第255話~銀の姉の金との再会~

月から帰還して2日ほどはひたすら寝た。


 本当に何もせずに寝た。

 嫁たちも家事など一切せず、館の使用人さんに丸投げしていたし、俺は俺で横になってひたすら寝た。

 そのくらい疲労が激しかったからだ。


 もうちょっと具体的なことを言うと、俺と嫁たちはリビングに簡易ベッドを3つ並べてその上で寝た。


 え?数が合わないって?

 言わせるなよ。

 そんなの嫁たちは交代で一人は俺と同じベッドで寝たからに決まっているだろうが。

 嫁たちのいい匂いを嗅ぎながらゆっくりと寝るのはとても良かったぞ。


 ちなみに夫婦生活とかはしていないからな。

 嫁たちは他の嫁たちに自分の恥ずかしいところを絶対に見られたくないらしいから一緒にとかは絶対に嫌がるし、第一俺たちの横ではホルスターと銀が寝ていたからな。

 子供の前でそんなことができるはずがないだろう。


 なおホルスターと銀はソファーの上で一緒になって寝ていた。


「銀姉ちゃん」

「ホルスターちゃん」


 そんな寝言を言いながら、仲良くお昼寝していた。

 とても子供ら良くていい光景だと思う。


 そうやって俺たちはしばらくのんびり過ごしたのであった。


★★★


「どこかへ遊びに行きたいわ」


 十分に休んで、疲れがとれ俺たちに体力が戻りつつある頃、ヴィクトリアのお母さんがそんなことを言い出した。


 ちなみにヴィクトリアのお母さんとおばあさんには俺が小遣いを渡しておいたので、俺たちが休んでいる間、町へ出かけてショッピングや外食を楽しんでいたようだ。

 それだけでも十分に遊んでいる気がするが、それにもとうとう飽きたのだろう。

 頃合いを見計らって、俺たちにそう要求してきたのだった。


 俺は別にそれを悪いとは思わなかった。

 ヴィクトリアのお母さんたちには月で大分お世話になったからお礼をしたかったし、俺たちも寝ているだけの生活に少々飽きてきたからだ。


「それは構いませんが、どこか行きたい場所とかありますか?」

「そうねえ。……あ、そうだ。まだフソウ皇国って行ってなかったわね。アリスタお義母様に聞いた話だと、あそこって食べ物がおいしいらしいのよね。一度行ってみたいわ」

「わかりました。フソウ皇国ですね。皆もそれでいいか?」


 嫁たちの方を向きながらそう聞くと、全員、


「「「はい、行きたいです」」」


とのことだったので、これで行き先は決まった。


 嫁たち、いやそれにプラスしてヴィクトリアのお母さんとおばあさんもだが、銀とホルスターを連れて奥へ引っ込むと、しばらくして全員外出用の服装に着替えて出てくるのだった。

