閑話休題37~その頃の妹 妹、移住を考える~

 私、レイラ・エレクトロンは今日も朝早くから仕事を求めて冒険者ギルドの掲示板の前に陣取っていた。

 もちろん、人よりもいい仕事を見つけて、それをゲットするためである。


「はい、冒険者の皆さん、依頼張り出しの時間ですよ」


 時間になるとギルドの職員さんが現れて、掲示板に依頼書を順番に張り出していく。


「はい、どーぞ」


 依頼書を張り出すと、職員さんはすぐに掲示板を離れる。

 すると。


「わー、わー、わー」


 まるで地獄の亡者のように、冒険者たちが掲示板に群がり、我先にと依頼書をもぎ取っていく。

 もちろん、私もその地獄の亡者の一人だ。


「ゲ~ット!」


 何とか私も清掃作業の依頼書を一枚手に入れる。

 手に入れると同時にさっさと掲示板の前を離れる。


 こうしないと誰かに横から依頼書を横取りされるかもしれないからだ。

 本当世知辛い世の中だと思うが、私だってお金は欲しいし、自分の身は自分で守らないといけないので、手に入れた依頼書をギュッと抱きしめながら、急いで移動する。


 離れた私はギルドの入り口の方で待機していたフレデリカと合流する。


「レイラ、依頼書は手に入った?」

「うん、これが手に入った」


 そう言いながら私は依頼書をフレデリカに見せる。

 途端。フレデリカの顔が?マークでいっぱいになる。


「レイラ、それ清掃の仕事じゃないよ」

「え?」


 フレデリカに指摘されて、私は慌てて依頼書を見直す。

 『ゴブリン5匹退治の依頼。最近、5匹のゴブリンの集団が近くの村を荒らしています。どうかそのゴブリンたちを退治してください。報酬銀貨3枚』

 その依頼書にはそう書かれていた。


 どうやら私は依頼書を間違えて持ってきたようだった。


★★★


 それから2時間後。


「ふん、ふん、ふ~ん」


 私は近くの村側の街道で鼻歌を歌っていた。

 というのも、偶然とはいえ、初めて冒険者らしい勇ましい依頼を請け負うことができてうれしかったからだ。


 ただ、私の横にいるフレデリカの顔は沈んでいた。


「ねえ、レイラ。本当に大丈夫かな」


 どうやらレイラは魔物と戦うのが初めてらしく、不安に感じているらしかった。

 そんなフレデリカの肩を、私はポンとたたいてやる。


「大丈夫だって。私はこう見えても、ゴブリンよりも強いオークとかも倒したことがあるんだから。ゴブリンなんか楽勝よ」

「でも、私たちって前衛職がいないし、万が一近づいてこられたら、私じゃ戦えるかわからないし」

「大丈夫だって。近づく前に私が魔法で片づけてあげるから」


 そうやって不安がるフレデリカに私は自信ありげに言うのだった。

 この時の私は、なだ油断大敵という言葉の意味をよく理解していなかった。


★★★


「来たわよ!」


 それからしばらくすると、5匹のゴブリンの集団が現れた。

 奴らはこれまでのところ襲撃がうまく行っているので人間を舐めているのだろう。

 余裕しゃくしゃくの笑顔で歩いていた。


「それじゃあ、私が3匹でフレデリカが2匹担当ね」

「わかった。頑張る!」

「それじゃあ、行くよ!『火矢』」


 私はゴブリンたちめがけて先制の魔法を放った。

 ゴウッという音とともにゴブリンが1匹火だるまになる。


「キキキイイ」


 仲間が1匹やられたのを見て、ゴブリンの集団がこちら目掛けて駆けてくる。

 ビュン。

 次はフレデリカが一番後ろのゴブリンを狙う。

 ドサ。

 フレデリカの放った矢はゴブリンの胸に見事に命中し、ゴブリンを1匹仕留める。


「『火矢』」


 フレデリカが矢で1匹仕留めた後は、私が再び魔法で攻撃だ。

 3匹目のゴブリンがゴウッという音とともに黒焦げになる。


 ビュン。

 さらにその隙を縫ってフレデリカが再び矢を放ち、4匹目のゴブリンを倒す。


 これで残り1匹だ。


「トドメよ!『火矢』」


 残りの1匹目掛けて魔法を放つ。

 これで、終わりだと私は確信した。

 しかし。


「キキイ」


 何と、残りの1匹のゴブリンが私の魔法を避けやがったのだ。


 まずい!そう感じた私はもう一度魔法を放とうとしたが、すっかり油断していたせいで準備ができておらず、ゴブリンに接近されてしまった。


