第278話~エルフの王女様とダークエルフの王都へ行く~

「さあ、出発するぞ」


 いよいよエルフの王都ファウンテンオブエルフを出て禁足地へ向かう日が来た。


「気を付けていくのだぞ」


 わざわざ町の城門まで来てくれたエルフ王に見送られて俺たちは町の城門を出る。

 うちの馬車が先頭を進み、その後に二台の馬車が続く。


 俺たちの後ろの馬車は、エルフの王女マルティナの乗る馬車だ。

 この馬車にはマルティナの他に、護衛としてネイア、女性騎士、その他マルティナの世話係の侍女たちが乗っている。

 女性騎士たちが馬車の外に陣取り、外を警戒し、ネイアが馬車の中で常に王女の側にいて護衛に徹し、侍女たちがその周囲にいるという配置だ。


 一番後ろの馬車にはエルフの騎士団から選抜された屈強な騎士たちが乗っている。

 一人で4、5人は相手にできそうな屈強な連中ばかりでこういった奴らが最後尾を警戒してくれているのは俺たちとしても心強い。


 そんな集団がまず向かったのは、エルフの禁足地との境にある村だ。

 ここにある門を通って禁足地へ入り、まずはダークエルフの王都へ向かうつもりだ。


 何せ融和の門を開けるにはダークエルフの力も必要だからな。

 まずはダークエルフの王にもいろいろと頼まなければならなかった。


 ということで、俺たちはダークエルフの王都へ向かうのだった。


★★★


「それでは行ってらっしゃいませ」


 禁足地へ続く門の門番は、そう言いつつ深々とお辞儀をしながら俺たちが通過するのを見送ってくれた。

 以前俺たちが通過した時よりも丁寧な対応だった。


 まあ、今俺たちの側にはエルフの王女様がいるからな。

 対応が丁寧になるのも仕方がないだろう。

 門番は下っ端の兵士に過ぎないからな。

 王女様どころか、護衛の騎士や侍女たちにも身分的に劣るだろう。

 俺でも門番の立場なら頭を下げる以外の選択肢を思いつかないと思う。


 それはともかく、禁足地への門を抜けた俺たちは街道を道なりに進んで行く。

 小一時間ほど進んだところで馬車を停める。


「ほう、ここが例の場所ですか」


 俺たちが馬車を停めたのを見て、王女様を連れたネイアさんが馬車の外へ出てくる。


「ええ、そうですよ」


 そう言いながら俺は街道沿いの森の中へ入って行き、茂みの中へ隠していたものを見せる。


「これがホルスト様が設置されたというダークエルフの王都へと続く転移魔法陣ですか」

「そうです。これが、ダークエルフの王都からの帰りに俺が設置した転移魔法陣です」


 俺はしれっとそう言ったが、もちろんこれは嘘だ。

 俺はダークエルフの王都からの帰りにこんなものを設置していない。

 これを設置したのは数日前、エルフの王都を出立する前日の話だ。


 というか、『空間操作』の魔法が使える俺にこんなものは不要だからな。

 それなのに俺がこんなものをこそこそ設置したりしたのは妙な勘繰りをいれられないためだ。

 まあ、今更隠す必要もない気がするが念のためだ。


 ということで、折角設置した転移魔法陣なので、早速使うことにする。


「今転移魔法陣を起動させました。そんなに長い時間は使えないので、急いで通ってください」

「わかりました」


 俺が魔法陣を起動したので、3台の馬車が急いで転移魔法陣を通っていく。

 こうやって俺たちはダークエルフの王都の近くまで一気に移動し、移動時間を大幅に短縮したのだった。


★★★


 転移門を抜けた先はダークエルフの王都の少し前の禁足地の森の中だった。


「本当にさっきとは違う場所のようですね。これが転移魔法陣!ホルスト様、さすがです!」


 景色が一変したのを見て、ネイアさんが妙に褒めてくれた。

 まあ、転移魔法陣を使うことなんか滅多にないからな。

 物珍しかったのだと思う。


 さて、ダークエルフの王都は目の前だし、すぐさま向かうとしよう。


★★★


「救い主様だ~。救い主様がいらっしゃったぞ~」


 ダークエルフの王都ダークパレスの城門の門番に俺が来訪を伝えると、門番は急いで王宮に使いを派遣してくれたあげく、そうやって町中に俺が来たことを大声で告げたのだった。

