第245話~ネイアさんがエリカの実家で働くってどういう事? そして、ソルセルリの魔法修業第二段階スタート!~

 テルメから帰ってきた。


 帰る前に一応俺の実家に寄ってオヤジとおふくろにリネットたちの親御さんたちを紹介しておいた。


「初めまして。ホルストの父と母です。いやー、わざわざ来てくださって、とてもうれしいですな」


  嫁たちの家族を紹介されたオヤジたちは、俺の怒りが少しでも和らいだのでは?と、妙に喜んでいたが、俺にはどうでもいい話だ。

 実の親に嫁さんたちの親を紹介しないわけにはいかないから、仕方なしにほぼ全員が集まっているこの機会に顔を見せに来ただけの話だ。


 オヤジ。俺はお前たちのことを決して許したわけじゃないからな!


 しばらく話をさせた後、皆をそれぞれの家に送り届けてからファウンテンオブエルフのヒッグス家の商館に戻って来たというわけだ。


「お帰りなさいませ」


 商館の正面玄関から入ると、いつものようにマロンさんが挨拶をしてくれた。

 と、ここで。


「お帰りなさいませ」


 誰かが声をかけてきた。

 誰だろうと思って声の方を見ると、そこには意外な人がいた。


「ネイアさん?」

「どうも皆様お久しぶりです」


 それは二つの女神の神殿の神官長のネイアさんだった。


★★★


 二つの女神の神殿の神官長であったネイアさんが、なぜかヒッグス商会にいた。


「ネイアさん、こんな所で何をしているんですか?」

「何って……働かせてもらっているのですが」

「どうして?」

「あら、私神官長になる前はここでアルバイトしていたんですよ。言ってなかったですかね」

「いや、そうじゃなくて……神官長の職はどうしたんですか?」

「辞めてきました」

「辞めた?」

「まあ、正確には辞めたのではなく、任期切れなんですけどね。詳しく話しましょうか?」


 ネイアさんの話をまとめると次のような感じだ。


 ネイアさんはかつて『月下の踊り子団』のトップダンサーだったらしい。

 この時にヒッグス商会でアルバイトをして生計を立てていたらしい。


 二つの女神の神殿の神官長は、『月下の踊り子団』のトップダンサーから選ばれるという慣習があるらしく、だからネイアさんが選ばれたというわけだ。


 任期は5年。選ばれる際に、薬の調合や魔法の技術を叩き込まれるらしく、ネイアさんの薬の技術はこの時に身に着けたらしい。

 そんなに長い研修期間ではなかったはずなのに、これだけであそこまでの調合技術を身に着けたのは正直凄いと思った。


 それはともかく、その神官長の任期がこの前の祭りの終了とともに終了したらしい。


「一応、神官長を辞めた人には国から年金とかももらえるのですが、そんなに多くはありませんし、これからの人生を考えたら働いてお金を稼がなければなりません。だから、神官長の任期が終わったら皆さん私のようにこうして働くのですよ」


 ネイアさんはかわいらしい笑顔で、ニコニコしながらそう言った。

 とても楽しそうな感じだった。

 きっとこの人は働き者で、働いて皆と接するのが好きなんだろうと思った。


「それにしても、どうしてヒッグス商会で働こうと思ったんですか?元神官長という肩書があるのなら、もっと良い働き口もあるでしょうに」

「それはね。私には夢があるんですよ。世界中に行ってみたいなって」

「世界中に?」

「はい。ほらヒッグス商会って世界中に支店があるじゃないですか?ここなら本人が望めば世界中の支店に勤務することができると聞きます。だから、ここで頑張ってどこか別の国に行ってみたいですね」


 それを聞いて俺は感動した。

 何だろう、この子凄いことを考えているなと思った。

 だから、つい応援したくなってこういったことを言った。


「それはすごく素敵な夢ですね。応援していますよ。頑張ってください」

「はい、そう言ってもらえると嬉しいです。頑張ります」

「はいはい、そこまでですよ」


 と、ここでなぜかエリカが割り込んできた。

 何だろう?俺は別に変なことを言っていないと思うが。


「ネイアさん。あなたの気持ちはわかりました。ただ、うちでは外国へ駐在できるような従業員になるのには審査が結構厳しいのですよ。そのためにはかなり頑張らなければならないのですよ。その点は大丈夫ですか?」

