第282話~エルフとダークエルフの共闘 そして、ネイアさんの好みの男性は?~

 遺跡への旅は続く。


「今日も順調だな」


 この日も朝から俺は遺跡への移動作業という名の労働をこなしていた。

 初日よりもペースを落としている。

 というのも、初日のペースで作業を続けていると、とても魔力が持たない事が判明したからだ。


 そんなわけで俺が一日に7~8キロ、ヴィクトリアが一日に4~5キロ、合計して10~12キロくらいのペースで進むことにしている。


 とはいえ、そこは『ちりも積もれば山となる』である。

 数日の作業であと少しの所まで来ることができた。


「さて、もうひと踏ん張りだな」


 そうやって俺が気合を入れて作業をしようとすると。


「敵襲だ!」


 隊列の後ろの方からそんな声が聞こえてきた。

 どうやら敵の襲撃のようだ。

 それを聞いた俺は武器を手に取ると急いで後ろに向かって行く。


★★★


「リネットとヴィクトリアは前方と中段の警戒だ。後ろの対応に行っている間に前の方が襲われたらたまらないからな。ヴィクトリアは精霊を複数出して、周囲を警戒しろ!リネットは何かあったら即対応だ」

「うし!任せて!」

「ラジャーです!」

「それとエリカは俺と来い!エルフたちを援護するぞ!」

「了解です!」


 俺は全員に指示を出すと、エリカと一緒に隊列の後方へ向かって駆け出した。

 俺たちが後方へ到着すると、そこでは激戦が繰り広げられていた。


「うおりゃあああ」

「こなくそ!」

「死ねやああ!」


 エルフとダークエルフの騎士団が連携して防戦にあたっている。


 敵はゴブリンテイマーの上級種であるゴブリンハイテーマーの指揮する魔物の群れだった。

 ジャイアントワイルドボア、ビッグヘルキャット、ビッグギャングベアなどの強力な魔物で構成される部隊で、ゴブリンハイテーマーの下、部下らしき2名のゴブリンテイマーが細かく指示を出して群れを統率していた。


