第270話~ホルスターの魔法お披露目会 前編~

「ホルスト君にエリカ。ちょっと来なさい」


 魔物退治から帰ってきてしばらく経った頃、俺とエリカはエリカのお父さんに呼ばれた。


「失礼します」


 お父さんの執務室に入ると、そこには机に座りながらニコニコ顔で俺たちのことを待っていたお父さんの姿があった。


「まあ、座りなさい」


 お父さんに促されて席に座ると、


「失礼いたします。お茶とお菓子をお持ちいたしました」


すぐに秘書の人がそう言いながらお茶とお菓子を出してくれた。


「「「いただきます」」」


 それで、それを食べながら3人で話し合いに入った。


「それでお義父さん。今日はどういったご用件ですか」

「うん、実はね。前にも言っていたホルスターの魔法のお披露目会の準備が整ったんだよ」

「へえ、そうなんですね。それでいつ開催するのですか」

「5日後だね」

「5日後ですか。結構急な感じですね」

「そんなことはないだろう。ホルスターもずっと魔法の練習を頑張っているみたいだし、それにお披露目会といっても普段通りに魔法を使えばいいだけだし、何とかなるだろう」


 俺の心配に対して、お父さんは割と楽天的なようだ。

 それだけ孫のことを信じているのだと思う。


「わかりました。それでは5日後ということで。俺たちの方でも準備します」

「ああ、頼んだよ」


 これで大まかな打ち合わせは終わりだ。

 後は細かい話をして、俺たちはお父さんの執務室を出たのだった。


★★★


 それから数日が経ち、お披露目会当日になった。


 その日は朝から、いやその前の日の晩から、エリカの実家はてんやわんやの騒ぎとなっていた。


「何をしているんだ!その食材は厨房に運んでおけと言っただろうが」

「はい、申し訳ありません」

「それから、そっちの調度品は中庭に運ぶように言っていただろ?まだ運んでいなかったのか」

「すみません」

「本当にそんなことでは御屋形様がお怒りになるぞ!しっかりしろ!」

「はい、直ちに運びます」

「そうしてくれ」


 そんな風に若い使用人やメイドさんたちが、執事長やメイド長さんに怒られながら忙しそうに働いていた。

 まあ今日は結構な数の招待客を呼んでいるらしいからな。

 その準備に忙しいのはよくわかる。


 その原因となったホルスターの親としては心苦しい限りだ。

 本当申し訳ない。


 一方、俺たちもまた忙しかった。


「ホルスター、お着替えしましょうね」

「うん、ママ」


 エリカはホルスターを着替えさせるのに忙しかった。

 この日のために用意した子供用の軽いローブに着替えさせていた。


「エリカ様、整髪料ここに置いておきますね」

「うん、銀ちゃん、お願い」


 横では銀が張り付いてかいがいしく手伝っていた。

 今は整髪料を持ってきてくれたようで、エリカに言われてそれを机の上に置いていた。


 何せ今日はホルスターにとって晴れの日だからな。

 髪型もビシッと決めなければいけない。

 そのために昨日わざわざ散髪したりしたからな。

 そこまでしたのだから、俺も息子のカッコいいところを見たいと思う。


 なお、エリカと銀がホルスターの世話をしている傍らで、俺は今日の来客たちへ向けてする挨拶の原稿をチェックしていた。


 正直言うと、この手の挨拶、俺は苦手だ。

 だが、皆がホルスターの魔法を見に集まってくるというのに父親である俺が挨拶をしないわけにはいかなかった。

 だから本番前にこうして何度も原稿を確認しているというわけだ。


 ちなみにこの原稿を書くのに3日ほどかかった。


「旦那様、これではダメです。やり直し!」


 そうやって何度もエリカにダメだしされ、何度もやり直したからだ。

 そのおかげでそれなりの文章ができたと思う。


「旦那様、準備できましたよ」


 そうこうしているうちにホルスターの着替えも終わったようだ。


「それじゃあ、行くか」


 ということで、俺たちはお披露目会に参加するために部屋を出るのだった。


★★★


 エリカの実家への入場が始まると、すぐ大勢の人が屋敷の中へ入って来た。


「本日は息子の魔法のお披露目会に来ていただきありがとうございます」


 次々と入ってくる人々に対して俺とエリカはそうやって挨拶して行った。