 うん、すごい変わり身の早さだ。

 俺は嫁たちの行動力に感心するのだった。


 それはそれとして、準備もできたようなので行くとしよう。


「『空間操作』」


 俺は転移門をフソウ皇国へとつないだ。


★★★


「うわー、この町も久しぶりですね」


 ヴィクトリアが町の風景を見て声をあげる。


 俺たちが転移した先はフソウ皇国の皇都キョウだった。

 本当にこの町に来るのは久しぶりだ。

 多分、キングエイプと戦って以来だと思う。


「お母様、ここですよ」


 着いたら早速ご飯を食べに行く。行く先は前にも行ったことがある高級料亭だった。


「それじゃあ、、大人6人はこの『夏の味を楽しむ料理長のおすすめ料理のコース』で。子供2人はこの『お子様定食』で、お願いします」

「畏まりました」


 女将さんを呼んで注文をすると、すぐに料理が運ばれてくる。

 料理は夏らしく冷たい料理が多かった。

 冷たい蕎麦から始まり、刺身に冷やした野菜の料理などが出てきた。

 ただ、メインの肉料理は暖かかったけども。

 もちろんどれも良い食材が使われていて、とてもおいしかったけどね。


 特にヴィクトリア一家は肉料理がおいしかったらしく。


「ワタクシ、これ気に入りました。おかわりください」

「お母さんも欲しい」

「おばあちゃんも!」


 と、3人で仲良くおかわりを注文していた。


 それでそれらを食べた後、デザートとして出てきたのは白玉団子とアンコが載った抹茶味のかき氷だった。

 これもおいしかった。


「旦那様、私、これ気に入りました」

「アタシも前に同じのを食べたのだけど、この白玉団子って言うのはこれにあっていて、好きだな」


 特にエリカとリネットに好評なようで、二人とも口々に褒めていた。

 みんなが喜んでいるのを見て、俺はここへ来てよかったと思ったのだった。


★★★


 ご飯を食べた後は美術館へ行くことにした。

 何でも今は皇国の秘宝展というのをやっているらしく、普段は展示していない品物を展示しているという話なので行ってみることにしたのだった。


 ということで、料亭を出た後商業街を歩いて進んで行くと。


「あれ?獣人の子供?」


 珍しく獣人の少女を見かけた。

 獣人は主にヴァレンシュタイン王国の西の方に多く住んでいて、他の土地にあまり出て行かない連中だ。


 一応、うちの銀も獣人の姿に擬態しているが、正体は狐だからな。


 それに、ここは獣人のいる土地から遠く離れた東の地だ。

 王国とかでは割と見かけることもあるのだが、ここで見かけるのは本当に珍しかった。


 ということでその子をじっくりと見てみる。

 すると。


 あれ?どこかで見たことがある気がするな。

 そんな気がした。

 どこで見たんだろうと悩む俺に答えをくれたのは銀だった。


「あ、金お姉ちゃんだ」


 何と獣人の少女は銀の姉の金だった。


★★★


「皆様、お久しぶりでございます」


 俺たちは銀の姉である金を近くのお茶屋さんに誘った。

 すると、席に着くなりそうやって丁寧に挨拶してくれた。


 約2年ぶりくらいに会った金は幼さが大分抜けて、かなりの美少女になっていた。

 それを見て、うちの銀も将来こんな感じになるのだろうかと思った。


 挨拶してもらった俺たちは全員で飲み物を注文する。

 しばらくすると商品が来たので、それを飲みながら会話をする。


「それで、金はこんなところで何をしていたんだ?」

「アリスタ様のご命令で儀式に使うお神酒みきを買いに来たのです」


 女神アリスタ。ヴィクトリアの父方の祖母である。

 どうやら金はそのアリスタの仕事で来ているようだった。


「ということは、あんまりのんびりしている時間は無かったりする?」

「はい、このお神酒を早く持って帰らねばなりませんので」


 小脇に抱えたお神酒らしい紙袋を見ながら金はそう言った。


 それは残念だ。折角姉妹が久しぶりに会えたのだから、俺としては少しくらい一緒に過ごさせてやりたかったのに。

 俺がそう考えていると、その考えを見透かしたかのようにヴィクトリアのもう一人の祖母であるルーナが口を挟んで来る。


「あら、別にいじゃない。折角下界に降りてきたんだから、少しくらいゆっくりしなさいよ」

「いえ、ルーナ様。ご主人さまの命令なので、私の独断で勝手なことは」


 ちなみに金にはここにルーナとソルセルリがいることは言ってあるので、二人に対して物凄くへりくだった態度をとっている。

 それはともかく、金の言葉を受け、ルーナはこんなことを言い始める。


「だったら、私がお義姉さんに言ってあげるわ」


 そう言うとルーナはペンダントのようなものを取り出し、それを使ってアリスタと交渉を始める。


「もしもし、アリスタお義姉さん?私よ、ルーナよ。元気にしてる?」

(おや、ルーナさん?久しぶりね)

「それでね、お義姉さん、早速なんだけど、私今下界でビクトリアちゃんたちと一緒にいるの。それで、ちょっと遊びに出ていたら、お義姉さんの所の金ちゃんに会ったの」

(金に?そういえば、あの子にはお使いを頼んでいたわね)

「そうでしょ。それでね、ヴィクトリアちゃんの所には金ちゃんの妹の銀ちゃんがいるでしょ?私ね、二人がしばらく会ってないって聞いてね。折角会えたんだから、二人を遊ばせてやりたいなって思うの。だから、金ちゃんの帰りが少しくらい遅れても構わないでしょ?もちろん、ただでとは言わないわ。金ちゃんにはちゃんとお義姉さんへのお土産を持たせて帰らせるから。それでいいでしょ?」

(……まあ、そういうことなら構わないよ)

