第261話~地下遺跡の魔人 その4 VS.魔人アヴィディタ 成るか!三魔法合成!~

 魔人の部屋に入る前に俺は自分の魔法のリストを確認する。


『神属性魔法』

『神強化+6』

『天火+6』

『天凍+6』

『天雷+6』

『天爆+6』

『天土+6』

『天風+6』

『天罰+5』

『神獣召喚+3』

『重力操作+5』

『魔法合成+4』

『地脈操作+4』

『空間操作+5』

『世界の知識+4』


 と、こんな感じだ。


 ソルセルリの修業のおかげか熟練度が大幅に上がっている。


 それに『神獣召喚』とかいうのが増えている。

 これは文字通り神獣を呼び出す魔法だと思う。

 ただ、後でヴィクトリアのお母さんに聞いた話だと、これを使うには神獣との契約が必要らしかった。


 うん、今までいろいろな神獣と知り合ってきたから、時間ができたらそのうち交渉しに行くとしようと思う。


 こうやって自分の能力を確認した俺は封印の扉を開けた。


★★★


「きゃ」

「ひっ」

「うっ」


 封印の扉を開けて中へ入ると嫁たちが一斉に悲鳴を上げた。


 というのも、扉をくぐった瞬間体の重さを感じなくなったからだ。

 足元が地についてなくて、体がフワフワと宙に浮いている感じ。

 『重力操作』で空を飛んでいる時の感じに似ているが、それよりもずっと不安定な感じだ。


「ホルスト君、『重力操作』と『空間操作』の合成魔法を使いなさい。それでずっと安定するはずだから」

「はい」


 戸惑っている俺たちを見てヴィクトリアのお母さんがアドバイスをくれたので、その通りにしてみることにする。


「『重力操作』と『空間操作』の合成魔法『時空間操作』」


 俺が魔法を使うと一瞬だけと木が止まったような不思議な感覚に包まれる。

 その次の瞬間。


「お?少し落ち着いたかな」


 今まで不安定だった体の感覚が落ち着き、普通に立っているような気分になる。

 気分が落ち着いたところでお母さんが声をかけてくる。


「さて、それじゃあ魔人の所へ行くわよ」

「「「「はい」」」」


 俺たちはお母さんに促されてこの空間の下層へと降りていく。


★★★


「あれが目的の強欲の魔人アヴィディタか」


 お母さんについて空間の下層へ行くと魔人を発見した。

 魔人は真っ黒な二本の角を側頭部に生やし、真っ赤な装束を着た巨大な生物だった。


 もっとも巨大な鎖によって見えない壁に縫い付けられていて、今のところは身動きを取れないでいる。

 ただ封印から目覚めた魔人が全力で鎖をほどこうと動き回っているせいで、今にも鎖の呪縛が解けそうな感じだ。


「『世界の知識』」


 俺は魔人に対して魔法を行使する。


 『強欲の魔人アヴィディタ』

 かつては神の従者だった人間が魔に堕ちて魔人となった姿。

 元人間だが、その能力は人間をはるかに超える。

 頭部に生えた2本の角は魔力の源で、その膨大な魔力を活かして多くの強大な魔法を駆使し攻撃してくる。

 弱点は強力な聖属性攻撃だが、魔人は強力な魔法バリアを張ることができるので

そのバリアを突破できる強力な魔法を使用する必要がある。


 と、以上が検索結果だ。


 強力な魔法バリアを破るのには強力な魔法攻撃が必要か。

 一体どれくらいの魔法ならばそのバリアを破ることができるのだろうか。


 ……考えるより試してみる方が早いか。


 そう考えた俺は魔法を起動する。


★★★


「『極大化 天罰』と『極大化 天罰』の合成魔法『極大化 神の審判』」


 目の前のまだ動けない魔人に対して俺は魔法を放つ。


 動けない相手に対して一方的に魔法を放つのは心苦し……ことはないか。

 大体、相手を拘束してから攻撃するなんて今までにも散々やってきていることだしな。

 それに本格的に魔人が復活したらエルフの国が危なそうだし、ここは先制の一手だろう。


 ということで、遠慮なく俺は魔法を放った。


 俺の魔法は一直線に魔人へと向かって行く。

 しかし。


「ぐおおおおお」


 俺の攻撃に気が付いた魔人が咆哮をあげると、魔人の目の前に魔法バリアが出現する。

 どうやら拘束された状態でも、魔法は使用できるようだった。