 すると周囲の町々からダークエルフの人々が集まって来て、


「救い主様、お元気でしたか」

「救い主様、万歳!」


と、えらく歓迎してくれるのだった。


 そして、その人々たちに囲まれながら俺たちは王宮に向かうのであった。


★★★


「王との面会時間は明日の午前になりますので、それまでこちらでお過ごしください」


 王宮へ入った俺たちはそうやって王宮の役人に離宮へと案内してもらった。

 以前俺たちが来た時にも王様は離宮を貸してくれたが、ここの離宮はその時に借りたのよりも大分広かった。


 まあ、前回来た時は俺含めて6人しかいなかったが、今回はエルフの王女様御一行がついて来ているからな。

 人数も20人を超えている。

 いくらなんでも前に借りた離宮では狭過ぎた。

 だからこそ、王様もここの離宮を貸してくれたのだと思う。


 ちなみに、ダークエルフの王様は今日にでも俺たちと会ってくれるつもりだったみたいだったが、こちらに王女様がいると知り、明日朝一番で会うことになった。


「エルフの王女殿下にも準備があるでしょう。ですから、明日がよろしいかと思います」


 王様の使いできた使者はそう言っていた。

 確かに王女様ともなると身支度とかその他いろいろなことに時間がかかるだろうから、王様も大分気を使ってくれたのだと思う。


 ということで今晩はここの離宮で過ごすことになる。

 食事の用意とかは王女殿下の連れてきた侍女さんたちがしてくれるということなので、俺たちものんびりさせてもらうことにする。


「私は20ですから、ここでストップします」

「ワタクシは14ですからもう一枚引きます。……7来い、7来い!……ぎゃあああ、キングが来ちゃいました。バーストです」

「アタシは19だからここでストップしておくかな。ヴィクトリアちゃんのお母さんとおばあさんはどうするの?」

「お母さんはエリカちゃんと同じ20だからストップね」

「おばあちゃんは、リネットちゃんと同じ19だからストップして、3枚目のクッキーをリネットちゃんと半分こするわ」


 嫁たちとヴィクトリア一家はお菓子を賭けてブラックジャックをしているようだ。

 ルール的には上位3名がお菓子をもらえて下位2名がもらえないという規定らしい。

 ただし、3位が同じ数字の時はお菓子を3位の者同士で分けることになっているらしい。


「ううううう、ワタクシだけ何もなしです」


 ということで、今回ヴィクトリアだけお菓子無しとなってしまい、悲しそうにしていた。


「ヴィクトリアさん、悪いけど食べさせてもらいますよ」

「ヴィクトリアちゃん、ごめんね」


 そうやって他のメンバーが食べるのを悔しそうに見ていた。

 だが、ここでくじけないのがヴィクトリアだ。


「さあ、次です!次のお菓子を賭けて勝負です!」


 皆がお菓子を食べ終えたのを見ると、そう言いながら次のお菓子を狙って再び勝負を仕掛けていくのだった。

 本当にヴィクトリアの食い物に関する執念はすさまじいと思う。


 え?お前は何をしているのかって?

 俺は嫁たちが楽しそうに遊んでいるのを見ているぞ。


 見るだけで満足なのかって?

 当たり前じゃないか。


 家族で楽しく暮らすのが俺の最終目標だからな。

 嫁たちが喜んでくれてうれしいに決まっているだろう。

 嫁たちの笑顔を見るのが俺にとって最高の癒しなのだからな。


 だから、今この瞬間、俺はとても楽しいと思っている。


 そんな風に俺たちが楽しんでいる一方で。


「王女様、そこの部分はもうちょっと手先をピンと伸ばさなければ、月の踊りとは言えませんよ。後、足のステップが少し遅いです。その点に留意してもう一度踊ってみてください」

「はい、ネイア先生。頑張ります」


 離宮の広間ではマルティナ王女がネイアさんに『月の踊り』を教えている。

 ここだけでなく、ここへの道中でもネイアさんは王女様に踊りを教えてきた。

 ネイアさんの教え方は厳しいけど的確で、最初のころよりも大分上達してきたと思う。


 王女様がこうやって踊りの練習をしている傍らで俺たちがのんびりしているのは何だか悪い気がするが、その代わり俺たちは昼間命がけで王女様たちを守っている。

 護衛という任務は結構体力と精神力を消費するので、休める時にはなるべく休む必要がある。

 現に王女様の護衛の騎士たちも当直の者以外はゆっくりしているしね。


 ということで俺たちものんびりさせてもらうことにする。

 そんな感じでその日の夜は過ごすのだった。


★★★


 その翌日。


「準備ができました」


 準備ができたらしい王女様が俺たちの前に現れた。

 ここまでの旅の道中、簡素な旅装だった王女様が今日はきらびやかなドレスを着ていた。

 うん、これならダークエルフの王様の前に出ても大丈夫だ。俺はそう思った。


「さあ、それでは行きますか」


 王女様の準備もできたことだし、いざダークエルフの王に会うことにする。

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