第259話~地下遺跡の魔人 その2 地下迷宮の攻略 ついでに古代図書館に寄り道しての転移ポイント作成 ……って、お母さん、目的を見失っていないですか?~

 地下水路の封印の扉を抜けた先は地下迷宮だった。


「ああ、また地下迷宮ですか……がああああ、またスライムが……スライムが!」


 地下遺跡で待ち構えていたのが地下迷宮だとわかり、ヴィクトリアが絶叫する。


 頭を掻きむしりながら、本当にイラついたような表情で目をキョロキョロさせている。

 事情を知らない人が見れば完全に不審者の行動だが、俺は事情を知っているのでヴィクトリアの気持ちがよくわかった。


 ちょっと前にノースフォートレスの近くのダンジョンに潜ったことがあったのだが、そこにも地下迷宮エリアがあって、大量のスライムに襲われたことがあったのだ。


 スライムはたいして強くなかったが、本当にしつこくて陰湿な魔物だったので、俺たちは少なからず精神的にダメージを負ったものだった。

 多分、ヴィクトリアにはその時のトラウマが残っているのだろう。

 それがこの態度に出ているのだと思う。


 だから、このヴィクトリアの態度を見ても俺は何も言わないし、残り二人の嫁たちも何も言わない。


「大丈夫ですよ、ヴィクトリアさん。ここには前の様にスライムが出て来るとは限りませんから」

「そうだよ、ヴィクトリアちゃん。そんなに心配しなくても大丈夫だから。もしスライムが出てきてもアタシたちが何とかしてあげるから」


 むしろ、そうやってヴィクトリアのことを励ましてやる始末だった。


 ただ、ヴィクトリアのお母さんは別だ。

 喚いているヴィクトリアを叱咤激励する。


「全く、この娘は!神ともあろう者が、スライムごときでこんなことになるとは情けない!」

「でも、スライムって倒しても倒しても出てくるんですもの。怖くて、気味悪くて仕方ないです」

「そういう時は『スライム避け』の魔法を使いなさい。それだけで弱いスライムは近づいてこないから」

「え?『スライム避け』の魔法?そんなのがあるのですか」

「まあ、この子はそんなことも知らないんだから。本当、魔法を司る女神の娘なのに情けないったらありゃしないわ」


 そう言いながら、お母さんはヴィクトリアの頭を一発こつんと軽く小突く。

 本気で小突いているわけではなさそうだが、思い切り怒っていることはうかがえる。


 頭を小突かれたヴィクトリアが、涙目で謝る。


「何か、知らなくて、ごめんなさい」

「まあ、いいわ。後で『僧侶の記憶』を使って自習しておきなさい。それでいいわ」「それでいいんですか?」

「ええ。何せ今回立ちはだかる敵はスライムではないからね」


 そう言いながら、お母さんは前方の一か所を指し示す。

 そちらを見た俺たちは驚く。


「え?デュラハン?それにアンデッド軍団」


 そこにはデュラハンを筆頭に、多くのアンデッド軍団がいた。


★★★


 迷宮エリアに入ってすぐにアンデッドの軍団が現れた。


 どうやらこの迷宮は死者の墓場の様だった。

 しかも、出てきたのはデュラハンを筆頭にレイス、リビングテッドキングと上級のアンデッドばかりだった。


 それを見た俺はすぐに嫁たちに指示を出す。


「俺とリネットが前に出て敵を食い止めている間に、エリカとヴィクトリアは合体魔法を用意しろ!」

「「「はい」」」


 いい返事が返ってきたので、真っ先に俺が前に出る。


「『神強化』」


 武器に聖属性を付与して突撃していく。


「『戦士の記憶』よ、力を貸して!」


 リネットも神器の力で武器に聖属性を付与して俺に続く。


「うがああああ」


 そんな俺たちの前に唸り声をあげて立ちふさがったのはデュラハンだ。


 デュラハンは首なし騎士のアンデッドで、生前立派な騎士だった者が、冤罪で処刑されるとこの世に恨みを抱いてデュラハンになるという。

 ちなみに処刑されて切り落とされた首は、デュラハン自身がその手に持っていることが多い。


 現に目の前のデュラハンも自分の首をその手に持っている。

 その目は怪しげに赤く光り、キョロキョロと獲物を探すかのように周囲を見ていた。


 常人が見たら卒倒しそうな光景だが、俺たちにとってはこんなのは今更だ。


「たあああ」


 躊躇なくデュラハンに斬りかかっていくが。

 カン。

 と軽い音を立てて、デュラハンは俺の攻撃を大剣で受け流してくる。

 様子見で軽く斬りつけただけとはいえ、俺の攻撃を受け流してくるとは……。

 生前はよっぽど高名な騎士だったのだろうと思う。


 と、そんなことを考えている場合ではなかった。


「うほう」


 今度はデュラハンが斬りつけてきた。

 片手で大剣を振り回して、軽やかかつ鋭く斬りつけてくる様が見事だった。


 だが、今度は俺も本気だ。


「当たるかよ!」


 デュラハンに二撃目の攻撃をさせないために、初撃をぎりぎりのタイミングでかわし、カウンターの一撃でデュラハンの大剣を攻撃し、武器破壊を狙う。


