第280話~ダークエルフの村 そして、村人たちの歓迎会 ヴィクトリア、お前飲み過ぎるなよ?~

 ダークエルフの王都を出発するまで3日かかった。

 もちろん、ダークエルフの王子様の準備をするための時間が必要だったからだ。


「騎士団を選抜して王子の護衛に付けよ!世話係を選抜せよ!」


 エルフ王同様ダークエルフの王様も王子のために護衛はしっかり用意するつもりのようだ。

 まあ、当然といえば当然の行為だ。

 自分の息子を危険な場所に送り込むのだから護衛を充実させるのはむしろ普通の行為だろう。

 俺がダークエルフの王様でもそうすると思う。


 さて、出発までの間しばらく時間が空くことになったわけだが、その間行われたのはアダム王子とマルティナ王女二人合同での踊りの訓練だった。


「はい、王子様。そこもうちょっと足伸ばしてください」

「王女様、そこは腰をもっと振る必要がありますよ」


 ネイアさんとダークエルフの王様が派遣してきた踊りの指導役の人が二人でつきっきりで王子と王女の指導にあたっている。

 二人ともとても熱心に指導していて、稽古は結構激しそうな感じだ。


 ただ、王子様も王女様もその厳しい訓練に音を上げることなく頑張っているようだ。


「マルティナ王女、中々いい動きをするな。しかし、私も負けないぞ」

「アダム王子こそ、キレのいい踊りを踊りますね。でも、私も負ける気はありませんから」


 しかもお互いになんか張り合っているし。

 まあ、ライバルがいると稽古にも励みになるからいいことだとは思うけどね。


 それに二人に頑張ってもらわないと俺も遺跡へ行けなくて困るからね。

 二人とも一生懸命頑張ってください。


 俺は二人が稽古するのを見てそう思うのだった。


★★★


 ダークエルフの王子の方の準備ができたのでいよいよダークエルフの王都を立つことになった。

 とりあえずの目的地は遺跡から少し離れたところにあるダークエルフの村だ。

 ダークエルフの王様に調べてもらった結果、ここが目的地と一番近かったので、とりあえずここへ行き、ここを拠点に遺跡を目指すことになったのだ。


「さあ、出発するぞ!」


 エルフの王都を出発する時と同様に俺たちが先頭に立って進んで行く。


 車列の編成も最初と似たようなものだ。

 俺たちの馬車が先頭に立ち、その次に王女様の馬車、王子様の馬車が続く。

 その後に来るのは護衛の騎士たちの馬車だ。エルフとダークエルフで1台ずつ派遣されている。


 エルフとダークエルフ、どちらが最後尾を護衛するかは交代でやっているみたいで、時々馬車を止めて順番を入れ替えているみたいだ。

 合理的な判断だと思う。

 最後尾の護衛は疲れるからな。時々こうやって役割を変えるのはいいことだと思う。


 ちなみに、王女様と王子様の馬車もやはり時々馬車の位置を入れ替えているようだ。

 こっちは国の威信とかそういう大人の事情がかかわっているらしかった。

 本当政治とは面倒くさいものだと思う。


 とはいえ、こうして無事に遺跡へ向けて出発できてよかったと思う。


「何事もない旅だといいんだが、そういうわけにもいかないんだろうな」


 道中トラブルが無ければよいのだが、今までの遺跡でのことを考えれば絶対何かあるんだろうなと思う。

 ということで、気合を入れていくことにする。


★★★


 目的地の村へ着いた。

 とても小さな辺境の村で、人口も300人いるかいないかくらいの規模の村だ。

 村は木の柵で囲まれていて、その中に家も畑もすべて入っていた。


 ただ、畑での収穫量はそこまで多くないようで、周囲の森から木の実を取ってきたり、獣を狩ったり、近くの村や町との交易で足りない分を補っているらしかった。


 ちなみに、ここまでの道中魔物に襲われることもあったが、禁足地の中では整備された街道を通って来たこともあり、俺たちが出張ってさっさと倒してしまえる程度だった。


 さて、村に着いた俺たちはとりあえず村長の家に行く。

 村長さんは大分お年を召された方で、腰もかなり曲がっており、俺たちの前に出てきた時には杖をついていた。


「こんにちは」


 そう挨拶をして、旅の目的を告げ、こちらの一行にダークエルフの王子様やエルフの王女様がいることを伝える。すると。


「まさか王子様がおいでとは……」


 村長さんは、俺たちの一行にダークエルフの王子様がいることに非常に驚いてしまった。

 あまりにも驚きすぎて、本当の意味で腰を抜かしてしまって一時床にペタンと座り込んでしまったほどだ。


 それを見てちょっと驚かせ過ぎてしまったかな?と、思わずかわいそうに思ってしまったくらいだ。

 俺としては単に事実を伝えたくらいの感覚だったのだが、まあこんな田舎の村に王子様が来るなんて100年に一度もないだろうからな。