 これだけの数の魔物が連携して襲ってくるのだから、数的に不利な騎士団たちは苦戦している。

 ただ、そこは選ばれた騎士団だけあって、頑強に抵抗して防衛網を突破されないように頑張っていた。


「うん、エルフとダークエルフの騎士団。共同訓練とかしたことがないはずなのに、よく連携できているじゃないか。さすがだな」


 俺はそれを見て即席の部隊なのにやるじゃないかと感心するのだった。

 しかし、人数的に不利なのでどうしても隙ができる。


「ウガアアアアア」


 今も一匹のビッグヘルキャットが防衛線を抜けてこちら側へ侵入してきた。


 ビッグヘルキャットは前に俺たちも戦ったことがある魔物で、俊敏な動きと高い攻撃力を持ち味としている。

 今回のビッグヘルキャットは前に戦ったのよりも小柄で若い個体のようだが、それでも油断していい相手ではない。


 それで、侵入してきたビッグヘルキャットは一直線に王子様と王女様の方へ向かってきていた。


「マルティナ姫はやらせないぞ!ここを通りたく馬僕を倒していけ!かかって来いや!」

「まあ、アダム様……私も戦います。『火矢』」


 自分たちが襲われそうだと感じた王子様はとっさに剣を抜き王女様の前に立ち、その身を守ろうとする。

 王女様もただ守られるだけでなく、魔法で迎撃に出る。


 ただ、その程度の攻撃がビッグヘルキャットに通じるわけもなく。


「グルルルル」


 ビッグヘルキャットは何事もなかったかのように前進を続ける。


「危ない!」


 それを見て俺はビッグヘルキャットを攻撃しようとするが、その前に。


「武神昇天流奥義『虎殺脚』」


 王女様の護衛のネイアさんが王子様たちとビッグヘルキャットの間に割って入り、ビッグヘルキャットに強烈な一撃をくらわせる。

 ドガン。

 ネイアさんのケリがビッグヘルキャットの頭部に命中すると、鈍い音が周囲に響き渡る。


 それだけでビッグヘルキャットは地面にバタンと倒れ、ピクリとも動かなくなる。

 見ると、ネイアさんの一撃を受け頭蓋骨が一部割れて、そこから血がドバドバと吹き出ていた。

 物凄い威力の一撃だった。


「素手でこれかよ」


 それを見た俺が思わずそう言ってしまうだけの一撃だった。

 うん、この人だけは絶対に怒らせてはダメだな。さもないと内臓破裂確定だ。


 まあ、ネイアさんは普段温厚な人だから人にこんな一撃を加えたりはしないだろうけど、怒らせないようにしようと誓うのだった。


「ここは大丈夫そうですね。旦那様、私たちは騎士団の方を助けますよ」


 そんな風に対ネイアさんに見とれてしまった俺だが、エリカの言葉で我に返る。

 そうだった。騎士団の方が今はピンチだった。


「エリカ!」

「はい」


 すぐさま騎士団の方へ向かう。

 まず狙うのは敵の頭からだ。


「『重力操作』」


 俺は空を飛んで最高峰に陣取っていた敵部隊の指揮官であるゴブリンハイテーマーの所まで一気に近づく。


「『十字斬』」

「ウホ?」


 そして、反撃する暇を与えないように小技を使って一気に命を奪う。


「『天風』」


 ゴブリンハイテーマーを倒すついでに、奴を護衛していたビッグヘルキャット、ジャイアントワイルドボアの部隊も殲滅しておく。

 さらに。


「『天雷』」


 雷の魔法を使ってゴブリンテイマーを攻撃する。


「ギャッ!」

「グヘ!」


 俺の魔法を食らって2匹のゴブリンテイマーはあっさりと倒れた。

 これで指揮官は全滅だ。


 後は雑魚敵の殲滅だけだ。

 その雑魚共も指揮官を失い指揮系統が乱れたことで混乱している。

 戦場の方を見ると、さっきまで苦戦していた騎士団が大分押し返してきている。


 さらに。


「『風刃』、『水刃』、『金剛槍』」


 エリカが大分魔法で援護射撃をしているようで、敵の数が大分減っていた。


「よし、行くぞ!」


 俺は残敵を掃討すべく敵の中に突っ込んで行くのだった。


★★★


 その晩、野営の時は楽しくやった。


「任務に支障が出ない程度にしておけよ」


 そう言いながら一人一杯だけ酒を提供したからだ。

 一杯だけなのは今は仕事中で酔わないように気を使ったからだ。


「この酒は初めて飲みますが、うまいですな」


 俺たちが出した酒を飲んだエルフとダークエルフの騎士たちがとてもうれしそうに言う。


「これはフソウ皇国の酒、フソウ酒ですね。米で作られたお酒ですね」

「ほう、フソウ皇国ですか。そんな遠い国の珍しいお酒なのですか。そんなものを飲ませていただきありがとうございます」


 そう言うと、騎士団の人たちは頭を下げてくるのだった。

 それを受けて俺はそんなにお礼を言わなくてもと恐縮するのだった。


 ちなみに、騎士団の人たちは魔物の戦闘で手傷を負っていた者も多かったのだが、


「『範囲特級治癒』」


と、ヴィクトリアが治癒魔法をかけあっさり治してしまっていた。

 そんなわけで、騎士団の人たちもこうやって無事に楽しくやれているというわけだ。


 もちろん俺たち以外の人たちも楽しくやっている。


「アダム様、とてもカッコよかったですわよ」

「いや、マルティナ王女。僕はそんな大したことは……」


 馬車の傍らではエルフの王女様とダークエルフの王子様がそんなことを言い合っていた。

 まあ、王子様カッコいいところを見せていたからな。

 王女様に気に入られたのかもしれない。


 でも、王子様、王女様に褒められてちょっと照れくさそうにしているな。

 そういう所が子供らしくてよいと思うが。


 一方、エリカたち嫁ズはネイアさんと仲良く話していた。


「本当、ネイアさんはお強いですね。まさかビッグヘルキャットを蹴り一発で仕留めるとか。物凄い武術の腕ですね」

「すごいですよね。ワタクシだったら下手したら食い殺されていたかもしれません」

「アタシも素でだとちょっと難しいかな」


 と、嫁たちが口々に褒めそやしていた。


「いいえ、私などまだまだです。これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします」


 それに対してネイアさんはそういう風に答えていた。

 中々謙虚な態度だと思う。


「それはそうと、ネイアさんって浮いた話とか全然聞かないんですけど、どういう男性が好きとかあるんですか?」


 と、ここでヴィクトリアがそんな風に話題を変えてきた。

 女子トークの定番だとは思うが、これって聞かれた方は恥ずかしいと思う。


 俺も軍で訓練を受けた時に、仲間内でそう言う話が出て答えづらかったからな。

 まさかエリカとも言えず、あの時は本当に困ったものだった。


 ただ、ネイアさんはそんなヴィクトリアのぶしつけな質問にも平然と答えていく。


「そうですね。私の好みは自分よりも強い男性ですかね。そういう人に憧れます」


 ふーん、ネイアさんより強い男性か。それは中々難しいなと思った。

 あれだけ強いとなると彼女より強い男などそうはいないだろう。

 ここにいる騎士団の奴らも強いが、ネイアさんより強いとは思えない。


 現に、騎士団の奴らなんか、


「まじかよ」

「無理っす」


と、どうやらネイアさんに気があった奴らなんかは落胆しているっぽいし。


 まあ、こればかりは良縁を願うしかなかった。


 ただ、この時の俺は気が付いていなかった。

 自分がその条件を満たす人間であることに。

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