第248話~月旅行 月の砂漠 前編 新装備『パトリック砂漠戦仕様装備』を駆使して、砂漠を走破せよ!~

 今現在、俺たちは月の草原を馬車で絶賛爆走中である。


 ここでは魔物も出てきたが、大した相手ではなかった。

 ここへきて最初に戦ったムーンラビットの他に、ムーンスネイクという蛇の魔物やムーンバッファローという牛の魔物が出てきた。

 いずれも大した敵ではないが、問題は以下に魔力を節約しながら倒すか、だ。


 そこで『極大化』を活用することにした。

 これなら同じ魔力の使用量でも爆発的に威力を高められるからだ。


「『極大化 風刃』」


 今もエリカがムーンバッファローを極大化された魔法で仕留めたところだ。

 ムーンバッファローの皮は丈夫で防御能力は高いのだが、極大化された風刃の魔法ならば一発で片をつけることができた。


 完全にヴィクトリアのお母さんの思惑通りに行動させられていて癪に障るが、そもそもここへは魔法の修業に来たのでしょうがなかった。


 それはともかく、今しがた狩ったムーンバッファローであるが。


「やっきにっく、やっきにっく、焼肉おいしいです」


 食肉処理をされた後、俺たちの腹に収まりつつあった。

 ここの魔物たちは後味が悪くなく、食うと美味しいからだ。


 食事の後は結界石を使用して、一休みする。

 俺とリネットの二人で見張りをして、残りのメンバーは馬車の中でお昼寝だ。


 一応結界石を使用しているので魔物は寄ってこないと思うが油断は禁物だ。

 見張りは怠らないようにする。


 そんなさなか、リネットが話しかけてくる。


「ねえ、ホルスト君。この前アタシのおじい様が言っていた件だけど」

「この前?ああ、子供の話か」


 この前、テルメという町に旅行に行ったとき、リネットのおじいさんにリネットに娘ができ、リネットのイトコのスーザンに男の子ができたら娘を嫁にくれとお願いをされた。

 リネットの話はその件だと思う。


「それで、リネットはどうするつもりだ?」

「アタシはこの話を受けてもいいんじゃないかと思う。身分の高い人の所にお嫁に行かすのが必ずしも子供にとって幸せではないかもしれないけど、親としてはできるだけ子供が苦労しないですむようにしてやりたいと思う」

