今ならもれなく女神がついてきます~一族から追放され元婚約者と駆け落ちした俺。食うためにダンジョンに挑み最強の力を得たまではよかったが、なぜかおまけで女神を押し付けられる~
第254話~月旅行 月の遺跡 猫の神獣と神器~
第254話~月旅行 月の遺跡 猫の神獣と神器~
ヴィクトリアのおばあさんに先導されて『月の遺跡』へ入る。
『月の遺跡』の入り口の扉は石でできていて、その表面には荘厳で華麗な文様が刻まれており、立派な見かけだった。
「ホルスト君、開けちゃって」
「了解です」
ヴィクトリアのばあちゃんの指示で俺が扉に手をかける。
体重をかけて扉を前方に押すと、ギーという音とともに扉が開いていく。
扉が十分に開いたところで、俺は作業を止める。
「さあ、行くわよ」
扉が開いたところでヴィクトリアのばあちゃんが入って行く。
そして、俺たちもそれに続いて中へと入る。
★★★
「ドワーフの遺跡のようにここもすごい紋様だね」
『月の遺跡』の中を歩いていると、リネットが『月の遺跡』についてそんな感想を漏らした。
リネットの言うように、この『月の遺跡』も、ドワーフの遺跡同様に、魔法陣らしき紋様であふれていた。
この魔法陣らしき紋様は荘厳さと神聖さに満ちているので、見ている分には飽きなくてとても良いと思う。
もっとも、それは俺とヴィクトリアとリネットの反応で、エリカの反応はちょっと異なる。
「これは……もしかして『時空間操作』の魔法陣では……。これがあれば、ヴィクトリアさんの収納リングと同じようなことが……ぜひともメモしておかなくては……」
どうやら気になる魔法陣がいくつか見つかったらしく、さっきから何かを必死にメモをしていた。
俺はそれを、エリカは勉強熱心だなあと思いながら見ていた。
何せエリカはうちの頭脳担当だからな。
非常に頼りがいがあって俺も助かっている。
本当に感謝しかない。
「さあ、着いたわよ」
そうこうしているうちに、ヴィクトリアのおばあさんがある部屋の前で立ち止まる。
どうやら目的の部屋に着いたようだった。
★★★
「わー、白いネコさんだ~」
部屋に入るなり、そう言いながら部屋の真ん中で寝ている白いネコに飛びついて行った。
寝ているネコを無理矢理抱き上げ、頬ずりをする。
突然のことに驚いた猫は目を覚まし、迷惑そうな顔をしながらヴィクトリアのことをじっと見ている。
当たり前だ。
折角ぐっすりと眠っていたのに突然たたき起こされるとか、ネコにとっては迷惑行為でしかない。
というか、こいつまた無警戒で動物に近づいて行きやがった。
ここにいるということは邪悪な存在ではないとは思うが、敵か味方かもわからないうちにかわいがったりするとか、言語道断だ。
まあ、それだけ動物好きということなのだろうが、この前『ムーンラビット』に近づいて行って俺に泣きつく羽目になったというのに、本当に凝りないやつだ。
それはそうとして、ヴィクトリアに抱き着かれた猫はしばらくの間はジッと我慢していたが、やがて我慢できなくなったのか声をあげる。
「ちょっと、あなた!いつまで人のことを触っているつもりですか!」
「え?しゃべった?」
猫の声を聞いて今度はヴィクトリアが驚いた顔をする。
というか、俺とエリカとリネットも驚いた。
唯一驚いていないのはヴィクトリアのばあちゃんだけだった。
ヴィクトリアのばあちゃんはゆっくりとネコに近づいて行き、こう言った。
「ミーちゃん、久しぶりね」
「こ、これはルーナ様。まさか、こちらの方においでであったとは。失礼いたしました」
ヴィクトリアのばあちゃんに話しかけられた白ネコは、無理矢理ヴィクトリアの拘束を振りほどくと、地面に降り立ち、ヴィクトリアのばあちゃんに平伏するのだった。
「別にいいのよ。それよりもうちの孫がいきなり起こしちゃってごめんね」
「孫?この小娘がルーナ様のお孫様?……あ、いや、失礼な言い方をして申し訳ありません」
「構わないわ。先に失礼なことをしたのはこの子の方だし」
二人はえらく親し気な感じで会話をしている。
どうやら二人は知り合いの様だった。
★★★
「紹介するわね。この子はね、私の神獣、白猫のミーちゃんよ。この遺跡を守ってくれているのよ」
ルーナのばあちゃんに紹介された白ネコがぺこりと頭を下げてくる。
「皆様、初めまして。私、ルーナ様の下で神獣をやらせてもらっておりますミーと申します。以後、お見知りおきを」
そう丁寧に挨拶をしてきたミーはとても愛らしいメスネコだった。
ふさふさした毛皮はとても触り心地が良さそうで、長く伸びた尻尾は左右に振り子のようにゆらゆらと動いていて、見ていて楽しかった。
ヴィクトリアが思わず触りたくなる気持ちもわかる。
というか、正体が分かった今ではエリカとリネットも触りたそうにしている。
まあ、この二人もかわいい動物が好きだからな。
銀やパトリックを非常にかわいがっている点からも、よくわかるというものだ。
おっと、それはそうとして俺たちの方の挨拶がまだだった。
「ホルストだ」
