第258話~地下遺跡の魔人 その1 ヴィクトリアのお母さんの危険?な内緒のお話 それから、まずは地下水路を攻略だ!~

「ホルストよ。よくぞ、来てくれた」

「は!お久しぶりでございます」


 イベントに行った翌日、俺たちは王宮に行き王様と謁見した。


 とはいっても、正式な謁見室ではなく、私的な謁見という形になっている。

 その理由はすぐに分かった。


「皆の者、下がるがよい」


 王様は部屋にいる護衛以外の人をそう言って退出させると、俺に一つのペンダントを見せてきた。

 そのペンダントには宝石のようなものがはめ込まれていて、それが赤く光っていた。


「王様、これは?」

「うむ。実は、これは王都の地下遺跡に封じられた魔人の復活を告げる宝具だ」

「魔人ですか?」

「そうだ。この宝石は普段は緑色なのだが、魔人が復活しそうになると赤くなるのだ」

「そうなのですか」


 俺はそう言いつつ、もう一度ペンダントを見る。

 すると、ペンダントはやはり赤く光っていて、それを見ていると獲物を見つめる肉食獣の鋭い目つきを思い起こすのだった。

 それくらい嫌な感じをその赤色から受けた。


「それで、王様。その魔人とは何者なのですか」

「そいつの名前は魔人アヴィディタ。別名強欲の魔人とも言われておる。奴はその力を使ってこの地で暴れまわり自分の欲を満たすために行動していた。それをエルフ王家の先祖が封印したのだ。それがいま復活しようとしている」


 俺の問いかけにエルフの王様はそう答えた。


★★★


「ここからお入りください」


 それから30分後。

 俺たちはエルフの王宮の役人に案内されて、地下遺跡の入り口にいた。


 ちなみに、ヴィクトリアのばあちゃんと銀とホルスターは商館でお留守番させてある。

 今回は緊急の依頼だということで、ホルスターをいつものようにエリカの実家に連れて行く暇がなかった。


 ということで商館の館に置いていくことにしたわけだが、ホルスター一人だけにするのはかわいそうだった。

 だから、銀もお留守番させることにした。


「おばあちゃんも今回は遠慮しておくわ。あそこで何かあったときにこっちに被害が出ないように監視しているわ」


 ついでに、ヴィクトリアのばあちゃんも、非常事態に備えて残ることになった。


「お任せください」

「二人のことは私が守るから、安心して行ってきなさい」


 出発間際、銀とヴィクトリアのばあちゃんはそう自信たっぷりに言っていたので任せておいていいと思う。

 風呂とか食事とかは館の使用人さんがやってくれるし、これで後顧の憂いはない。


「それじゃあ、行くぞ」


 ということで、早速俺たちは遺跡の中へと入って行くのだった。


★★★


 遺跡の入り口から入ると、目の前には地下水路が広がっていた。


 ここは王都の上水道である。

 一応王都の真ん中にある俺たちも行ったことがある『エルフの泉』が主な水源ということだが、それだけでは足りないので、遠くの方の水源からも水を引いてきているという話だ。


 そんな地下水路の通路を俺たちは進んで行く。

 ここは上水道なので通路は臭くなく、割と快適に通行できる。

 ただ、通路自体はそんなに広くないので気を付けて歩かないと足を踏み外しそうな感じだ。


 ついさっきもヴィクトリアのやつが、


「きゃっ」


と、かわいい声をあげながら、転びそうになっていた。

 だから入り口に入る時に「気をつけろ」と言ったのに、本当しょうがない奴だ。

 確か次はヴィクトリアの番なので、ベッドの上で注意しておくとしよう。


 後、ここには魔物も出る。


「旦那様、敵です」


 エリカが警告する方を見ると、そこにはサメの魔物メガロドンがいた。


 メガロドンは淡水にすむサメの魔物だ。

 サメのくせになぜ淡水に、とも思うがいるものは仕方がない。

 メガという言葉が示す通り体は大きく、5メートルくらいある。

 まあ海にいるサメの魔物なら20メートルくらいのものもいるので、それに比べれば小さいが淡水にすむ魚の魔物としては最大のものだ。


 ただ、今の俺たちにはそこまでの敵ではない。


「『極大化 電撃』」


 エリカが電撃の魔法を放ってサクッと倒してしまった。


「ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 エリカが敵を倒したのを見て、俺はヴィクトリアに指示を出す。


 ヴィクトリアは俺の指示ですぐさまメガロドンを収納リングに回収する。

 メガロドンの軟骨は薬の材料、歯は武器の材料として高く売れるからな。

 特にここファウンテンオブエルフのような内陸の都市では魚の素材はあまり入ってこないので高値が付きやすいのだ。

 いくらで売れるのだろうと考えると、俺はワクワクするのだった。


 と、まあこんな感じで俺たちは地下水路を順調に進んで行った。


★★★


 地下水路を進んで行く途中、俺はヴィクトリアのお母さんに先ほどの謁見の時のことを聞く事にした。


 というのも、さっきの謁見の時に今回の褒美の話が出たのだ。

 俺としては前回王様の病気を治した時、十分なものをもらったので今回はいくばくかのお金をもらえればいいかなと思っていたのだが、ここでヴィクトリアのお母さんがある条件を出したのだ。


