第264話~可愛い部活の後輩たちからのお願い ホルスト、ヒッグス軍の新人の実践訓練を請け負う~

 さて、白薔薇魔法団の講習が終わったので次の黒虎魔法団の講習に向かうことにする。

 黒虎魔法団は白薔薇魔法団とは逆に男魔法使いだけの精鋭部隊だ。

 次はそこの指導に行く。


 ……行くのだが、その前に食事休憩だ。


 白薔薇魔法団の本部のテントを借りて飯を食っているのだが、俺たちが食事をしているとテントの周囲が騒がしくなった。

 どうやら白薔薇魔法団の子たちが集まって来ているみたいだった。

 多分、俺たちに質問したいことでもあったのだと思う。


 しかし、集まってきた割には誰もテントに入ってこなかった。

 原因はうちの嫁たち3人が代わる代わるテントの入り口の所に座って、近寄りがたいオーラを出しているからだと思う。


 だから、女の子たちは中には入ってこず、質問したい子には嫁たちがテントの外に出て教えるようにしていた。

 こうして俺は嫁たちの手によりテントの中に囲われ、代わりに嫁たちの手作り弁当を食べさせてもらうなど、嫁たちから愛情たっぷりのおもてなしを受けることになったのであった。


 ……本当に嫁たちは俺に対する愛情が深い。

 それ自体は幸せに感じているのだが、ちょっとやり過ぎな気もする。


 別に俺、浮気したりしないからさ。

 そんなに警戒しないで欲しいな。

 そう思いながら俺は嫁たちの行動を見守るのみだった。


 ただ、そんな風に嫁たちが警戒している最中でもテントの中に入って来る猛者はいる。


「先輩、お久しぶりです」

「お久しぶりです」


 そう言いながらテントに入って来たのは、ボランティア部の後輩であるライラとアメリアだった。

 二人とも今年の春卒業したはずで、その後白薔薇魔法団に入ったらしかった。


「ライラとアメリアではないですか」


 二人の姿を確認すると、入り口に座っていたヴィクトリアも警戒を緩め、手招きしてテントの中に入れる。


「よく来てくれましたね」

「久しぶりだね」


 二人の姿を見たエリカとリネットももちろん二人を大歓迎する。

 まあ、他の白薔薇魔法団の子と違って、二人とは仲良くしてきたので嫁たちもまったく警戒していないようだった。


「さあ、お茶とお菓子を出してあげますからゆっくりしていきなさい」

「「ありがとうございます」」


 エリカが出したのは、アイスミルクティーとクッキーだ。

 エリカにおやつをもらった二人は嬉しそうにそれを食べている。

 その姿はとても純粋な感じがして、見ている俺としてもとても気持ちが良かった。


 学生生活を終えて、久しぶりに会った二人は少し大人びた感じがした。

 ライラはおさげの髪型をやめてミディアムのストレートヘアになっていたし、アメリアもショートから少し伸びてボブヘアになっていた。

 その髪型は二人を大人びて見せていた。

 とても垢ぬけて美人さんになったと思う。


 そうやって俺が、二人がもらったおやつを食べながら二人が嫁たちと楽しそうに話しているのを見ていると、唐突に二人が頼みごとをしてきた。


「実は先輩方に頼みたいことがあるのですが」

「頼みですか?一体何ですか?」

「実は私たち軍に入ったばかりで、まだ実戦経験が浅くて。……それで、同期の子たちと相談して一度修行のため魔物退治にでも行こうと計画しているのですが、私たちだけでは少し不安でして。それで、経験豊富な先輩方について来てもらって指導していただけないかと思いまして」

「つまり、あなたたちの修業に付き合ってほしいということですが」

「はい。先輩方も忙しいだろうし、とても厚かましいお願いだとは承知しているのですが、是非お願いできないでしょうか?」


 ふむ、要は魔物退治の付き添いに来て欲しいということか。


 まあ、彼女たちもそれなりに魔法を使えると思うが魔物退治の経験はないだろうからな。

 せいぜい去年魔物の大軍がヒッグスタウンに攻めてきた時に迎撃戦に参加したくらいだろうし。

 そのくらいの経験しかないんだったら、不安になる気持ちはよくわかる。


 だから、俺としては手伝ってあげても良いと思ったが、嫁たちはどうだろうか。

 まあ、うちの嫁たちも面倒見がよいから断ったりしないだろうなと思っていると。


「そういうことなら構いませんよ」

「ワタクシも賛成です」

「任せておきなさい」


 嫁たちも乗り気なようで、即答で了承した。


「「ありがとうございます」」


 こうして俺たちはライラたちの魔物退治に付き合うことになったのだった。


★★★


 昼休憩の後は黒虎魔法団に講習に行って、その後騎士団と魔法騎士団の訓練所へ向かった。

 それはともかく、訓練所へ向かうと騎士団と魔法騎士団の子たちはすでに整列していて、


「お待ちしておりました!」


と、俺たちを大声で出迎えてくれた。


 え?黒虎魔法団の訓練がどうなったかって?

