第244話~嫁さんたちとの素敵な温泉旅行 熱いお風呂には冷たいお酒、ですよね?~

 ノースフォートレスのオークションが終わった後、ヴィクトリアのおばあさんがこんなことを言い始めた。


「おばあちゃん、どこか温泉でのんびりしたいわ」


 あまりにも突然言い始めたので皆がポカンとしたが、よく考えたらこの人、ヴィクトリアのおばあさんだった。

 ヴィクトリアも突然変なことを言い始めることがあるので、この辺確かに血のつながりというものを感じるのであった。


 それはともかく、温泉に行きたいか。

 正直言うと悪くない提案だな、と思った。


 最近、ずっと魔法の修業に取り組んできて結構疲れもたまってきているし、ノースフォートレスのオークションで大金を手に入れて懐も暖かくなっているし、ここらで温泉に行くのも悪くないのではないか、とも思える。


 俺は皆に聞いてみる。


「ヴィクトリアのおばあさんはこう言っているけど、皆は温泉へ行きたいか?」

「はい!行きたいです!」


 真っ先に挙手して賛成したのはヴィクトリアのお母さんだった。

 お母さんも俺たちやホルスターたちへの指導で疲れているのだろう。

 とても行きたそうな顔をしていた。


「ワタクシも行きたいです!」

「私も!」

「アタシも!」


 ヴィクトリアのお母さんが賛成したのを見て、嫁たちも賛成してきた。

 どうやら皆結構疲労しているようだ。

 たまにはのんびりしたいのだと思う。


「そういうことなら行くか」


 こうして俺たちは温泉旅行に行くことにした。


★★★


「こんにちは」


 俺たちはドワーフ王国の王都ネオアンダーグラウンドのクラフトマン宰相家を訪ねた。


 なぜここへ来たのかって?

 もちろん、リネットのおじいさんたちを旅行に誘うためだ。


 温泉に行くにあたって、俺たちはエリカのご両親とリネットのご両親も誘った。

 ちょうどヴィクトリアのお母さんとおばあさんもいるので親同士の顔合わせのためだ。


 それで、前も行ったことがあるドワーフ王国のテルメの温泉へ行くことになったのだが、それならリネットのおじいさんたちも連れて行きたいとリネットのお父さんのフィーゴさんが言い出したので誘うことにしたのだ。


 え?俺の親は、って?

 知らん!俺はあいつらを一生旅行になんかに誘うつもりは無いからな!


 まあ、全く知らないのはまずいので、帰りに実家によって顔見せだけはしておくことにするか。


「お待ちしておりました」


 俺たちが到着するなり、門番が奥へおじいさんたちを呼びに行く。

 一応昨日のうちに俺とリネットが話に来ていたので、用意はできていることと思う。


「待たせたね」


 門の所で待っていると、リネットのおじいさんのレオナルドと叔母さんのセリーナと、いとこのスーザンがやって来た。

 皆バリバリの旅装で、出かける気満々だった。


 さて、これでみんなそろったことだし、出かけるとしよう。


「行きましょうか」


 こうして俺たちは馬車を走らせて、テルメへ向かうのであった。


★★★


「銀姉ちゃん、冷たいよう」

「男の子でしょ!悔しいんなら、やり返してみせなさい」


 子供用のプールで銀とホルスターが遊んでいる。

 どうやら手で水鉄砲を作って水をかけあっているようだが、ホルスターはまだうまくできないらしく、水をかけられる方が多いようだ。


 ここはテルメの町の最高級ホテル『アドバンステルメ』だ。

 以前にも宿泊したことがあるホテルなのだが、今はそこの室内プールでのんびりしていた。


「リネットお姉さま、私泳げないので泳ぎ方を教えてください」

「いいよ。こっちへおいで」


 リネットなんかスーザンに泳ぎを教えている。


 というか、スーザンって年の割に胸が大きいな。水着を着るとはっきりわかる。

 リネットも嫁の中では一番胸が大きいから遺伝なのだろうと思う。

 多分、スーザンもリネットみたいにかわいらしい大人の女性になるのだろうと思う。


「エリカさん、このレモンスカッシュおいしいですね」

「ええ、冷たくて気持ちいいですね」


 一方さっきまで泳いでいたエリカとヴィクトリアは今はプールサイドでジュースを飲んでいた。


 まだ水着は濡れていて、体の線がくっきりと見えていた。

 うん、こうやって嫁の色気ある姿を見るのは実に良い。


 え?お前さっきから何を考えているんだって?

