第275話~エルフの王様にお願いする そして、旅にエルフの王女様が同行する~

 エルフの古代図書館で遺跡の場所と入る方法を調べた次の日。


「それでは頼むよ」

「はい、お任せください」


 王様への謁見の申し込みの使者を送ることにした。

 使者はネイアさんにお願いすることにした。

 ネイアさんならば、神官長を退いたとはいえ、まだ王宮につてがあるので使者としては適当だと思ったからだ。


 え?王様に会うのに使者を送る必要があるのかって?

 当たり前じゃないか。


 王様が言われた通りに人に会っていたら威厳を失ってしまうし、第一王様は忙しいんだぞ。

 事前の約束のない人間に一々会っていたら仕事が滞ってしまうだろうが。


「ふーん。RPGだと、勇者って王様とかいつでも会えたりするんですけどね。現実になると、とても面倒くさいのですね」


 この件に関して、ヴィクトリアがまたもや訳の分からないことを言っていた。

 どうもRPGとかいうものの中だと、勇者はいつでも気軽に王様に会えるらしかった。


 というか、その勇者って実は大貴族か、王族なのか。


 それだったらそれもわからないではないが、ヴィクトリアに聞くと、


「いいえ、勇者は大抵の場合一般人ですよ」


とのことだった。


 ……うん。もう訳が分からないな。

 まあ、ヴィクトリアが世迷言を言うのはいつものことなので放っておくことにする。


 と、こんな感じでネイアさんに頼んで使者として王宮へ行ってもらったので、後は報告を待つだけだった。


★★★


 ネイアさんを使者として派遣した翌日。


「それでは出発しますよ」


 俺たちはネイアさんに先導されて王宮へと向かった。

 ネイアさんは昨日のうちに商館の館に帰ってきて、


「王様にお話を通してきました。明日参内するようにとの仰せです」


と、報告してくれたので、急遽今日王宮へ赴くことになったのだった。


 パトリックに馬車を引かせて町を進んで行くと、町の人々が生き生きと生活している姿が目に入った。


「さあさあ、今日はワイルドボアの肉が安いよ。奥さんどうだい?」

「あら、それじゃあ3人分くらいもらおうかしら」

「そこ行く冒険者の兄ちゃん。新規オープンの魔法薬工房『リラックス』はただいまオープン記念にポーションのセールをしております。お一ついかがですか」

「それじゃあ、試しに3本ほどもらおうか」


 そんな風に活発に取引がなされて町はとても賑やかに見えた。

 でも、俺にはそれは仮初の平和にしか見えなかった。


 何せここを離れて禁足地の方へ行くと邪神の復活をもくろむ連中がたむろしているからな。

 万が一そいつらの目論見が成功でもしたりしたら、この町、いや世界中が地獄と化すだろう。


 だから俺はこう誓うのだ。

 何としても邪神の復活を阻止してみせる、と。


★★★


「それじゃあ、パトリック。大人しくしているんだぞ」

「ブルルル」


 王宮へ着くと、馬車置き場にパトリックを残して俺たちは宮殿の方へと歩んでいく。


 前に来た時は忙しくて気が付かなかったが、ここの王宮の庭もきちんと手入れがされていて立派だった。

 特に真ん中にある噴水からは常時水が噴出しており、夏の暑さも相まってとても涼しげに見えたものだ。


「ああいう噴水のある家に住んでみたいですね」

「暑いのであの噴水の水でも浴びてすっきりしたい気分です」

「うん、とても素敵な噴水だね」


 うちの嫁たちにも好評なようなので、今日ここで見ることができたのはとても良かったと思う。

 そんなことを考えながら俺たちは宮殿の中へと入って行く。


★★★


 宮殿の中へ入ると、控室に通されそこで1時間ほど待たされた。


「時間指定されているのに、結構待たされるんですね」


 待たされることにイラっとしたのか、ヴィクトリアがそうやって愚痴をこぼすが、これは仕方がなかった。


 何せ相手は王様だからな。

 仕事は忙しいだろうし、俺たち以外にも面会客がいるだろう。

 それらの行事が全て予定通りに終わるわけがなく、後に面会する者ほど待つことになるのは必定だった。


 それよりも昨日面会を申し込んだにもかかわらず、今日会ってくれる王様に感謝するべきだと思う。


「皆様、お待たせいたしました」


 そうこうしているうちに担当の役人が迎えに来た。

 どうやら王様の方の準備ができたらしい。


「さあ、行くぞ」


 俺はそうやって気合いを入れながら謁見の間に向かうのだった。


★★★


「ホルストよ。しばらくぶりであるな。元気にしておったか」

「はは。おかげ様をもちまして、元気にやらせてもらっております」