「キイ」


 ゴブリンがショートソードを振りかざして私にとびかかって来た。


「ちっ」


 私はその攻撃を持っていた杖でとっさに防ごうとした。しかし。


「げっ」


 私は悲鳴を上げた。

 なぜなら構えた杖を真っ二つに切断されてしまったからだ。


「きゃっ」


 杖を失ってバランスを崩した私は思わず尻もちをつく。


「キシャー」


 そこへすかさずゴブリンが襲い掛かってくる。


「ひっ」


 恐怖にかられた私は思わず悲鳴を上げ、何とかこの事態から逃れようと後ずさりする。


「ケケケ」


 しかし、この事態をゴブリンが見逃してくれるはずがなく、剣を再び私に振り下ろそうと迫ってくる。

 私は死を覚悟した。


 だが。


「えい!」


 そこへフレデリカが持っていた短剣を必死になってゴブリンの背中へ突き入れてきた。


「ぐへ」


 短剣はうまいことゴブリンの心臓を貫いたようで、ゴブリンは背中から大量の血を垂れ流し、絶命する。


「フレデリカ~、こわかったよ」


 死を免れた私は怖くなってフレデリカに抱き着く。


「私もだよ~」


 フレデリカも怖かったらしく私に抱き着いてきた。


 そうやって二人でひとしきり泣いた後、気を取り直して私たちは街へと帰った。

 こうして私たちの初めてのゴブリン退治は終わった。


★★★


「あーん、大赤字だよ!」


 その晩、私は布団の上で大泣きしていた。

 ゴブリンを倒したことで報酬の銀貨3枚は得たが、杖を失っては大赤字だ。


「ああ、本当これからどうしよう」


 杖を失った私は途方に暮れている。

 魔法使いの私にとって杖は大事な商売道具だ。

 それを失ったのだからへこむのは当然だ。


 一応、フレデリカが使っていた杖を使うことになったので、魔法を使うのに支障はないが、魔法の威力は少し落ちる。


 本当最悪だ。

 たかがゴブリン相手にこんなひどいことになるなんて!

 これも最後の1匹を倒したと思って油断していたせいだ。

 時間を巻き戻せるのなら、あの時の自分に言ってやりたい。


 戦いの最中に油断するな!って。


 と、まあこんな風に私が落ち込んでいると、フレデリカがこんなことを言ってきた。


「ねえ、レイラ。このまま私たち二人、ここで冒険者やっていてもうだつが上がらないと思わない?」


 私はフレデリカの言葉に、思わずえっと驚く。


「どうしたの?まさか、冒険者を……」

「違うわよ」


 私の指摘に対してフレデリカは首を横に振る。


「実はね。昼間ギルドで聞いたんだけどね。今、ギルドで初心者講習の参加者の募集をやっているの」

「初心者講習?」

「そうよ。何でもノースフォートレスの町には大規模な冒険者の訓練施設があって、そこへ参加する人を募集しているらしいの」

「そうなんだ」

「それで、ね。私たちもそれに参加してみない?何でもかなりしっかりした講習らしくて、参加した人の中にはすでに結構上のランクまで出世した人もいるらしいの。だから、私たちもここで希望のない日々を送るくらいなら、思い切ってそっちへ行ってみない?」

「ふーん」


 初心者講習かあ。


 フレデリカの話を聞いた私はそれも悪くないなと思った。

 確かに、このままここにいても這い上がるのは難しいような気がした。

 ならば思い切って移住してみるのもありかと思った。


「いいわね。行ってみましょう」

「本当?それじゃあ、明日ギルドに申し込みに行こう」


 ということで、私たちは移住を決意した。


 これで将来の希望が見えてきた私は内心ワクワクしたのだが、この時の私は知らなかった。

 世の中楽な道など決してないことを。


ーーーーーーー


 これにて第12章終了です。


 ここまで読んでいただいて、気にっていただけた方、続きが気になる方は、フォロー、レビュー(★)、応援コメント(♥)など入れていただくと、作者のモチベーションが上がるので、よろしくお願いします。


それでは、これからも頑張って執筆してまいりますので、応援よろしくお願いします。

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