第267話~ジャスティスとライトニング先生の試合~

 宿屋に泊まった翌朝。


 魔物たちの村へと出発する前に俺たちは朝の訓練をしていた。

 訓練は騎士団組と白薔薇魔法団組で別れてやっている。


 白薔薇魔法団組の方はヴィクトリアのお母さんが中心となってやっている。

 そして、エリカとヴィクトリアがお母さんの補助をしているという形だ。


「それでは、皆さん。瞑想から始めますよ。瞑想は集中力を高めるための基本の修業です。基本を怠るのはダメですよ」

「はい」


 今は瞑想の修業中らしく、敷物を地面に敷いて全員で一生懸命にやっているようだ。


 一方で、騎士団組の方だが。


「素振りは剣術の基本。しっかりと動きを習得して、無駄な動きを排除し洗練された動きを手に入れるのだ」

「はい」


 ジャスティスの監督の下、基本の素振りをやっている。

 こっちはジャスティスを中心にして、俺とリネットと先生が補助するという形でやっている。

 今もジャスティスは一人の騎士団の子に指導している。


「ふむ、お前は剣を振る時に上半身の力だけで振っているぞ。もうちょっと腰の力を入れて振らないと、相手に的確にダメージを与えることは難しいな」

「はい、わかりました。でも、どうすれば腰の力をうまく使えるようになるでしょうか」

「そんなに難しい話ではない。お前の場合、基本の上半身の位置が2,3センチほど前に出ているのだ。それを直すためには足の軸足の位置を、こうやって少しずらせばよい」

「こうですか?」

「うむ。それでよい。後はその型を崩さないようにしっかりと練習するのだぞ」

「はい!頑張ります!」


 武神だけあってジャスティスの指導は的確で、ジャスティスの指導を受けたその騎士の子は見違えたように動きが良くなった。


「「「ほほう」」」


 それを見て、俺とリネットと先生が感心する。さすがだと思った。


 その後もジャスティスは次々と騎士団の子たちに指導をしていく。

 それで、俺たちはジャスティスの指導を受けた騎士団の子たちがジャスティスの指導を我がものとできるように手伝ってやるのだった。


★★★


「それではディケオスィニ殿、お願いいたします」

「うむ、かかってくるとよい」


 その日の朝の訓練が終わった後、ジャスティスと先生の間で剣術の試合が行われた。

 これは買い出しに行った日の別れ際、先生がジャスティスに頼んだことだった。


「ディケオスィニ殿、旅の途中に私と一度試合をしていただけないでしょうか」

「うむ、構わないのである」


 ジャスティスのやつは先生の頼みを二つ返事で受け、こうして今日試合が行われることになったのだった。


「両者位置について……始め!」


 俺が試合の審判を務めることになり、開始を宣言すると試合が始まる。


 まず最初に動いたのは先生の方だ。

 止まった姿勢から一気に足を踏み出し、勢い良くジャスティスに斬りかかっていく。

 中々素晴らしい一撃だと思う。

 並の騎士ならこの動きについて行けずあっさり倒されていただろう。


 だが、相手はジャスティスだ。


「うむ、素晴らしくいい動きであるな。日頃の鍛錬の成果がよく出ていると思うぞ」


 そう笑顔で先生の動きを褒めながらも、軽く攻撃を受け流していく。


「まだまだ~」


 それに対して先生は二の手、三の手を放っていく。

 二の手は突き、三の手は横薙ぎの攻撃だった。

 初激からの見事な連続攻撃で、見ていて惚れ惚れするほどだった。


 ただ、ジャスティスには通じない。


「善きかな、善きかな」


 二撃目、三撃目も軽くいなされてしまう。

 その後も先生の攻撃は続くが、ジャスティスにすべていなされてしまった。


「はあ、はあ」


 自分の攻撃がすべて通じなかった先生は、体力のほとんどを使い果たし肩で息をするようになる。

 完全に隙だらけの状態だ。


 対して、ジャスティスはあれだけの攻撃をすべていなしたのにもかかわらず、息一つ乱すことなく余裕しゃくしゃくの状態だ。


 この時点で完全に勝負ありという状態だ。

 そんなジャスティスは先生に優しく声をかける。


「どうする?ここで止めるのならこちらからは攻撃しないが……」

「いや、最後までお願いします」

「そうか。いい心掛けだ」


 そう言うと、ジャスティスは軽く剣を振る。


「むん」


 先生はそれを受けようと剣を構えるが、ジャスティスはまるでそこに先生の剣がないかのような動きで先生の首筋に軽く剣を当てて行く。


「うっ」


 首筋に一撃をもらった先生は一瞬で意識を失い、その場に崩れ落ちる。


「それまで!」


 それを見た俺は試合の終了を宣言する。

 こうしてジャスティスと先生の試合は終了した。


★★★


「ガハハハハ。いやー、参りました。さすがですな」


 試合が終わった後、ライオネル先生は豪快に笑いながらジャスティスのことをそうやって褒めるのであった。

 ジャスティスによって気絶させられた先生ではあったが、ジャスティスの腕が良いせいだろう。

 ほとんどケガらしいケガをしていなかった。


「『初級治癒』、『体力回復』」


 そうやってヴィクトリアが軽く回復魔法をかけると、あっさり意識を取り戻したのだった。

 意識を取り戻した先生は先述の通り笑いながら立ち上がるとジャスティスの手を取る。


「私のような未熟者と試合をしていただきありがとうございます。とても勉強になりました」


 その上で頭を下げ、そういう風に感謝の言葉を述べるのだった。

 その態度には負けたことに対する妬みや悔しさの感情など1ミリも混ざっておらず、騎士らしい立派な態度でとても好感が持てるものだった。


 それはジャスティスも同じだったらしい。

 逆に先生の手を力強く握り返すと、


「とても立派な騎士であるな。その調子でこれからも励んで行けば、必ずやもっと高みにまで行きつくことができるであろう」


と、先生のことを称賛するのであった。


 うん、何だろう。

 こういう武人らしい清々しいやり取りを見ていると、心が温まる感じがする。


 それは俺の周囲も同じようで、皆二人のやり取りをほほえましく見ている。

 それはさておき、これでジャスティスと先生の試合も終わったことだし、移動を再開することにする。


 まだ魔物の村までは数日かかる。


★★★


「ホルスト先輩。もうそろそろ魔物の村みたいですよ。少し離れたところから魔物の気配をビンビン感じます」


 ジャスティスと先生の試合から数日後。

 俺たちは街道を順調に進んでいた。


 すると、俺の横にいたアメリアが、自分の探知魔法で得た情報を地図と照らし合わせながらそう進言してきた。


「全体、止まれ!」


 アメリアの進言を受けた俺はすべての馬車を一時停止させる。


「ヴィクトリア!」

「ラジャーです。『精霊召喚 風の精霊』」


 そして馬車の中にいるヴィクトリアに声をかけ、風の精霊に偵察に行かせる。

 しばらくして風邪の精霊が戻ってくると状況が判明する。


「ホルストさん、どうやらビンゴみたいです。2キロほど先に魔物の村らしきものがあるとのことです」

「そうか」


 ヴィクトリアの報告を聞いた俺は思わずニンマリする。

 ようやくたどり着いたかと思うと嬉しかったからだ。


 さあ、ということで魔物退治の時間の始まりだ。

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