第243話~ベヒモス・オークション 後編 金貨千枚、金貨二千枚……どんどんベヒモスの値段が上がって行くぞ!~

 オークションは順調に進んでいく。


「お、やった!金貨30枚だ!これだけあれば、しばらくのんびりできるな」


 俺の後ろでは、フォックスのやつが、出品した宝石が高値で売れたらしく、非常に喜んでいた。


 どうもフォックスのチームは最近、俺たちがこの前行ったダンジョンに潜っていたらしく、そこで手に入れた宝石類を今回のオークションに出品したらしかった。

 それで、それらの宝石類が結構いい値段で売れているらしく、ホクホク顔だというわけだ。


「それは良かったですね。フォックスさん」

「おうよ、ドラゴンの。うちのパーティー全員で頭割りしても、一人当たり金貨10枚以上になるぜ。これも、金を持っている連中が集まって来ているからよ。だから、こんなオークションを開いてくれたお前さん方には感謝だな」

「いやいや、そんなことはありません。フォックスさんが採ってきた宝石が素晴らしいから高値が付いているだけですよ」

「おう、褒めてくれてありがとうよ」


 と、まあこんな感じでオークションは進んでいくのだった。


★★★


「それでは今から、本日のオークションの目玉の一つ、黒龍の販売を始めます」


 さて、オークションも大分進み、半ばごろになると黒龍のオークションが始まった。


 去年俺たちが中心となって大量のドラゴンを倒したことがあった。

 商業ギルドの倉庫にはそれがまだたくさん残っていて、値崩れしない程度に流通量を調整しながら売っている。


 ただ、それは普通の地竜の話だ。

 黒龍のような上位種のドラゴンはそもそも数が少なく、市場に出回れば、地竜などよりもはるかに高値が付く。


 現に、今この会場では目の前の黒龍、とは言ってもすでに解体されて肉や皮や牙など各部位ごとにバラバラにされているが、を見る競売参加者たちの目が、まるで獲物を狙う肉食獣のようにギラギラと輝いていた。


「それでは、始めます。まずは皮から開始します」


 最初に競りにかけられたのは黒龍の皮だ。


 ドラゴンの皮は用途が多い。

 魔法使いのローブや王宮の騎士の鎧の素材として使われることが多い。


 特に黒龍のような上級種のドラゴンのものとなると引く手あまたとなり、高値が付く。

 金を持っている上級の魔導士や騎士たちが皆欲しがるからだ。


 ちなみに、俺とエリカも儀式用にドラゴンローブを所有しているが、これは前に倒したアースドラゴンの皮を使ったものだ。

 エリカのお父さんの当主就任の儀式のときに着たら、結構一族の人たちに羨ましがられたものだ。


「それでは、どうぞ」


 とか考えている間にオークションが始まった。

 オークションは皮の品質ごとに行われる。質の低い物から販売開始だ。

 単位はローブに換算して5着単位で販売される。


「金貨10枚」

「金貨14枚」

「金貨15枚」


 しかし、最低品質といえどもそこは黒龍の皮。

 どんどん値段が上がっていく。


 最終的に。


「それでは、このCランクの黒龍の皮は金貨23枚でギルマン商会様が落札いたしました」


 金貨23枚で売れた。

 最低ランクの品質の皮でこの値段か。さすがは黒龍の皮だとは思った。


 その後も皮のオークションは続き、


「それでは、こちらの最高ランクSの黒龍の皮は金貨120枚でヒッグス商会様がご購入されました」


 一番上等の皮ともなると金貨120枚もの大金で売れた。


 ……って、ヒッグス商会ってエリカのお父さんの所じゃないか!