「そうか。それは何よりである」


 エルフの王様との謁見はそんな挨拶から始まった。


 王様の横を見ると、王妃様と王女様が側に座っていて俺たちのことを温かく見守ってくれていた。

 後でネイアさんに聞いた話によると、王妃様たちが謁見の間にいることは滅多にないらしい。

 多分、俺たちに会いたくて出てきたのだと思う。


 王妃様たちは、俺たちが王様の命を助けるために全力で働いているのを見ているからな。

 王様が助かったときも俺たちに非常に感謝していたし。

 だから、こうして特別にいてくれているのだと思う。


 それはそれとして、俺と王様の会話は続く。


「ところで、ホルストよ。今日はどのような用件で参ったのじゃ」

「実は王様にお願いしたいことがあって参りました」

「ほう、願いとな。そういえば、そなたらは古代図書館で禁足地の遺跡について調べておったな。もしかしてその件についてかな?」

「さすがは、王様。話が早くて助かります。今日はその件について王様にお願いしたいことがあって参りました」


 そこまで言ったところで、俺は遺跡で見つけてきた例の本を王様に差し出す。

 あの『禁足地の遺跡に関する調査結果と伝承の考察』という本だ。


「遺跡に関する記述のある本です。このしおりを挟んでいるページをご覧ください」

「うむ」


 王様は俺から本を受け取ると、しおりの挟んでいる数ページを読み、うんうんと頷いてみせる。


「ホルストよ。この『融和の門の門の前にて、太陽と月をあがめる王の末裔たちが太陽と月の踊りを捧げよ。さすれば、遺跡への道は開かれん』という文言なのだが。これは、もしや」

「はい。それは遺跡の門の前には融和の門と呼ばれる門があり、そこを通るためにはエルフとダークエルフ、それぞれの王族が協力して融和の門の前でそれぞれ『月の踊り』と『太陽の踊り』を踊る必要があるという意味でございます。今回ここへ参りましたのは、、融和の門の前で『月の踊り』を踊るために王族の誰かを派遣してほしいと、お願いするためでございます」

「ふうむ」


 俺の返事を聞いて王様がうなる。

 急に遺跡へ行くために王族を派遣してくれと頼まれたら、王様と言えども困ると思う。


「ううむ。王族の派遣か。それは中々に難しい案件だな。実を言うと派遣するにふさわしい王族がパッと思い浮かばぬのだ。余にも弟かいるのだが、あいつは運動不足で踊りのキレが悪いしの。他にも神に捧げ踊りがそれなりにできる者となると、候補が思い浮かばぬ。さて、どうしたものか」


 俺の話を聞いて王様は真剣に悩んでくれた。

 一応王様には遺跡の封印がおかしくなったら世界の危機だということは伝えてあるので、どうにかしようと悩んでくれているようだった。


 と、ここで王様に救世主が現れた。


「お父様。その役目、私にお任せくださいませんか」


 何とエルフの王女様が名乗り出たのだった。


「何と、マルティナよ。お前が行くというのか。確かにお前は王族の中では『月の踊り』をうまく踊れる方だと思うが、お前はまだ幼い。そんなお前を禁足地へと向かわすのは、父としては心配だ。だから、止めておきなさい」


 それに対して、マルティナ王女は激しく首を横に振る。


「何をおっしゃるのですか。ホルスト様たちは世界を救うために行動していると、お父様はおっしゃていたではないですか。それで、今からやろうとしているのはその世界を救うための行動なのでしょう?だったら私たちはエルフの王族として、世界を救うための模範となる行動をしなければなりません。もし私一人の身を案じて、世界が滅んでしまったら、それこそ世界に恥をさらすことになります。ですから、ここは私に是非行かせてください」

「ううむ」


 娘のその言葉を聞いて王様が驚いた顔になる。

 どうやら自分の娘がここまでしっかりしたことを言うとは思っていなかったようだ。


 そして、しばらく考えた後、王様は結論を出す。


「わかった。マルティナよ。お前の決意がそこまで固いのであれば父はもう止めはせぬ。しっかりと使命を果たしてきなさい」

「お父様、ありがとうございます」


 エルフ王の許しを得たマルティナ王女はぺこりと頭を下げる。


「ただし、護衛はきちんとつけるぞ!そうだな。まず近衛の一個部隊に、侍女、それにネイアに護衛を頼もうかの」

「え?私ですか」


 急に王様に指名されたネイアさんは驚いた顔をしていた。


 というか、俺たちも驚いた。


 これからどうなるのだろうか。

 俺はそう思いながら事態の推移を見守るのだった。

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