閑話休題35~その頃の妹 悩み多き冒険者生活~

 今、私レイラ・エレクトロンはヴァレンシュタイン王国の冒険者ギルドにいる。


「はい、これで冒険者登録の届け出を受理しました。それでは、この針で指を突っついて、この黒色の冒険者ギルドカードに一滴血を垂らしてください」

「「はい」」


 私とフレデリカはギルドの職員さんに言われるがままに、針で指を突いて血を出し、それを黒いギルドカードの上に一滴垂らす。

 途端。


「わあ、すごい。本当に黒いカードに一瞬で名前とかが表示されるんだ」


 ギルドがカードの様子が一変し、それに驚いたフレデリカが思わず声を上げた。

 私は魔道具という物に結構慣れていたが、慣れていない人の反応はフレデリカのように驚く人が大半だと聞く。


 さて、それはともかくこれでギルドカードの作成も完了だ。

 ということで。


「それでは、レイラさんにフレデリカさん。これで冒険者登録は終了です。お疲れさまでした」

「「お疲れさまでした」」


 冒険者カードを受け取った私たちは冒険者ギルドの外に出た。


 王都の空を見上げると、雲一つなく晴れ渡っていた。

 まるで私たちのこれからの輝ける未来を祝福してくれているようだった。


 私は今しがたもらったギルドカードを取り出し、空に向けて掲げてみる。

 太陽の光がギルドカードに反射して、キラキラしてきれいだった。


 さあ、頑張るぞ!

 それを見て、私はますますやる気になるのだった。


★★★


 ……それから1か月後。


「もう、町の清掃作業は嫌だよおおおお!」


 私は借りているボロアパートでそう叫んでいた。


 今私とフレデリカが住んでいるのは、商業街のボロアパートだ。

 家賃は一か月銀貨3枚と、とてもリーズナブルな物件だ。

 ただしとても狭い。一応台所は付いているが、風呂は無いし、寝るスペースもちょうど私とフレデリカ二人がぎりぎり寝られるくらいしかない。


「レイラ、ダメだよ!近所迷惑だよ」

「ぐっ」


 叫んでいた私はフレデリカに諭されて黙り込む。

 そうだった。ここはアパートだった。うるさくすると近所から苦情が来る。


 しかし、私の気分はこれでは晴れない。


 というのも、冒険者になってから1か月、あまりいい仕事にありつけていないからだ。

 何せここは王都。仕事も多いが冒険者の数も多いのだ。だから、競争も激しいのだ。

 しかも私たちは最低ランクのEランクで、競争相手が特に多い。割のいい仕事を得るのは難しいのだ。


 それでも生きていくためには働くしかないのだ。


「レイラ、そろそろ行こうよ」

「うん」


 今日も今日とて、私たちはギルドに仕事を探しに行くのだった。


★★★


「はああ、今日も清掃の仕事か」

「仕方ないよ。あるだけましだよ」


 今日もありつけたのは清掃の仕事だった。

 ただ、フレデリカの言う通りこれでもあるだけましだった。

 全然仕事にありつけない日もあるのだから。


「さて、それじゃあ仕事しよっか」


 とはいえ、いつまでも無駄話をしている時間もないので仕事を開始する。


 今日は街の大通りの清掃だ。

 大通りには人々が捨てた紙くずや馬の糞、その他いろいろなゴミが落ちている。

 これを掃除するのが私たちの仕事だ。


 夕方までこれをずっとやり続ける。それで銅貨80枚のお給料をもらえる。

 銅貨100枚で銀貨1枚になるから、一日働いても銀貨1枚にもならない仕事だ。

 正直安いと思うが頑張るしかない。


 私たちはお給料をもらうためにひたすら清掃するのだった。


★★★


 その出来事が起こったのは昼前のことだった。


「大ネズミだあああ!」


 突如、大通りに面した下水溝から作業員たちが逃げ出してきた。

 どうやらネズミの魔物、大ネズミが出現したようだ。


 大ネズミは下水溝などに生息して汚物を漁る魔物だが、下手に人間が近づくと襲われて餌食になることがある。

 普通の人間なら近づかないところだが、私はこれをチャンスだと思った。

 というのも、大ネズミを倒すとギルドから報奨金が出るからだ。


「フレデリカ、行くよ!」

「うん」


 私たちは人々が逃げ出してきた下水溝の入り口に向かう。

 そして、私は杖を、フレデリカは短剣を取り出して身構える。

 もちろん大ネズミと戦うためだ。


 入り口に立ち、待つこと30秒。


「来たよ!」


 私の探知魔法に大ネズミが引っ掛かる。

 見ると、人の大人ほどもある大きなネズミがこちらへ向かってきていた。


「今だ!「『火球』」


 すかさず私は『火球』の魔法を放つ。

 魔法は一直線に大ネズミに向かって行く。


「キイイ」


 『火球』の魔法は大ネズミに命中し、一瞬で大ネズミを焼き殺す。


「やった!これで……」


 と、喜んだのも束の間。

 ボン、と爆発が発生し下水溝の入り口が崩れ落ちたのだった。


★★★


「まあ、銀貨50枚の賠償金で済んでよかったじゃない。誰もケガとかなかったし」


 ギルドから出てきて落ち込んでいる私をフレデリカが励ましてくれた。

 というのも、今の今まで私はギルドで怒られていたからだ。


 私の『火球』の魔法は確かに大ネズミを焼き殺した。

 だが、同時に下水にたまっていた腐敗ガスに引火してしまい、爆発を起こし、下水溝の入り口を崩壊させてしまったというわけだ。


「本当は修理に金貨3枚ほどかかる見込みだけど、君たちのおかげで町の市民に被害が出なかったことだし、銀貨50枚ということで」


 下水溝を壊してしまった私たちは賠償を請求されたわけだが、温情で何とか銀貨50枚にまけてもらったという有様だった。


 正直、落ち込む。

 私ってば、なんて間抜けだったんだろうなって思う。


 あそこで『火球』ではなく『風刃』の魔法でも使っておけば、こんなことにならなかったのに!

 ちょっとでも目立とうと『火球』の魔法を使ったのが間違いの元だった。

 兄貴が知ったら、確実に嘲笑されそうな話だ。


 本当、私のバカ!穴があったら入りたい気分だ。


 そんな落ち込む私にフレデリカが声をかけてくれる。


「過ぎたことをいつまでも悔やんでいてもしょうがないよ。それより、今日はおいしい物でも食べて帰ろうよ」

「うん、そうね」


 やっぱりフレデリカは優しい。こんな惨めな私にも優しくしてくれる。

 正直ありがたかった。


「もちろん、レイラのおごりでね」

「……」


 ただ、ちょっと空気を読まないところがあるのがたまにキズだが、まあ今回はフレデリカにも迷惑かけたし、私がおごろうと思う。


「じゃあ、行こうか」


 こうして私たちはご飯を食べに行き、初めてのお酒を飲んで、酔いつぶれて帰宅することになるのであった。

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