 なるほど、お父さんの所もこうやって仕入しているのか。

 まあ、お父さんの所は大手だから注文の量も半端ないと聞く。

 こうやってあちこちで仕入れしないと材料も集まらないのだと思う。

 本当商売って大変だな、と思う。


「続きまして、黒龍の牙と骨の販売に移ります」


 皮が終わると、次は牙と骨の番だ。

 牙と骨は、鎧の材料や魔法使いの杖の材料として使われる。


 特に杖の材料として有名だ。

 材料の価値としては、杖の材料としては牙の方が高価だ。


 ちなみに俺とエリカが儀式用に持っているドラゴンの杖はさっきも言ったアースドラゴンの牙で作られている。


「金貨20枚」

「金貨30枚」


 こちらも高い値段がつけられていく。

 最終的に、骨は杖1本分で金貨50枚前後、牙は金貨100枚前後で競り落とされていた。


「最後に、黒龍の肉、血液、内臓、目玉の販売を開始します」


 黒龍部門、最後はその他の部分の販売だ。


 肉は主に食用として売られ、1キロ当たり金貨1枚で取引されていた。

 これが俺たちが食う段階になると一人前(150グラム)銀貨30枚以上になるのだ。

 いい商売だと思う。


 それで、その他の部分は主に魔法薬の素材として使われている。

 肉よりも当然量が少ないうえ、生成される魔法薬も一般庶民には手が届かないほどの高級品ばかりなので当然のように高額で取引されている。


 その中でも特に高価なのは目玉で、これを使用した薬には老化を遅らせる効果があると信じられており、大貴族の奥様方に大人気だそうだ。


「それでは黒龍の目玉は金貨200枚で、ヒッグス商会様がご購入されました」


 結局目玉は金貨200枚もの高額で売れたようだ。


 ……というか、またエリカのお父さんところか。

 本当に手広くやっているな。

 そのおかげで俺たちも援助してもらっているので、問題はないが。


 それはともかく、これで黒龍部門は終わりだ。

 この後は少し昼休憩を挟んで、オークションが再開される。


★★★


「オークションって見ていると物凄く楽しいですね」


 昼飯を食べながらヴィクトリアがオークションに興奮してはしゃいでいる。


 その気持ちはよくわかる。

 珍しい品の値段が放っといても上がっていくのだ。

 見ているだけでも楽しかった。


 それにオークションにはいろいろ駆け引きとかのテクニックもあるらしいからな。

 金がものをいうのも確かだが、金は有限なので欲しいものを少しでも安く買う。

 それこそがオークションの醍醐味らしかった。


「ワタクシも参加してみたいです」


 はしゃぐヴィクトリアはしまいにはそんなことを言い始めた。


 おい、あまり無茶言うなよ。

 今日のオークションを見てたら、すごい大金が動いているのを見ただろう?

 個人があんなのに付き合っていたら破産だぞ。

 だから、アホなことは言わないでくれ。


 俺がヴィクトリアを注意しようとすると、そこへエリカが割って入ってくる。


「いいですね。今度参加してみましょうか」

「おい、エリカ、お前まで何言いだすんだ。オークション何ていくら金がかかるかわからないだろ」

「あら、旦那様こそご存じではないのですか?世の中にはもっとリーズナブルな値段のオークションもあるのですよ」

「え?そうなの?」

「はい。例えば、秋ごろにベラ・エレオノで行われる中古品のオークションとかが有名ですね」

「へえ、そんなのがあるんだ」

「はい、あります。結構お手軽な価格でいい品物が買えると評判らしいですよ」


 それを聞いて、ヴィクトリアがニコニコ顔で俺に抱き着いてくる。


「ホルストさ~ん。ワタクシ、それにぜひ参加したいです」


 必死になってめっちゃおねだりしてくる。

 というか、ヴィクトリアだけではない。


「アタシもそれに参加したいなあ。そこって、掘り出し物の武器とかも結構出てくるんだよね」

「私も行きたいですね。古い食器とかも出品されるみたいですから、一度行ってみたいと思っていたのです」


 リネットとエリカまでおねだりしてきた。

 それを見て、ヴィクトリアのお母さんとおばあさんが笑っている。


「あらあら、ホルスト君はモテて大変ね」

「ここまで女の子にお願いされたら、男の子だったら断ったらだめよ」


 などとのんきなことを言われた。

 ここまで言われたらしょうがない。


「わかった。今度連れて行ってやるから、それでいいだろ?」

「「「ありがとうございます」」」


 ということで、俺たちは今度オークションに参加することになったのだった。


★★★


 昼休憩が終わるとオークションが再開される。


「金貨15枚」

「金貨17枚」


 相変わらずオークションは盛況で、高額で商品が取引されている。


 ふと観客席に目をやると、飲食をしながら見物している客が多いのが目につく。

 今日観客席では食べ物や飲み物の移動販売が行われている。

 販売員が食い物や食べ物を持って、観客席を回り売り歩くというスタイルだ。


 ちなみにこれはヴィクトリアのアイデアだ。


「他の所では、試合中にお酒なんかを売り子の人が売り歩いたりしてますね」


 ヴィクトリアの話によると、異世界ではスポーツの試合のときなんかに、観客席を回って飲み物を売り歩く商売があるらしかった。


「おお、それはいい考えですね」


 で、それを聞いたマットさんが早速手配して、こうやって販売しているというわけだ。

 ただ、昼休憩の時間になると販売が追いつかなくなり、昼休憩中に食べられなかった人もいるみたいで、そういう人が今こうやって食べているというわけだ。


 ちなみに、本日観客席で飲食物を販売しているのを見たオークションに参加している商人たちが、これはいいなと思ったらしく、この後闘技場での試合中などに飲食物を観客席に売りに行くという商売が各地で普及していくのだが、それはまた別の話である。