 ドッゴオオオン。

 俺の魔法がそのバリアに直撃するとすさまじい音とともに衝撃が走る。


 その衝撃が消えた時、魔人も魔法バリアも無事だった。

 完全に攻撃は失敗だった。


 さらに攻撃されて俺たちに怒りを覚えたのだろう。


「シヌガヨイ!」


 怒った魔人は図太い声でそう言うと俺たちに対して魔法を放ってくる。


「『黒火炎』、『大爆破』、『雷嵐』、『金剛槍』、その他。こいつ一体いくつの魔法を一度に使用できるんだ?」


 魔人は魔人というだけあって魔法に長けているらしく、数えきれないくらいの魔法を一度にはなって来た。

 これをそのまま食らうのはさすがにまずい。


 俺は、叫ぶ。


「エリカ、ヴィクトリア」

「『極大化 魔法障壁』」

「『極大化 防御結界』」

「『極大化 魔法障壁』と『極大化 防御結界』の合体魔法『極大化 絶対防御障壁』」


 その俺の叫びに応えてエリカとヴィクトリアが防御系の超強力な防御魔法を使用する。


 ドッガーン。ボーン。ドッギューン。ドーン。ドッゴオオオオン。

 魔人の魔法がエリカたちの防御魔法に命中してすさまじい音が周囲に響く。

 普通の防御魔法だったらあっという間に突破されているかもしれないが、エリカとヴィクトリア、二人の張った防御魔法はびくともしなかった。


 ただ、効果は無くても魔人は魔法攻撃を止めない。

 次々に魔法を放ってくる。

 多分、こちらの魔力切れを狙っているのだと思う。


 それにこうやって攻撃をされ続けている限り、エリカとヴィクトリアは防御に集中せざるを得ない。


 つまり、今回は俺の魔法だけで魔人に対処しなければならないわけだ。

 月で『漆黒の霧』にしたように、俺と一緒に魔法をぶつけるようなことはできないのだ。


 だから、俺はちょっとだけ後悔した。

 こんなことなら、試しとかではなく最初から全員で攻撃しておけばよかったと。


 さて、どうしようかと俺が悩んでいると、ヴィクトリアのお母さんがアドバイスをくれた。


「ホルスト君、もしかしてあの魔人をどうすれば倒せるか悩んでたりする?」

「ええ、悩んでますよ」

「だったら、方法を教えてあげるわ。3つの魔法を合成して使いなさい。そうすれば、あの魔人の魔法バリアぐらい簡単に突破できるわよ」

「三魔法合成ですか。でも、あれ一度もうまく行ったことないんですけど」

「今はうまくやったことができないなんて言っている時ではないのよ。やるしかないの!わかった?」

「わかりました。そこまで言うのならやってみます」


 三魔法合成か、やってみるか。

 お母さんに促されて俺は魔法を準備する。


★★★


 三魔法合成。

 文字通り3つの魔法を合成して別の魔法を作り出す魔法である。


 2つの魔法を合成するのなら簡単なのだが、3つを一気にとなると一気に難しくなる。

 練習では一回も成功したことがない。

 なのに本番で一発で成功させろとか、ヴィクトリアのお母さんは本当にきつい課題を与えてくる。


 まあ、いい。課題を与えられた以上はやってみるだけだ。


「『魔法合成』」


 3つの魔法を同時に起動し、合成を試みる。


 すると、あれ?と思った。

 何というか、合成する時には魔法の微細なコントロールが必要なのだが、そのコントロールが普段よりも簡単なような気がする。


 練習の時と何が違うのだろうと思って考えてみると、そういえば今は神意召喚を使っていた。

 そのおかげで魔法のコントロールがいつもよりうまく行っているのだと思う。


 となると、今はチャンスだ。


 ここで三魔法合成を使用して感覚を掴んでおけば、練習でもできるようになるかもしれない。

 そう思った俺は気合を入れる。


 そして。


「『魔法合成』、『天火』と『天爆』と『天罰』の合成魔法『神々の怒り』」


 とうとう3つの魔法の合成に初めて成功する。


 ここでチラッと魔人の方を見ると、魔人は俺たちを攻撃しつつもしっかりと鎖の呪縛からの解放を狙っていたようで、もうほぼ鎖がほどけて自由に行動できるようになるところまで来ていた。


 魔人に自由になられては厄介だ。

 その前にケリをつけてやる!


