第271話~ホルスターの魔法お披露目会 後編~

「ホルスター、賢いお前ならわかっていると思うが『極大化魔法』は使うんじゃないぞ」

「うん、大丈夫だよ、パパ」


 魔法のお披露目会を行うにあたり、俺はホルスターに『極大化魔法』だけは使うなと言っておいた。


 『極大化魔法』の存在は今の所俺たちしか知らない。

 だからそんなものをうっかり人前で使ったりしたら騒ぎになる。


 それにホルスターの『極大化魔法』はまだ完全ではない。

 もっと練習しなければいけない。

 そんな状況で使って暴走したりしたら危ない。


 ということで、今回は『極大化魔法』無しで行くことにしたのだ。


 幸いなことに、ホルスターの魔法の腕は『極大化魔法』を使わずとも、十分に人に見せても大丈夫なレベルに達している。


 多分、これを見ただけでも一族の連中は満足してくれると思う。

 何せ、ホルスターの方が偉そうに振る舞う一族の奴らよりも実力はあるからな。

 だから、今回に関してはそれでよいと思う。


 さて、一通り注意もしたことだし、いよいよ本番だ。


★★★


「よし、設置しろ!」

「ははっ」


 エリカのお父さんの命令で、騎士団の連中が会場に木の的を20個ほど設置する。


「それでは、ホルスター始めなさい」

「はい、おじい様」


 そしてお父さんに言われて、ホルスターが所定の位置へ立つ。


 所定の位置に立ったホルスターは魔法の杖を構える。

 この杖は俺が今日この日のために用意してやったもので、樹齢200年以上の木から作られた逸品物の杖だ。

 ドラゴンの杖ほどではないが高価な物で、子供が使うには十分なものだった。


「『火矢』」


 位置に着いたホルスターは早速魔法を使用する。

 すると空中に火の矢が出現し、一直線に的へ向かって行く。

 魔法は見事的に命中し、ドンという音とともに的を焼き尽くす。


「おおおお」


 それを見て会場がざわめく。


 というのも、ホルスターの魔法は大人の魔法使い顔負けの威力と速度を持っていたからだ。

 正直言うと、大人でもホルスターくらい魔法を使えるものは少数派だ。

 だからみんな驚いたのだ。


 だが、ホルスターの実力はまだまだこんなものではない。


「『火矢』」


 ホルスターが続けて同じ魔法を起動させる。

 再び空中に火の矢が出現する。

 ただし今回出現した火の矢は一つだけではない。


「19個」


 会場中が思わず息を飲む。

 19個。つまり的と同じ数だけ出現したのだ。


 同じ魔法を複数起動させるのはかなり難しく、大人でも中々できないのだが、ホルスターはそれをいともたやすくやってのけた。

 それも19個というかなりの数を、である。


 いくら『火矢』という初級の魔法とはいえ、これはすごい数だ。

 多分、この場にいる一族の奴らでもできるやつはあまりいない。

 そのくらい難しい事だった。


 それはともかく、ホルスターの魔法は一斉に的に向かって行く。

 ホルスターの魔法は今度もまた見事に命中し、しかも19発同時命中という離れ業までやってみせ、ドッゴーンという先ほどよりも大きな音を会場中に響かせる。


 しかし、ホルスターのお披露目会はこれで終わりではない。


「おじい様、次お願いします」

「うむ。騎士団、次の的を用意しろ」

「ははっ」


 エリカのお父さんの命令で、騎士団の人たちが次の的をすぐさま用意する。


「エッホ、エッホ」


 お父さんの命令を受けて、騎士団の人たちが今度は30個の的を設置する。

 その的にホルスターが再び向かい合う。


「『火矢』、『風刃』、『光の矢』」


 ホルスターが今度は3つの魔法を同時に起動する。


 異なる魔法の同時発動も難しい技だ。

 これも修業を積んだ魔法使いでないとできない技だ。

 それをホルスターはいとも簡単にやってのけてしまった。

 しかも3つの魔法を同時に、である。


