね。栗も甘く作られていてお豆さんと合っていて、とてもおいしいです」
「良かったら、おかわりをどうぞ。まだたくさんありますので」
「ありがとうございます。いただきます」
『栗入りどら焼き』を気に入った王女様はヴィクトリアに勧められるがままにお菓子を食べるのだった。
ちなみに王女様以外のエルフやダークエルフにも好評なようだ。
「これはうまい!俺にももう一個くれ!」
「あら、世の中にはこんなお菓子もあるのですね。私ももう一個欲しいです」
元々エルフやダークエルフには野菜や果物などの食材を使う料理を好む人が多いようで、小豆という豆を使ったどら焼きというお菓子は好まれる傾向にあるようだった。
ネイアさんなども。
「将来フソウ皇国のヒッグス商会に勤務になったら毎日でも食べたいですね」
とか言い出している。
まあ、フソウ皇国にもヒッグス商会の商館があるそうだから、希望が叶えばフソウ皇国への勤務もあると思う。
多少気が早い気もするが、俺としては頑張れとしか言えない。
と、こんな風にのんびりとお菓子を食べていると。
「ほう、おいしそうなお菓子ですね。私もいただけないでしょうか」
突然周囲にそんな声が響いた。
「誰か何か言ったか?」
俺は周囲を見渡して、皆にそう尋ねる。
しかし返事はない。
つまり今の声はこのメンバー以外の発言ということになる。
一体誰の声だったんだろう、と思っているともう一度声がする。
「私はこちらですよ」
今度の声はさっきよりもはっきりと聞こえた。
俺は今度こそその声の方に振り向く。
すると。
「ようやく気が付いてくれましたか。私の名前は神獣ケリュネイアの鹿。ここの番人を務めております」
そこには黄金の角を持つ巨大な白い牡鹿がいた。
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