「そうだな。俺もそう思う。だったら、おじいさんにはオーケーと伝えておくか」

「うん」


 リネットのが了承したので、俺はリネットの肩に手をやり苦笑する。


「しかし、まだ生まれてもいない子供の嫁ぎ先を決めるとか、俺もその辺の野心むき出しで俺の子供たちを狙ってくる奴らのことを笑えなくなったな」


 それを聞いて、リネットも苦笑する。


「本当にそうだね。ははは」


 二人で思い切り笑う。


 その後は馬車が出発するまで、二人して身を寄せ合って、談笑しながら過ごすのであった。


★★★


 月の草原エリアは馬車で疾走した結果、3日ほどで走り抜けた。

 それで、次のエリアなのだが。


「旦那様、砂漠ですね」

「ああ、砂漠だな」


 砂漠だった。

 それも岩砂漠ではなく、砂塵舞い上がる砂砂漠だった。


 これは正直越えるのに苦労しそうだと思った。

 ただ、いつまでも愚痴っていてもしょうがないので、準備を始めることにする。


「ヴィクトリア、例のアレを出せ」

「アレ?ですか?」

「そうだ。前に砂漠を越えることを想定して買ったやつがあるだろう。アレを出せ」

「ああ、アレですか。ラジャーです」


 そう言いつつヴィクトリアが取り出したのは。


「じゃじゃーん。『パトリック砂漠戦仕様装備』です」


 パトリック砂漠戦仕様装備だった。


 なんか大げさな名前が付いているが、要はパトリックが砂漠を通過する際に使用する魔道具一式のことだ。


 ちなみに、この『パトリック砂漠戦仕様装備』という名前を付けたのはヴィクトリアだ。

 理由を尋ねると、


「だって、カッコいいじゃないですか」


というセリフが返ってきた。


 お前、遊びじゃないんだからいい加減にしろよと思ったが、


「パパ、その名前なんかカッコいいね」


と、ホルスターが言ったのでそのまま使用することにした。


 俺は嫁たちにも甘いが、息子にはもっと甘いのだ。ホルスターが良いというのであれば、採用に決まっている。


 しかし、今からこの調子では嫁たちがたくさん俺の子供たちを産んでくれたらどうなってしまうのだろうかと、自分でもちょっと心配だ。


 それはともかく、そんな経緯で名づけられた『パトリック砂漠戦仕様装備』であるが、それらの装備は一つの箱にまとめて入れてある。


 俺はその箱の中からまず数枚の布とシールを取り出す。

 この布とシールは魔道具だ。

 砂砂漠という場所はとても歩きにくいわけだが、この布とシールを使えば平地同様に歩けるようになるというわけだ。


 そこで、俺は布をパトリックの足に巻き、シールを馬車の車輪に貼ってやる。

 前に実験したときはこれで大丈夫だったので、問題ないと思う。


 次に取り出したのは冷却材だ。

 何せ砂漠は昼間暑いからな。

 ヴィクトリアのばあちゃんの話だと月でもそれは変わらないらしい。


 だから、これをパトリックと馬車の暖房器具に取り付けてやる。

 これを使えば、パトリックは砂漠を快適に歩けて、暖房器具から冷気が出るようになるのだ。

 これで、多少は涼しくなるので砂漠の旅もマシになるだろう。


 そして、最後に砂塵対策用の装備など細かい物を取り出して、これを取り付けてっと。

 これで準備完了だ!


 改めてパトリックを見てみると、確かにカッコよかった。

 冷却材の入った馬装を身に着けたパトリックは確かに見栄えが良かった。


「パトリック、カッコいいね」


 何かホルスターがパトリックを見て喜んでいるので、俺はホルスターを抱きかかえるとパトリックの背中に乗せてやる。


「うわー、高いね」


 背中に乗せてもらって、ホルスターはとてもうれしそうだ。


「ホルスターちゃん、いいなあ」


 それを見て銀が羨ましそうにしているので、銀もパトリックに乗せてやる。


「うわー、本当に高いねえ」


 銀もパトリックに乗れてうれしそうだ。

 二人してキャッキャとはしゃぐ姿は子供らしくてとても微笑ましいと思う。


 さて、こうして準備も整ったことだし、先へ進むとしよう。


★★★


「馬車の中は冷房がきいてすごく快適ですね」


 馬車の冷房の前に陣取ったヴィクトリアちゃんが、そう言いながら嬉しそうにしている。


 確かにヴィクトリアちゃんの言う通りだ。

 灼熱の地獄である砂漠に対して、ここは天国そのものだ。

 今、馬車を操っているホルスト君、エリカちゃん、ルーナ様には悪いが、交代の時間まで我慢してもらうとする。


 もっとも御者台の方にも馬車の中から冷気が流れて行っているはずなので、そこまで暑くはないとは思うけど。


 しかし、それでも暑い中涼しいところでのんびりというのは十分なぜいたくだ。


「みなさん、冷たいお茶でも飲みますか?」


 のんびりしていると、ヴィクトリアちゃんがそう言い始めた。

 ヴィクトリアちゃんがこう言いだす時は自分も喉が渇いている時だ。

 自分だけで飲むのは悪いと思うらしく、こういう時は他人にも勧めてくれるのだった。


「ええ、お母さんは飲みたいわね」


 ソルセルリ様がそう言ったので、ヴィクトリアちゃんがみんなに配り始める。


「リネットさんもどうぞ」


 当然アタシにも配ってくれる。

 アタシはこれにシロップを入れて飲む。

 冷たくてとてもおいしかった。


「外にいる、ホルストさんたちにも配ってきますね」


 どうやらヴィクトリアちゃんは外にいるホルスト君たちにもお茶を配るつもりのようだ。

 外は暑いだろうからきっと喜ぶだろう。


 ジョボジョボと、ヴィクトリアちゃんがお茶をコップに注いで持って行こうとしたとき、突然外からホルスト君の声が聞こえてきた。


「お~い!敵だぞ!」


 どうやら魔物が現れたようだった。


「やれやれ」


 アタシたちは武器を持つと、立ち上がって、馬車の外に向かうのだった。

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