「エリカです」
「ヴィクトリアです」
「リネットだ」
「「「「よろしくお願いします」」」」
こうやってお互いに挨拶が終了すると本題に入る。
「それで、ルーナ様。本日はどういったご用件でお越しになられたのでしょうか」
「あなたに昔預けていた物があるでしょう?アレを回収に来たのよ」
「アレ?ああ、アレですか。わかりました。少々お待ちください」
そう言うと、ミーは座っていた台座から降り、何やら呪文のようなものを唱え始める。すると。
ゴゴゴ……。
ミーが座っていた台座のふたが開き、中身があらわになる。
そこへヴィクトリアのおばあさんが近づいて行き、中から何かを取り出した。
それは何かひものようなものだった。
それを見て、早速ヴィクトリアがおばあさんに聞く。
「おばあ様、それは一体?」
「これは『レストリクシオン』という神器よ。今回の旅はね。魔法の修業の他に、これを取りに来るのが目的だったのよ」
『レストリクシオン』という神器。
それがこの遺跡に来た目的のようだった。
★★★
「それでは、皆さま、お気をつけて」」
神器を回収した後、ミーに見送られて俺たちは遺跡を離れた。
俺たちを見送るミーは一応笑顔だが、笑顔の下には迷惑そうな顔が隠されていると思う。
まあ、ミーはあの後うちの3人の嫁たちに触られまくってぐしゃぐしゃにされていたからな。
「ミーちゃん、やっぱりかわいいです~」
「この毛触り、たまりませんね」
「うん、この抱き心地、たまらないね」
そう言いながら、ミーをかわいがる嫁たちの笑顔は最高だった。
逆にミーの顔は引きつっていたけどね。
猫には触られるのが好きなタイプと嫌いなタイプがいるらしいが、ミーは明らかに後者だと思う。
おっと、話がわき道にそれてしまった。
さっさと遺跡から出るとしよう。
今回、遺跡から脱出するのに『空間操作』の魔法を使うことにする。
一応俺の『空間操作』の魔法にはダンジョン内で使えないという制限が付いていたはずなのだが。
「まあ、ホルスト君も成長したからね。今ならダンジョンから脱出するくらい訳ないわよ」
と、ヴィクトリアのお母さんのお墨付きをもらえたので、今回使用することにしたのだ。ということで。
「『空間操作』」
俺は転移門を開いて、ホルスターたちの所へと帰ったのだった。
★★★
「パパ、ママ、皆、お帰りなさい」
「皆様お帰りなさいませ」
馬車に帰り着くとホルスターたちがそうやって出迎えてくれた。
「おや、無事に帰ってきたようね」
もちろん、ヴィクトリアのお母さんも、だ。
ということで、早速手に入れた神器の説明を聞くことにする。
「お前たちは、ここにいなさい」
「「はい」」
ホルスターと銀をパトリックの背に乗せて遊ばせておいて、その間に説明を聞くことにする。
「それで、この神器は一体何の神器なのですか」
「この神器は、ね。『レストリクシオン』。相手を拘束して動けなくするための神器ね」
「へえ、そうなんですね」
相手を拘束するための神器か。
それは使えそうな神器だな。
何せ魔物の中には素早くて動きを捉えにくい相手もいるからな。
これがあると、戦術の幅が広がりそうだった。
「それで、おばあ様。これはどのくらいの品物なのですか。神器というからには強力な力をもっているとは思いますが」
「この神器の威力は強力よ。これを使えば、神といえども拘束できるんだから」
「へえ、そうなんですか」
そうよ、とヴィクトリアのばあちゃんが頷く。
「何せ、おばあちゃん。これでおばあちゃんから逃げ回るおじい様を捕まえて、おじい様におばあちゃんのことが好きかどうか無理矢理聞き出したんだから。『私のことが好きかどうか、そろそろはっきりさせてください』ってね。あ、もちろん返事は『君のことを愛しているよ』だったわよ」
「え?」
その話を聞いた俺たちはドン引きした。
この人は折角の神器を何に使っているんだと思った。
「後、アリスタ義姉さんも、他の女と密会しているクリント義兄さんをこれで縛り上げて連行したことがあったわね。義姉さん、あの時はものすごく怒ってたから、義兄さんもこっぴどく怒られたみたいね」
「ええ?」
というか、アリスタもこれを使っていたのか。
一体、義姉妹で何をしているのかと思った。
「ちなみに、お母さんも、お母さんとの結婚を中々決断してくれなかったお父様をこれで捕まえて返答を迫ったことがあるの。てへっ」
「ええええ?」
もう俺たちに言うことはなかった。
本当に神器を碌なことに使わない人たちだ。
しかし、この神器が強力なことだけはよくわかった。
何せ名だたる神々をあっさりと拘束したという実績があるからな。
「わかりました。それではありがたく使わせてもらいます」
「ええ、大事に使ってね」
ということで、俺は『レストリクシオン』を受け取るのだった。
こうして俺たちは神をも拘束する強力な神器を手に入れたのだった。
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