 さらに言うと、3つの異なる魔法を1つにつき10個ずつ発動している。

 ここまで来ると魔術師の称号をもらってもおかしくないレベルである。


 というか、称号をもらっている人でも3つの異なる魔法を同時に発動できるか怪しいくらいだ。


 それはそうとして、発動したホルスターの魔法は一直線に的へと向かって行く。

 ホルスターの魔法は着弾すると、ドッゴオオオオンと大きな音を立てて魔法が着弾する。


「おおおおおおお」


 集まっていた人々が驚愕の声を発する。

 まあ、まだ2歳の子供がこんなすごい芸当をするのだから当たり前の反応である。


 ただ、ホルスターのお披露目はこれで終わりではない。


「おじい様、最後のをお願いします」

「よし、黒虎魔法団よ!次の的を設置せよ!」

「ははっ」


 お父さんの命令で、今度は黒虎魔法団の人たちが動く。


「『土生成』」


 黒虎魔法団の人たちは魔法で土を生成して的を造成していく。


「エッホ、エッホ」


 そこに騎士団の人が鉄の板を運んで来て土の間との表面にはめ込む。

 これで的の完成だ。


 三度ホルスターが的の前に立つ。

 的の前に立ったホルスターは目を閉じ精神を集中する。


 最後のお披露目としてホルスターがやろうとしているのは魔法の連続発射だ。

 これも高度な技なので、おいそれとできるのものではない。


 しかし、ホルスターは簡単にそれをやってしまう。


「『火矢』、『火球』、『火槍』、『風刃』、『水刃』、『光の矢』、『石槍』……」


 次から次へと息を注ぐ暇お無いくらい連続で魔法を放ち続けていく。

 それを50発ほど続けた後、


「それまで」


お父さんがホルスターを止める。

 別に魔法の使い過ぎでホルスターが疲れたとかそういう理由ではなく、的が吹き飛んで無くなってしまったから止めただけの話だ。


 ということで、これで今日のお披露目会は終わりだ。


「よく頑張ったな」


 俺とエリカが駆け寄って行き、ホルスターの頭を撫でてやると、ホルスターはにこりと笑った。

 子供らしい無邪気な笑顔だった。

 そんな息子の笑顔を見た俺は、息子のことがかわいくてたまらなくなるのだった。


★★★


 その晩、俺はエリカとホルスターと3人で川の字になって寝た。


 招待客が帰り、晩御飯を食べた後、


「今日、ホルスターは頑張ったからな。何か欲しいものはあるか。何でも言ってみな」


そう聞くと、


「じゃあ、今日パパとママと3人で寝たい」


という返事が返って来たので、そうすることにしたのだ。


 本当、我が子ながらかわいらしいことを言うやつだ。

 まあ、ホルスターもまだ2歳。

 周りにはたくさん相手にしてくれる人がいるとはいえ、まだまだ親に甘えたい年頃なのだと思う。


「さあ、ホルスターに旦那様。いい時間になって来たから寝ますよ」


 エリカに促されて3人一緒にベッドに入る。

 奥からエリカ、ホルスター、俺の順に並んで寝る。

 ベッドに入って早々ホルスターがこんなことを言ってきた。


「パパやママと寝られて、僕幸せだな」

「あら、かわいらしいこと」


 そのホルスターの言葉を聞いて、エリカが思わず息子のことを抱きしめる。

 いや、エリカだけではない。


「パパもホルスターと一緒に寝るのはうれしいぞ」


 俺もそう言いながらホルスターを抱きしめる。

 俺たち二人に抱き着かれたホルスターはちょっと苦しかったのか、ちょっとだけバタバタする。


 しかし、それも束の間。


 しばらくすると昼間のことで疲れたのか、すやすやと寝息を立てて眠り始めた。

 それを見て、俺とエリカはくすくすと笑う。


「本当に、かわいらしい息子だな」

「本当にそうですね」


 そうやって息子について夫婦でひとしきり話した後、俺たちも眠くなってきたので寝た。


 本当に今日は最高の一日だったと思う。

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