第242話~ベヒモス・オークション 前編 さあ、ベヒモスを高値で売り捌こう!~

 ベヒモスを倒した翌日、久しぶりにノースフォートレスの冒険者ギルドへ行った。


「あら、ホルスト様。お久しぶりです」


 冒険者ギルドの受付に行くと、職員さんが挨拶してくれる。


「やあ、久しぶりだね。早速で悪いんだけど、ダンパさんはいるかい?大きい商談があるんだけど」

「商談ですか?ホルスト様が大きいとおっしゃるのですから、さぞや高額の取引なのでしょうね。わかりました。少々お待ちください」


 そう言うと職員さんは一旦奥へ引っ込む。

 そして、すぐに出てきてこう言った。


「お待たせしました。ギルドマスターが奥でお待ちですので、どうぞ」


 職員さんの案内で、俺たちは奥へと行く。


★★★


「やあ、ホルスト殿、久しぶりだね。元気でやっていたかい?」

「ええ、元気にやっていましたよ。ダンパさんの方もお変わりないようで何よりです」


 ギルドマスターの部屋に通された俺たちはダンパさんと会った。

 ダンパさんは、大きな商談というのもあるのだろうが、俺たちと久しぶりに会えて嬉しいんだろうなという感じだった。


「では、早速ですが用件を話しますね。ダンパさん、オークションを開く気はありませんか」

「ほう、オークションかい?」

「はい、そうです」

「それは構わないのだけど、売り物は何だい?」

「ベヒモスですね」

「ベヒモス!?」


 ベヒモスと聞いてダンパさんが声を上げる。


 以前俺たちがベヒモスを出品したときに莫大な売り上げがあったのを思い出したのだと思う。

 ベヒモスとはそれだけ貴重な素材であった。


「ええ、そうですよ。実はですね、今回新たなベヒモスを得る機会がありましてね。それで、少し出品しようという気になったのですよ」

「ほほう、新たなベヒモスを手に入れたのかい。それはすごいじゃないか」


 俺の話を聞くダンパさんの目は輝いていた。

 それだけ期待に胸あふれているのだろう。


「ただ、今回はちょっと趣向を変えて派手にやってみようと思うのです」

「趣向を変える?どう変えるんだい?」

「実は、今回エルフの王都ファウンテンオブエルフ、フソウ皇国の皇都キョウ、ヴァレンシュタイン王国の王都ベラ・エレオノ、ドワーフ王国の王都ネオアンダーグラウンド、それと、ここノースフォートレスの5か所でそれぞれ杖とローブ一組ずつ素材を売ろうと思います。実は、ここが終わったら他の所へも話の打診に行こうと思っています」

「一気に5か所で?」


 複数個所で出品すると聞いて、ダンパさんが驚いた顔をする。


「はい。こうやって一気に違う国で出品することで、盛り上がって高値で売れるのではないかと思いまして。ほら、何せ滅多に出回らない珍しい品ですからね。自分の国で出品された物は是が日にでもその国の金持ちが買いに走るでしょう。だから高く売れるのではないかと思いまして」

「なるほど。ホルスト君は商売上手だね」

「お褒めいただきありがとうございます。ただ、今回ベヒモスだけでは品数が少ないので他のものも出品しようと思います」

「他の品?」

「はい」


 ダンパさんの問いかけに、俺はコクリと頷く。


「実はベヒモスの他にも、今回黒龍やその他エルフの森の禁足地にしか生息しないような魔物を大量に手に入れたので、それらも5か所に分けて売ろうと思っています」

「黒龍に、エルフの禁足地にすむ魔物。それは聞くだけでも大商いになる気がするね」

「ええ、そうなると思います。それで、そのオークションの第一弾をノースフォートレスで開こうと思います」

「ここでかい?」

「ええ」


 俺はダンパさんにそう答えて、続けて理由を述べる。


「何せ、ここは他の国から見てちょうど真ん中ですからね。ここでは最初に派手にイベントをぶち上げればいい宣伝になると思ったわけです。それに……」

「それに?」

「ノースフォートレスの冒険者たちとは仲良くさせてもらってますからね。ここで、派手なイベントをやれば町に人が集まって来て、仕事も増えるでしょう。俺としては少しでも皆さんに恩返しができればと思ってそうしたいのです」

「ホルスト殿……」


 俺の発言を聞いて感動したのか、ダンパさんが涙を流しながら俺の手を取ってきて、こう言った。


「わかりました。そういうことならギルドとしても全面的に協力させていただきます」


 ということで、こうしてオークションが開かれることになったのだ。


★★★


 それから10日後。


 パーン、パーン。

 その日、ノースフォートレスの町では朝から打ち上げ花火が打ち上げられ、大勢の人で賑わっていた。


「あ、ホルストさん、あのアイスおいしそうですね」

「本当ねえ。お母さんも食べたいな」

「おばあちゃんもちょうど喉が渇いたところだったの」


 集まってくる人々を目当てに、屋台もたくさん営業していて、その一つに早速ヴィクトリア、いやヴィクトリア一家が目をつけていた。


 というか、おばあさん、アイス食ったら余計に喉が渇きますよ。……まあ、いいけど。


「ああ、買って来いよ」


 そう言って銀貨を握らすと、


「ありがとうございます。銀ちゃんとホルスター君も行こ」


そう言いながら、ヴィクトリア一家と銀とホルスターがアイスの屋台へ向かって行くのだった。


 ところで、こんなに人が集まって今日は何のイベントかって?

