第249話~月旅行 月の砂漠 後編 砂漠の夜、夫婦星に永遠の愛を誓い合おう!~

 俺たちは馬車で砂漠を走っていた。


 俺が御者としてパトリックを操り、エリカが周囲を警戒し、ヴィクトリアのばあちゃんが道案内として側にいた。


 馬車の外は暑かった。

 今日は日差しが強く特に暑かった。

 汗がだらだらと流れ出てくる。


「ああ、暑いわね」


 そう言いながらヴィクトリアのばあちゃんがタオルで汗を拭いている。


「旦那様、汗お拭きしますね」


 エリカも自分の汗を拭きつつ俺の汗をぬぐってくれる。

 うん、嫁さんに汗をぬぐってもらうというのはとても気持ちがいいな。


 そう思いながら、俺は馬車の中とつながっている通気口を少しだけ大きく開ける。

 通気口から出てきた冷気が汗をかいていた皮膚に当たりとても気持ちがいい。


 そんな風に俺が幸せな気分に浸っていると、


「旦那様、どうやら敵のようです」


エリカが敵を発見したようだ。

俺は馬車の中へ声をかける。


「お~い!敵だぞ!」


★★★


 敵が現れたので馬車を停め、全員で武装して敵に備える。


 砂漠には生物が少ない。

 だから砂漠の魔物は一度獲物を発見すると、執拗に攻撃してくる。


 もちろん、折角見つけた獲物を確実に捕食するためだ。

 砂漠の魔物はしばらくの間食事をとらないでも生きていけるものが大半だが、それでも限度はある。

 奴らも生きるために必死なのだ。

 だから一度見つけた獲物をなるべく逃がさないようにしつこいのである。


「来るよ!」


 そんなことを考えているうちに敵が来たようだ。リネットが警戒の声をあげる。

 すると、すぐに砂煙が舞い上がり、敵が現れる。


「あれは……『ムーンウォーム』と『月のサボテン』ね」


 敵を見るなり、ヴィクトリアのおばあさんがそんなことを言う。

 どうやら現れたのは、『ムーンウォーム』と『月のサボテン』という魔物の混成部隊だった。


★★★


「『世界の知識』」


 俺は魔法で敵のことを調べてみる。


 『ムーンウォーム』

 月に住むサンドウォームの亜種。

 地上のサンドウォームよりも一回り大きい。

 地上のサンドウォーム同様、口から糸を吐いて攻撃してくるが、口の中に毒針が存在しており、それを使った攻撃をしてくる。

 体内に水をため込む『流水池りゅうすいち』という器官を持っており、そこを破壊してやると体内の水分を保持できなくなり、簡単に倒すことができる。


 『月のサボテン』

 月に住むサボテンの怪人。

 サボテンのくせに手足があり人のように歩くことができる。

 『ムーンウォーム』に水を分けてもらうことで生活しており、従属関係にある。

 全身に生えている針の攻撃は強力である。


 ……と、こういう検索結果が出た。


 要約すると、『ムーンウォーム』は普通のより強いサンドウォームであり、『月のサボテン』はその子分ということだ。


 それが分かったうえで、改めて敵を確認する。

 敵は『ムーンウォーム』が1体に、『月のサボテン』が10体ほどだ。

 『ムーンウォーム』も大変な相手だが、『月のサボテン』も攻撃力が高くて厄介な相手だ。


 こういう場合は子分である『月のサボテン』を先に倒すのがセオリーだ。

 俺は皆に指示を出す。


「まず『月のサボテン』をやるぞ!俺が3体片付ける。エリカとヴィクトリアとリネットはそれぞれ2体ずつ倒してくれ。銀とホルスターは2人で1体な。倒せそうになかったら無理をせずに牽制だけにしろよ。後でパパがきっちり倒すからな」

「「「「「はい」」」」」


 分担が決まったところで攻撃を開始する。


「『極大化 天風』」


 『月のサボテン』に対して、極大化された『天風』の魔法を放つ。

 通常の天風の魔法の何倍もの太さを持つ風の刃が『月のサボテン』を襲う。

 スパッと一瞬で『月のサボテン』が真っ二つになり、切断面からドバっと大量の水が噴き出す。

 そのまま『月のサボテン』は地面に倒れ動かなくなる。


 俺の攻撃が成功したのも見て、嫁たちも攻撃する。


「『極大化 風刃』」

「『極大化 精霊召喚 風の精霊』」

「『超加速矢』」


 次々に攻撃を放ち、『月のサボテン』たちを倒していく。

 無論、『月のサボテン』たちも黙って攻撃されているわけではない。


「……」


 全身に生えている針を一斉に飛ばしてくる。

 人間の小指ほどの太さの針が無数に飛んでくる。


「『極大化 魔法障壁』」


 しかし、それらの針は強化されたエリカの魔法ですべて弾かれてしまった。


 もちろん、その間も俺たちは攻撃の手を緩めない。

 次々に『月のサボテン』たちが倒れていく。


「『風刃』」

「『雷光術』」


 最後の一隊はホルスターと銀の攻撃で絶命した。

 これで『月のサボテン』は全滅だ。


 さて、残すは『ムーンウォーム』だけだ。


★★★


「よし!まずは『ムーンウォーム』の弱点である『流水池』を潰すぞ!」


 俺の掛け声に全員が頷く。


「エリカ、まずは『流水池』がどこにあるか、探ってくれ」

「はい。……お腹のあたりに水が溜まっていますね。多分、そこだと思います」

「オーケーだ。俺とエリカとヴィクトリアでそこを総攻撃だ。リネットは毒針に備えて防御担当だ。銀とホルスターは、危ないからヴィクトリアのお母さんの所へ行って待機だ。お母さん、頼みます」