 それはともかく、オークションは進んでいき、いよいよ本日最大の目玉であるベヒモスの番となった。


「それでは、ただいまよりベヒモスの杖とローブの素材の販売を始めます」


 マットさんがそう宣言すると、会場中の注目がマットさんへ集中する。

 マットさんの横には豪華な台に乗せられたベヒモスの素材が置かれている。

 それにみんなが注目しているのだ。


「うおおおおお、すげええええ」

「最高ううううう!」


 会場中が歓声に包まれる。


「それでは始めます。両方セットで、最低価格は金貨300枚からです」


 最低価格金貨300枚。それは本日最高の価格だった。


「金貨500枚」

「金貨700枚」

「金貨1000枚」


 見る間に値段が上がっていく。

 俺はその様子をホクホク顔で見ていた。


「金貨1000枚か。それだけあれば、冒険者を辞めても俺や嫁さん子供たちで住めるようなでかい屋敷を買って、のんびりできるな」


 俺は将来の夢のような生活に期待を膨らませる。

 ただ、オークションはこの程度では終わらない。


「金貨1500枚」

「金貨1700枚」

「金貨1800枚」


 まだ値段が上がっていく。

 どうやら大口の客が競り合っているらしい。


 大口の客は王宮とどこか外国の商人らしかった。

 互いに競い合って譲る気はないようだった。


 まあ、滅多に出ない珍しい商品だからな。ここを逃すと二度と買えないかもしれないので、気持ちはわかる。


 というか、王宮って前も同じのを買っていたよね。

 前に買ったのは王様が使っているそうだから、予備が欲しいのだろうか。

 もしかしたら皇太子殿下用とかかもしれない。

 いずれにしろ豪儀なことだと思う。


「それでは、ベヒモスの素材は金貨10000枚で、ヴァレンシュタイン王国王宮様が落札されました」


 結局、ベヒモスの素材は金貨10000枚で王宮が落札した。

 というか、10000枚?!ギルドに手数料を差し引かれたとしても、一体俺の所にいくら入ってくるのか想像ができない金額であった。


 しかもまだ他の場所でのオークションは残っている。

 そちらには参加しない予定だが、それらも合わせるととんでもない金額になるはずだ。

 今からいくらになるか、本当にワクワクが止まらない。


 ともあれ、これで今日のオークションは終了だ。


「これにて本日のオークションは終了とさせてもらいます」


 マットさんの終了宣言とともに、観客が一斉に帰り出す。


「じゃあ、俺たちも行くぞ!」


 それに合わせて俺たちも退場するのだった。


★★★


「ホルストさん、このケーキ買ってください」

「私はこのワイングラスがいいです」

「アタシはこのダマスカッス製のナイフがいいな」

「銀は狐さんのヌイグルミがいいです」

「僕はこの馬車のおもちゃがいい」


 オークションの後は皆で買い物に行った。

 今日は大儲けしたので好きなものを買えと言ったら、皆がそれぞれ欲しい物を言ってきた。


 というか、大金が手に入ったというのに皆普段から買っているようなものしか言わない。

 まあ、俺が望んでいるのは平和で温もりのある家庭なので、こういう慎ましい奥さんたちの方が俺には合っていると思う。

 本当、こいつらと一緒になって良かった。


 一方、ヴィクトリアのお母さんとおばあさんはというと。


「お母さんはこの服がいいわ」

「おばあちゃんは、この服ね」


 二人とも服を買うつもりらしかった。それはいいのだが。


「お母様たち、それは少々派手ではないですか?」


 ただ二人が買ったのは、誰が着るんだというようなピンクと赤のド派手な服で、ヴィクトリアが思わず首をかしげるようなものだった。


「そんなことないわよ。私だってまだまだ若いんだし。天界に帰ったらこれ着て、久しぶりに旦那様とデートに行くんだから」

「そうよ。おばあちゃんもこれ着て、おじいちゃんと旅行に行くんだから」


 と、二人は全く意に介していないのだった。

 俺としては二人が気に入ったというのなら別に構わないけどね。


 さて、こんな感じでオークションの一日は無事終了したのだった。

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