 今日は前に言っていたベヒモスのオークションの日なのだ。

 オークションは町の闘技場で公開で行われ、一般の人も見学可能だ。


 だから、例え自分では買えなくても、珍しい商品を目にすることができると聞き、こうして人々が集まって来ているというわけなのだ。

 とても賑やかにやってくれているようで、行事を主催した俺たちとしてはとてもうれしかった。


 こうやって賑やかな町だと他の人々が認識してくれれば、人が多く集まって来て冒険者たちの仕事も増え、俺たちの狙い通りになるからだ。


「ホルストさん、そろそろ行きましょうか」


 そうこうしているうちにヴィクトリアたちが帰ってきた。

 見ると、全員3段重ねのアイスを手に持ち、とてもニコニコしていた。


 さて、ヴィクトリアたちも満足したようだし、オークション会場へ向かうとしよう。


★★★


「さて、皆さまお待たせいたしました。これよりオークションを開始します」


 商業ギルドの支配人のマットさんのその言葉を皮切りにオークションが開催される。


「支配人、最初の商品はこちらです」


 マットさんの横では商業ギルドの買取担当であるケイトさんが背悪しく商品の資料の確認し、その都度マットさんに資料を手渡していた。


 今日のオークションでは俺がダンパさんに言っていたベヒモスや黒龍などの魔物の素材以外にも、貴重な鉱石や宝石の原石なども出品され、商品の点数は100以上にもなる。

 だからケイトさんやマットさんも忙しそうだ。


 会場を見渡すと、観客席には一般の観衆が集まっていてオークションの様子を見守っている。

 見るだけなら無料だが席は抽選なので、皆朝から並んで当たりくじの争奪戦が起こったらしかった。


 もっとも、会場の外には魔道具が設置されて中の様子を見られるようにしているそうなので、中に入れなかった人たちはそちらの方に群がっているみたいだ。


 一方で、闘技場の中心部には商品を求めてオークションに参加する商人やら大貴族やらが集まって来ていた。

 こちらの席は有料、というかオークションに参加するだけで参加料が発生するので、皆、お目当ての商品を購入しようと必死になって作戦を練っているようだ。


 それと俺たちは出品者の席にいる。

 ここからはオークションの様子がよく見えるので、飲み物やお菓子でも食べながらのんびり見学するつもりだ。


「それでは、最初の商品です。最初の商品は伝説の金属と呼ばれるオリハルコンです。これで、ロングソードを一本作れるくらいの量があります」


 最初に出品されたのはオリハルコンの鉱石だ。


 オリハルコンはフソウ皇国で採取できる超希少金属だ。産出量が少ないうえに、輸出制限もされているので滅多に手に入らない代物だ。

 これをうちのパーティーは神獣ヤマタノオロチからもらって大量に所有している。


 それを今回メインの一つとして少しだけ出品したのだった。


「金貨30枚!」


 出品されるなり早速買いが入る。いきなり金貨30枚とかいう値がついて、会場がざわつく。

 しかし、オリハルコンの価値はこの程度ではない。


「金貨35枚!」

「金貨40枚!」

「いや、うちは金貨100枚だ!」


 見ている間にどんどん値段が上がっていく。

 それを見ていると、お金ってあるところにはあるんだなあと思う。


 最終的に。


「それでは、オリハルコンは金貨300枚で、こちらのリットンハイム公爵家様がご購入されました」


 金貨300枚もの大金で売れた。

 剣一本分の値段としては大層な値段だ。



どこの誰が購入したのだろうと思って見てみると、初老の老紳士が買っていた。

 どこかで見たことがある人だなと思って思い出そうとすると、俺の友達のワイトさんの所の執事さんだった。

 そういえば、リットンハイム公爵家ってワイトさんの家だ。


 聞く話によると、ワイトさん、ヴァンパイアの件を解決したことで昇進しそうだということだから良い剣が欲しくなったのだと思う。


 しかし、ワイトさんも水臭いな。一言言ってくれたら、友達価格で安く譲ってあげたのに。

 まあ、ワイトさんには俺たちがオリハルコンを持っていることを言っていなかったと思うから、仕方がないか。

 今度、何かあったときには俺の武器のコレクションから何か贈るとしよう。


 と、まあこんな風に順調にオークションは進んでいった。

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