「はーい。銀ちゃんとホルスター君はお姉さんの方へおいで~。お父さんたちの邪魔をしちゃダメよ」

「うん、それじゃあパパたち頑張ってね」

「皆様、お気をつけて」


 銀とホルスターをヴィクトリアのお母さんに預けると、俺たちは『ムーンウォーム』に攻撃を開始する。


「『極大化 天土』」

「『極大化 小爆破』」

「『極大化 精霊召喚 火の精霊』」


 極大化した魔法を総動員して『ムーンウォーム』に集中攻撃する。


「ピギー」


 集中攻撃に耐えかねて『ムーンウォーム』が悲鳴を上げる。


「ピキピキ」


 口から大きな毒針を飛ばして反撃してくるが。


「おりゃりゃりゃりゃ」


 斧を振り回して迎撃するリネットにすべて叩き落されてしまう。


「ピュー」


 毒針が無駄だと悟ったのか、今度は糸を吐いて攻撃してくるが、


「火の精霊!」

「……」


ヴィクトリアに命令された火の精霊の炎で糸がすべて溶かされてしまう。


 その間にも俺たちの攻撃は続き、とうとうパアンという大きな音とともに『ムーンウォーム』の腹が破裂し、大量の水が噴き出る。


「やったぞ!」


 俺は思わず叫ぶ。

 どうやら『水流池』を破壊することに成功したようだ。


 すぐにとどめを刺しに行く。


「『極大化 天爆』」


 弱った『ムーンウォーム』に対して極大化された『天爆』の魔法を放つ。

 体内の水分の大半を失った『ムーンウォーム』は魔法をもろに食らい、ドゴーンという音とともに爆発四散した。


 こうして俺たちは『ムーンウォーム』を倒したのだった。


★★★


 その日の夜。


 俺たちはヴィクトリアのおばあさんの案内で辿り着いた砂漠のオアシスで一夜を明かすことにした。


 砂漠の夜は寒い。

 だから大量の薪をくべ、焚火をしてみんなで身を寄せ合って暖め合っている。


「ほら、パトリック、今日は頑張ってくれたからキャロットあげますよ」

「ブヒヒヒン」


 パトリックがヴィクトリアから好物をもらって喜んでいる。

 そのパトリックも昼間つけていた冷却材を脱いで、今は防寒用に馬着を着ている。


「ヴィクトリアちゃん、スープできたよ」


 ご飯ができたので、リネットがヴィクトリアを呼ぶ。

 今日のご飯は、具がたくさん入ったスープとオーク肉とチーズと野菜の串焼き、温め直したパンだ。


「いただきます」


 皆で一斉に食べ始める。

 うん、やっぱり寒空には温かい食べ物を食べるのが一番だな。


 そうやって夕食を取った後はしばらく雑談してから睡眠タイムだ。

 見張り役の俺とエリカ以外は馬車に入ってお休みだ。


「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 みんなが馬車に入って行くのを見届けた後はエリカと二人きりで過ごす。


「旦那様、どうぞ」

「ああ、ありがとう」


 エリカがホットコーヒーを作ってくれたので一緒にそれを飲みながら過ごす。


「それにしても、月って不思議な世界ですね」

「ああ、そうだな。空はずっと黒色のままだし、生えている植物は違うし、魔物も凶暴なのが多いしな」

「そうですね。地上で生活するのに慣れていると、違和感を覚えることだらけですね。ただ、星空は地上よりもきれいですね」

「そうかな?」


「そうですよ」


 そう言うと、エリカは俺にくっついてきて、天空の一か所を指さす。


「旦那様、ご存じですか?あそこに見える2つの星がくっついて1つに見えているのを。あれは、ですね。夫婦星めおとぼしって言うんですよ」

「へえ、そうなんだ。エリカは物知りだなあ」

「えへへへ」


 俺にそう言われたエリカはうれしそうにはにかんだ。


「それで、ですね。あの星にお願いすると、一生夫婦円満に暮らせるという言い伝えがあるのですよ。だから、今から一緒にお願いしませんか?」

「ああ、いいよ」


 無論、俺に拒否などという選択肢は無いし、エリカとはずっと仲良くしたいと思っているから一緒にお願いした。


 その後は見張りの交代の時間まで、夫婦で肩を寄せ合って仲良く過ごすのであった。


 ちなみに、この夜のことはヴィクトリアとリネットにもしっかりと伝わったらしく。


「ホルストさん、夫婦星に一緒にお祈りしましょう」

「ホルスト君、夫婦星にお祈りしようよ」


 と、一後々彼女たちとも緒に夫婦星にお願いすることになったのであった。

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