第256話~ソルセルリの魔法修業 最終ステップ開始! え?修行のために島を一つ造るのですか?~

「さあ、そろそろ魔法の修業の最終ステップに突入するわよ」


 いつものようにノースフォートレスの近くの山の中で魔法の修業をしていると、ヴィクトリアのお母さんがそんなことを言い始めた。

 どうやらとうとうお母さんの修業も最終段階へ来たようだ。


「それでは、早速始めましょう、と行きたいところだけど、ここでは狭いから他へ行きましょう」


 しかもここでは場所的に狭いらしい。

 どこか他の場所へ行くつもりのようだ。


「それじゃあ、行くわよ。覚悟はいい?」

「「「「「「はい」」」」」」

「じゃあ、『空間操作』」


 ヴィクトリアのお母さんが魔法で転移門を出現させる。

 そして、俺たちはそれをくぐって目的地へと向かうのだった。


★★★


 転移門をくぐった先は海の上だった。


 え?意味が分からないって?

 いや、文字通りの意味だ。

 俺たちがいるのは何もない海の上なのだ。

 ヴィクトリアのお母さんの魔法でかろうじて空に浮かんでいるだけなのだ。


 しかし、と俺は思う。

 ここで一体どう修行をするつもりなのだろうか、と。


 一応聞いてみるかと思い立ち、ヴィクトリアのお母さんに話しかけようとすると、お母さんはこんなことを言い始めた。


「それじゃあ、修行用に島を一つ造っちゃうから、ちょっとだけ待っててね」


 島を造る?いきなりこの人は何を言っているのだと思った。

 そんなことが本当にできるのか疑問に思ったが、ヴィクトリアのお母さんは女神様だ。

 ここは少し様子を見てみようと思う。


「『天地創造』」


 ヴィクトリアのお母さんが魔法を唱える。すると。


「これは……すごい!」


 リネットが思わず驚きの声をあげる。


 お母さんが魔法を唱えるとともに何もない海の上にどこからともなく土が現れ始め、あっという間に島が一つできてしまったのだ。

 これはすごく壮大な光景だった。

 この前、月に行ったとき月からこの大地を見て非常に感動したが、目の前で起こったことはそれに匹敵、あるいは凌駕する光景だと思った。


 さすが女神様!すげえ!

 思わずそう叫びたくなるほどだった。


 そうやって俺たちが感動していると、


「それじゃあ、そろそろ行くわね」


お母さんは俺たちを連れて島に上陸した。


★★★


 上陸した島はかなり広かった。

 大体5キロ四方くらいがあると思う。


 島の中には小高い山が一つあるがそれだけの話だ。

 木とかそういうのは一切ない。

 せいぜい大きな岩がいくつかある程度だ。

 島の端からテレスコープを使えば、はっきり反対側が見えるくらいには何もない。


 そして島の周囲には何もなく、青い海と空がどこまでも広がっているだけだ。


「ちなみにお母さん。この島ってどこら辺にあるのですか?」

「ここは、ね。フソウ皇国のさらに東。フソウ皇国から300キロくらい離れた海の上よ。つまりこの島は絶海の孤島というわけ」


 絶海の孤島か。

 なるほど。それはこの何もない島にふさわしい呼称だと思う。


「それで、お母さん。魔法の修業も最終ステップに入ったとかおっしゃっていましたが、具体的にはどういった修行をするのですか」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました」


