第281話~道なき道を進む ヴィクトリア、二日酔いで動けないって……お前、いい加減にしろよ!~

「それでは行きましょうか」


 宴会の終わった翌日の昼頃。

 俺たちはダークエルフの村を出発した。


 出発が昼頃になったのは昨晩飲み過ぎたからだ。


 え?お前らそんなに飲んだのかって?

 まあ、確かにうちのパーティーにも、ヴィクトリアとか、ヴィクトリアとか、ヴィクトリアとか!飲み過ぎたのはいる。

 ただ、ヴィクトリアだけだったら馬車に放り込んで出発すればよかっただけの話なので問題はそこではない。


「うー、頭痛い」

「吐きそう」


 ヴィクトリアよりも酔っぱらっていた連中。

 それは村人たちだった。


 というのも、王子様と王女様が出発する際に村人たち全員が見送りに来る予定だったのだが、酔っぱらった村人たちがいたおかげで、出発が遅れたのだった。


「まあ、よい。村人たちも久しぶりにはしゃいだので飲み過ぎたのであろう。よし、皆が落ち着くまで待つとしよう」

「構いませんよ。民をいつくしむのは王族の務め。無理をさせてはなりません。ゆっくり酔いを醒ましてくださいね」


 王子様も王女様もいい人だったので、村人の酔いがさめるまで待つことになり、昼まで待つことになったのだった。


「それでは、行ってらっさいませ」


 そして、昼頃になって正気に戻った村人たちに見送られて、俺たちは遺跡へ向かって出発したのだった。


 最初からトラブルがあって前途多難な予感はするが、旅に多少のトラブルはつきものだ。

 めげずに進むことにする。


★★★


 ダークエルフの村を出発してからしばらく経った頃。


「村で聞いてきた通りだな」


 俺は荒れ果てた街道の跡を見てそう呟いた。


 遺跡への街道と思しき場所は、聞いた通りに荒れ果てていた。

 草木がぼうぼうに生え、どこが街道だったかわかりにくくなっている。

 できた当初は平坦だったと思われる道は、木の根が進出してきたり、長い間雨風にさらされたせいで、でこぼこになってしまっている。

 さらに言うと酷い所では陥没して穴になっているところまであり、このままだと馬車がまっすぐに進めない状態だった。


 数百年以上ほったらかしだったとはいえ、ひどい有様である。


 ただ、だからといって遺跡まで歩いて行くという選択肢はない。

 何せうちには王子様と王女様がいるからな。

 まだ幼く体力もない二人にそんな長距離を歩かせるわけにはいかない。

 そんなことをして万が一なことがあったら、王様たちに言い訳できない。


 ということで、酷い道の方をどうにかすることにする。

 魔法を使って道を直しながら進むことにする。


「『天風』」


 まず『天風』の魔法で伸び放題の草木を切り飛ばし、そのまま風で周囲に吹き飛ばす。

 そして、草木がなくなって街道の痕跡が目視できるようになったら、


「『天土』」


今度は『天土』の魔法で一気に整地していく。


 一応『神強化』の魔法を使用して『神眼』を起動しているので、草木が生い茂る中でも、一気に作業を行えたので、進捗状況は順調だ。

 大体1回の作業で、1キロずつくらいは道を整備できて行っている。

 この作業を延々と繰り返すのだ。


「ホルスト様、すごいです!」

「本当だ。こんな規格外のことができる魔法使いを僕は見たことがない」


 俺が作業するのを見て、王女様と王子様がえらく褒めてくれた。

 半分雑木林と化していた道が次々ときれいになっていくさまを眺めるのは、見ていて爽快なのだと思う。


 もちろん、褒めてくれるのは王子様と王女様だけではない。


「旦那様、さすがです!」

「ホルスト君、その調子で頑張って!」

「ホルスト様、お見事です!」

「ホルスト殿、さすが物凄い活躍をされるだけのことはありますな」


 うちの嫁たちやネイアさんたち、護衛の騎士さんたちまで褒められまくった。

 褒められすぎて、褒められている俺の方が恥ずかしくなるくらいだった。


