閑話休題39~その頃のオヤジ ああ、孫に会いたい~

 オットー・エレクトロンだ。


 今日は久しぶりに孫のホルスターに会える日だ。

 私はしばらく孫に会えていない。

 というのも、最近ホルストのやつが『ホルスターに魔法の修業をさせる』とか言って連れて行ってしまっていたからだ。


 私はホルスターに魔法は早いんじゃないかと思っていた。

 ヒッグス一族では魔法の修業というものは5歳くらいから始めるのが普通なのだ。

 いくらなんでも2歳の子に魔法を教えるのは早すぎるのではないかと思う。


 ただ、ホルスターは誰も教えていないのにホルストたちが魔法を使っているのを見て覚えてしまった。

 そんなことがあるのかとも思うが、実際に私も見たので間違いない。

 我が孫ながら凄い才能だと思う。


 しかし、教えられてもいないのに魔法を使うというのは実は暴走の危険を常に抱えることになるのでどこかでちゃんと魔法の使い方を教える必要があるのも確かだ。

 だからこそ、ホルストが魔法の修業をホルスターにすると言った時にも文句を言わなかった。


 しかし、だからと言って何か月も私に孫を会わせないというのはどういうつもりなのだろうか。

 確かに魔法の修業が順調で忙しかったのはわかる。

 この前のお披露目会でホルスターは素晴らしい成果を示していたからな。

 あれを見て親戚中の奴らが驚いていた。


「いやー、素晴らしいお孫さんをお持ちですな」


 私も親戚連中に散々そう言われたものだ。


 だからと言って、私に一切顔を見せなかったのはどうかと思う。

 いや、正確に言うと、ホルストがあいつの側室の親御さんたちの顔を見せに来た時にちょっとだけ顔を見る機会があったが、それだけだ。


 そもそも私は月に一度しかホルスターに会う権利が無いというのに、それすら奪われてしまったのは酷いと思う。


 まあ、いい。

 今日こそは久しぶりに孫とゆっくり話せるのだから。


 今日のためにしっかり準備した。

 昨日妻のカイラと一緒に町へ出かけて、ホルスターの為にお菓子やおもちゃをちゃんと買ってきたからな。

 会うための準備は万全だ。


「旦那様。そろそろ出かけますよ」


 そうこうしているうちに妻のカイラが声をかけてきた。

 どうやらそろそろ出かける時間が来たようだ。


「さあ、行くぞ」


 私たちは意気揚々と家を出た。


★★★


「ごめんねえ。ホルスター、夜暑かったから蒲団はいじゃって。それでお腹冷やしちゃって風邪ひいちゃったのよ。だから今日は会えそうにないわ」


 ヒッグス家の屋敷に着いた私たちを待っていたのは残念な話だった。


 レベッカの話によると、どうやらホルスターは風邪を引いたらしかった。

 どうやら暑くて夜中に蒲団をはいだらしく、それでお腹を冷やして風邪をひいたらしかった。

 幸いなことに容体は大したことが無くて、ちょっと熱があるくらいらしいので、2、3日も寝れば回復する見込みだという。


 それは良いのだが、おかげで今日は会えそうになかった。

 残念だが仕方ない。


「ホルスターもおじい様とおばあ様に久しぶりに会えるって楽しみにしていたのに、ごめんねえ。まあ、数日で元気になると思うから、そうしたら連絡するから、また来てね」


 レベッカにそう言われてしまっては私たちとしては帰るしかなかった。

 出されたお茶をゆっくり飲んでから帰ろうとすると。


「魔法騎士団長様、ご隠居様がお呼びですよ」


 屋敷の執事が私に声をかけてきた。

 どうやらご隠居様が私のことをお呼びのようだ。


 正直嫌な予感しかいないが、ご隠居様のお呼び出しを断るわけにはいかない。


「わかった。すぐに行くとお伝えしてくれ」

「畏まりました」


 私の返事を聞くと、執事はご隠居様の所へと急いで駆けて行くのだった。


★★★


「本当にホルスターはすごい子だな」


 ご隠居様の部屋に行くなり、ご隠居様は私にそう言って声をかけてきた。

 どうやらこの前のホルスターの魔法披露会でホルスターの魔法を見てひ孫のことを自慢したくなったらしかった。


 ちなみに妻のカイラは先に家へ帰してある。

 まあ、私に巻き込まれてご隠居様の愚痴を聞かせるのはかわいそうだからな。

 だから先に帰した。


「正直、あの年であそこまで魔法を使えるとは思っていなかった。あれだけの魔法を使えれば普通の魔法使いでは歯が立つまい。さすがはわしの血をひくひ孫。素晴らしいと思わないか」

「はい、その通りです。ご隠居様」


 ご隠居様のその発言を聞いて私は思った。

 確かにホルスターはあなたのひ孫ではありますが、私から見たら孫なのです。

 だから私の血の方が濃いのです。


 ご隠居様にそう言ってやりたかったが、小心者の私にそんなことが言えるはずもなく、ただ追従(ついしょう)するのみだった。


 その後もご隠居様の話は続く。


「わしはホルスターを一目見た時から、素晴らしい魔法使いになるとわかっていた」

「ホルスターの手の形とか、わしの死んだ父親にそっくりだ。父は魔術師として一族の中でも実力者として超有名だったから、こうなったのも必然だ」


 と、ホルスターのことを褒めながらも自分の血統の自慢をしていた。

 まあご隠居様の血統と言ってもホルスターの半分はうちの血統なわけだから、そう自慢するのもどうなんだと、私は思うけどね。


 もちろん、賢い私はそう思っていることをおくびにも出したりしないが、ね。


 と、ここまではご隠居様の自慢を聞くだけだったので別に良かったのだが、問題はここからだった。


「しかし、血統という点で一族に素晴らしい貢献をしているわしが、何でかわいいホルスターに自由に会えないのだ!」


 ほら、予想通りご隠居様の愚痴が始まった。


 私の嫌な予感は的中してしまった。

 だから私はここへ来たくなくて、妻を先に家へ帰らせたのだ。


 結局。


「本当なら今日会えるはずだったのに、風邪をひいてしまうとは……。ホルスターの世話をしている屋敷の使用人は何をしているのだ!職務怠慢だ!許せん!」

「ホルスターともっと会いたい!オットー、何とかしろ!」


 と、延々と愚痴を聞かされ続けるのだった。


「オットー、次に来るまでにどうにかするのだ」


 最後にそう言われて解放されるのに2時間ほど愚痴を聞かされ続けたのだった。


 というか、前にも言ったような気がしますが、我々がホルストたちに許してもらうには、大人しくしてひたすら謝って相手の気が変わるのを待つしかないのですよ。

 何度も同じことを言わせないでください。


 だから私にどうにかしろと言われてもどうにもできませんよ。

 本当、そんな無茶な命令は勘弁してください。


 それに使用人どうこう言ってますが、そういうことは担当の使用人に直接言ってください。

 それ、ホルスターに会えない不満を私にぶつけてきているだけですよね。

 本当に使用人に文句を言ったりするとトーマスのやつに怒られるから。

 そういうパワハラもそろそろやめて欲しいです。


 と、いろいろ思ってみたものの衰えたとはいえまだ一族の中で多少は権力を有しているご隠居様に逆らえるはずがなく、


「はい、必ずや」


と、私は素直に返事をするのだった。


 ああ、孫に会えると思ってここへ来たのにどうして私はこんなひどい目に遭わなきゃいけないのだろうか。

 そんなことを思いながら、私は家に帰るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る