「やった!ありがとう。お義姉さん。それじゃあ、またね」


 交渉の結果、どうやら金を連れまわす許可が下りたようだった。


 ということで、俺たちは金を連れて観光することになった。


★★★


 その1時間後、俺は美術館の中庭にいた。


「「「じゃんけん、ぽん」」」

「「「あいこで、しょ」」」

「「あ、金姉ちゃんの負けだ。金姉ちゃんの負けだね。金姉ちゃんが鬼だね」」

「あーあ、負けちゃった。それじゃあ、10数えるからその間に逃げてね」

「「うん」」

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。それ!」


 それで、ホルスター、金、銀の3人が鬼ごっこをしているのを見ている。


 嫁やヴィクトリアのお母さんたちは、美術館の中で行われている『皇国の秘宝展』という展示会を見に行っている。

 別に俺も行ってもよかったのだが、俺的にはホルスターたちが心配だったので中庭で3人の様子を見ているというわけだ。


 まあ、ホルスターや銀は普通の大人の冒険者なら撃退してしまえるくらいの実力を有しているので、誘拐されるとかの心配はないと思うが、心配なものは心配なのでこうして怪しい奴が近づいてこないか見張っているというわけだ。


 それにしても金と銀の笑顔がまぶしい。

 多分、久しぶりに姉妹で会えてとても喜んでいるのだと思う。


 特に金の変わりっぷりがすごい。

 さっきお茶屋さんで話していた時は、ちょっと大人びた優等生の表情だったのに今は子供らしい明るい笑顔だ。

 優等生の顔の方はヴィクトリアのばあちゃんの所での修行で身につけたのだろうが、俺的にはこっちの明るい顔の方がいいと思う。


「ほら、ホルスター君と銀ちゃん捕まえた!」

「「ああ、捕まっちゃった」」


 お、どうやら金が他の二人を捕まえたようだ。


「じゃあ、次はホルスター君が鬼ね」

「うん、わかった」


 そして、次の鬼ごっこではホルスターが鬼の番のようだ。


「「「きゃ、きゃ、きゃ」」」


 すぐに鬼ごっこが再開される。

 また3人が元気に走り回り始める。


 それを見て、金を連れて来てやって本当に良かったと思った。


★★★


「金お姉ちゃん、またね」

「うん、銀ちゃんも元気でやるのよ」

「金姉ちゃん、修行頑張ってね」

「ホルスター君も頑張るのよ」


 美術館を出て、皆で夕飯を食べた後、金が天界に帰る時間になった。

 久しぶりに合えた姉と別れるのが寂しいのか、銀はずっと金に抱き着いている。

 それを見ていると、俺としては金をこのまま行かせたくない気持ちになるが、金は立派な神獣になるために修行中の身だ。いつまでも引き留めておくわけにはいかない。


「さあ、時間よ。この転移門をくぐればアリスタお義母様の神殿は目の前だからね。帰ったら、お土産とかちゃんと渡すのよ」


 まるで未練を断ち切るかのように、ヴィクトリアのお母さんが魔法で転移門を作り出す。

 それを見て、金は妹からそっと離れ、俺たちに挨拶をしてくる。


「皆様、大変お世話になりました。妹のことをよろしくお願いします」


 それを見た俺の嫁たちが感動して泣いている。


「金ちゃん、またいつでも遊びに来ていいのですよ」

「ワタクシもいつでも準備はできていますので、遊びに来てください」

「本当、いつでもおいでよ」


 口々に名残惜しそうにそう言う。

 そんな嫁たちに金はぺこりと頭を下げる。


「はい、そのうちまた遊びに来させてもらいます。それでは、ごきげんよう」


 最後にそう言い残すと、金は転移門に入り、天界へと帰って行った。


「うう、お姉ちゃん」


 姉がいなくなって寂しくなったのだろう。

 金の姿が見えなくなって銀がそうやって嗚咽し始めた。

 俺や嫁たちはどうしようかとおろおろしたが、ここでホルスターが銀のことを抱きしめてやる。


「銀姉ちゃん、大丈夫だから。金姉ちゃんとはまた会えるから。それまでは僕が銀姉ちゃんを寂しくないようにしてあげるから。だから、泣かないで」

「うん、ホルスターちゃん、ありがとう」


 と、こんな感じでホルスターが優しく言ってやると銀は泣き止んだのだった。


 それを見て、俺は、いやエリカたちも、正直驚いたね。

 ホルスター、いつの間にこんなカッコいいセリフを言えるようになったのか、とね。

 本当、我が子ながら末恐ろしいことだと思った。


 それはともかく、銀も泣き止んだことだし、帰るとするか。


「『空間操作』」


 俺は転移門をヒッグス家の商館に繋ぎ、エルフの王都へ帰るのだった。

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