 そんな調子でどんどん整地していき、大体15キロくらい進んだ頃。


「そろそろ、魔力がやばいな」


 俺の魔力が枯渇してきた。

 まあ、すごい勢いで進んできたからな。魔力の消費も激しかった。


 ということで、作業員交代だ。


「ヴィクトリア、そろそろ起きたか?交代してくれ」


 事前の打ち合わせ通り、ヴィクトリアに作業を交代してもらうように頼んだ。

 ヴィクトリアに精霊を呼び出させ、精霊に作業させるつもりだったのだ。


 だが、ヴィクトリアのやつは。


「まだ、頭が痛いです」


 まだ二日酔いから回復していなかった。

 だから、酒はほどほどにしとけといつも言っているのに……仕方のないやつだ。


 ということで代わりの人に頼むことにする。


「あのう、ヴィクトリアのお母さん。のんびりされているところ悪いのですが、ヴィクトリアがこんな状態なので、少し整地作業を手伝ってもらえないでしょうか?そろそろ俺も魔力が限界なので」


 ちなみに、俺がこう頼んだ時、お母さんはジュースを飲みながらのんびりと本を読んでいた。

 読書を邪魔されてちょっと機嫌が悪くなったのか、お母さんは不機嫌な顔になると娘をじろっと睨みつける。

 しばらく睨みつけた後、やれやれという顔になって、ようやく俺に返事を寄こしてくる。


「本当にどうしようもない娘ね。二日酔いで動くこともできないとか情けなすぎるわ。まあ、仕方がないわね。不出来な子供の後始末をするのも親の仕事だものね。最も、いい大人になってまで親に迷惑かけるっていうのもどうかと思うけどね」


 お母さんはそう不満を言いつつも手伝ってくれる気になったようで、ゆっくりと立ち上がると、馬車の外へ出て行く。


 一方、言いたい放題言われたヴィクトリアの方は涙目だ。


「うう、悔しいです。でも、言い返せないです」


 顔を青くして横になりつつも、そう嘆いてみせるのだった。


「まあ、誰にでもミスはあるんだから気をつければいいよ」

「そうですよ。次から、もうちょっとセーブして飲めばいいですよ」


 そんなヴィクトリアをリネットとエリカが慰めてやっている。

 本当この3人は仲が良い。

 この3人が仲良くしてくれると俺としても安心だ。

 何せ俺の望みは幸せな家庭だからな。

 嫁さん同士が仲悪いとか、最悪だからな。


 というか、慰めつつもきっちりヴィクトリアに注意するエリカ。

 仲は良くても注意すべきは注意する……グッジョブだ!


 と、俺がそんなことを考えている間にお母さんが外に出て作業を開始する。


★★★


「『精霊召喚 土の精霊 風の精霊』」


 外に出たお母さんが精霊を召喚して作業を開始する。

 お母さんが呼び出す精霊はヴィクトリアのそれより強力だ。


「さあ、二人で協力して道を整備してちょうだい」

「「カシコマリマシタ」」


 何せこんな風に術者でない人にもわかるようにしゃべることができるからな。

 ヴィクトリアが呼び出した精霊にはそんなことはできない。

 ヴィクトリアが呼び出した精霊はヴィクトリアとしか意思疎通はできない。

 こんな所にも二人の実力の差は如実に表れているのだった。


 それはともかく、お母さんが呼び出した精霊たちは順調に作業を続けていく。


「カゼヨ、マエ!」


 風の精霊がそう呟くと、道を塞ぐ草木が次々に吹き飛んでいく。


「ツチヨ!ヘイタンニナレ!」


 そして、土の精霊が草木がなくなった街道をどんどん整地していく。


 その手際はとても良く、俺に負けないくらい、いや俺よりも優れている気がする気がした。

 それを見て、精霊もこうやって本気で使うとすごいことができるのだと思った。


 結局この日は30キロくらい進んだところで暗くなってきたので作業を中断し、野営したのだった。

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