第279話~え?ダークエルフの王様、そのお方を派遣されるのですか?~

 離宮を出た俺たちは王宮へと向かった。

 王宮へ向かう馬車はダークエルフの王様が用意してくれたのでそれに乗っていくことにする。


 まあ、パトリックも他の2台の馬車を引っ張っている馬たちも疲れているだろうから休める時にはなるべく休ませておきたいと思っていたので、これはありがたい心遣いだった。


「それじゃあ、行ってくるからな。ゆっくりしてろよ」

「ブルルル」


 出発間際にパトリックの様子を見に行くと、パトリックは飼い葉を食いのんびりとしながら、俺の姿を見るとそう挨拶してくれた。

 本当、賢い馬だと思う。


 さて、パトリックの様子も確認したことだし、馬車に乗って移動を開始する。

 移動とは言っても王宮内でのことなのでそんなに距離は離れていない。

 多分1キロも距離はなかったと思う。


 たったこれだけの距離を移動するのにわざわざ馬車を用意してくれるのは、マルティナ王女への敬意を示すためだと思う。

 他の国の王族が来ている以上、この程度の気は使わなければならないのだ。


 本当、王様って大変な仕事だなあ。

 俺だったら絶対にやりたくないね。


 俺がそんなことを考えているうちに馬車は目的地に着いてしまった。


「さあ、本番はこれからだ!」


 俺は自分の頬を叩いて気合を入れ直すのだった。


★★★


「こちらでございます」


 王宮の役人に案内されて俺たちは謁見の間へと向かう。


 もっとも謁見の間に向かうのはうちのパーティーとマルティナ王女、ネイアさんに御付きの侍女数名だけだ。

 護衛の騎士たちは王宮内の控室で待機だ。


「護衛の方々はこちらでお待ちください」

「畏まった」


 王宮の役員に促された護衛の騎士たちはその言葉に大人しく従っていたので、どこの王宮でも王様と会う時はこのような作法になっているのだと思う。

 そして、役人に促されて謁見の間に入った俺たちは王様に会うことになる。


 まずあいさつしたのはマルティナ王女だ。

 こういう場合、一番身分の高い人物が代表で話をするのが作法だ。

 だから、まず王女様に挨拶してもらったのだ。


「初めまして、ダークエルフの王様。エルフ王の娘マルティナ・エリザベータ・リオ・ファウンテンでございます。以後、お見知りおきを」

「うむ、こちらこそ初めまして、マルティナ王女。余がダークエルフの王オルガ10世である。こちらこそよろしく頼む。それで、マルティナ王女よ。早速であるが、この度はどのような用件で参られたのか。まずはそこから伺おうかの」

「はい。実は私どもはこれからエルフの禁足地の奥の遺跡へ向かう予定なのです」

「ほう、禁足地の奥に遺跡があるのか。それはもしやダークエルフの伝承にある邪悪な存在を封じ込めた遺跡のことか!」

「はい、多分その通りだと思います。それで、それにあたって王様にお願いした意義があります。詳しい内容はこちらの者より説明がありますゆえ、お聞きください。それでは、ホルスト殿お願いします」

「はっ!それでは私の方から説明させていただきます」


 王女様に説明するように言われて、俺は一歩前へ進み出て説明する。


★★★


「実は王様。王様にはまだ話していなかったと思いますが、私どもには旅の目的があります。それはこの世界に封じられた世界を滅ぼしかねない邪悪な存在の復活を阻止することです。邪悪な存在の封印は、4つの場所にある遺跡によってなされているのですが、その一つが禁足地にあるのです」

「何と!」


 俺の話を聞いた王様は驚いた顔をした。

 そして、同時にその顔には疑心暗鬼の色も見えた。


 まあ、当然だ。

 世界に封じられた邪悪な存在の復活を阻止するために旅をしているといわれてもにわかに信じられるものではなかった。


「ホルストよ。それはまことの話なのか。いや、そもそもどうしてこの世界に邪悪な者が封じられているということを知っている?」

「私どもは、太陽神リンドブル様の姉上の女神アリスタ様の神命を受けて行動しております。とある遺跡の奥でアリスタ様にお会いして、邪悪な者が復活するのを阻止してほしい、と。私たちの力もそのために与えられたものなのです」

「ふうむ」


 俺の説明を聞いてある程度納得がいったのだろう。

 王様は腕を組んで考え込んでいる。


 と、ここで俺に援護射撃が入る。


「王様、ホルスト様のおっしゃることに間違いありません」

「うん?そなたは?」

「私はネイアと申しまして、エルフの王都にあるルーナ様とソルセルリ様の神殿で以前神官長を務めておりました」


 援護射撃を入れてくれたのはネイアさんだった。


 ネイアさんが神殿の神官長だったと聞いて、王様も話を聞く気になったのか、


「続けよ」


と、言う。


「なぜ私がホルスト様の言うことを信じるのか。それはホルスト様が『黄金のリンゴ』をお持ちだったからです」

「『黄金のリンゴ』?それはもしや伝説の?」

「はい。エルフの仙薬の材料となる『黄金のリンゴ』です。伝承によると、『神に選ばれた者だけが入れる神との約束の地にある森』にあるとされています。それをホルスト様がお持ちだったということは……」

「わかった。ネイアよ、それ以上申さないでもよい。そんな物を持っているということはホルストは神に選ばれたもので間違いない。思えば、この地で太陽の神殿の神官長によりホルストたちが窮地に陥ったときもリンドブル様が助けに来られたりしていた。ホルストたちこそ神に選ばれた者に違いない。さもなければ神が手助けするはずがない。本当、余は何を迷っていたのだろうか。よし、ホルストよ。お前たちのことを信じるとしよう」

「ははああ。ありがとうございます」


 俺は王様が信じてくれたことに感謝し、頭を下げた。


「それでホルストよ。そなたらが余に願うことは何だ」

「はっ。それを今から説明させてもらいます」


 王様に促されて俺は説明を始める。


★★★


「つまりは、『太陽の踊り』を踊れる王族を誰か遺跡に派遣してほしいということだな」

「はい。その通りでございます」


 俺が以前エルフの王様に示した書籍なども見せながら説明すると、ダークエルフの王様も大体概要を理解してくれたみたいで、ウンウンと大きく頷いている。


「それで、エルフ王は自分の娘を『月の踊り』の踊り手として派遣したということか」

「はい、左様でございます」

「となると、こちらも相応の者を出さねばならぬな。おい、誰か。アダムを呼んでくるのだ」

「はっ」


 王様の命令で部下の一人が謁見の間を出て行く。


 しばらくすると、部下は一人の少年を連れてきた。

 多分年はマルティナ王女とそんなに変わらないくらいだと思う。


 そして、俺はこの少年に見覚えがあった。

 ダークエルフ王たちと『太陽の踊り』を見物したときに王様の隣にいた少年だ。


 ということは、つまり……。


「紹介しよう。余の息子のアダム・マーシャル・リオ・ケインズだ。その遺跡にはアダムを同行させることにする」


 やはり少年はダークエルフの王子だった。

 王様の子息二人を連れて遺跡まで行くことになるのか……。

 責任の重大さを感じた俺は身が引き締まる思いをするのだった。

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