 俺にそう質問されたヴィクトリアのお母さんは、何か勿体つけるような感じで不敵な笑みを浮かべる。


 『極大化』の修業の時もそうだったけど、この人芝居がかった言い方が本当に好きなんだと思う。

 娘のヴィクトリアにもそういう所があるから、こういう点は母娘でよく似ていると思う。

 まさに血は争えないとは、こういうことを言うのだと思う。


 それはともかく、お母さんはそうやって不敵な笑みを浮かべながらしばらく間を空けた後、俺たちに最後の修業の目的を告げてくる。


「それでは、今回の修業の目的を発表します。今回の修業の目的。それは神の力のコントロールです」


 神の力のコントロールが修行の目的。

 ヴィクトリアのお母さんは俺たちにそう言った。


★★★


 神の力のコントロール。

 その修行をすると聞いて、俺はある疑問が心の中に浮かんだので、ヴィクトリアのお母さんに聞いてみることにする。


「神の力のコントロールというと、ヴィクトリアのお兄さんが俺に前に教えてくれたようなことですか?」

「あら、そういえば、ホルスト君はジャスティスに神の力をコントロールする修行をすでに受けていたのよね。まあ、やることは基本的には同じかしらね」


 俺の質問にヴィクトリアのお母さんはそう答えてくれた。


「ただし、一口に神の力のコントロールと言っても武術と魔法では細かいところに差異があるから、ホルスト君にはその辺のところを教えてあげるわ」


 俺にそれだけ言うと、お母さんは今度はエリカとヴィクトリアに視線を移す。


「それで、エリカちゃんとヴィクトリアは、この修業は初めてだろうから、二人には基本的なことを教えて、神器を使いこなせるようにしてあげるわ。頑張るのよ」

「はい、頑張ります」

「はい、と言いたいところなのですが、お母様」


 お母さんの説明に対してエリカは素直に返事をしたが、ヴィクトリアはお母さんの言い方が気に食わなかったのか、口答えをしてきた。


「あら、何?」

「あのう、ワタクシ、一応女神なので神の力の使い方については心得があるのですが」


 しかし、ヴィクトリアのお母さんは、ヴィクトリアの主張を鼻で笑いながら一蹴する。


「ははん?何を言っているのよ、このポンコツ娘!確かにあんたは神の力を使っていたけど、やっていることと言ったら、横になって小説やマンガを読んでいる時にお腹が減ったらお菓子を手に入れるために力を使ったり、ゲームやっていて結果が気に食わなかったら神の力を使って結果を改ざんしたりとか、そんなことにしか使っていなかったじゃない。お母さん、そんなあんたを見ていると情けなくて仕方なかったわよ」

「うっ」


 正直言うと、お母さんの言うヴィクトリアのしでかしてきたことについて複数俺の知らない単語が混じっているので、ヴィクトリアが実際に何をしでかしたか細かいことは俺には理解できなかった。


 だが、お母さんの怒りっぷりから見て、こいつがろくでもないことに神の力を使ってきたのだけはわかった。

 そして、それをお母さんに指摘されて、ヴィクトリアがとても焦っていることも。


「それなのに、いきなり魔法に使用してうまく行くつもりなの?世の中舐めているんじゃないわよ!」

「……それは、その」

「まあ、試しにやらせてあげてもいいけど、できなかった場合、罰を受けてもらうわよ!」

「罰ですか?」

「ええ、皆の前でお尻ぺんぺんしてあげるからね。その覚悟はあるの?」


 そこまで言われてヴィクトリアの顔が蒼くなる。


 いい大人が人前で親に尻を叩かれる。

 こんな屈辱はないだろう。

 俺だってそんなことはされたくない。

 だからヴィクトリアが蒼い顔になるのもよくわかった。


 しかし、そんな二人のやり取りを見て俺は思う。

 たまにはヴィクトリアのやつ、お仕置きされた方が良いのではないかと。


 こいつ、この前の月に行った時も不用意にウサギに触ろうとして危ない目に遭っていたし、今回も不用意に余計なことを言ってしまっている。

 反省を促すためにも、お母さんにお尻の一つでも叩かれたがが良いような気がする。


 それに、お母さんにお尻を叩かれるヴィクトリア。面白そうだから、ちょっと見てみたい気がするしね。


 ……って、そんなかわいそうなことを考えてはダメだな。仮にも俺の大事な嫁だし。


 それはともかく、そうやって母親に脅されたヴィクトリアはすぐさま降伏した。


「申し訳ありませんでしたあ!ワタクシも頑張って修行したいです」

「ふん、最初からそう言えばいいのよ。まあ、今回はこれで許してあげるから頑張りなさいよ」

「はい!」


 ヴィクトリアが素直になったのを見て、お母さんはうんうんと満足げに頷くのだった。


「さて、それでは修業を始めるわよ」


 ともあれ、こうして俺たちの魔法修業の最終ステップは始まったのだった。

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