第262話~久しぶりのエリカの実家~
「ただいまあ」
「お帰りなさいませ」
魔人との戦いを終え、王宮から帰って来た俺たちはヒッグス家の商館へと戻って来た。
え?肝心の王宮での様子はどうだったのか、って?
今は疲れていてすぐにでも休みたい気分なので、その話は後述することにする。
それはともかく、今日商館の入り口で受付をしていたのはネイアさんだった。
「マロンさんは?」
と聞くと、
「今日は休みですよ」
とのことだった。
そんな他愛のない会話を交わしてから奥へ行こうとすると、
「そういえば、会長からホルスト様たちは元気かと支配人あてに連絡があったそうですよ」
「そうなのですか」
「はい。ですから、たまには連絡を取ってあげてくださいね」
そう言えば、確かに最近エリカの両親に連絡を取っていなかった。
ホルスターもエリカの実家にしばらく連れて行っていないから、孫に会えず寂しいのだと思う。
ネイアさんの話を聞いた俺は、館の方へ行くとエリカのお父さんに急いで連絡を取る。
「お義父さん、ご無沙汰しております」
「ああ、ホルスト君かい?久しぶりだね」
そんな感じで始まった会話では、お父さんの愚痴を聞かされることになった。
「妻も義母もホルスターに会えなくて寂しがっている」
「久しぶりにホルスターの頭を撫でてやりたい」
「ホルスターのために新しくおもちゃを買っておいたのに、それを使う肝心のホルスターがいないのでは、どこか拍子抜けな感じがする」
と、主にホルスターに関する内容の愚痴ばかりを聞く羽目になった。
それを聞いた俺は、これはかなり重症だな、と思った。
お父さんの機嫌を直すためにすぐさま約束をする。
「わかりました。ホルスターや皆を連れて明日にでもお伺いさせてもらいます。数日はそちらにいるつもりなので、よろしくお願いします」
俺のその発言を聞いた途端、お父さんも機嫌を直したようで、
「そうかい?それじゃあ、ごちそうを用意して待っているからね」
と、最後は上機嫌な感じで会話は終了したのだった。
やれやれと思いつつも、嫁たちにそのことを伝えると、その日はゆっくり休むのだった。
★★★
翌日。
「『空間操作』」
午前中のうちに家族全員を連れてエリカの実家へと移動する。
パトリックに馬車を引かせながら屋敷の正門へ行き、門番に来訪を告げると、門番もあらかじめお父さんに言われていたのだろう、奥へ飛んでいき、お父さんたちを呼んできてくれた。
「よく来てくれたね」
すると、エリカのお父さんとお母さんが大急ぎで出てきて、ニコニコ顔で俺たちを出迎えてくれるのであった。
「お久しぶりです」
当然俺たちも挨拶し返す。
さらに。
「ホルスター、おじい様たちにご挨拶なさい」
「うん」
エリカに促されたホルスターがエリカの両親に挨拶する。
「おじい様、おばあ様、こんにちは」
「おお、ホルスターもよく来たね。元気にしてたかい?」
「あら、ホルスターちゃん。お久しぶりね。おばあちゃん、ホルスターちゃんにしばらく会えなくて寂しかったわ」
エリカの両親はそう言いながら、近づいてきたホルスターを抱き上げると、全力で頭をなでなでするのだった。
ホルスターと久しぶりにスキンシップを取れて満足したのか、しばらくすると、エリカの両親は俺たちを屋敷の中へと案内してくれる。
すると。
「みんな、久しぶりね。食事の用意はできているから、是非食べてくださいね」
中ではエリカのお兄さんの奥さんであるヘレンさんが、食事の用意をして待っていてくれた。
早速全員でテーブルに着き、食事を始める。
「銀ちゃん、今日はごちそうですね」
「はい、ヴィクトリア様」
ごちそうを目の前にしたヴィクトリアがうれしそうな顔をしている。
というのも、食事のメイン料理がドラゴンのステーキだったからだ。
昼間からこれは豪勢な料理だった。
何せドラゴンの肉は高いからな。この前食べたのも、ヴィクトリアのお母さんたちを歓待したときだと思う。
これだけ見ても、エリカの両親の気合いの入りようが伝わってくる。
「あら、ドラゴンのお肉。久しぶりに食べたら、やっぱりおいしいですね」
「本当ねえ。こんなにおいしいのなら、今度こそドラゴン狩りにでも行ってみましょうかね」
ヴィクトリアのお母さんとばあちゃんも大喜びで、そんなことを言っている。
というか、おばあさん。前にも言いましたけど、ドラゴン狩りを鳥を狩るのと同じような感じで言わないでください。
人に聞かれたら変に思われるでしょうが!
