閑話休題40~その頃の妹 王都からの旅立ち~

 その日、朝から私レイラ・エレクトロンは緊張していた。

 ずっとギルドの受付の横にあるお知らせの掲示板の前に立ち、あるものが張り出されるのを今か今かと待っていた。


「みなさ~ん。今から掲示物を張り出しますので、ちょっとの間そこをどいてくださいね」


 時間が来るとギルドの職員さんがやってきて、私たちをどかすと、急いで掲示物をその掲示板に張り付ける。


 そして、その掲示板を私とフレデリカで目を皿のようにして見る。

 すると。


「レイラ、ここに私たちの名前あるよ」

「本当?……あ、本当だ。やったあ!」


 掲示物に自分たちの名前があったのを見た私たちは手を取って喜び合う。


 え?そんなに喜んで、その掲示板に名前があると何かいいことでもあるのか、ですって?

 ええ、それがあるんですよ。


 だって、この掲示板に名前があることイコールノースフォートレスの町が行われる新人講習会への参加資格を得たということなのですから。

 これで私たちの未来も開けるかも知れない。


 そう思うと喜びが止まらないのでした。


★★★


 そもそもの話をすると、新人講習への参加は結構抽選倍率が高かったのだ。


「最近、講習への参加希望者が多くて、ね。前は希望すればだれでも参加できたのだけど今は抽選ですることになっているの」


 冒険者ギルドに参加の申し込みに行ったらそんなことを言われたのだった。

 聞くところによると、倍率7~8倍くらいあるらしかった。

 申込単位は個人またはパーティー単位ということなので、私たちは即席でパーティーを結成、パーティー名を考えて申し込んだのだった。


 ちなみにパーティーの名前は、『乙女浪漫隊』にした。

 え?すごい名前だねって?

 よくその名前を人前で言えるな、だって?


 いいじゃない。

 私たちがどんな名前を名乗ろうが自由でしょ。

 それに『乙女浪漫隊』って素敵な名前じゃない。少なくとも私たちは気に入ったわよ。


 まあ、こんな感じで申し込んで後は抽選待ちだったわけだけど、何せ7~8倍の抽選倍率だ。

 1回では通らないんだろうと半ばあきらめていたのだが、うまい具合に一発で当たりくじを引いてしまった。

 本当ラッキーだったと思う。


 ということで、今日はお祝いをしようと思う。


「久しぶりにご馳走食べようよ」


 そうフレデリカが提案してきたので、それに乗ることにした。


 ということで、今日は食べて飲むぞ。

 久しぶりの慶事に私は内心の喜びを抑えられないのだった。


★★★


 その後、色々と旅の準備をして王都を旅立つ日がやって来た。


「ふふふ、フレデリカその新しい革の胸当て似合っているじゃない」

「レイラこそ、その新しい革のブーツ似合っているわよ」


 出発するにあたって、お互いの新装備を褒め合う。


 というのも、今度旅をするに際して、私はブーツをフレデリカは皮の胸当てを新調したのだった。

 安くはない買い物だったが、これからの新生活に向け心機一転したかったのと、決して後戻りしないぞという決意を示すために買った。

 おかげでこうして気分が高揚した状態で出発できるのだった。


「「それじゃあ王都さん、またね」」


 短期間とはいえお世話になった王都に、そうやって別れの言葉を告げ、城門を出る。

 城門を出たらすぐ目の前に王都とノースフォートレスを繋ぐ街道が広がっていた。


「結構人が多いね」

「うん、そうだね」


 街道を見ると、結構な数の人々が行き来していた。

 まあ、ここの街道は王国でも重要な街道で物流量も多いらしいので、この状況は当然と言えば当然だった。


 でも、まあいい。

 これだけ人が多い街道だと、その分警備もしっかりしていて、その分私たちはノースフォートレスまで安全に旅できるはずだから。


「それじゃあ、行こうか」

「うん」


 ということで、私たちは意気揚々と街道を歩き始めたのだった。


★★★


 それから3時間後。


「昼食のパン、おいしかったね」

「うん、おいしかったね」


 私たちは街道途中の小川の横で昼食を食べていた。

 とはいっても、潤沢に旅費があるわけではないので食べたのはパン1個だけだ。


 今回旅立つ際にギルドから旅費の援助金として一人銀貨3枚を支給されたのだが、当然その程度で旅費が足りるはずもなく、足りない分は私たちの自己資金で補わなければならず、そうなると私たちの旅は節約しながらのケチケチ旅にならざるを得ないのだった。


 そんな貧乏旅で食事も粗末だったが、頑張って午前中いっぱい歩いてご飯を食べた後は少し休憩モードに入る。

 二人で川の横の石の上に座って、のんびりと空を見上げる。


「青くてきれいな空だね。ほら、入道雲があんなに高いよ」

「そうだねえ。きれいだねえ。まるで私たちの門出を祝福してくれるような青さだね」


 二人でそんなことを言いながら、将来に対する期待を口にしていると、突然不幸が私に襲い掛かって来た。


「あべち」


 突然空から何かが降ってきて、それが私の頭に見事に命中したのだった。


「な、何?」


 私が慌てて落ちてきたものを振り払おうと手を伸ばすと、


「ぎゃー、これ何?」


触る側から手にっべったりと白いものがくっついてくるのだった。


 もしやと思ってもう一度空を見ると、


「カーカー」


と、一羽のカラスが空を飛んでいるのが見えた。


 そしてもう一度自分の手を見る。

 間違いない。

 今自分の頭に落ちてきたのはカラスの糞だった。


★★★


「ギャー。私の一張羅のウィッグに何してくれんのよ」


 頭にカラスの糞の一撃を受けた私は、近くの小川に大急ぎで移動すると、被っていたウィッグを取り、大急ぎで洗った。


 ちなみに今の私の髪型は耳が半分出るくらいのショートボブだ。

 昨日までは耳が隠れるくらいの長さはあったのだが、それだと長さが不ぞろいでボサボサな感じだったし、折角心機一転旅を始めるということで気合いを入れるために、美容院へ行って短い所に合わせてバッサリと切ってもらったらこんな感じになったのだった。


 思ったのより短くなってしまった気もしたが、襟足とか長すぎてうっとおしくなっていたのもすっきりしていい感じになったので私は満足した。

 これで大分女の子らしいかわいい髪形に近づいたと思うが、それでもまだ人に見せるにはちょっと恥ずかしい気がしたので、もうしばらくはウィッグを被っておくつもりだ。

 そうね。顎くらいの長さになったら、被らなくてもいいかなと思っている。


 それで、今回その大切なウィッグが被害を受けたというわけだ。

 幸いなことに爆撃を受けてからすぐに洗ったので、ウィッグの汚れは落ちたのだが。


「これじゃあ、すぐには被れないね」


 と、フレデリカに言われるくらいにはびしょ濡れになってしまった。


 本当、最悪だ。

 今日は新しい生活へ向けての始まりの日だというのに!

 いきなりこんな不幸に見舞われるなんて!

 折角のいい気分が台無しだ!


 カラスに糞爆撃を食らった私はそうぷんぷん怒ってみせるのだが、この時の私は知らなかった。

 この出来事が、ひどい旅路の始まりを暗示する出来事だったことに。

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