 ドン。

 年月の経過で武器が劣化していたせいもあるのだろうが、俺のカウンター攻撃は見事に決まって、デュラハンの大剣が根元が鈍い音を立てながら真っ二つになる。


「きしゃあああ」


 自分の生前の誇りである武器を破壊されて怒ったデュラハンは、そう絶叫しながら俺に素手で攻撃しようと迫ってくる。

 だが、その動きは先ほどの剣戟と比較すると、とってつけたような動きで全然よくなかった。


「させないよ」


 だから、駆け付けてきたリネットの盾による防御に簡単に防がれてしまい、


「地獄へ行きな!」


リネットの鮮やかな反撃で胴体を真っ二つに切り裂かれてしまった。


「ぎゃあああ」


 そして、リネットの聖属性攻撃をもろに食らってしまったデュラハンはあっさりと昇天するのだった。


「旦那様、準備ができましたので退避を!」

「リネットさん、どいてください!」


 そこへ魔法の準備ができたであろうエリカたちが声をかけてきた。


「「おう」」


 それを聞いた俺とリネットはすぐさま退避する。

 次の瞬間。


「『極大化 光の矢』」

「『極大化 聖光』」

「「『極大化 光の矢』と『極大化 聖光』の合体魔法『極大化 聖撃の矢』」


 エリカとヴィクトリアが合体魔法を放つ。

 二人の合体魔法はアンデッド軍団のど真ん中をまっすぐ進んで行く。


「カラダガ、キエルウ」

「ジゴクハ、イヤダ!」


 合体魔法に触れたアンデッドたちが次々に昇天していく。

 その穢れたアンデッドたちが消えていく光景はとても美しく、見ていて楽しかった。


 さて、これで出てきたアンデッドの8割は片付いた。

 残りは残敵掃討だけだ。


「みんな、行くぞ!」

「「「はい」」」


 俺たちは生き残ったアンデッドを始末すべく再び行動を開始するのだった。


★★★


「これでアンデッドは全滅だな。さあ、先へ進むぞ」


 アンデッド軍団をせん滅した俺たちは移動を再開した。


「こっちよ」


 この迷宮ではヴィクトリアのお母さんが案内役をつとめてくれた。

 ヴィクトリアのお母さんはこの迷宮についてとても詳しかった。

 迷うことなくサクサクと移動し、俺たちを導いてくれる。


「ここね」


 そうやって一つの部屋の前にたどり着いた。


「お母さん、ここが次の階層への入り口ですか」

「いいえ、違うわよ。ここは今度来る図書館の入り口ね」


 お母さんは俺の質問に対して首を横に振り、そう答えた。

 その回答に俺は驚く。


「え?俺たち、魔人を目指していたんじゃあ」

「そうねえ、確かに魔人を目指してはいるわ。でも、魔人を倒した後どうせここへは来ることになるのだから、一度来て、ホルスト君も魔法でいつでも来られるようにとここへ来たのよ。そっちの方が便利でしょ」


 俺の驚きと疑念を完全にスルーして、お母さんはしれっとそう答えた。


 まあ、確かにここへはいずれ来るのだからそちらの方が便利なのは確かだ。

 ただ、魔人退治も急ぎの仕事だから時間のロスも問題ではないか。


 俺がそんなことを考えていると、お母さんはその考えを見透かしたかのように言う。


「大丈夫よ。別に大した時間のロスにはならないわ。なぜなら、次の階層への入り口はすぐそこだからね」

「そうなのですか?」

「そうなの。それじゃあ、先へ進みましょう」


 こうして古代図書館の場所をブックマークするという目的を済ませた俺たちは、移動を再開する。


★★★


 それから30分後。


「ここね」


 俺たちは厳重な封印が施された扉の前に立っていた。

 その扉には一目でわかるような大掛かりな封印が施されており、いやでもここが重要区画だというのが伝わって来た。


「それじゃあ、今から私が封印を解除して入るけど、その前にこれを渡しておくわね」


 そう言いながらお母さんが俺たちに渡してきたのは宝玉だった。

 一人一個ずつある。


「お母様、これは?」

「これから進む先はとても迷いやすい場所なの。だから迷った時のためにこれを渡しておくわ。これは『帰還の石』というものなの。これさえあれば、はぐれても皆の所に帰れるから、いざという時は使ってね」


 どうやら俺たちにくれた宝玉はまあ以後にならないためのアイテムらしかった。


「さて、これで準備は終わり。行くわよ」


 俺たちの宝玉を渡したことで事前の準備が終わったのだろう。

 お母さんが先へ進むように促してくる。


「それじゃあ、行きましょうか」

「では、扉を開くわね」


 そう言いながらお母さんが扉に手をかける。

 すると、ギーという重厚な音とともに封印されていた扉が開く。


「行くわよ」


 そして、俺たちはその扉の中へ入って行く。

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