「ところで、王様。その遺跡の中にはエルフの古代図書館がありますよね。今は封印されて入れないようになっているようですが」

「……確かにあるが、それを知る者はほとんどいないはず。なぜそなたがそのことを知っている?」

「まあ、それは何と言いますか、知る人ぞ知ると言いますか。その界隈では結構有名な話ですのよ」

「そうなのか。……まあ、よい。それで、そなたらはその古代図書館をどうしたいのだ」

「実はその図書館には、禁足地にある遺跡の資料があります。……言い間違えました。ある可能性が高いです。ですから魔人を倒したご褒美にそこへの立ち入りを許可してほしいのです」

「なるほど、そういうことか。まあ、そなたらなら図書館の知識を悪用する心配もないだろう。良かろう。魔人を倒した暁には利用を許可しよう」


 と、このような経緯を経て、魔人を倒したら図書館を利用しても良いという許可をもらったのだが、俺はそのことについて質問した。


「お母さん、さっきお母さんが話していた図書館のことなのですが」

「あら?何か気になったことでもあったの」

「気になったというか、そもそも古代図書館ってどんなところですか」

「うーん、何て言えばいいのかな。まあ、見かけは普通の図書館かな」

「見かけは……ですか」


 見かけは普通ということは、普通にたくさん本を置いてある場所ということなのだろうと思う。

 だが、俺が聞きたいのはそこではない。


「俺の聞き方が悪かったですね。その場所にはどんな本が置いてあるのですか」


 俺の質問を聞き、お母さんがあまり言いたくなさそうな顔をする。

 だが、全く答えないわけにもいかず、渋々ながらポツリポツリと話し始めた。


「実は、ね。ここの図書館には危険な書物があるの」

「危険な書物?それは人の手に余るような魔法が書かれた魔術書とかですか」

「いいえ。違うわ。ここの図書館には魔術書もあるけど、そこまで危険な魔法が書かれた本はないわね」


 そうなの?

 それでは、と思い俺は次の質問をぶつけてみる。


「それじゃあ、何か古代のとんでもない叡智が書かれた本とかそういう危険なのがあるのですか。あ、そういえば王様に禁足地に関する本があるとか言っていましたね。そういうのが危険なのですか」

「違うわね。確かにそういう知識を得るための本もあるけど、危険というほどではないわ。むしろ文明の発展に貢献してくれるものだわ。後、禁足地に関する本も遺跡に関する情報を提供してくれるだけで、決して危険ではないわね」


 俺はお母さんのその回答を聞いてちょっとだけイラっとした。

 お母さんの態度が妙に煮え切らないものだったからだ。

 だから、俺はズバリ聞いた。


「それでは、危険な書物とは何なのでしょうか」

「……」


 その俺の問いにお母さんは口をつぐむ。

 しばらくはそのまま黙っていたが、そのうちにみんなの無言の圧力に耐えられなくなったのか、ポツリと言う。


「……日記」

「日記?日記って日常の出来事を書いたあの日記ですか」

「そうよ。その日記よ」

「それで、お母様。その日記がどうして危険なのですか。何か危険な魔法でもメモしているのですか?」

「違うわよ」


 そう断言するとお母さんは一旦黙る。

 そしてしばらく時間を空けた後、恥ずかしそうに顔を赤くしながら説明する。


「その日記ね。お母さんが若い頃に書いたマールス様への思いをつづった日記なのよ。書いている時は真剣に書いていたのだけど、後で読むと恥ずかしくなっちゃってここへ隠しておいたの」

「はあ」

「ただ、昔のこと過ぎて自分でもどこへ隠したか忘れちゃったの。だからね。魔人退治が終わったら、図書館で遺跡の本を探すことになるけど、その時に日記を見つけても読んじゃダメよ。あんな物が白日の下にさらけ出されたら、お母さん、恥ずかしくて生きていけないもの」


 最後は青春真っ盛りの恋する乙女のように小さい声で、お母さんはそうお願いしてくるのだった。


 正直俺たちはその話を聞いてあきれた。

 その日記は、お母さんにとっては、天地がひっくり返るほどの危険物に違いないのであろうが、そこまで大袈裟に言わないでも、と思った。


 ただ人には他人に覗かれたくない秘密というものがあるので、見つけても触れないでおいてあげようとは思った。

 だから、皆でこう言った。


「「「「大丈夫です。見つけてもこっそり渡してあげますから」」」」

「みんな、ありがとう」


 それを聞いたお母さんは感激してお礼を言ってくるのだった。

 それを見て俺は思う。


 本当、大袈裟な人だなあ、と。


★★★


「ここね」


 魔物を退治したり雑談したりしながら地下水路を進むうちに目的地に着いたようだ。

 目的地には大きな鉄の扉があり、先へ進門とするものを拒んでいるかのように見えた。


「ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 俺はヴィクトリアに言って王様から預かって来た鍵を出させる。


「開いたぞ」


 鍵を使うと扉は簡単に開いた。


「下り階段か」


 扉を開けると、すぐに階段があり下の階層へと続いていた。


「さあ、行くぞ」


 俺たちはその階段を降り、次の階層へと進んで行く。

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