と、心配してみたものの、ここにはそんなことを気にする人間は誰もいなかったようで、特に誰も何も言わず、食事は続くのだった。
★★★
食事が終わった後は時間があったので、パーティーで今後の方針についての会議をする。
ちなみにホルスターと銀はエリカのお父さんたちが連れて行った。
「ホルスターちゃん、おばあちゃんたちね。ホルスターちゃんのために新しいおもちゃを買ったの。それで、一緒に遊びましょう」
「はい、おばあ様」
というようなやり取りがあったので、今頃はリビングで4人で遊んでいることと思う。
ホルスターがこの前行ったイベントのじゃんけん大会でゲットしたスゴロクを持ってきていたので、それや新しく買ったおもちゃとやらで遊んでいるのだと思う。
さて、それはともかく、俺たちは俺たちで会議を開始する。
「それでは、これからの方針を話し合うわけだけど、この後は地下遺跡の古代図書館で調べ物をしてから、いよいよエルフの禁足地の遺跡の捜索を行うとする。それでいいか?」
「はい、私はそれでいいと思います」
「ワタクシも賛成です」
「アタシもそろそろ頃合いかなと思うよ」
どうやら嫁たちは俺の意見に賛成の様だ。
ということでその方針で行くことにする。
ちなみに、古代図書館の件はすでにエルフの王様の許可をもらっている。
魔人を倒した後、そのままの足で王様に許しをもらってきたのだった。
「うむ、ホルストよ。見事であった。図書館は好きに利用するがよい」
謁見の席で王様がそう言ってくれたので、いつでも行くことができる。
後、王様がご褒美としてたくさんのお金をくれたので、これで冒険の資金がまた増えた。
禁足地の遺跡へ行く際には、これでいい装備とおいしい食料を買ってから臨もうと思う。
そんな風にして今後の方針が決定した後はのんびりと過ごす。
「エリカさん、折角ヒッグスタウンへ来たんですから、行きつけのお菓子屋さんでお菓子をたくさん買って帰りませんか」
「いいですよ」
「アタシも賛成だね」
「なにそれ?お母さんも行きたい!」
「おばあちゃんも!」
嫁ズとヴィクトリアのお母さんたちはそうやって女子トークをして楽しんでいた。
うちの嫁ズも、お母さんたちとずっと一緒にいるうちにすっかり打ち解けてくれたようで何よりだ。
そんな嫁たちの傍らで、俺は久しぶりに剣を磨いていた。
愛剣のクリーガはもちろんのこと、予備の武器まで全部出して、一本一本丹念に磨いていく。
すると、しばらくいじっていなかったせいで艶を失っていた剣たちが、次々と輝きを取り戻していく。
見ていてそれがうれしかった俺は、無我夢中になって磨く。
「ホルスト君」
時が経つのを忘れて作業に没頭していた俺は、エリカのお父さんに肩をたたかれて正気に戻る。
「おや、お義父さん。どうかしたんですか」
「実は、ホルスターのことなんだけどね」
「ホルスターがどうかしたのですか?」
「ほら、ホルスター、皆の前で魔法を使うのを見せてしまっただろ?だから、ね。ホルスターの魔法をぜひ見たいという人が殺到していてね。それで、ホルスターの魔法の披露会を開こうと思うんだ」
「披露会ですか?」
「うん、さもないと一族の連中がうるさいからね。こうやって一度披露会をしておけば、一族の連中も黙るさ。だから、僕に任せてくれないか?」
「まあ、そういうことならお任せします」
「ああ、任せておきなさい」
それだけ会話すると、お父さんはもう一度俺の肩をたたいて、その場を去った。
お父さんが去った後で俺は思う。
ホルスターの魔法のお披露目会か。
うん、いいな。
完全なる親バカだが、これで楽しみが一つ増えたなと思った。
ホルスターのお披露目会に未知なる古代図書館の探索。
もうすぐ二つのイベントが始まる。
そう考えるだけで胸のワクワクが止まらず、剣を磨く手に力がこもるのだった。
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