 村長が腰を抜かすくらい驚いてしまうのも仕方がないのかもしれない。

 反省して次からは気を付けることにする。


 それはそうとして、このままでは話が進まないので対応することにする。


「おい、ヴィクトリア」

「ラジャーです。『初級治癒』」


 それでヴィクトリアが治癒魔法をかけてあげたら、何とか立ち上がれるようになったのでテーブルに座って色々と話を聞くことになった。


「古い遺跡について心当たりはありませんか?」

「この村から北に大分離れた場所に遺跡があると聞いたことがあります」


 俺たちの質問に村長さんはそう答えてくれた。


「とは言っても、私はその遺跡を見たことはありません。私の祖父の祖父のそのまた祖父と、何代も前からずっとそう伝えられているだけの話です。もちろん私も見たことはありません。ただ、赤子のころから子守唄代わりにそういう話を聞かされているだけです」

「なるほど。話は大体わかりました。俺たちが事前に調べたとおりに確かに遺跡は存在するようですね。それはわかったのですが、遺跡に行くような道とかはないですか」

「道ですか?あるといえばありますし、無いといえば無いですね」


 遺跡へ行く道について村長に尋ねてみると、返ってきたのはそんな曖昧な返事だった。


「妙にはっきりしませんね。何か事情があるのですか」

「一応、この村の北の方に昔使われていた道の跡というか、痕跡というかそういうのがあるのですが……」

「あるのですが?」

「ただ誰も使っていない道なのでボロボロなのです。道はデコボコだったり、草木に覆われていたり、崩れて通れなくなったりしています。とても馬車が通れるとは思えません」


 なるほどそういうことか。

 何百年も使われていない道なら確かに普通に使えないくらい道が傷んでいるということもあると思う。


 まあ、俺たちには関係ないけどね。

 通れるようにすればいいだけだし。


 さて、これで遺跡への道があるらしいことも分かったし、村長さんに聞くことは大体聞いたかな。


「貴重なお話を聞かせてもらってありがとうございました。大変助かります」

「いえ、大したお話もできませんで。こちらとしてはそうお褒めの言葉をいただき嬉しい限りです」


 ということで、こうして村での情報収集は終わったのだった。


★★★


 その晩は村で一泊して行くことになった。

 王子様や王女様がいるということで、村を上げてごちそうを用意して歓迎してくれたので目の前にはごちそうが並べられているというわけだ。


「お母様、おばあ様。おいしそうなお料理がたくさん並んでいますね」

「本当、おいしそうね」

「おばあちゃんも楽しみだわ」


 それを見て、いつも通りヴィクトリア一家が舌なめずりしながらよだれを垂らしている。

 本当食い物のこととなると、目の色が変わる人たちだ。


 というか、このごちそうは村の人たちが王子様や王女様のために用意した物だからな。

 あまりがつがつ食われると俺たちが恥をかくのだが。


 とはいえ、この3人に言ったところで『馬の耳に聖書』だろうし、俺からは注意しないぞ。

 食ってもいいから目立たないことをただ祈るだけである。

 まあ、この旅の最中接した来た感じでは王子様も王女様も優しい人という感じだったので、3人の所業を大目に見てくれそうな気はするけどね。


「「太陽神リンドブル様、月の女神ルーナ様、魔法を司る女神ソルセルリ様。あなた方を祭るエルフとダークエルフの王族がこれらの物をあなた方に捧げます。どうか我らの旅にご加護を」」


 王子様と王女様が一緒に神に向かって宣誓してから宴会が始まる。

 村人たちが一生懸命擁してくれた宴会だけあって結構賑やかだった。


「この料理は何ですか?」

「ワイルドボアのハチミツ焼きです。この辺りの郷土料理です。どうぞお召し上がりください」


 そんな風にダークエルフの郷土料理なども出てきたりして、


「これは……おいしいですね」

「最高だね」


エリカとリネットにも好評なようだ。

 気になる点があるとすれば。


「まあ、ここの料理、お母様やおばあ様たちに捧げる物らしいですよ」

「だったら、遠慮なく食べなくちゃ村の人たちに悪いわね」

「みんながいるから少し控えめにと思っていたけど、そういうことなら遠慮はいらないわね」


 さっきの王子様と王女様の宣誓を聞いたヴィクトリア一家が調子に乗って、俺の後ろでこそこそとそんなことを言い合っていることだ。


 それを聞いて俺は思ったね。

 もういいや!好きにやってくれ!俺も気にせず宴会を楽しむから!


 完全に投げ槍になった俺は、自分も宴会を楽しむことに決め、のんびりとその晩を過ごすのであった。

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