「はい、エリカお嬢様。その点は承知しております。ですから、精いっぱい頑張らせてもらいます」

「よろしい。なら、頑張ってください。私も応援しますので」

「ありがとうございます」


 表面上エリカの言葉はネイアさんに対する励ましの言葉のように見えるが、何だろうか、少し含みがあるような気がする。

 その理由はよくわからなかった。


「ところで……」


 と、ここでネイアさんが話題を変えてきた。


「そちらのお二方はどちら様でしょうか。何かどこかでお会いしたような気がするのでしょうか」


 そう言いながら、ヴィクトリアのお母さんとおばあさんのことをじろじろ見始めた。

 ある種の思いを込めて真剣な顔で見ている。


 俺は正直まずいと思った。


 そう言えばネイアさんは二つの女神の神殿の神官長だった。

 いわば二人の神像を毎日見続けてきた立場なのだ。二人の正体に感づいても仕方がなかった。


 それに気が付いたのか、俺の嫁たちも蒼い顔をしていた。


 ただ、当の本人は。


「ヴィクトリアの母のフローラです」

「ヴィクトリアの祖母のグレータです」


 と、のほほんと答えていた。

 それを見て自分の推論が間違っていると思ったのか、ネイアさんの顔が真剣なものから優し気なものに変わった。


 まあ、こんなのほほんとした神様がいるとは中々思えないだろうから、結果オーライである。


「まあ、ヴィクトリア様のお母様とおばあ様ですか。これは失礼しました。私はネイアと申します。よろしくお願いします」


 うん、話がうまくまとまったようでよかった。


「それじゃあ、挨拶も済んだし、俺たちは館で休ませてもらうよ」

「はい、ごゆっくりなさってください」


 最後にそう言葉を交わすと、俺たちは館へと向かうのだった。


★★★


「はい、は~い。それでは、これから魔法の修業のセカンドステップを始めますよ」


 ヒッグス家の商館に帰ってきた翌日、いつものようにノースフォートレスの町の近くの山の中で修業していた俺たちにソルセルリがそう声をかけてきた。


「セカンドステップ?ですか?お母様」

「ええ、そうよ。ヴィクトリア」


 ヴィクトリアの質問を肯定したお母さんは俺たちに説明を始める。


「セカンドステップ……第二段階の修業ではあなたたちに魔法の深淵の一端を覗かせてあげます」

「魔法の深淵?ですか?」


 魔法の深淵とかいうワクワクするようなパワーワードに俺は思わず聞き返してしまった。


「その通りよ!魔法の深淵を覗いてもらって、あなたたちを真の魔法使いにしてあげます!」


 ただ、お母さんも非常にノリがよく、そう大袈裟にに宣言してみるのだった。

 そこへ冷静なエリカが突っ込んでいく。


「それで、ソルセルリ様。具体的に何を教えていただけるのでしょうか。新しい魔法でしょうか?」

「いいえ、違うわね。今回あなたたちに教えるのは、ズバリ、『極大魔法』ね」


 極大魔法、それが今回の課題の様だった。


★★★


「『極大魔法』?それは何ですか?新しい魔法ではないのですか?」

「違うわね」


 ヴィクトリアのお母さんは首を横に振る。


「『極大魔法』とは、魔法の潜在力を引き出す技術のことね。まあ、グダグダ言うよりやってみせた方が早いわね」


 そう言うと、ソルセルリは指先に小さな炎を生じさせる。

 これは多分『火矢』の魔法だと思う。


「知っての通り、これは『火矢』の魔法ね。これを今から一般的な魔法使いが使用するくらいの魔力を込めて使用してみるわね。『火矢』」


 お母さんが『火矢』の魔法を放つ。

 何もない地面の上に魔法が着弾し、ポッと火が燃える。

 うん、普通の魔法使いが使う普通の『火矢』の魔法だった。


「次に、『火矢』の魔法を極大化して使ってみるわね。……『極大化 火矢』」


 今度の『火矢』の魔法は先ほどとはまるで違った。

 さっきは一瞬火が燃えた程度だったのだが、今度は火が天を焦がさんばかりの勢いで燃え上がり、地面が真っ黒に焦げ、一部は溶岩のように真っ赤に溶けてさえいた。

 これだけの威力の炎なら、ドラゴンでさえ黒焦げにできそうだった。


 それを見て、エリカが恐る恐る尋ねる。


「あのう、ソルセルリ様。今の魔法って、最初と込める魔力の量とか、違ったりしていないですよね」

「違わないわね。使用した魔力の量は全く同じね」

「それで、こんな威力が出せるのですか!とても信じられないです」


 エリカがそうやって驚いている顔を見て、お母さんがフフフンと得意げに笑って見せながら言う。


「ふふふ、当然ね。『極大化』こそが人間の魔法使いにとって最高の到達点。このくらい驚くほどのことではないわ」

「すごいです!私たちも努力したら、こういうことができるようになるのでしょうか」

「もちろんよ。そのために私がいるのだから。さあ、私についてきなさい!」

「はい。先生、お願いします」


 ソルセルリに妙に感化されたエリカがやる気を出している。

 別に俺はそれに異存はない。

 俺もこういう風にできるようになれば、戦力アップができてうれしいからだ。

 だから、俺もエリカ同様やる気になっているのだが、一人冷めた奴がいる。


 誰あろうヴィクトリアだ。


「お母様。リンドブルおじい様の映画のコレクションにある熱血青春スポコンアニメが好きでしたから、その真似をしてみたかったのですね」


 と、訳の分からないことを言っていた。


 というか、熱血青春スポコンアニメって何?

 俺にはヴィクトリアの言うことがよくわからなかったが、まあ『極大化』が役に立ちそうだというのだけは理解できた。


 このようにして、俺たちの魔法修業の第二段階は開始されたのだった。

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