 別にいいじゃないか。

 俺もたまにはそういうことを考えながらのんびりしたいんだよ。


 ということで、俺は嫁たちをガン見し続けるわけだが、どうやらそれに嫁たちが気が付いたらしくなんかこっちに寄って来た。


「旦那様」

「ホルストさん」

「ホルスト君」

「「「人前なのでいい加減にしてください!」」」


 怒られてしまった。仕方ないので別の場所を見ることにする。

 と、プールサイドのカフェテラスで嫁たちの両親が挨拶をしていた。


「エリカの父親のトーマス・ヒッグスです」

「母親のレベッカ・ヒッグスです」

「ヴィクトリアの母親のフローラです」

「祖母のグレータです」

「リネットの父のフィーゴです」

「母のマリーです」

「祖父のレオナルドです」

「叔母のセリーナです」


 なお、フローラはソルセルリの、グレータはルーナの偽名だ。さすがに本名を名乗るのはまずいからそうしてもらった。


 自己紹介が済んだ後は、雑談だ。


「まあ、リネットさんのお父様は、あのクラフトマン宰相家の出身だとか」

「はは、一応はそうなんですけど、ワシは家を出た身でして。後は姪っ子に婿を取って継がせるつもりです」

「ヴィクトリアさんのお母様とおばあ様はとても若々しくいらっしゃいますね。まるで20代のようですね。羨ましいですわ」

「ありがとうございます」


 そんな風にぎこちない様子ながらもそれなりに楽しそうに会話をしていた。

 初対面にしては中々だと思う。


 それを見ていると、もし俺とヴィクトリア、俺とリネットの間に子供がいたら、絶対に孫のことでもっと盛り上がっているんだろうなあと思えたりする。

 そう考えると、ヴィクトリアとリネットの間にも早く子供が欲しいなあと思うのだった。


★★★


 夕方、夕食前に温泉に入りに行く。


 嫁たちとホルスターは女湯へ。残りの男どもは男湯へ入った。

 体を洗った後湯船に入ると、エリカのお父さん、リネットのお父さんおじいさんがすでに湯船に浸かっていた。


 まず、エリカのお父さんが俺に話しかけてきた。


「最近、あまりうちに来ていないけどみんな元気かな?」

「はい、元気ですよ」

「ところで、ホルスターの魔法の方は順調かい?」

「ええ、そちらの方は順調ですよ」

「そうか、ホルスト君がそういうのならそうなのだろう」


 そこまで言うと、エリカのお父さんは黙って俺の横に座り、目を閉じるのだった。


「よお、リネットとは順調か?」


 次に話しかけてきたのはリネットのお父さんだ。

 横にはおじいさんもいる。


「ええ、順調ですよ」

「そうか、それは良かった。ワシも孫の顔を見るのが今から楽しみだ。ところで、ワシのオヤジがお前さんに話があるそうなんだが、聞いてくれないか」

「いいですよ。おじいさん、何でしょうか?」

「実は、ね。ホルスト君。スーザンの婚約者が決まったんだ」

「そうなんですか。それはおめでとうございます。それでお相手は誰なんですか」

「国王陛下の三男坊様さ。うちへ養子に来てくれることが決まったんだ」

「それはすごいですね」

「それで、一つ頼みたいことがあるのだが」


 リネットのおじいさんの声が小さくなる。


「何でしょうか?」

「もしスーザンに跡継ぎの男の子が生まれて、君とリネットの間に女の子が生まれたら、その女の子をうちに嫁にくれないか」

「それは……ちょっと即答できませんね」

「うん、わかっている。返事はじっくり考えてからで構わないよ」

「わかりました。リネットと相談してから返事します」


 何かこんなのんびりとした温泉地で、こんな重要な話を持ちかけられるとは思わなかったが、まあいい。

 それよりも、今はのんびり疲れを癒すことだけを考えようと思う。


★★★


 ヴィクトリアです。

 今、皆で温泉に浸かっています。


「銀姉ちゃん、くすぐったいよお」

「男の子なんだから、このくらい我慢しなさい」

「こら、こら。体を洗う時はおとなしくしなさい。周りに迷惑でしょ」

「「は~い」」


 洗い場ではエリカさんに注意を受けながら、銀ちゃんがホルスター君の体を洗ってあげてます。

 この二人、本当にとても仲がいいですね。


 ワタクシにも兄がいますが……まあ、あれな人だったので、一方的に愛されてはいるようでしたが、ワタクシの方からそんなに懐いた記憶はないです。


 どうせなら、弟か妹が欲しかった。

 二人を見ていると、そんな風に思います。


「リネットお姉さま、肩をもんであげますね」

「ああ、頼むよ」


 浴場の休憩スペースではスーザンちゃんがリネットさんの肩をもんであげています。


 この二人も仲いいですよね。

 イトコってこんなに仲がいいものなのでしょうか。

 ワタクシにはイトコがいないのでよくわかりません。

 多分、この先もずっとできないような気がします。


 何せ、叔母様のセイレーンはあれですからね。本当アリスタおばあ様が嘆く姿が目に浮かんでくるようです。


 一方で、ワタクシたちの親連中は湯船に浸かってのんびりしています。


「まあフローラ様ったら、肌もきれいですこと。さぞ、お手入れに気を使っているのでしょう。これだけきれいな肌でしたら旦那様もさぞお喜びでしょう」

「いや、いや。そんなことはありませんわ。体質によるものなので、そんなに手入れとかしていないですし」

「グレータ様もいつまでもおきれいで、本当に羨ましいです」

「まあ、他にとりえもないですからねえ」


 などなど、和気あいあいとやっています。


 こういうのを見ていると、本当に温泉に来てよかったと思います。


「ヴィクトリアさん、冷たいものはどうですか?」


 と、そんなことを考えていると、エリカさんが冷たいお酒を持ってきてくれました。

 見ると、銀ちゃんたちはすでに体を洗い終わり、湯船に水鳥のおもちゃを浮かべて遊んでいました。


「ありがとうございます」


 もちろん、喜んでワタクシはお酒を受け取ります。


「温かいお湯に浸かりながら飲む冷たいお酒はおいしいですね」

「ええ、そうですね」


 二人で夢中になってお酒を飲みます。

 すると。


「「「「「あら、いいわねえ」」」」」


 湯船でだべっていたお母様たちまでが、お酒の匂いにつられて寄ってきてしまいました。

 もちろん、その後は皆でお酒を飲みながらワイワイするのでした。


 と、まあこんな感じでワタクシたちは温泉旅行を満喫したのでした。

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