第272話~ヴィクトリアのお母さんの黒歴史、発見される~

 さて、ヒッグスタウンでのホルスターの魔法の披露会も終わったのでエルフの禁足地の遺跡をそろそろ何とかしようということになった。


 ということで、一旦ファウンテンオブエルフに帰ることにする。

 その前に。


「私もそろそろ天界に帰るのである」


 ジャスティスが天界に帰ることになったので送別会をしてやることにする。

 まあ、なんだかんだ言ってもジャスティスには新人の子の訓練の件では世話になったからな。


 それに、ライトニング先生もジャスティスと試合ができてとても喜んでいたからな。

 先生も、口には出さなかったが、ジャスティスの正体に薄々気が付いていたようだし、自身が目標としている憧れの神様と試合をさせてあげられて、俺としては少しでも先生に恩返しができてとても良かったと思う。


 送別会は商業区にある町では有名な居酒屋で行うことになった。

 別にもっと高級店でもよかったのだが、本人が、


「最後にこのあたりの郷土料理を食べたいのである」


と、希望したのでここですることになった。


 後、訓練に参加した騎士団や白薔薇魔法団の子たちも招待したが、仕事の都合上来られたのは数名だけだった。

 先生も残念ながら来られなかった。


「ディケオスィニ殿にはよろしく言っておいてくれ」


 先生にそう伝言を頼まれたので、ジャスティスには俺からそう伝えておいた。

 それで、肝心の送別会なのだが、これは完全に無礼講となってしまった。


「さあ、どんどん飲むのである。後この野兎のシチューとか言う郷土料理が食べたいのである」


 ジャスティスのやつ、そう言いながらどんどん酒と料理を注文しては飲み食いしやがった。

 主賓がそんな調子だから、他の参加者が遠慮するはずもなく。


「店員さん、このワイン一気に三人分持ってきてください。後、オークの串焼きも追加で5人分ほど下さい」

「お母さんは、このリキュール3つね」

「おばあちゃんは、このカクテルを2杯ちょうだい」


 ヴィクトリア一家は大量に飲みきれないくらいの酒を注文して飲むし、それに対抗心を燃やしたのかエリカも、


「私は、このエールを大ジョッキで5杯下さい」


と、大量に酒を飲んでいる。


 そんな光景を見ていると俺は思った。

 これ絶対エリカ以外酔いつぶれて、帰りに苦労するパターンだと。


 俺はひそかに店員さんを呼ぶ。


「なあ、料金を払うから帰りの馬車の手配を頼まれちゃくれないか」

「畏まりました」


 そんな俺の悪い予感は見事的中し、


「もう飲めません」

「吐きそう」

「眠いわー」

「地面が回るのである」


 最後はそうやって酩酊状態になったヴィクトリア一家を借りてきた馬車に乗せて屋敷に連れ帰ることになったのであった。


★★★


 次の日の昼頃。


「それでは私は帰るのである」


 ようやく二日酔いから立ち直ったジャスティスがそうやって帰って行った。


「またな」


 最後にそうやって声をかけてやると、ジャスティスは手を振りながら帰って行った。


 さて、ジャスティスも帰ったことだし、俺たちも予定通り行動することにする。

 ファウンテンオブウルフに帰ることにしたのだ。

 荷物をまとめ準備が整ったところで、エリカの両親の所へ行く。


「それでは、行ってきます」

「気を付けるんだよ」


 そうやって挨拶をしてから馬車に乗り込み屋敷を出る。


「パパ、ママ、気を付けて行ってきてね」

「皆様、頑張って来てください」


  馬車に乗り込む時にホルスターと銀がそうやって挨拶をしてきたので俺は二人の頭を撫でてやる。

 今回やるのはエルフの古代図書館での調査だからな。

 二人のことに構ってやる時間はあまりない。

 だから、エリカの実家に預けていくことにした。


 ちなみにエリカのご両親にそのことを頼むと。


「おお、任せておきなさい」


 そうやって非常に喜んでいた。

 多分、孫と久しぶりに長期間一緒に過ごせそうで単純にうれしいのだと思う。


 さて、ホルスターたちのこともお父さんに頼んだことだし、図書館に行くとしよう。


★★★


「うわー、すごく広い図書館ですね」


 図書館に着いて中を見渡したエリカがそうやってうれしそうに目を輝かせていた。

 まあ、エリカは研究熱心でそういう難しい本を読んで勉強するのが好きだからな。

 この反応は当然と言えた。


「うげえ」


 一方、同じ本好きのはずのヴィクトリアは図書館を一目見るなりげんなりとした顔をしていた。

 なぜならば。


「ここには難しい本ばかりで、小説とか全然ないらしいではないですか。ワタクシ、そういうのはあまり読みたくないです」


 ということらしかった。

 まあ、ヴィクトリアってエリカたちとたまに町の図書館へ行ったりするのだが、その時も物語しか読まないらしいからな。


 同じ読書好きといってもエリカとはだいぶタイプが違うということだ。


 まあそれでいいと思う。

 難しい本を読んで熱心に勉強するヴィクトリアとか想像できないからな。


 というか、それヴィクトリアじゃないし。

 俺はヴィクトリアには今のままでいて欲しいなと思う。


 それはともかく、図書館の中を捜索することにする。

 図書館はとても広かった。


「図書館は地下5階まであるわ」


 ヴィクトリアのお母さんの話によると、ここの図書館は地下5階まであるらしかった。

 しかも1階1階がとてつもなく広い。

 大体ノースフォートレスの町の闘技場の競技スペースくらいの広さがあった。

 この中に大量の本が無造作に置かれているのだから、目的の本を探すのは中々に大変なことだと思う。


 しかし、俺たちはそれをやり遂げなければならない。


 さて、頑張るとするか。

 そう誓うと、俺たちは本の捜索を開始するのだった。


★★★


 ヴィクトリアです。


 ここは思ったよりもつまらない場所ですね。

 何せ難しい本がてんこ盛りで、見ているだけで目が回りそうです。


 例えば、これ。

 『魔法文字の体系と応用』。


 ちょっとだけ中身を読んでみましたが、ちんぷんかんぷんでした。

 エリカさんなら喜んで読むのかもしれませんが、どう考えてもワタクシには合わない本です。


 だから、遺跡に関する本を探すと言われてもいまいち気持ちが乗りません。

 それでもやらないわけにはいかないので、こうやって本を探しています。


「えーと、遺跡の本ですね。『遺跡の建築学』、『遺跡探検』、『世界遺跡』……うーんどれも違うみたいですね」


 そんな風に禁足地の遺跡に関する本がないか頑張って探しています。

 すると。


「あれ?この本、題名が無いですね」


 1冊の題名がついてない本を見つけました。

 何だろう、と思ってページをめくってみると。


「『ソルセルリ愛の日記』?」


 本の内表紙にはそんなことが書かれていました。


「これは……もしかしてお母様の日記?」


 ワタクシはすぐにそれがお母様が前に言っていたお父様への愛を綴った日記だと気が付きました。


「お母様ったら……仕方がないですね」


 ワタクシはそれを約束通りお母様に渡しに行こうと立ち上がりました。

 ですが。


「あれ?でもよく考えたら、これってチャンスじゃないですか」


 ワタクシの中に黒い思いが浮かんできます。

 これは散々ワタクシのことをひどい目に遭わせてきたお母様をギャフンと言わせるチャンスだと。


 そう考えたワタクシは、その日記をそっと収納リングにしまうのでした。

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