 まあ、入ってくる人たちは大体一族の人たちで顔見知りの人が多かったから、


「すごいじゃないか」


と、励ましてくれる人が多かったけどね。

 それに一族の人と言っても昔俺のことをいじめていたような連中はそもそも呼んでいないから俺としては気楽なものだった。


 さて一通り皆が入った後はレセプションパーティーだ。


「本日は私の息子ホルスターの魔法お披露目会に集まっていただきありがとうございます」


 パーティーは俺のそんな挨拶から始まる。

 基本と言えば基本だ。


 ただこうやって人前で挨拶をするのは苦手なので、折角3日掛けて作成した文章だったが、自分でもちゃんと言えたかよくわからなかった。

 多分、半ば棒読み状態だったとは思う。


 それで、俺の後はエリカのお父さんが続けて挨拶をし、その後は食事だ。

 パーティーは立食形式なので好きに料理は食べてよいことになっている。


「これはおいしそうな料理が並んでますね。お母様、おばあ様、行きましょう」

「そうね。これだけごちそうがあるんだから、行かなきゃね」

「おばあちゃんも食べたいのだ」

「おばあさま方、私も行くのでお待ちください」


 会場ではいつもの通りヴィクトリアが先頭に立ってごちそうに突撃して行っている。

 ヴィクトリアに誘われてお母さんとおばあさんもそれに続く。

 ジャスティスだけ置いてけぼりを食らいそうになったが、何とかついて行っている。


「ああ、このステーキおいしいですね」

「お母さんはこの小さいケーキが気に入ったわ」

「おばあちゃんはソーセージがおいしかったわ」

「私はこの鳥の煮込みがいいのである」


 そして一家そろって仲良くごちそうを食っている。


 仲が良くて結構なことだと思うが、あんたらはどちらかというと主催者側の人間だからな。

 食ってもいいが、招待客にみっともない姿を見せないようにしてくれよ。


 本当、お願いします。


 その一方でホルスターの方を見ると、ホルスターは同じ年頃の一族の女の子たちに囲まれていた。


「ホルスター様、このケーキ一緒に食べませんか?」

「ホルスター様、今度ぜひうちに遊びに来てください」

「ホルスター様、一緒にお庭をお散歩しませんか」


 と、モテモテであった。


 ただ、ホルスターは大勢の女の子に囲まれて困惑しているのだろう。迷惑そうな顔をしていた。

 そこへ不機嫌そうな顔をした銀が現れ、女の子たちの間に割って入って行く。


「はい、はい、皆さま。ホルスターちゃんはこの後大事なお披露目会があるのです。ですから、その準備に忙しいのでご遠慮ください」


 そして、そんな風に女の子たちを追い払っていた。


 ホルスターの誕生日会の時にも似たような状況になって、その時も銀は女の子たちを追い払っていたが、あの時よりも追い払い方の腕が上がっていると思う。

 こういうのを見ると銀も順調に成長しているのだと思う。


 それで俺とエリカなのだが、俺たちは来客との挨拶に忙殺されていた。


「素晴らしいお子様をお持ちですな」

「ありがとうございます」

「さすがは本家の血を引くお子様ですな」

「そうですね」


 と、こんな感じで忙しかったのだ。


「疲れたのなら何でも手伝うから、言ってね」


 一応、リネットがサポートについてくれているので多少は楽だが、それでも面倒くさいことに変わりはなかった。

 まあ、皆ホルスターのために集まって来てくれているのだから、親としてはこのくらい我慢しなければ、と思って頑張るのだった。


 こんな感じでレセプションパーティーは進んで行くのであった。


★★★


 さて、パーティーが終わるといよいよ本番だ。

 俺とエリカはホルスターを連れてお披露目の会場へと向かう。


 その途中、緊張しているのか、ホルスターの肩がちょっとこわばっているのに気が付く。

 まあ、ホルスターは割としっかりしている子だがまだ2歳だからな。

 大勢の大人の前で魔法を使うとか慣れないことをするのに緊張しないわけはなかった。


 そんな息子の背中を俺は押してやる。


「そんなに緊張するな。普段通りにやればいいだけだからな」

「うん、パパ、頑張るよ」


 こうしてホルスターの魔法のお披露目会本番がいよいよ始まる。

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