 まあ、ここの訓練は白薔薇魔法団の訓練と大して変わらなかったからな。

 特に言うことはないな。


 強いて言うなら、何名かの団員が俺の嫁たちをよこしまな目で見ていたのを隊長であるエリカの兄ちゃんが見ていて、怒られるということがあったくらいだろうか。

 まあ、俺の嫁たちは美人ぞろいだから気持ちはわからんではないが、訓練中は真面目にしろ、と言いたい。


 それで、騎士団と魔法騎士団の訓練である。

 訓練では俺とリネットが肉弾戦の訓練をする。


「さあ、かかって来い!」

「はい」


 俺とリネットが正面に立ち、20人くらいずつまとめて相手にする。


「うおりゃああああ」


 騎士団と魔法騎士団の連中が訓練用の刃のない鉄剣を使って襲い掛かってくるが、この程度でどうこうなる俺とリネットではない。


「たああああ」

「はああああ」


 俺とリネットの二人であっという間に20人をたたき伏せてやる。


「次!」

「はい」


 20人を倒したら次の20人を相手にする。

 そして、それを倒したら次の20人を……という感じで進めていく。


 その一方、エリカとヴィクトリアとヴィクトリアのお母さんは魔法騎士団の奴らに魔法を教えている。


 魔法騎士団はいわゆる魔法騎士と呼ばれる魔法も剣技もこなせる連中によって構成された部隊だ。

 この連中は武術の他に魔法も使えるので3人で魔法を教えているというわけだ。


 後、ヴィクトリアのばあちゃんは騎士団の弓兵隊に弓を指南している。


「まずは、見てみなさい」


 まず最初に、300メートル先の的を弓で射抜いてみせる。


「おおおおお」


 それを見て弓隊の連中が歓声を上げる。

 それから個々の射撃を見て指導している。


 と、こんな感じで各自役割分担をして訓練をしている。


★★★


「やあ、久しぶりだね」

「これは先生。お久しぶりです」


 訓練の合間に小休止を取っていると、俺に剣を最初に教えてくれた先生であるライトニング先生がやって来た。


 前にも話したことがあると思うが、まあ名前を出すのは初めてだと思うが、ライトニング先生は俺に最初に剣を教えてくれた先生だ。

 とても優しい人で、魔法が使えなくて落ちこぼれだった俺にも懸命に剣を教えてくれた。

 そのせいでエリカのじいちゃんに嫌われて一時左遷されていたが、事情を知ったエリカのお父さんの手で今は騎士団の師範職に復帰している。


「ホルスト君がみんなに剣術を教えているのを見たけど、ホルスト君、大分腕を上げたね。もう私ではとても敵わないだろうな」

「いえ、そんなことはないです。先生がいてくれなかったら、俺はここまでになれていません。だから、先生は今でも俺のあこがれです」


 本当にそうだった。

 先生が俺に剣を教えてくれていなかったら、今頃俺は魔力が高いだけで魔法も碌に使えない半端者として皆に蔑まれていた可能性すらある。

 だから、俺は先生には感謝してもしきれないと思っている。


「そうか」


 そんな俺を見て、感極まったのか、先生は俺の頭を優しく撫でてくれた。

 それがとても気持ちよかったので、しばらく俺は撫でられ続けていた。


 やがて。


「ところで、先生。指導係の先生がわざわざここへ来たのは何か理由がおありでしょうか」

「おお、そうだった」


 俺に言われた用件を思い出したのだろう。

 先生はポンと手をたたくと、俺の目を見ながら話を切り出してきた。


「ほら、前にホルスト君から孤児院の子たちの剣術の面倒を見るように頼まれたじゃないか」

「ああ、そういえば先生に頼みましたね」


 去年、俺は上級学校のボランティア部の活動の一環として孤児院の子供たちに剣術を教えたことがあった。

 俺的には一通りは教えたのだが、もっと学びたいという子もいた。

 その時に、そういった子供たちに剣術を教えてくれるように先生に頼んで快諾してもらったのだった。


「それでね。その子たちのうち何人かが今年騎士団に入ったんだ。まあ、最下級の兵士からのスタートだけどな」

「へえ、そうなんですね。それは良かったです」


 本当、よかったと思う。

 騎士団なら衣食住は保証してもらえるし、頑張って腕を上げて認めてもらえれば、士官は無理としても、下士官への昇進もあり得た。

 中々いい職場に就職できたのではないかと思う。


「それで、その子たち何だが、まだ入ったばかりで実戦経験がないんだ。だから、一刻も早く実戦を経験させてやりたいと思っている」

「実戦経験ですか?」

「そうだ。とりあえず魔物退治でもさせて、実戦を経験させてやりたいんだ。それで、ホルスト君に協力してもらえないかなと思って、こうして声をかけたんだ」

「わかりました。そういうことなら協力させてもらいます」


 先生の頼みに俺は速攻で了承の返事をした。

 当然だ。お世話になった先生の頼みを断るとか、ありえないからな。


「そうか、ありがとう、助かるよ」

「それで、先生に一つ相談なのですが、実は今俺たち学校の後輩たちにも実践指導してくれないかと頼まれていまして。一応彼女たちに相談してからになりますが、彼女たちと一緒に訓練をするということでよろしいでしょうか、その方がより実践的な訓練になると思いますし」

「そうだな。実践訓練というならそっちの方がいいかもな。ただ、そうなると孤児院出身の子たちだけでは前衛の人数が少ないかもしれないな。何人か他の新人のやつにも声をかけてみるか」

「そうですね。その方がいい訓練になると思いますので、是非お願いします」


 先生との話し合いはこれで終わりだ。

 後は細かい打ち合わせをしてこの時は分かれた。


 ライラたちにはこの日の演習終了後に事情を説明しに行き、オーケーの返事をもらった。


 ということで、翌日から俺たちはヒッグス軍の新人の子たちの訓練に付き合うことになったのであった。

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