「行け!」


 俺は満を持して魔法を放つ。


「ナニ!」


 俺の攻撃に気が付いた魔人が俺たちの攻撃を止め、魔法バリアを展開する。


 しかし、それは無駄な抵抗だった。

 パン、と大きく甲高い音を立てて俺の魔法が魔法バリアを貫通する。


「ぐおおおおおお」


 俺の魔法は魔人に命中し、この空間ごと燃やし尽くしそうな勢いで大爆発を起こし魔人を燃やしていく。

 焼かれそうになった魔人は逃れようと必死にあがく。

 しかし。


「『極大化 大爆破』」

「『極大化 聖光』」

「『極大化 大爆破』と『極大化 聖光』の合体魔法『極大化 聖爆破』」


 防御から一転攻撃へと転じたエリカとヴィクトリアの攻撃魔法が追撃をかける。

 ドッガーン。

 二人の魔法は魔人に命中すると大爆発を起こし、魔人の魔力の源である2本の角のうち1本を破壊する。


 さらに。


「『戦士の記憶』よ、力を貸して!『神撃の矢』」


 リネットが神器を利用した強力な矢の一撃を魔人に向かって放つ。


 ポキン。

 リネットの一撃は魔人の残る1本の矢をへし折ってしまう。

 これで、完全に魔力の供給源を断たれた魔人は大幅に弱体化したわけだ。


「『神強化』」


 俺は愛等のクリーガを抜き、聖属性を三重に付与する。

 そして、魔人に対してとどめの一撃を放つ。


「『究極十字斬』」


 俺の放った聖属性の十字の一撃が魔人に迫る。

 それを見た魔人は手を前に出してその攻撃を防ごうとあがくが、無意味な行動だ。


 スパッと俺の一撃は魔人の体を切断する。

 切断された魔人の体は付与された強力な聖属性の効果で次々に消滅していく。


「オノレ……ギャアアアアア!」


 その消滅が頭部にまで達したとき、魔人は断末魔の悲鳴とともに消滅していった。


「ふう、どうにかなったな」


 途中ちょっと焦る場面もあったが、こうして俺たちは魔人討伐に成功したのだった。


★★★


「まずいわね」


 魔人を討伐すると同時にそれまで安定していた空間が突然ゴゴゴと音を立てて揺れ始めた。

 ヴィクトリアのお母さん曰く。


「魔人が滅びたことで魔人を封じるために作られたこの空間が不安定になったみたいね。多分、もうすぐこの空間は崩れてなくなるわね」


 とのことだった。


「ということで、さっさと脱出するわよ。『空間操作』」


 お母さんが転移門を開いてこの空間と外を繋ぐ。


「急ぎなさい」

「「「「はい」」」」


 俺たちは急いで転移門に入る。

 こうやって俺たちは異界空間から脱出したのだった。


★★★


「うん、ここはエルフの古代図書館か」


 転移門を抜けた先はエルフの古代図書館の前だった。

 ここまで来ると異次元空間にいた時のような違和感はなくなり、完全に正常な感覚に戻っていた。


 ただ、異次元空間という所は体力を消耗する場所なのだろうか、結構疲労が激しかった。

 しばらくは立っていることもできず、座り込んでいた。


 と、何やらここで嫁たちが俺の方へ寄ってくる。


「旦那様、何か疲れました」

「ホルストさん、疲れたので寄りかかってもいいですか?」

「ホルスト君、眠いから体支えて」


 口々にそう言いながら、俺に寄りかかってくる。

 それを見てヴィクトリアのお母さんが笑う。


「あらあら、ホルスト君て女の子にそんなに頼られて……羨ましいわね」


 そんなことを言っている。

 まあ、俺も嫁たちに頼られるのは嫌じゃないから別にいいけどね。


 そんな感じで少し休憩して、体力が十分に回復した後で俺たちはその場を離れたのだった。


★★★


 この後の予定としては、とりあえず王宮へ行き王様に報告をしてから商館へ帰ろうと思う。


 そして、激戦の疲れを癒すため少しのんびりしようと思う。

 しばらく行っていないから、エリカの実家でも訪問しようかと考えている。


 多分、大歓迎してくれるだろうから、本当今から楽しみである。

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